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序章





「ばっかじゃねぇの?」



下に広がるは溢れる人間。


『さぁ皆さん、ついにこの日がやって参りましたっ!』


「「「「「「「「うわぁ~!!!!」」」」」」」


盛り上がる人々。

加熱してゆく熱気。


『まずは社長より挨拶をいただきます…瑠璃垣社長どうぞ!』


街の至る所に浮いた巨大なビジョンが司会のアナウンサーから白髪の老人に切り替わる。


『この度、シュミレーションワールドダイバーシステムを開発させていただいたクロノスグループの瑠璃垣と申します。

今まで様々な苦労がありましたが、やっとのことで発売までこぎつけることが出来ました。

これもひとえに楽しみにしていただいた皆様方の声があったからであります。…』


よく言うぜ…

犠牲になった人間のことは知らないくせに…


『……だったわけであります。

まぁ、つまらない挨拶はこの辺にして皆さんには新しい世界への旅路を始めていただきましょう!』


お前が創った世界じゃないだろ…

そんな口聞いてんじゃねぇよ…


『…では2023年の年明けと共にダイブしていただきましょう…

カウントダウン…10…9…8…7…6…5…4…3…2…1……0!!』


ひゅぅ~~~ど〜ん!!


花火が打ちあがる!

夜の闇には笑顔が浮かぶ…


ここに暗い顔をする人間はいないだろう…

俺以外に…


輝く花火に背を向け僕は歩き出す。





二十分後

がちゃっ…

半年前から生活の拠点になったコンテナハウスに入る。


机には新聞が広がったまま。

日付は半年前。

見出しには【シュミレーションワールドダイバーシステム開発頓挫!?】の文字が踊る。


このシステムを開発したのは僕の父、柊遊羅斗《ひいらぎ  ゆらと》が開発したものだ。

父はさっき喋っていた瑠璃垣の大学の後輩で会社を立ち上げるのに協力した。

父には開発する才能はあったが商才はなかった。

瑠璃垣には商才があったがものつくりの才能はなかった。

瑠璃垣は親父に目をつけ、クロノスを起業した。



二人の会社は互いに発揮された才能で急激に発達していった。

なかでも新エネルギーとロボット技術は群をぬいてすごかった。

父は光を収束させたり分散させるミラースパークという小型の半永久型エネルギーを開発した。

その間、瑠璃垣は政治を掌握し、日本を半鎖国へ。


そして日本でロボットと新エネルギーがすっかり広まった後で世界に向けて新エネルギーを発表。

海外ではもちろん猛反発。

特に中東は残り少ない化石資源を高値で売っていたため激怒した。

そして国連から瑠璃垣と父に呼び出しを受けた。


二人にとっては世界中が文字通り敵だった。

もちろん国連の呼び出しは罠で二人は捕らえるはずだった。

そう…二人がもし人間であったなら。


赴いた二人は高性能のロボットだった。

圧倒的な力により一瞬で国連本部は壊滅、一人残らず人質になった。

世界は日本に向けて軍事介入を決定。

元から目的だったエネルギーに加え、ロボット技術を手に入れようと、我先に攻め込んだ。

だが日本の領空に入ったとたん核ミサイルは分解され、戦闘機、空母諸々は塵芥となった。


これもエネルギーの開発の過程で生まれた光学兵器なのだが。

この瞬間、世界は白旗を挙げて降服した。


それから、少しずつ技術を提供しているが海外との間にはまだ10年ほどの技術面での遅れがある。

ここまでが小学校で習うアバウトな最近の歴史。


それから父はさっき解放されたシュミレーションワールドダイバーシステムを開発。

俺は被験者として父の実験に参加。

それが一年前のこと。


半年前、いつもとおなじ様に研究所に向かった俺の前に見なれない黒塗りの車が止まっていた。


「誰だ?」


関係者パスを使い奥まで入って行く。

ロッカールームで専用のボディスーツに着替えて待機。


「もうすぐ始めるぞ。準備してくれ。」

スピーカーから聞こえる親父の声。


研究室に入り、フルポッドとゆうデバイスに入る。

円筒状の筒で透明、まずは中から鍵をかける。

すると下から酸素を含んだ溶液が出てくる。

この溶液中では呼吸が出来、なおかつ排出する二酸化炭素濃度なども計測してるらしい。


溶液が満タンになったところで手首足首にコードを繋ぎ、上に引っ掛かるヘルメットを被る。


「今日は瑠璃垣社長が来ている。へま、するなよ。」

あの車はそうゆうことか…


「わかってるって。」


「だが…それ以上に無理するなよ」

ったくおせっかいなんだから。


「うっせぇな、しねぇよ…」


「じゃあダイブのタイミングを譲渡するぞ…」


「了解、柊悠斗《ひいらぎ  はると》。ダイブ!」


五感が消えてゆく。

身体の神経がどんどん脳から切り離されていく。


最後に見たのは笑顔で俺を見送る親父とその後ろで無気味に微笑む瑠璃垣だった。



見覚えのある草原が見えてきた。

何度か行ったことのあるダンジョンだ。

確か、敵のレベルは50から60程度。

ずっとやり続けて98までレベルを上げた俺には大して苦しく無い相手だ。


だが、この世界の中では基本、プレイヤーはパーティを組んで行動する。


それを考慮して、敵の魔物のレベルは同レベルのプレイヤー三人分ほどの強さに設定されている。


ただ、レベルが1違うと強さは格段にあがる。


だから今の俺だと一人で相手するのは95くらいまでがギリギリになってくる。


「悠斗、油断するなよ。」


「わぁってるよ。」


キシャァッ!!


「うぉっ!」

いきなりだったからびっくりしたけど現れたのはビショップマンティス。

カマキリのような三メートルほどの巨体の上に小さな僧侶が乗っている。


ザシュッ!

鎌が俺が横跳びして避ける前の位置に突き刺さる。


厄介なのはこのそこそこ早い攻撃以上に合間から放たれる僧侶の足留めや状態異常を引き起こすポイズナという魔法だ。


放たれる速度は遅いが鎌の影から来ると避けづらい。

まぁ当たっても五割でしか状態異常は起きないので無理に避けたりはしないが…


その時もそう思って避けなかった。

その瞬間、黒い魔法球は予想に反して目の前で弾けた…





「うわっ!?………」

思わず目を強く瞑り、そしてゆっくり開ける…



「…ると!…はると!聞こえるか!?聞こえ……んじをしろ!」


ノイズ混じりの音声…


「…ると、そこは最下層の魔城ダンジョンだ!敵にフロアロックされる前に上がっ…」

濃紺の闇を掻き分けて、月下に現れるは鎧…


「親父。無理だ…もう、一番物騒な奴にロックされちまった…」

眼が出る部分は底知れない伽藍洞をたたえ、仄かな赤い光を放つ。


「悠斗!大丈夫なのか!?」

カチッ…


悪ぃけど親父との音声通信は気が散るから切った。


痛いほどの静謐の中、抜き身の刀を両手に提げた鎧を見据える。



『我に挑むか…小僧…』

頭に低くしわがれた声が響く。


やべぇ…足の震えが止まらない…

「おう…お前倒さないと帰れそうにないからな…」

声裏返らなかっただけでも行幸だ…


『では…参るっ!』

一陣の風!

月明かりに浮かんだ場所から鎧が消えた…


背筋を悪寒が駆ける!

反射的に剣を後ろに掲げる。

キンッ!

重量の関係で刀が弾かれる。


だが、その後ろで二本目の刀が閃く。

避けられないことを悟った俺は下を蹴り、距離を取る。


…動きが…違う…

振り下ろされた刀で砂埃がたつ。

急いで敵ステータスウィンドウを開く。


【name:unknown

level:unknown

tribal:spirits of dead soldiers

type:dark】


英霊なんていう種族聞いたこと無いぞ…

属性の闇も暗の派生型で光の派生型の煌と並んで珍しく、強いとされている。


『よくかわしたな…』


あいつが砂埃から出てきた。

こいつは予想以上にヤバイな…


刀からはさっきより強い闘気が出てる…


『これは…どうだ?』


目に見える速度で向かってくる巨体。


この速度ならカウンターを狙うか…

さっきも重量の差で跳ね返せたし…


『はっ!』


スパンっ!

…スパン?

俺の愛剣が真っ二つ…


嘘だろっ!?

気付いた時には振り下ろされた刀により掲げた剣が見事に切られていた。


まだ攻撃は終わらない!

二本目の刀は横薙ぎに振られる!

速度がそれほど無いからスウェーバックでなんとか避けられたけど眼前を通る刃先は先程より数段上の破壊力を持っていた…


近くにいたら殺される!

鎧の腹を蹴る衝撃を使って跳ぶ。

カンッ



「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…」

得意じゃないけど魔法を使ってみるか…


「ファイア!」

ボウッ!


避ける素振りは無い…


当たるっ…

放たれた火の玉は鎧に吸い込まれていった…


『我に魔法は通じず…』


そんな力まであんのかよ…

ってかさっき蹴った時にした音、変だよな?


まさか…

「お前、その中…空洞か?」


『いかにも。左胸に血印が結んである。それを壊せばお前の勝ちだ。』


弱点まで教えてもらえるとは…

「そうか、絶対壊す!」


『武器も折れたお前に勝ち目は無い…』

ダッ!


駆け出す鎧…


集中だ…

あいつを倒すイメージは出来てる。

シンクロ率がデッドゾーンまで来てるがそれより生き残って帰ることの方が大切だ…


風を切る音…

刃を突き出すっ!


ガンっ!


入った!!

あいつが振り下ろした左手の手首の隙間に折れた剣が鍔まで入った。


体をひねりそのまま体を左腕の死角に持ち込む。

これで攻撃できないはず!



隠し持つ短剣で左胸を…突きっ!

パキッ…


…嘘だろ?

短剣が折れた?

しかも傷一つついてない…



なんか顔が温かいな…

鎧にも血がついてる…


…血…?

鎧は血を流すか?

否、これは…俺の血だ!


顔を横に向けるとさっきまであったはずの左腕がなかった。

いや、あることにはあった。


鎧の左手首に刺さった剣の柄をにぎったまま肩からばっさり切り落とされていた。

鎧の左腕もろとも…


俺の剣では無理なのか…?

ならっ!


走り出した俺は鎧の左腕が握っていた刀を拾う。

軽い!


血が抜ける前に決めなければっ!


振り向くとすぐそこにはよろいが刀を振りかぶっていた…

一瞬の判断…

拾った刀で受け止めて勢いを殺すと自分の腹に刺した。

痛みでとっくに頭はイッてる…


腹筋に力を込めて刀を固定すると、右手の刀で左胸を刺しにいく…

「これで、終わりだぁぁあ!!」


確かに刀が鎧の左胸に刺さる。

やっぱり自分の腕が切れるなら胸も貫けるか…


やっと勝った…

そして俺は意識を離した…



この件で俺は現実に戻った時、左腕の感覚を失っていた…

原因はシンクロ率が高かったことと心因性と診断された…


親父は責任をとって辞任。



父は三日後、自宅で俺への謝罪を含んだ遺書をのこし自殺した。


自殺なんか考える人じゃない

瑠璃垣に責任を取らされたんだろう…


俺を見舞いに来た瑠璃垣の目は笑っていた…


後で仲の良い研究員に聞くと、その後親父の研究チームは人事移動が相次、生じてほとんど解散…


そして移動する際には守秘義務をかせられたらしい…


ここだけの話、瑠璃垣が親父のプログラムにハッキングした形跡が見つかったらしいが、その人が気付いたときには消されていたと話してくれた…


多分、親父を嵌めたのは瑠璃垣だ。

俺はあいつだけは絶対許さない。

次に会うことがあれば俺が殺してやる…


ピピピピっピピピピっピピピピっ…

目覚ましのアラームがなる。

いろいろ考えてたらもう朝か…



コンコンっ…

誰だ…?


郵便か?

「はーい…」


そこにいたのは黒服の男達…

「柊悠斗だな?」


「ですけど、あんた等誰?」


「拘束する。」

はっ?

ビリっ!


首筋に痺れる痛み…


視界はあっという間に黒く染まった。



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