第3話『魔法少女とunknown』 前編
今回が話が短めなのは執筆更新上によるものです(哀)
俺と異形の蟲との戦い……。
初手で動いたのは異形の蟲だった。
ヤツは俺の雰囲気が変わった事を本能で理解したのか直接的に戦おうとはせず頭部のヒルの口から大量の緑色の液体を俺に向けて放ってきた。
対して俺は早めのバックステップによって緑色の液体を難なく回避する事に成功する。
ふと緑色の液体がぶつかった場所を見ると、そこには焦げた時に臭う独特の悪臭と溶けて穴の開いた地面だった。
「……溶解液か」
俺のその言葉を聞いた異形の蟲はニタリと口の先端に付いた歯を歪に動かしながら続けざまに緑色の溶解液を吐き出す。
「悪いが次は俺の番だ……」
軽々と吐き出される溶解液を潜り抜け、言葉も通じぬであろう異形の蟲に俺は律儀に小さくそう言い放つと魔方陣を展か『待ちなさいっ!!!』
……魔方陣を展開しようとしたまさにその瞬間、俺の言葉に被さる様に若い女性特有の甲高い声が周囲に響き渡った。
「……何者だ……」
しかし、謎の声に俺は何故か嫌な予感を感じた。
(今の声は……まさか玲奈……か?)
それは謎の声が何故か聞き慣れた義妹である玲奈に良く似た声だったからだ。
「“悪夢獣”……アンタの悪逆もそこまでよ!!!」
そんな俺の嫌な予感を他所に今度は先程とはまた違った声が周囲に響き渡る。
今度の声はまるで正義の味方の歌い上戸の様にありきたりな台詞を吐く女性の声。
(…………)
気のせいだとは思いたいが何故か今度は立花の様な声が俺の耳に届いた。
(……悪夢獣?あの蟲の事か?)
しかし玲奈と立花に良く似た声の主はあの蟲を“悪夢獣”と呼んだ辺りからして少なからずコイツについての情報を有している事は理解出来た。
そう思った次の瞬間、遂に二つの影が姿を現した。
「砕けぬ勇気……ピュアアーチャー!!!」
「求めるは英知……ピュアメイジ!!!」
『『純粋騎士団ピュアナイツ見参っ!!』』
目眩がした。
冗談抜きで本当に目眩がした。
何故なら俺の目の前に現れた二人の少女はファンシーな服装に身を包んだ立花と玲奈の姿だったからだ。
ピュアアーチャーと名乗った立花は青いフリフリのミニスカドレスの様な服装と左手に弓を持っていた。
次いでピュアメイジと名乗った我が義妹である玲奈は立花の色違いの黄色のミニスカドレスの様な服装に数字の7の形をした杖を持っていた。
(……名前と武器から察するに二人は弓兵と魔術師なのか?)
そんな疑念が俺の脳内で蠢く中……。
「……さぁ、そこの人。後は私達に任せて此処から早く逃げて下さいっ!!!」
白々しくも初対面を装いながら二人は如何にもな台詞で俺に逃げろと言い出した。
だが、あの蟲によって創られた結界内に閉じ込められているというのに何処へ逃げろというのか……。
と言うか……。
「何やってるんだ……立花・玲奈……」
呆れ顔で今時の魔法少女の様なコスプレ(?)をした玲奈と立花に俺はそう言い放つ。
戦いの場に有るまじき気の抜けた空気に俺は耐えられなくなったのだ。
「わ、私達はその様な名前じゃない!私は砕けぬ勇気……ひゃあああっ!?」
対して二人は見苦しい言い訳を始めようとするも、業を煮やした蟲が俺達に向かって溶解液を吐き出した事によって会話は中断された。
「……とりあえず話は後だ。俺が時間を稼いでやるからその間にお前達は逃げろ!足手まといだっ!!」
異形の蟲の溶解液を再び潜りながら俺は場違いな二人に対して少々きつく言い放つ。
「逃げるのはお兄ちゃんの方だよっ!!……“ピュアファイア”!!!」
「そういう事♪……行くわよ“ピュアライトアロー”!!!」
しかし、二人は逃げるどころか異形の蟲に対して攻撃を敢行し始める。
《ギシャァァァァァァァァァァァァァッ》
どういう訳か、二人の攻撃は異形の蟲に有効な様でヤツは明らかに苦しんでいる。
だが、それよりも玲奈と立花だ。
……以前に徹底的に調べ上げた事があるがこの世界の魔術は既に退廃している。
それはすなわちこの世界の魔術はほとんど形骸化しているという事に他ならない。
しかし二人が使っている力は間違いなく魔力だ。
二人が使っている術式も俺から見れば非常にお粗末な代物だが理に適っているモノだ。
退廃した筈の技術を二人はどうやって入手したのか……そもそも悪夢獣とは何なのか。
拙い術式を使い異形の蟲に挑む二人を見つめながら俺はろくでもない事件に巻き込まれたのではないかと静かに思案するのだった……。