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お転婆娘は知能犯

 何かと突っかかりが多いシュヴァルツェン・シルヴィア・ローレンス……。一つ年下の彼女は一年に所属している。最近は女学生の皆さんも俺を怖がらずに接してくれるから仕事も多い。従って学舎に入る回数が少なくなりつつある。そして、その俺をどうにかしてハーレム状態にしたいらしい我が祖母はまた面倒なことを生徒会に言伝ていた。シルヴィアは生徒会の風紀関連の役割を担っている。風紀委員長の紫神と生徒会長であるヴィヴィのパイプ役らしいが彼女の戦闘力も大したものだった。生徒会に所属させられて以降は小間使いが更にふえた……。


「物騒ねぇ……」

「一つ聞きたい。なぜ、お前は俺の部屋で煎餅をかじってんだ!?」

「今日は武器関連の講習の日よ。あなたのお婆様に依頼されてるの」

「お前は秘書か何かか!!」


 天然純情系のレヴィやお淑やか世話焼き型の紫神より面倒だ。しかも、こいつの嫌なところはトラブルメーカーなところにある。最近は浸食生物の出現率の増加からクレンシー姉妹を中心に編成された討伐部隊が派遣されるようになっていたのだ。で、有無を言わさない勢いで祖母に依頼されてるのが学内のお嬢さん達を鍛え上げること……。それの女性監督者がシルヴィアらしい。その指示で最近は30対1とかもやる。大型浸食生物の討伐を想定した訓練だとさ。……あと、これは俺も確信のないことだが、頻発してきているこの浸食生物の大量発生は恐らく人為的に行われている。だとしたら恐ろしい限りだ。いつ、その浸食の矛先が人間に向けられるか解らないということさ。俺は……、どんな代償を払ってでも俺は皆を守らなくてはならない……。それに、祖母や他の生徒はまだ気づいていないかもしれないし俺の特異な点かもしれないが……エレメントは使えば使っただけ体を徐々にエレメントの吸着しやすい形質にしてしまう。既に、俺にはその兆候が出始めているのだ。だが、確証もないのに発表もできない。師匠……早く来てくれ。


「荻原!! 今回は俺とサシの勝負だ。以前の屈辱ははらさせてもらう!!」


 シルヴィアが前に出ようとするが俺は止める。彼女の名はファン・ベイアルグ。元殺し屋の少女だ。ドイツで服役し出所したが受け入れ手がなく、祖母が大金の補助金を受け取らされ無理やり押しつけられたらしい。その彼女は先日に俺が負かした事を根に持っているらしい。両手には短刀を少し長くしたような双剣……、ミドルダガーがある。あれは恐らく、短剣の中では珍しい左右の形状に違いがあるタイプの刀剣だ。ちなみに、彼女の二つ名は……ケロベロス。彼女は腕を負傷しても三本目の短刀をくわえて殺しをすると言うのだ。


「来いよ……」


 俺もいつまでも弱い訳にはいかない。だが、やはり伸びしろの違いはそれらが大きかった彼女らには既に勝てなくなり始めていた。特に、レヴィと紫神は既に俺より強いし、最近はレヴィのライバルらしい日本人の(かんなぎ) 風音(かざね)にも鍛錬を依頼されている。面倒だが、俺も強くなれるから結果オーライか……。


「はっ!」

「甘いよ……」


 逆手持ちの短刀……ミドルダガーの中でも珍しい類を見ない形状だ。ま、家の師匠の作品だからよく弱点や特性は理解している。特製は風属性を強く吸入し形を造るのに簡単な細工を施してあること……片刃は『サイクロン』と呼ばれ、風属性。彼女があれを使える理由は、彼女が俺と同じ特異体質だからだ。反対の手には『ガイア』と呼ばれる破壊力に特化したミドルダガーが装備されている。データによれば二属性を使える彼女にはもう一つだけ嫌な面があった。皆は三目(みつめ)を信じるか? 恐らく、彼女はエレメントを体に受け続けて変化してしまった一族の末裔だ。実際に目はないがそれが有るかのような割れ目があるらしい。彼女にはもう一つだけ属性を使う力があると言えよう。それが『ケロベロス』を生んだのだ。それに、幼い頃からそういう世界にいればああいう目になる。……血に飢えた猛獣と言えば解りやすいかな? だから、彼女は理性で攻撃を整理できない。野獣の本能のままに俺の急所を的確に狙ってくるのだ。だが、本能が研ぎ澄まされた攻撃なら当たりはしないさ。


「常闇」

『は……』


 常闇は幻覚作用のある霧を作り出せる。本能で動く彼女の脳には俺が恐らく何十人居るように移るだろう。この霧は第六感までもを支配し完全に感覚を狂わせる。普通は思考回路がしっかりした生物ほど幻覚にはかかりやすい。しかし、常闇の幻覚は直接に脳や神経回路の全てを狂わせる。今回も俺の勝ちだ。大地のエレメントを左の拳に集中させて常闇を後ろに引く。彼女の鳩尾に拳がめり込み吹き飛ぶが……恐らくダメージはそこまでないだろう。悪態をついている。ま、数時間は動けんだろうがな。ちなみに、彼女は俺にやられたことを根に持っていない……のか? 確証はないが……ある人物が彼女に依頼して俺に怪我をさせようとしていたのだから。それは前から気づいていたことだ。


「ちょっと! 今回も失敗じゃない!」

「上手く行くわけないだろ? あいつとあたしじゃ相性が悪すぎなんだしさ」

「お前ら……ちょっと来い」

「げっ……」

「あ~ぁ、見つかったな」

「さり気なく逃げるな。お前も来るんだよ」

「……マジ?」


 こってり絞ってやった。二人とも頭のてっぺんに瘤ができたに違いない。殴った俺も痛かったが……。正座させて黄緑色の毛のシルヴィアと緑の髪の毛のファンを並べて叱り続ける。言っておくがな……あいつの攻撃は一歩間違えたら殺されるような勢いだからな。事実、二、三度危なかった……。それを首謀者に「テへっ」ていわれて済ませるなら警察はいらん! 立派な殺人未遂だぞ! だが、内容は可愛くないが可愛いものだ。止めることができないシルヴィアは策略をファンに棒読みで暴露されていくのだからな。わざと怪我をさせ、医務室に連れて行き手厚い看護をしたかったらしい。別に出かけるくらいなら言ってくれれば予定を空けるくらいするのだが……。


「そんなにバカなことしなくても外出を一緒にするくらいはしてやるよ」

「ホント!?」

「殺されるよりゃましさ……」


 黙るが小さくガッツポーズするシルヴィア。確か、明日は非番だ。祖母に頼んで休日管理もさせてもらっている。こうも毎日が仕事では干からびてしまう。そして、彼女と街に出たのだが何故かファンもいた。恐らく、彼女はただ飯と遊びついでだろう。俺を怪我させるのが目的だったが彼女も結果オーライの報酬を受け取ることになったのだ。ただし、……俺には嫌な殺気しか向けてこないがな。やっぱり根に持ってるのか?


「やっぱり日本食最高!」

「そうか?」

「おこぼれさんは五月蝿ーい」

「いいだろう? 協力したんだしな」


 俺は日本食はあまり馴染みがない。幼い頃は引っ越しも多かったからだ。国内に来たのは小学生に上がる頃だったが再びアメリカに移り、また、三年前に日本に来た。別にこんなことは何でもいいか。飯は和食を所望されたために和食。ファンは蕎麦をフォークで食べていたがな。とりあえず、このハチャメチャコンビは俺を引っ張り回す。そんな中で俺が感じ取ったのは……レプリカの気配。相当禍々しいが何なんだ……波動が全く安定しない。それに、封印されているが不完全でやられている。まずい……見つけ出さないと人がまた、『食われる』。


「気づいたか刀剣精錬師」

「な、何に!?」

「そう言うケロベロスも気づいたんだろう?」

「当たり前だ。こんなに強い気配と主張は初めてだよ……クク、腕が鳴る」


 シルヴィアに事情を話した。すると彼女の目つきが変わり戦闘モードになる。俺とケロベロスなら正しい場所が解るだろう。追い詰めるには少し考察的なデータが必要らしい。だが、それは抜かりないようだ。シルヴィアはデータの収集や分析に長けたコマンダー型の知性をしている。俺はどちらかと言えばコマンドで突撃する人間だ。彼女の指示に合わせて俺とケロベロスことファンも動く。挟み撃ちか。なかなか考えたな。


「デヤァァ!」

「ウラァ!」


 ま、相手はそれ以上に気配に敏感ではあったがな。とりあえず、俺がビルの屋上に駆け上がるやつを追尾する。ファンは他の方向から追尾するらしい。動きが速く追っかけるのに苦労する。ただし、これで大丈夫か。俺はよくよく考えたら師匠の教えから武器の使用に敏感で力を自分の力を超える破壊力で使ったことはない。第一、人を殺せるだけではないのだ。魔鋼を使って鍛えられたこの武器はいろいろな物を変化させてしまう。俺の武器の破壊力は……それに見合った物だとは口を裂けても言えない。


「少し、力を出してもいいか……『清廉潔白……我が力を喰らい力とせん。刀剣の申し子を我が集中に入れ……我が力、解き放つ……融錬!』」


 この力が暴走すれば収拾がつかなくなる。だが、ずっと練習しないのも問題だ。敵が敵なだけに俺も力を出さねば戦えない。力……相手も実は力を使っている。脚にエレメントを集約して進むのが奴の移動方法、その道に居ただけありケロべロスもその移動方法を使っていた。大きな声では言えないしこれは俺にしか解らないことでもあるから先に言おうか。俺は実質的な戦闘力は高くない。あくまでこの常闇や焔皇の力だ!


「鬼殺し……闇刃!」


 今の俺の姿は周りから見れば怪物のそれだろう。角、赤い目、青白い肌……。この力は師匠から教わった中で刀剣精錬師の秘儀中の秘儀だな。剣の能力を俺の体に直接移植するような物だ。俺の体だけではない。とてもキツイ。息苦しいし体が辛くなる。だが、力の上では俺でも彼女らを凌駕できるだけの力になるだろう。


「ゴハッ……やっぱりしんどいか。だが、喰らえ!」


 今の力は強すぎる。だが、奴は俺も力を出さなければ倒せないだろう。……よし、当たった! ケロべロスことファンも近づいたが……まずい! ユニゾン死やがった! あれは……『魔剣』の連中しか使わない。俺達のような刀剣精錬師に対しての敵対組織だ。専門は殺し。略奪、……侵略なんかだ。アイツらは人を簡単に殺す。俺はそれが許せない。人間に限らず、生き物と呼ばれる型にはまった存在は一つしか持てない。その命を絶つことは許せないのだ。師匠の受けよりだけども……。


「……っち」

「うぅ、時間が……」

「おま! お前何なんだ! その姿!」


 ファンが驚いた。ま、そうだ。秘儀だからな。この状態の体では普通の人なら驚く。もう時間がない。殺しにかかる。あの武器は『暗斧(あんふ)ブラックグリードバック』、無骨な造りの大型の斧だ。あれのレプリカは浸食作用が恐ろしく強い。本物も高名な僧侶の手で大聖堂に封印されているはずだからだ。常闇も同じレベルの浸食さようがある。まぁ、封印技術を研ぎ澄まして使えばこれくらいで済む。闇のエレメントは恐ろしく怖い。使える俺自身も強く感じる。俺は……奴とさしで戦いたいと思った。この感覚は久しぶりだ。日本に帰って来てからは俺はあまり戦いたいと思ったことはなかった。久々に……本気を出すか。


「俺は『刀剣精錬師の(くろがね)』だ。貴様のような者は許さない。命を絶たせてもらう」


 二人は俺が好戦的なところを見たことが無かっただろう。俺が剣を握らなくなったのはとある人の死が原因だ。ま、それももう吹っ切れつつある。この心情の変化もそれだろう。常闇と焔皇を構える。『胡蝶流』の刀剣はその滑らかな刀の軌道と脚さばきからくる機動力などが売りだ。コイツには俺についてくるだけの力はないだろう。いくら……レプリカの武器に魂を売ってもだ。


「うおぉぉぉぉぉ!」

「らぁぁぁぁぁ!」


 武器のぶつかり合いが起こる。周りの一般人は気を利かせたのかシルヴィアや数名の学園関係者が避難誘導していた。俺はビルなどに被害がでることもはばからずに次々と敵と武器をぶつけ続ける。その間に少し……自分のせいで死に目を見た気がする。血が……足りない。刀剣精錬師の秘儀は刀や武具と契約を結ぶ上で代償を含んでいた。俺の場合は血を必要とする。貧血でぶっ倒れそうだ。


『大丈夫かい? 少し力を落とさないとまずいんだろう? 顔が真っ青さね』

『うぬ、焔皇の言うとおりだ。体がもたねば意味がない』

「いや、最期までやらさてくれ。奥義で片づけよう」

『お、今日はやたらと好戦的だねぇ』

『主が申されるならば従おう。奥義ということは「アレ」を使うのか? 主よ』

「あぁ、今から練習しておかないとな。来るべき戦いに備えられない。『刹那の剣技』を使う」

『あいよ! 構えとくからね!』

『同』


 ま、使えば確実に勝てることくらい解っていた。だが、使わなければ体がもたなかったことも解っている。一瞬で、0,000000001秒の進行。刹那の剣技は俺が刀剣精錬師になって初めて編み出した力だ。この力があれば負けない。誰にもな!


「召されろ……」


 白と黒の刃は加速と破壊力の増幅を促し俺の体の限界を超えた力を空気中に放散しながら無理のない戦いをする最高質ものだ。発動にも一定の条件がある。一定の血液消費と破壊衝動で自動的に破壊する力。俺もここまでしか意識はない。敵は真っ二つに出来たし……ま、いいか。その内気づくだろうしな。


「お、起きたぞ」

「剣一! うわぁぁぁぁ!」


 泣いて抱きついてきていきなり呼吸停止に陥れさえさせられなければな。口をふさぐのは一定の配慮のもと行いましょう。キスも同類だぞ。シルヴィア!

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