ドウドウ
背を向け歩き戻ってくるカリッツとハイタッチを交わしながらゲンゾウはカルファ達の方へと歩き続ける。
「・・・くっ。俺の負「さぁ。次だな」」
うずくまるカルファが放つ言葉ごと無視してその横をゲンゾウは抜けていく。
「もう一勝負しておかないと満場一致の敗北にはならんじゃろうからな。」
そう言いながら丘を登る。
「い、いや。私はけっ「いや。お前より適任がいるから。」」
シシノアの言葉も遠慮なく遮り、登る。
「ふぅ。ほら。やっぱり来ておるではないか。ワシと一勝負しにきたんじゃろ?」
登り切る前には見えていた。人と比べ圧倒的に優れた体躯を持つ存在が。
「我に挑むと言うのか。傲慢な者だ・・・。」
「挑む?ワシは挑ませてやろうと言いに来たのじゃがな?」
バルバドイの気だるげな物言いに、両腕を大きく広げゲンゾウは話す。
「魔王相手にビビるようなタマじゃなかろ?増してや盾役もおらん魔術師相手じゃ。蹂躙してみせい。」
言い終わったのが先かその光景が先だったのか。ゲンゾウの頭上には既に無数の火の星が輝き、足元は土煙が舞い回り、前方の地面には魔方陣がピラミッド状に10個並んでいた。
「竜よ。地に伏す準備は万端か?躾の時間じゃ。」
ゲンゾウは堪え切れぬとばかりに口元を震わせて二ヤけていた。
もはやバルバドイは言葉を発する前に炎を発していた。
(小さき者がっ!!我を子犬扱いするかっ!!)
バルバドイの吐く炎は、火の息ではなかった。彼の獣を思わせる長さのある口から覗く牙と牙の間。開いた口の中の空間に5つの魔法陣が並んで浮かぶのが見えていた。
その魔法陣から一つ炎の塊が飛ぶ度に先頭の魔法陣が消え、次の魔法陣が前へと出る。
バルバドイは舌の根で咽を何度も打ち鳴らす。打ち鳴らす度に魔法陣が咽から次々と押し出され、炎は飛ばされていく。
(我が!)
その放たれる炎は直径を2m~3mはあるであろう。
(貴様如きにっ!)
継続的な炎より密度と重さを感じさせているそれは着弾毎に爆発音を響かせている。
(侮られるなど!!)
爆発音が終わる間もなく次の爆発音が響く。
「ドウドウ。落ち着くんじゃ。」
「(我は冷静だ!・・・)へっ・・・?」
その前足をぺシペシと叩きながら声をかけるゲンゾウの姿に、間の抜けた顔を向けてしまうバルバドイ。
あんぐりと開いた口から炎は止まらず、足元に一発。二発。
「なっ!ぎゃ!ち・・・・!!!」
爆発に驚き身をよじらせる。あらぬ方向にもう一発飛んだ後。閉じた口の中で2発が暴発する。
「・・・・・」
口、鼻から煙を漏らしながらバルバドイは呆けてしまっていた。
ブレス攻撃ではなく火球だったのには若干ながら驚いてしまったわい。
初手で用意した土の壁と水の壁の後ろで、逐次追加させておき、浮かび上がらせていた火の星たちは適当に落としておく。
壁はもう少し追加しておいてから、場所を変える事にしようかの。
思った以上に沸点が低くて驚いたわい。
そう思いながらワシは影へと沈んだ。
続いて出たのは奴の足元じゃった。そこの影が一番出やすかったのもある。
なかなかの必死な吐きっぷりと装填速度の優秀な攻撃に感心はしたのじゃが・・・。
流石に憤りすぎじゃろ。あまりの怒りに火が出とるわい・・・。
これは少し声をかけて落ち着かせてやった方がいいのかもしれんのう・・・。
「ドウドウ。落ち着くんじゃ。」
・・・うむ。反省はしてない。
そう反省などはしていないのじゃ。
ワシは竜が呆けている間にせっせと支度を済ませてしまう。
ちょっと手間のかかる魔術をぶつぶつと用意させてもらうとしよう。