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第64話 パワーレベリング

冒険部の第三層ボス攻略を終えた翌朝。


寮の玄関へ、欠伸を噛み殺しながら向かうと――

すでに山本先生が準備万端で待っていた。


全身まっ白のジャージ。

どうやら“心機一転”の証らしい。


まあ、それはそれで結構だ。


「これ、姉さんが作ってくれたんです。

本当は……その、佐伯さんとの式のときに着なさいって……」


頬をほんのり染めながら言う。


今、非常に不穏当な単語が聞こえた気がするが――

聞こえなかったことにして、玄関脇の観葉植物に視線を逸らす。


そこへ三人がやって来て、そろって目を見開く。


「どしたの、山本センセー!?

めっちゃ素敵じゃん!! いいなー、あたしもこういうの憧れちゃうなー!」


来奈の興奮した声が響く。


……毎度だが、このやり取りだけは本当に理解できない。


そんなこんなで政臣も合流し、一同でダンジョンゲートをくぐる。


――芹那の姿はない。


心の底から安堵の息が漏れた。


代わりに待っていたのは、魔戦部の一年生SR魔法使いコンビ――犬養と熊耳(くまがみ)だ。


どうやら、山本先生のレベルアップに協力しに来たらしい。


同じSR魔法使いの鷲尾と、キャプテンの高坂は三年生。

本日は大学側の部活に呼ばれているとのことで不在だ。


そして、二年生の獅子丸は――まさかの塾。


あいつが勉強……?

まったく想像できなかった。

しかし、年中冒険三昧の来奈と由利衣も見習うべきなのかもしれない。


「今日は第三層にも行く予定なんだが。

お前ら、防熱は大丈夫なのか?」


そう問いかけると、犬養がこくりと頷き、両手を軽く広げた。

次の瞬間――水と風の属性が薄い膜のように、犬養と熊耳の身体を包み込む。


なるほど。

魔力制御はまだ荒いが、付与魔法は得意なだけある。


「茜ちゃんは次期キャプテンなんですわー」


熊耳が嬉しそうに笑う。


三年生はそろそろ引退。

獅子丸はそういう役目は嫌がるタイプらしく、高坂が犬養を指名したらしい。


「そっかー。茜ちゃんがキャプテンなんだ。

それじゃ――キャプテン同士、よろしく!!」


来奈が元気に声を上げる。


その言葉に疑問符が浮かび、梨々花へそっと小声で尋ねた。


「なあ、いつから入江がキャプテンになったんだ?」


梨々花はあっさりした口調で返してくる。


「さあ……。別に誰でもいいので。

むしろ、乗せやすくなって好都合ですから」


建国を目指す大魔法使いとしては、冒険部のキャプテンの座など興味がないようだった。


ここで、犬養と熊耳をあらためて紹介しておこう。


まずは――犬養(いぬかい) (あかね)

ランクSRの高校一年生。小柄で、小動物めいた雰囲気がある。

礼儀正しく、上級生からの受けも良い。


……が、ときに乙女チックな妄想を暴走させる困った(へき)の持ち主だ。


得意魔法は補助系。

とりわけ付与魔法は、すでに一流の片鱗を見せ始めている。


続いて、熊耳(くまがみ) 日葵(ひまり)

彼女も同じくSRの一年生。


おっとりとして、考えが読めないスマイルが標準装備。

ごく一般家庭の育ちだが、お嬢様言葉の謎設定。


そして――なぜか梨々花を“リリカ様”と呼ぶ。


得意魔法は召喚。

魔力で物体を形成するタイプで、イメージ次第で色々なものを作り出せる。

もっとも、まだ大きなものは難しく、制御できる数にも限界があった。


どちらも、来奈や梨々花のようなゴリゴリの攻撃タイプではない。

だが、サポート系は、どのパーティにとっても貴重な戦力だ。


説明は以上。


ふと見ると、犬養が山本先生の白ジャージに完全にときめいていた。


そして、なぜか俺のところへ歩み寄り、うっとりした表情でアドバイスを投げてくる。


「今日の山本先生……まるでメルヘンの国のお姫様ですね。

女子って、こういうとき“ちゃんと褒めてほしい”んです。照れちゃダメですよ」


どうして、山本先生が絡むと不可思議なことが起きるのだろうか。


何かしらの特異点なのかもしれない……。


俺は曖昧な笑みを返すしかなかった。


***


今日はパワーレベリングなので、手っ取り早くボスと第三層の亜竜狩りに徹することにした。


まずは第一層。

久々のデーモンロードだ。


ここは、冒険部員と魔戦部員で対処。

山本先生は五人の後ろに。

俺はボスエリア外で観戦。


前回はイレギュラーで上位種が出てきたが、ノーマルならいまの冒険部の面々の方が明らかに格上。


なお、魔眼は使わない。

これも訓練の一環だった。


……とはいえ、そもそも必要はなかった。


まず犬養が速度向上の付与を施す。

次に、熊耳が魔力でドローンのような飛行物を生み出しボスの気を引く。

その隙に、SSRの三人はパイルバンカーを射出。


開始から五分もたたずに、デーモンロードを沈めた。


「……強くなったな。今回は上位種じゃないとはいえ」


素直に感心する。

最初に第一層のボスに挑んだのはわずか四カ月前だ。


魔戦部の二人も、なかなかの動き。

若者は少し見ないうちにこちらの想定を超えてくるな。


……などと、ついおじさんくさいことを考えてしまう。


五人がこちらへ戻ってくる。

熊耳がテンション高めにまくしたてていた。


「リリカ様の魔法、ただただ感服いたしましたわ!

ライナお姉様とユリィお姉様の連携も完璧で……。

わたくしも茜ちゃんと修行に励まねば! ですわっ!」


言葉づかいはアレだが、うちの三人と馴染んでいる。


梨々花はゆっくり頷くと、後輩へ危険思想を吹き込んでいた。


「熊耳さん……。

この世界の秩序は、力ある正しき者が、か弱き羊たちを導くことで成り立つの。

私の腹心たるもの、精進を怠らないようにね?」


そう言って黒髪をさらりとかき上げる梨々花に、「まさに 正鵠(せいこく)を射る! ですわ!」と元気な声が返る。


分かって言っているのだろうか。


そして、山本先生がにこにこ顔で俺へと駆けてきた。


「佐伯さん、レベル11に上がりましたー。

みんな強くなってますね」


やはりボスの経験値は美味しい。


「そうですか。じゃあ今日は……レベル25くらいを目指しましょうか。

さっそく第二層のボス、行きます?」


そう言った瞬間――。


山本先生を含め、全員の動きがピタリと止まった。


熊耳はその場に膝から崩れ落ち、ワンワン泣き叫ぶ。


「わ、わたくし……もうアレは嫌ですわぁっ!!

堪忍しておくんなましですわー!!」


犬養はその横で、光を失った瞳のまま虚空に向かって何か呟いている。


この二人は、魔戦部の第二層ボス攻略で強烈なトラウマを植え付けられていたのだ。


由利衣が慌ててフォローに入る。


「コーチ、次は第三層いきましょう、ね?」


精神崩壊寸前の二人をなんとかなだめ、俺たちは第三層へと向かうことにした。


***


第三層での亜竜狩り。


火山帯は避けて、荒野で魔力制御訓練を兼ねることにした。

一年生と政臣には、犬養の付与魔法を施している。


俺は三人へ向かって方針を伝える。


「このエリアは暑いが、即死級じゃないからな。

このまま第四層攻略を続けてもいいんだが、魔力制御が未熟だと深入りは本当に危険なんだ。

当面は平日の部活は、ここで訓練を行いたいと思っている」


とはいえ外気温は五十度。

最初はあまり無理をさせられない。

来奈はすでに熱気にうんざりとした顔をしている。


「水分補給はこまめに。

戦闘中は黒澤の結界と桐生院の属性付与で暑さをしのいでくれ。

それ以外は、この環境を制することができるように頑張っていこう」


三人の元気のない「はーい」という声。


とはいえ、我慢大会ではない。

目的はあくまでも魔力制御だ。


「いいか。まずは風属性の魔力を体にまとわせることをやってみてくれ。

これだけでもだいぶ違ってくるはずだ」


梨々花と由利衣は、さすがだ。

長時間の維持はまだ難しいが、コツを掴めば行けそうな感じがする。


問題は来奈。

魔力のステータス評価が低いことも影響しているのか、この手のが苦手だ。


普段から自主トレーニングを欠かさずやっていることは知っている。

決して怠慢ではない。


「入江。慣れるまでは犬養に付与してもらうか?」


そう声をかけると、来奈は「んーん、いらない」と首を横に振る。

こうなると強情だからな。


まあ、倒れないように、気にして見ているしかない。


すると、山本先生が来奈に声をかける。


「入江さん。

こういうのは、身体感覚を掴まないと闇雲にやってもうまくいかないのよ。

普段の魔力集中を、肩の力を抜いて深呼吸しながらやってみて?」


来奈は目をつぶり、魔力集中を行う。

心臓を起点に魔力を体の隅々に流し、また心臓へと循環させる。

最初の頃よりも、だいぶこなれてきている。


「そうそう。その調子」


山本先生は掌に風魔法の魔力を込め、そっとその手を来奈の肩に置いた。


「分かる? 風属性……。

魔法使いには精霊とのチャンネルが開かれているわ。その膨大なエネルギーの一部を借り受けるのが魔力。

そして、魔力の性質を変化させて現象を引き起こすのが魔法……」


魔力の性質変化、すなわち魔法にも様々な系統があり、個人によって得手不得手がある。

来奈は極端に身体強化系に振れている。それが強みであり、弱みでもある。


見ると、来奈の睫毛が細かく震え、かすかに風の気配が生まれている。


「そう。それを維持して循環させる。

最初は一分でもいいから。

一分できるようになれば、五分・十分もそれほど難しくないの。

……さすがSSRだけあって、膨大な魔力が流れているわね」


来奈は眉を寄せる。まだ維持が難しいのだ。


そこに山本先生の声が続く。


「ほら、手足に無駄な力が入ってる。

魔力の循環は心臓を中心に……。流れを阻害しないように」


そうして、一分が経過する頃。

山本先生は来奈の肩から手を離した。


「戦いの時もこれができるようになるのは、かなり難しいけど……。

落ち着いて“一分だけ集中”するトレーニングを続けてみてね?」


にこりと笑うと、来奈は頷いた。


さすが、教育者だ。

普段は冒険部のやり方に口を出してこないが、ここぞというときに的確な言葉をくれる。


仕事熱心であり、冒険者としても意欲があり、料理もできる。


こう言ってはなんだが――やはりできた人だ。


まともにしていれば、だが。


……まあ、俺以外のベテランの視点もあったほうが、三人も伸びるだろう。

そう考えると、日曜版も悪くはない。


山本先生にお礼を伝えると、「レベルアップ付き合ってもらってますからー」とにこやかな言葉。


かくして、この日は第三層で亜竜を狩りまくる。


山本先生のレベルは28に。

最後のあたりは自身も戦闘民族の本領を発揮して、巨大な竜の頭を矢でブチ抜いていた。


「熊耳ぃー!! もっと攻め込まんかい!

魔戦部は、(いち)に根性、()にド根性やで!」


野太い怒声を浴びせられて、「ですわー!」という悲鳴に近い返答が響く。


……やはり、よく分からない人だった。


この先、大丈夫なんだろうか。

そんな気持ちを抱えながらも、第四層攻略への準備を着々と進めていくのであった。

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