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第83話 第四層採掘場

第四層・中域の森へと足を踏み入れる。


ここも霧が立ちこめ、薄暗く、足元はぐずぐずと緩い。

だが――さっきまでの湿原に比べれば、まだマシと言えた。


森といっても、並んでいるのは枯れ木ばかり。

葉もほとんどついておらず、殺風景で不気味な景色だ。


だが、ここはお宝ゾーン。

途中、他の冒険者パーティの姿もちらほら確認できた。


八人編成の大規模パーティは、この辺りでは珍しい方で、否応なく目立つ。

そのせいか、俺たちの存在に気づいた冒険者の何人かが、


「配信観てるよ、頑張ってー」


と、軽く手を振って声をかけてくれる。

その度に、うちの三人は全力で愛想を振りまいていた。


アリサは、少し羨ましそうに来奈へ声をかける。


「いいなあ……。

今の人、インドネシアだって。いろんな国の人が冒険を観てくれるなんて、すごいよね。

やっぱり、うちも配信やりたいなー」


すると来奈は、嬉しそうに言った。


「いいんじゃないかな。

でも、うちは委員長がああ見えて、けっこう使えるからさー」


上から目線な発言に、政臣が嬉しそうにパァァァッと顔を輝かせる。


……いろんな意味で幸せなやつだ。


歩き続けると、やがて採掘場所が見えてきた。


周囲は有刺鉄線付きの金網で覆われている。


「このエリア一帯は、第三層の採掘場とは違って日本の占有じゃない。

アジア各国の出資で運営されてるんだ。

くれぐれも面倒事を起こすなよ」


軽く注意を飛ばす。


環太平洋地域数カ国のプロジェクトだ。

日本の冒険者には採掘権があるが……。


ちらりと政臣を見ると、オーケーサインを出している。


「今回は、日本政府から各国と調整済みですから。

マルグリットさんたちも大丈夫です」


ダンジョン素材は利権が絡む。

特に、精霊から“借地”しているエリアは、当然ながら勝手に掘っていいわけじゃない。


入口で冒険者カードをスキャンすると、ゲートが開いた。

政臣が守衛らしい男と何か話しているが、どうやら話は完全に通っているようで、問題なく通過できた。


森の中にぽっかりと開けた空間。


ここで活動している冒険者の数はそれなりにいるが、日本人と思わしき姿はチラホラ。


……まあ、これも時勢というか。


いまは若い人材自体が少ない。

第四層中域まで来られる実力があるなら、もっとその先で稼ぐのが普通だし、国としても“一部のトップ層を深層に集中投入する”のが方針になっている。


昔は学院の方針が戦闘狂育成寄りだったせいで、中間層がやたら厚かったんだが……。

いまは冒険者以外の進路も広いし、ただでさえ少ない冒険者人口に拍車がかかっている。


その反面、他国は若い人口が多く、第四層で採掘を行う魔法使いが豊富だ。


俺は欧州メンバーに声をかける。


「悪いが、第四層での素材集めもうちの目的でな。

付き合ってもらうぞ」


すると、アリサがぱっと顔を明るくして、元気に声を張った。


「何言ってるんですか!

同じパーティなんだから遠慮するなって言ったの、料理長じゃないですか!

私、全力で掘っちゃいますから!!」


ダンジョンで暖かい飯が食える。

そのカルチャーショックが、アリサの中で俺を料理長の地位へと押し上げていた。


そのままツルハシを握りしめ、元気よく鉱石へ駆けていく。

リュシアンも慌てて後を追った。


「まあ、そういうわけ。

あたいも協力するからさー。今日の晩飯は酒が進むやつを頼むわ」


マルグリットもひらりと手を振り、アリサたちの後に続く。


俺の横で、由利衣がぽつりと呟いた。


「……いいですね。わたし、すごく楽しいです」


分かる気がした。


これまで遭遇したアメリカや中国のSSRは、あきらかに魔法使いとして格上。

どうしても距離感があるのは否めない。


だが、アリサたちとは――

同じ速度で冒険している“仲間”としての実感がある。


由利衣の声には、そんな温度が宿っていた。


「……そうだな。このままあいつらと第四層攻略といきたいところだ」


なんとなく、しみじみと頷く。


そこに、いるはずもない声が俺の背中にかかった。


「私も、第四層攻略、頑張っちゃいますからー」


そう、山本先生も第四層攻略を。


…………………。


俺は振り返らずに、目だけを後ろに回す。

視界の端に、ジャージ。


なぜここに?

いや、山本先生が一人で中域に来れるはずがない。


もし来れるとしたら、“あいつ”がいるはず。


案の定、聞きたくもない緑色の声。


「修司、あなたね。実家に顔を見せなさいっていったでしょ。

どうして義姉さんの言いつけが守れないの。困った子ね」


芹那は俺の目の前に回り込むと、ブツブツと文句を開始した。


「聞いたわよ。欧州のSSR。

大丈夫なんでしょうね? 下手すると国際問題よ。

きっちり攻略進めて、一人もケガ人なんて出さないようにね」


「……どうして、ここにいるんだ?」


声を絞り出すと、芹那は“やれやれ”と言いたげな顔。


「どうしてって……あなたが美鈴抽(ミレーヌ) を呼んだんでしょう?」


呼んでなどいない。

記憶をたぐったが、そんなことは一言も言っていない。


そこに、妙に艶やかな声が割り込んだ。


「――配信、見てました」


山本先生。


「俺の背中に姫の可憐な姿がないと、魂が引き裂かれるような思いだって……。

私、やっぱり佐伯さんから離れたのは間違いだったって気づいたんです」


来奈の余計なひとことが、盛大に脚色されて届いていたようだ。


だが、今さらお引き取り願う雰囲気でもない。


そんな俺の心情を知ってか知らずか、芹那はさらに爆弾を投下した。


「私も忙しいんだけどね。

まあいいわ。

第四層攻略、正月三が日でいくわよ」


いくわよ……って。

まさかこいつまで参加する気か?


「なあ。年末年始くらい、ゆっくりしたらどうなんだ? 亭主とだな……」


そこまで言いかけたところで、俺のスマホが震えた。


フレッド……。無理やり連絡先を交換させられていたのだ。


メッセージにはこうあった。


『全然大丈夫です。芹那さんの活躍楽しみにしてます』


あいつ。

つかの間の独身貴族を謳歌する気、満々じゃないか。


続いて届いた二通目には、土下座の絵文字。


……同性として、気持ちは分からんでもない。


スマホを内ポケットにしまい、俺はボソリと呟いた。


「わかった。目標は正月三が日攻略。

だが、欧州の連中も甘やかす気はないからな」


こうして山本姉妹を迎え入れ、第四層攻略パーティは総勢十名の大所帯となった


***


俺たちは採掘場で、ブルーストーンとグリーンストーンを掘りまくった。


山本先生は上機嫌で、ツルハシの一撃で掘り出しては流れるように還元していく。


芹那も、さすが一流のSR魔法使い。

性格と反比例して冒険者としての実力は本物。

慣れた手つきで次々と掘り出していく。


そして二人は新規参加ということで、欧州メンバーとも積極的に交流を始めた。


山本先生は第二層で面識がある。

アリサは「モグラを倒したお姉さん!!」とすぐに気づき、マルグリットとも親しげに話していた。


そして芹那は……リュシアンをロックオンしていた。

しゃがみ込み、頬に手を添え、一方的にまくしたてている。


「ねえ、リュシアンくん。

お姉さん、可愛い服プレゼントしてあげたいな。

そのローブもいいけど、キミの魅力を引き出すフリフリの衣装……いいわぁ」


その視線は完全に獲物を狙う猛禽。

リュシアンはモジモジと肩を縮めたまま、黙ってツルハシを振っている。


どうやら芹那の琴線に触れたらしい。

あいつは“美”には異様な執着があるのだ。


そして、ファーストコンタクトから三十分も経たないうちに、芹那には早くも“次の目標”が生まれていた。


「知ってる?

SSRが亜精霊化すると、ガチャ当選時の姿のまま年を取らなくなるの。

リュシアンくんの美しさが不滅になるなんて……こんな素敵なこと、ないわ。

お姉さん、キミを星5・レベルマックスまで育ててあげるから、任せておいてね」


うっとり恍惚とした表情。


どうして姉妹揃って、他人の都合をここまで無視できるんだ……。


……だが。

リュシアンには申し訳ないが、そっちに注意が向いていてくれるのは、正直かなり助かる。


あちらは任せても良さそうだ。


俺は視線を冒険部の三人へ移す。


梨々花が、掘り出した鉱石をしげしげと眺めていた。


「これがブルーストーン……。

第三層のレッドストーンと、ただの色違いに見えますね」


見た目は単なる色違いだが、水属性が込められている。

こいつと、第五層で採れる土属性のオレンジストーンを砕いて混ぜ、農地に撒くと土壌が豊かになる。


そして、この採掘場にはもうひとつ――風属性のグリーンストーン。


近年では、風力発電の補助や大気浄化研究への利用が進んでいる。

魔導と科学の融合が加速する現代で、需要が急拡大している素材だ。


この採掘場は森の中とはいえ、精霊からの借地後に大規模な整地が行われている。

広大な更地が広がり、その上に、地面から突き出す鉱石が等間隔で点在している。


採掘してしばらくすれば、また同じ場所に鉱石が生える――作業ゲーの感覚だ。


未採掘の鉱石はまだまだ多い。

ここにいる冒険者同士で奪い合いになることはまずないだろう。


とはいえ、作業中は念のため他のパーティとは距離を取って進めていた。


ただ、向こうから話しかけてきた場合は別だ。


視聴者さんだったり、ニュースで見たSSRに興味があったり、理由は様々。

いずれにせよ――


うちの三人は“戦闘アイドル”というジャンルで成り上がりを狙っている身。

好感度は命だ。


どんな状況でも、ファン対応はきっちり押さえておかねばならない。


来奈は、とあるカップル冒険者とフレンドリー全開で話していた。


「そうそう、これが新しい武器。

あのあと、イクシオンなんとか商会ってとこが、返せだの福袋の倍の値段で買い取るだの言ってきたけどさー。

もうあたしのモノだしー」


笑いながら拳に装着したキュレネを見せる。


その隣では、由利衣が妙齢の女性に

「うちの息子の嫁にならない?」

と本気のトーンでスカウトされていた。


そして――梨々花は、ぽつねんと立っていた。


彼女のファン層は、圧倒的にドM気質の男性に偏っている。

どうやらこの採掘場には、その“選ばれし人材”がいないようだ。

見た目の近寄りがたさも相まって、誰も気軽に声をかける気配がない。


スマホを確認してみる。


そこには、“リリカ様ぼっちの図”に、心を痛める臣民たちの声がずらり。


俺はそっとスマホを消灯し、それを軽く握り締めたまま梨々花の隣に立つ。


そして、小さく呟いた。


「大丈夫だ、桐生院。ここに推しは――いる」


その言葉に、梨々花は訝しげに眉を寄せた。


そんな彼女をよそに、来奈がカップル冒険者へ手を振って別れ、こちらへ寄ってくる。


「教官が言ってたトレントってモンスターだけど。

最近は中域でも少し出るって。

人間の味を覚えて奥地から出没してるんじゃないか……だってさ」


野生動物のようなやつらだな。

しかし、遭遇の可能性があるなら、ますます油断できない。


それに、SSR六名による攻略プロジェクト。

精霊がこんな面白いものを黙って見逃すはずがない。


梨々花へそっと目配せする。


「トレントの弱点は火炎……。あと、有効打はパイルバンカーだな。

いずれにしても、桐生院の魔法が攻略のカギだ。頼りにしてるぞ」


梨々花はギュッとツルハシを握り、無言の返答。


すると来奈が、わざと拗ねたような声を上げた。


「ちょっと教官!

あたしとアリサのコンビネーションだって、頼りになるんじゃね?」


分かってるさ、と軽く手を振って応える。


「――遅くならないうちに、セーフゾーンへ移動するか」


その言葉を合図に、来奈は由利衣と欧州メンバーへ声をかけ始めた。


梨々花は俺の隣を離れず、ぽつりと一言。


「先生……来ますね。おそらく」


やはり、俺と同じことを考えている。


「だろうな。次から次に、だ」


相手は、人を喰う凶悪な植物モンスター。

普通なら尻込みする場面だろうが……。


ちらりと梨々花の横顔に目をやる。


切れ長の目に力を込め、ゆっくりと口角を上げていた。


活躍の機会到来。

精霊の試練こそ、ボーナスタイム。


そんな本音が、その表情にありありと浮かんでいる。


……どうしようもない戦闘狂で、どうしようもない野心家だ。

さすが、俺の教え子。


日本の魔法使いの未来は――

案外、明るいのかもしれない。


ふと、そんなことを考えていた。

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