第0話『始まりの始まり』
この小説は私が以前に投稿していた『魔法少女と黄昏の魔王』のリメイク版です。
――人は生まれながらに不完全な存在である。
――それ故に人は自らの理想にして偶像たる万物を司る“神”なる者を創る。
――しかし、自らの偶像たる筈だった神は多種多様な人の都合によって形作られ、膨張し、人の心を縛る鎖となってやがて世界をも蝕む。
――『かく語りき』と存在しない自らが創造した“神”なる者の声を代弁しながら……。
この日、“俺”は夕闇が支配する時間の中、名前すら知らない光の勇者と名乗る一人の人間と湖畔に浮かぶ廃墟と化した城の中で静かに対峙していた。
「貴様か……邪悪な魔術を用いてこの世に破滅をもたらさんとする魔術師は!!」
勇者らしく如何にもなセリフを吐きながら何処からとも無く光輝く剣を構える。
「だとしたら……どうする?」
対して俺は光の勇者を心底舐めきった様な口調で静かにそう言い放つ。
(ほぉ……光属性の剣か……こいつは重畳)
しかし、その水面下では密かに俺の思惑が進行していた。
「知れた事っ!世に仇なす愚劣なる者よ……覚悟!!」
そうとも知らず馬鹿にされた事に腹を立てたのか勇者は怒りを露にしながら聖剣を突き出しながら一直線に俺の心臓に目掛けて走ってくる。
「……馬鹿が」
俺に向かって一直線に走ってくる勇者を見下ろしながら俺は体内に保有する暴悪な魔力を全て解放する。
刹那。
「……ゴブッ……」
ズブリという鈍い効果音と共に俺の心臓に光輝く剣が深々と突き刺さった。
「……なっ!?」
この状況に誰よりも驚いたのは他ならぬ勇者と名乗った男だろう。
何せ自分に対して大言壮語を吐いていた男を初撃で致命傷となる傷を与えられたのだから。
しかし、この状況は俺にとってはまさに待ち焦がれていた瞬間でもあった。
「月並みなセリフだが言わせて貰おうか……“刻、至れり”」
その言葉を皮切りに俺の足元から今まで秘匿していた巨大な赤い魔方陣が姿を現す。
「何だ、この魔方陣は!?」
突然、自分の足元から姿を現した巨大な魔方陣を見た勇者と名乗った男はひどく慌てた様子を見せる。
「……心配するな。この魔方陣の対象者はお前ではなく……俺だ」
徐々に薄れゆく意識の中で俺は勇者に対してそう言い放つ。
「貴様は一体、何をしようとしているんだっ!!!」
そう言うと勇者と名乗った男は納得がいかない様な顔つきで静かに俺を見つめる。
「……俺は“この牢獄の様な世界”にいつまでも縛られ続けるのはゴメンだ……」
「この世界において生も死も全てが虚構だ……同じ事象を繰り返すだけの退屈極まる寸劇をいつまでも演じ続ける道理はないからな……悪いが俺は早々に退出させて貰う……」
俺の言う話を全く理解出来ていないのか勇者と名乗った男は頭に疑問符を浮かべながら戸惑っていた。
「お前の持つ剣から溢れる光の力と俺が保有する闇の魔力が交わり混沌が生まれた……今まさにこの瞬間こそが刹那の好機」
薄れゆく意識の中、俺は自身が編み出した究極の術式を展開させる。
「見よ、これぞ魔道の極地に至った我が究極の術“ソウル・リベレイション”だ」
俺は自慢気な態度を見せながら遂に“ソウル・リベレイション”を発動させる。
その瞬間、俺の肉体は下半身から徐々に光の粒子となって空気中に四散し始める。
「これでこの世界に俺の魂を束縛する円環の楔は外された……」
「さらばだ世の真意を知らぬ盲目なる英雄よ……お前とはもう未来永劫、出逢う事は無いだろう」
かくて。
この瞬間より“俺”という存在が一つの世界から消失した。
しかし、その魂は輪廻転生の輪を抜けて無限に広がる多次元世界へと旅立ち……。
数千年の月日が流れ流れた……。