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血の滲む舞踏会

 舞踏会とは――戦場である。


 弾丸が飛び交い――。


 毒が撒かれ――。


 剣戟が響く――。


 そんな戦場で、敵の目をかいくぐり、私は目当ての人物に声をかける。


「お兄様、そろそろ――」


「ああ。そうだな」


 お兄様に手を取られ、歩みを進める。


「助かった」


 私にだけ聞こえるように小声で落とされた言葉に笑みを返す。


「明日のデザートで手を打ちましょう」


「……太るぞ」


「まあ。私に『人質』を取られていることを忘れておいでかしら」


 一瞬だけ渋面をしたお兄様が、軽くため息を吐く。


「三分の一だけな」


「あら、せめて半分はいただかないと」


「はあ。わかった」


 すっと表情を変え、私の手を取ったお兄様が微笑む。


「踊っていただけますか、お嬢様?」


「ええ、喜んで」




 * * *




 舞踏会から無事に戻った私たちは、部屋の中でくつろいでいた。


「私もまだまだね。舞踏会でこんな怪我をするなんて」


 血の滲むその場所を見て私がそう言うと、お兄様は呆れたように言葉を返す。


「お前の敗因は買ったばかりの靴で行ったことだよ。だから言っただろ。慣れた靴にしておけって」


 そう言いながらもお兄様は、靴擦れで血の滲んだ私の足に、丁寧に手当てをしていく。


「お兄様の方こそ、そろそろご婦人方からのお見合い話を自分でいなせるようにならないと。いつまでも私を言い訳には使えないでしょう?」


「そうなんだがな……」


 困ったように眉を下げるお兄様は、身内のひいき目を差し引いても、女性の目を惹く整った顔立ちだ。


 ご婦人方からの『銃撃』のようなお見合い話や、ご令嬢方の『毒』のような噂話の的になってしまうのも、致し方ないことだろう。


 嫡男ということもあって、後継としての資質を見定めているような男性たちとの会話を見ていると、まるで『剣戟』のようでもある。


 私の足の手当てを終えたお兄様が、ふと顔を上げる。


「そういえば、ずいぶんと上達していたな。今日は『人質』も無事に済んだし」


「まあ。わざと足を踏んであげればよかったかしら」


 いたずらっぽく言うお兄様に、怒ったふりをして返す。


「ははっ。お詫びにお嬢様には明日のデザートを捧げましょう」


 そう言って、恭しく手の甲に唇をつけるふりをするお兄様と笑いあう。


 もうしばらく、お兄様の隣は、私の特等席のままらしい。


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