【月と、見上げる森の人】
【9月24日の「ゴリラの日」を記念して開催された清坂正吾様主催の個人企画『ゴリラパーティー』の参加作品です。】
──9月25日は、中秋の名月・十五夜です。
夜空を見上げれば、きっと綺麗な月が見えることでしょう。
よろしければ、月を眺めるような気持ちでお読みください。m(_ _)m
【月と、見上げる森の人】
森には、一頭のゴリラがいた。
群れの中でいちばん大きく、いちばん強い。
けれど、そのゴリラには誰にも言えない悩みがあった。
――月が、嫌いだった。
夜になると、木々の隙間から白い月が顔を出す。
そのたびにゴリラは空を見上げ、低く唸った。
「……またいる」
月は何も答えない。
ただ、いつも同じ場所から森を照らしている。
この森の群れは、満月の夜だけは眠らない。
誰に教えられたわけでもなく、年長のゴリラたちが梢の高い場所に座り、じっと森の奥を見張る。
そういう夜がある、というだけで、理由を語る者はいなかった。
──ある夜。
子どものゴリラが尋ねた。
「ねえ。どうして月をにらんでるの?」
「明るすぎるからだ」
「でも、明るいと歩きやすいよ?」
「……そういうところが嫌いなんだ」
ゴリラはそう言って、森の奥へ歩いていった。
──昔。
まだ身体が小さかったころ。
母親とはぐれた夜があった。
森は真っ暗だった。
怖くて動けず、木の根元で震えていた。
そのとき、雲の切れ間から銀色の光がこぼれた。
葉の裏側まで白く浮かび上がり、地面に無数の細い影を落とした。
その影を一つずつ踏むようにして、ゴリラは母親を見つけた。
だから本当は知っていた。
月は嫌いではない。
むしろ――ずっと好きだった。
けれど、あの夜から月を見るたびに思い出してしまう。
母親の温もりを。
大きな背中を。
優しい眼差しを。
もう二度と戻らない時間を。
だから、月を見ないようにしていた。
──その夜も、ゴリラは木陰に座っていた。
すると、小さな声がした。
「ねえ」
子どものゴリラだった。
「どこにも、お母さんがいないの」
その声が、少しだけ震えていた。
ゴリラは黙って立ち上がった。
「どこへ行った?」
「わからない……ずっと探してたけど、わからないの」
「……そうか」
ゴリラは子どもを背中に乗せた。
「探しに行くぞ」
森は暗かった。
しばらく歩いたところで、子どもが呟いた。
「月、ないね」
背に伝わる小さな震えは、暗さのせいだけではないと分かった。
「ああ」
月は雲に隠れていた。
「暗いと……怖いね」
「……昔は怖かった」
「今も?」
ゴリラは少し考えた。
「今は違うものが怖い」
「なに?」
「お前がいなくなる方が、よっぽど怖い」
子どもは、それきり黙った。
しばらくして、消え入りそうな声がした。
「……あのね。今日、お母さんに怒られたの。だから、少し遠くまで一人で行ってみたの」
「はぐれたんじゃなくて、行ったのか」
「うん……戻る道が、わからなくなっちゃった」
ゴリラは足を止めなかった。
「怒られたのが、嫌だったんだな」
「うん」
「……必ず、会わせてやる」
子どもは背中に顔を押し付けた。
その瞬間。
雲が流れた。
ゴリラは立ち止まった。
銀色の光が木々の間を滑り落ち、二頭の影を地面に長く伸ばした。
「……明るい」
光の中を、白い蛾が一匹、迷うように横切っていった。
森の奥では、夜行性の鳥が羽ばたく音がして、それきり静かになった。
この森の生き物たちは、満月の夜には妙におとなしくなる。
まるで、何かに気づかれるのを恐れているかのように。
その光の先に、小さな影があった。
「いた!」
子どもが叫ぶ。
木の根元で、母親のゴリラがこちらを探していた。
子どもは背中から飛び降り、母親へ走っていった。
ゴリラは少し離れた場所で、その姿を眺めていた。
「ぼうや!」
母親が子どもを抱き寄せる。
その姿が、昔の自分と母親に重なった。
胸の奥が、少しだけ痛んだ。
でも。
ゴリラは空を見上げた。
今度は逃げなかった。
「……ありがとう」
月は、やはり何も言わなかった。
ただ光の粒が、ゴリラの傷だらけの背中の毛を一本一本、銀色に縁取っていた。
──それから何年も経った。
森の夜。
一頭の若いゴリラが、子どもたちに昔話をしていた。
「昔な、俺は月が嫌いだったんだ」
「なんで?」
「眩しかったからだ」
「えぇー? 一番強いのに嘘だあ」
子どもたちは笑った。
「本当だ」
ゴリラも笑った。
そして最後に、空を見上げた。
白く、大きく、静かな月。
満月だった。
年老いたゴリラはもう、目を逸らさなかった。
月は遠い。
手は届かない。
それでも。
遠くにいるからこそ、照らせる場所がある。
そして地上にいるからこそ、抱きしめられるものがある。
――月は空から。
――ゴリラは地上から。
大切なものを、見守っていた。
旅立ちの日──その日は、満月だった。
(了)
──月を見て、何を思うかは人それぞれ。
ただ「綺麗だな」と眺める人もいれば、懐かしい誰かを思い出す人もいる。
そして――森のどこかにも、月を見上げている誰かがいるのかもしれません。
そんなことを考えながら、一つのお話を書いてみました。
『本編』を最後までお読みいただき、ありがとうございました。m(_ _)m
……。
…………。
………………。
さて。
ここは「小説家になろう」。
ここは「後書き」──本編とは切離しても良い部分であります(歪んだ自己認識)
忘れてはいけない──
本作は……【ゴリラパーティー】参加作品です!(爆)
(本編の余韻を残したい方は、どうぞバックしてください!m(_ _)m<すいません!)
【月と森の人──見送る夜】
白く、大きく、静かな──満月だった。
若いゴリラは空を見上げた。
「……いい月だな」
その一言を合図にしたように。
「ウホォォォォォォォ!!」
森の奥から、雄叫びが響いた。
「ウホ! ウホウホ!」
「ウホホホホホ!」
「ウホォォォォ!!」
次々とゴリラたちが広場へ集まってくる。
「……何だ?」
ゴリラが振り返る。
そこには、大量のバナナを抱えたゴリラ。
果物を抱えたゴリラ。
なぜか巨大な丸太を担いだゴリラ。
そして、何をするつもりなのか分からないが、とにかく嬉しそうなゴリラ。
「お前たち……」
一頭が胸を叩いた。
「ウホ!」
別の一頭も胸を叩く。
「ウホ!」
その隣も。
「ウホ!」
「ウホ!」
「ウホ!」
気がつけば、森中がドラミングの音に包まれていた。
ドンドンドンドンドン!
木々が揺れる。
鳥が飛び立つ。
小動物たちが逃げていく。
そして月だけが、何も言わずにその光景を照らしていた。
「……お前らな」
ゴリラは呆れたように呟いた。
けれど。
口元には、笑みが浮かんでいた。
「……まあ、今夜くらいはいいか」
次の瞬間。
「ウホォォォォォォォォォォ!!」
森が揺れた。
月明かりの下。
ゴリラたちは踊り、騒ぎ、食べ、笑い、胸を叩いた。
♪ウホッ! ウホウホ! 月を見上げろー!
♪今夜は満月、旅立ちの夜!
♪遠くへ行っても、忘れない!
♪月が照らすよ、お前の道をー!
さっきまでの静かな夜が嘘のようだった。
♪ウホウホッ! ウホウホッ! 森から送るぞ!
♪帰りたくなったら、いつでも帰れ!
♪泣いたっていいさ、迷ったっていい!
♪大きな背中で、見守ってるぞー!
月はそんな彼らを、ただ静かに照らしている。
――月は空から。
――ゴリラは地上から。
大切なものを、見守っていた。
そしてその夜。
森では朝まで、
ウホウホ大宴会が続いた。
森の中|ㆁωㆁ)<どうしても入れたいと指が勝手に(本編に宴会を待つ群れ、と騒ぎを恐れる森の様子も入れて、ここで伏線回収w)……月の魔力のせいですね!そうですよね?……まさか第三なんて、ね……?(マテ)




