廃人
闇夜に浮かぶ波紋。真っ直ぐ伸びた刀身に肉のない指を添える。月明かりが骨身を照らし、右腕を引き絞り、左手を添えた白骨は、穿たれた眼から放たれる威圧感が面から点へと絞られていく。
眼孔と点を繋ぐその視線の先にいるのは礼服に身を包み両の手の先に一本の杖。人骨の頭部を摸した先を取り付けたそれを構える男性。
その視線を遮るように動かした杖を左手で引き、放し、杖を振るう。
「≪風刃≫!」
振られた杖の軌道に合わせて一筋の刃が視線を二つに裂くように飛ぶ。
その刃の下をくぐるように疾駆する骨。いや、駆けるのではなく低空にて飛ぶ。
引き放した左手をそのまま突き出し、風の刃を更に二本の風が縦に斬るように飛ぶ。
二歩目の跳躍。肩を捻り飛び込むその背と腹を二本の風が抜けていく。
右手。手に持つ杖を体を捻りあげるように振り上げる。
更に1本の大きな風の塊が飛んでいく。
その逆手。左手の広がった指先1つ1つが明かりを幾つ・・・幾十にもアーチを描きながら空へと浮かばせる。そして振り切るままに体を一回転させる。
一周した部分からすっっとその姿を闇へと溶かしていく。
迫る風の塊にその眼孔を向けながら、地を踏み風を突く。
剣先を中心にV字に裂けるように暴風が骨の周囲に吹き荒れる。
舞う土煙の中。割れる風の中心を貫くように夜空より火の星が降り注ぐ。
星が地面を叩く無数の音が消え、土煙が晴れる頃。
空を見上げならがカタカタと顎を打ち鳴らし、両腕をだらりと下げた骨が見える。
その骨の足は・・・膝まで地面に埋まっていた。
「カッカッカ。流石は魔王様。一太刀も入れれなんだ。」
カリッツはカタカタと骨を鳴らしながら、剣を納める。
「じゃかましい。ほんの肩慣らしの予定じゃったのに。此処まで手数を使ってたら、格が知れてしまうわい。」
先程まで杖を振るっていた位置ではなく、カリッツの正面から側面やや後ろに回り込んでいたゲンゾウが姿を見せながら答える。
「俺は全然かまわんのだがなぁ。所で足のこれは自力でなんとかせないかんのか?」
「いや、今解くわい。」
1つ1つ使った手札を解きながらカリッツの拘束も解いていく。
ゲンゾウの使っていたのは、どれもgAvで使用していた魔術であった。
骸骨の杖を手にした後、もしやと思いながらその感覚を思い出すままに振ってみると、若干の違和感を残しながらも発動した。それが嬉しくて・・・ゲンゾウは調子に乗り過ぎた。
地面に埋まった足の周りを沼地化し、自ら抜いてもらう。
多量の≪火矢≫を浴びせている間に、地面を≪土壌変化≫により沼地化、再度土に戻して固定していた。
(やはり装備補正の差かのう。そういえばステータスも違うかったかのう。)
違和感に対してそんな事を思いながらステータスを開いて愕然とする。
名前:ゲンゾウ
職業:魔王
(魔王1・魔術師50・エキスパート風70・エキスパート闇70・エキスパート火55 他。)
レベル:99
力 :16(+20)
器用:70(+15)
敏捷:70(+20)
知力:99(+15)
体力: 7(+20)
運 : 1(+5)
※増減分反映済み
称号:魔王・復讐者・全うせし者・極めし者
そのステータスは最初に見た時とステータスが大きく変わっていた。
大きく変わっていたのだが、そのステータスはゲンゾウにとって一部こそ違えど馴染みのあるものであった。
ゲンゾウは魔法攻撃力を重視しつつ、相手からの攻撃は魔法効果を利用しながら流すスタイルを取っていた。
キャラクターレベルの上限は99。職業レベルの上限は50のゲームであったが、キャラレベルが90以上かつ職業レベルが40以上に到達すると転生クエストが発生する。
そのクエストを攻略するとキャラクターレベルは1になり、職業レベルはそのままに他の職に転職出来る。
ゲームの世界観の中に職業は神から与えられし天職である。との設定がある為か転生以外の方法で転職する事は基本的に出来ない。
そして魔術師の職業レベルが50ある者が転生した時に魔術師の上級職であるエキスパートが選択可能となる。そして上級職になると職業レベルの上限が70となる。
ゲンゾウはgAvでは三度の上限一杯での転生を行っていた。
そしてgAvではSTR(力)・VIT(体力)・LUK(運)にはステータスを振らなかった為全て1であった。
「・・・のう。カリッツよ。この世界でもレベル上げに必要なのは狩りなのかのう?」
カリッツはゲンゾウにそう尋ねられた時の目が、なぜか殺気をぶつけられるよりも怖く感じた。




