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第66話 第四層・湿地帯

土曜日は冒険部の攻略の日。


ようやくラーメンフェアから解放されたと思ったら、次は攻略。

まったく息をつく暇もない。


寮の玄関では、すでに三人と政臣が待ち構えていた。

今日からは第四層だ。


あれからも第三層での魔力制御トレーニングは続けているが、まだまだ未熟。

しかし、そんなことを言っても仕方がない。


ダンジョン攻略は、俺のサポートで乗り切る。

それとは別に地力もつけさせる――それが方針だ。


「何度も言ったが、当面は深入りはしないからな。

今日も浅いエリアの探査が中心だ」


俺の言葉に、三人そろって元気な返事。

ピクニック気分では困るが……冒険者が冒険にワクワクするのは、まあ普通のことだ。


学院の敷地内にあるダンジョンゲートをくぐると、いつものゲンさんの姿。

こちらに気づくと、笑いかけてきた。


「今日から第四層かい。

早いねえ。修ちゃんだって何年もかかったってのに。さすがSSRだね」


本来なら、断熱の魔力制御をマスターするまで第三層攻略に数年かかるのが普通だ。

だが、ゲンさんはあえて否定的なことは言わない。


ふとカウンターを見ると、すでにクリスマスツリーが飾られていた。


「年末か。早いもんだな……。

なあ、クリスマス企画の話は進んでるのか?」


四人に視線を向けると、どこか微妙な顔つき。

視聴者さんへのプレゼント案が、どうにも決まらないらしい。


候補の一つは、先日の第三層ボス――火竜のドロップ品である宝玉「火の目」。

火属性攻撃を底上げする、そこそこ貴重なアイテムだ。


本来なら梨々花が持っておくべきだが、せっかくなのでプレゼント候補にしている。

……とはいえ、これだけでは弱いのも事実。


俺は顎に手を当て、何かアイデアはないかと思案する。


「また黄金カブトに行きたいが……あいつが出てくるのは夏だからな……」


その瞬間、梨々花の目つきが途端に厳しくなる。

“虫採り企画は二度とやるな”と顔に書いてあった。


そこへ、ゲンさんの声。


「また武器ガチャやるかい?

クリスマスはWピックアップだってさ。精霊もイベント好きだからね」


ふと視線を向けると、ガチャ機のモニターには「ゲイボルグ」「トールハンマー」の文字。

今度は北欧の国の魔石を吐き出させる気満々らしい。


しかし、もう大量の魔石を調達できるあてはない。

残念ながら。


その旨を伝えると、ゲンさんは楽しげに笑いながら、一枚のチラシを差し出してきた。


そこには――

第六層で行われるクリスマスイベントのお知らせが、大きく躍っていた。


第六層は、このダンジョンにおける各種イベントが開催される特殊な階層で、攻略対象ではない。

参加費は一人あたり五十万G。

安くはないが、冒険者なら稼げない額でもない。


四人にチラシを見せると、途端に食いついてきた。


「これはいいじゃないですかー。

魔法使いのイベントなんて、視聴者さん絶対興味ありますって!」


政臣が勢いよく食いつく。

まあ、そう来るだろうと思った。


「武闘大会もあんじゃん!

あたしエントリーしちゃおうかなー。

教官も、ペアの部で山本先生と出たらいいんじゃね?」


……頼むから、このことは山本先生には言うな。

俺は強く、来奈に念を押した。


そのとき、由利衣が紙面の隅に目を止め、ぱっと顔を輝かせた。


「ビンゴ大会かあ……。

1位はオリハルコン50kg……武器素材だー。

いいなー」


……3位がポケットティッシュなんだが。

1位に予算を振りすぎだろう。


「そうだな。これはいいんじゃないか?

フリーマーケットもあるようだし、掘り出し物があればプレゼントにもなるかもしれないな」


話はまとまった。


俺たちはゲンさんに礼を言って、スタートポイントを後にするのだった。


***


第四層に降り立つと、来奈が嬉しそうな声を上げた。


「あれー? 涼しいじゃん。

第三層暑かったからさー。ここはいいね!」


しかし、由利衣はさすがだ。

即座に索敵結界を展開し、その表情に緊張が走った。


「コーチ、モンスター……地中、ですか?」


正しくは“地中”ではない。


第四層は湿地帯。

あちこちに湖沼が広がる、緑と水のエリアだ。


目の前には一見のどかな景色が広がっているが、水中にはモンスターが潜み、突如襲いかかってくる。

水中に引きずり込まれでもしたら――一巻の終わりだ。


「先生、他の冒険者もいますね」


梨々花が指差した先には、凶悪な顎を持つ魚に手足が生えたようなモンスターの群れと戦う、三人組の冒険者の姿があった。


「そうだな。ここからは中堅冒険者も増えてくる。

まあ、普通にしていれば大丈夫だ」


普通とは何か。

――モンスターや採掘品は“最初に手を付けたパーティのもの”。

権利を放棄しない限り、横入りはしない。

その程度のマナーだ。


「政臣。勝手に他人のバトルを映したりするんじゃないぞ」


俺の声に、遠くで戦っている冒険者へカメラを向けかけていた政臣が、慌てて手を引っ込めた。


――まったく、素人はこれだからな。


確かに、配信を行う冒険者は多いし、国も推奨している。

だが、よそのカメラに映りたいかどうかは別問題だ。


それに、自分たちのバトルスタイルを隠しておきたい連中も少なくない。

遠慮なく撮影なんかしていたら、それこそトラブルのもとになる。


本来なら、その辺のガイドラインを政府がもっと徹底して教えるべきなんだが……。


思わず、心の中でため息が漏れた。


戦いを眺めていた来奈が、ぽつりと漏らした。


「強いなー……。やっぱ、あたしと全然動きが違う」


第四層には、山本先生クラスの練度を持つ魔法使いがゴロゴロいる。

来奈がそう感じるのも当然だ。


「分かってるじゃないか」


俺はあえて淡々と返す。


「第四層からは――はっきり言って、新人はお呼びじゃない。

ちょろちょろ動いて他の冒険者の邪魔をするのが、一番危険だ。

分かったな」


来奈、梨々花、由利衣の三人は、真剣な顔でこくりと頷いた。


その反応を確認してから、俺は静かに前へ踏み出す。


「よし。じゃあ、気を引き締めていくぞ」


湿地帯のぬかるみに、冒険部の第一歩が刻まれた。


***


「水棲モンスターは、水の中だと動きが速いからな。黒澤は常に起きて索敵だ。

今は、何メートル行ける?」


由利衣は眉を寄せ、安定して常時索敵を維持できる距離を慎重に探る。


「水中まで含めると……五百メートルですね。

防御結界も同時展開だと、三百メートルまで落ちます」


第二層のときは、睡眠時にようやくその距離だった。

確実に進化してきている。


「よし、索敵は三百メートルでいこう。

水棲は一気に距離を詰めてくる。反応あり次第すぐ伝えてくれ」


そう言ったところで、由利衣が小さく手を挙げた。


「ちょっと、試してみたいことがあるんですけど」


また何か新機能を実装したらしい。

俺が何も言わなくても、勝手に“女教皇”の能力を魔改造してくるのだ。


政臣がタブレットを取り出す。

やつが自作した地図アプリがインストールされている。


由利衣はさっそく眠りに落ち、自動書記で第四層の地図をアプリに書き込んでいく。

何度見てもシュールな光景だ。


しかし、ここまでは第三層と同じ。


「で、試してみたいことってなんだ?」


俺の問いに、政臣が説明役を買って出た。


「これ、近距離通信の機能があるんですよ。

ワイヤレスイヤホンつないだり……そういうやつです」


……それくらいはおじさんだって知っている。

問題は、だから何なんだ。


すると由利衣が銃を軽く構え、魔力弾を数発放った。


弾は水面近くでくるりと旋回しながら滞空し、

同時にタブレットの地図上に小さな点滅がいくつも浮かび上がる。


政臣の解説は止まらない。


「ビーコンってやつです。広い範囲にモンスターを追尾する誘導弾をばら撒いておくんです。

誘導弾が魔力信号を発して――」


さらに続く。


「で、そのままだと方角が分からないので、上空に“中継機”の魔力弾も滞空させておくんですよ。

ビーコンの魔力信号を三点で拾えば――ほら、三角測位ですね。

中継機が魔力信号を電波に変換して、タブレットに位置情報を送るんです」


そこで由利衣が、ふわりと笑う。


「遠くまで弾を飛ばすと威力落ちちゃうから……別の使い方ないかなーって」


……“かなーって”。

軽い調子で言うが、どう考えても高度すぎる。


途中から、まったく理解できなかったぞ。

学校の教科の成績は振るわないくせに、この創意工夫……本当に意味がわからない。


しかし、由利衣の索敵レーダーに加えて、他のパーティメンバーにも“可視化された情報”が共有されるのは確かだ。


仕組みはよく分からんが――使える。

これだけは間違いなかった。


梨々花は腕を組んで、感心したように頷いている。

一方の来奈はというと、最初から考えるのを放棄しているらしく、


「うはっ、このモンスターはえー! やべー!」


とタブレットを覗き込みながら、完全に勢いだけで感想を述べていた。


そこに、由利衣があたりまえの顔で付け加えた。


「一度戦ったモンスターなら、その情報も出せますからー」


続いて梨々花が、“我ながら名案だわ”と言わんばかりの顔で口を開く。


「ねえ、この情報……配信とリンクできないかしら? 視聴者さんも、迫りくるモンスターの気配が見えたほうが、私たちとの一体感を味わえると思うの。

――高柳くん、来週までに対応お願いね」


そう言って、さらりと命令を下した。


……完全に方向性がおかしい。

これが新世代の冒険なのだろうか。


そもそも、この第四層はいつ水中から襲われるか分からない、死と隣合わせのドキドキ感が醍醐味なのだ。


俺が始めて第四層に降り立ったときは、一歩ごとに水の中に石を投げ込んで恐る恐る進んだものだ。


来奈が能天気に笑う。


「どっから来るか分かってるなら、いけちゃうんじゃね?」


……こいつ。

俺は息を吐いた。深く。


「あのなあ。……まあ、いけるかどうかはすぐに分かる。

これまでと同で、まずは俺が手本を見せるから、きちんと戦闘に活かすんだぞ」


タブレットを政臣に預けると、俺は湿地へと歩みを進める。


その足音が、水底で息を潜めていた“何か”を静かに目覚めさせていた。

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