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第51話 ユニゾン技

俺たちは急遽、学院へと帰還することにした。


配信を突然取りやめにした理由は――

来奈の腹が突然ピンチになったから、という苦しい言い訳。


これについて、来奈本人は不満たらたらだった。


「あたしの清純派アイドルイメージが台無しじゃん!!」


帰り道は、ずっとこの調子だ。

だが、誰もこの戦闘民族に清純派など期待していない。


そんな様子を見て、梨々花は静かに目を細めた。


「ねえ、来奈……。

今の時代、身近にいる“等身大のアイドル”っていうのが求められているの。

腹痛のトラブルも、きっと視聴者さんの共感を呼ぶわ。

もっと自分に自信を持つのよ」


よく分からない理屈で煙に巻くと、来奈は「そうかなあ?」と首をひねる。

じつに単純なやつだ。


そして。

そう言いながらも、自らはヨゴレ役を買って出ないあたり。

やはり梨々花のしたたかさだ。


……とにかく、事は重大な機密。

配信など、できるはずもなかった。


なにしろ――

超希少金属ミスリルの鉱床が、この第三層に眠っているかもしれないのだから。


このことは、誰にでも相談できる話ではない。

大げさでもなんでもなく、国家レベルの話だ。


ダンジョンを出ると、政臣はすぐに迎えを呼び学院を後にした。

父である高柳総理に報告するためだ。


俺たちは……。

ものすごく嫌だったが、報告先はひとつしかなかった。


***


学院長――真央(まおう)先生は日曜でもすぐにつかまった。

実に仕事熱心なジェントルだ。


俺の高校時代、生活指導教師だった頃。

校則違反者は、第二層に首だけ出して埋められたものだ。


その一方で、自分は学院を抜け出してパチンコを打ち、生徒がダンジョンで取得した素材を没収しては、飲み代に当てていた。


……本当に、昔から変わらない熱血漢だ。


もちろん、怨みなど一片もありはしない。

実に生徒思いで、人気者の教師だった。


俺たちを強制労働させて得た鉱石を元手に買った新車だって、皆で火炎魔法をぶち込んで、盛大にお祝いしたものだ。


そんな青春の思い出に浸りながら、俺たちは学院長室に通されていた。


俺と山本先生は応接ソファーに並んで座り、来奈たち三人はその後ろに立っていた。


しばらくして、音もなくドアが開く。


現れたのは、休日だというのに仕立ての良いスーツを着こなした老紳士。

背筋は伸び、所作には一片の無駄もない。


そして――

湖面のように澄んだ瞳は、生徒を逆さ吊りにして水桶に突っ込んでいたあの頃と同じ、慈愛に満ちていた。


学院長は俺の目の前に腰掛けると、すぐさま口を開いた。


「珍しいね、佐伯くんから。

それも、私の秘書にも話せない用事……だって?」


そうだ。

このことを知るのは、ごく最小限でなくてはならない。


俺は鞄からミスリルの塊を取り出し、応接テーブルにそっと置いた。

まずは、モノを見せることだ。


さすがの学院長――それが何なのか、一目で見抜いていた。


「これを、どこで?」


視線をミスリルから外し、俺の目をまっすぐに見てくる。


相手が聞く準備が整ったのを確認して、俺と山本先生は、今日の出来事を語った。


学院長は腕を組み、静かに目を閉じる。

報告が終わるまで、一言も挟まない。


そして、全てを聞き終えると大きく頷いた。


「なるほど。第三層の火山帯は、昔から地形変動が多い。

未踏領域もまだあるというが……いや、よく報告してくれた」


政臣が高柳総理へ報告していることも伝えると、それについても学院長は深く頷いた。


「うん。精霊から採掘権を得るとなると、政府を動かすしかない。

……それで、今後の方針だが――」


学院長がそこまで言ったとき。

俺の背後で、ひときわ大きく息を吸う音がした。


誰かは決まっている。


「私たちがやります」


梨々花がはっきりと通る声で、学院長へ宣言する。


「SSRパーティが、必ず見つけてみせます」


少しの静寂。


学院長はゆっくりと視線を上げ、梨々花を見つめた。


その目は、相手を学生だと侮ってはいない。

まだ未熟とはいえ――

彼女は、人類最強の魔法使いの器なのだから。


「君たちが、やってくれるか」


学院長の少しばかり喜色の混じった声に、穏やかな由利衣の声が重なる。


「私たちがやります。SSRと、コーチと山本先生。

最強パーティなんです。なんだってできますから」


……どうやら、ここにいない政臣は忘れられているようだ。


「委員長もな!」


すかさず来奈の声。

政臣よ、尽くしたかいがあったな。


俺は軽く息を吐き、学院長と目を合わせる。


「真央先生……この情報を知るのは、少なければ少ないほど安全。

政臣にも、ミスリルが見つかるまでは高柳総理以外には情報開示しないように言い含めています。

調査は俺たちに任せてもらえませんか?」


学院長の同意の頷きで、方針は決まった。


***


そして翌日から、数学の時間は“自習”になった。


山本先生は急遽、叔母の娘婿の後輩の妹が飼っているハムスターがくるぶしを痛めたため、看病――という設定で学院から姿を消した。

俺たちはその付き添い、ということになっている。


すべては学院長のはからいだ。

その絶対権力の前に、疑問を差し挟む者など、いるはずもなかった。


実際にはレッドストーン採掘現場をベースに洞窟探査を行う。


採掘現場の休憩所には、仮眠室からシャワー室まであった。

これよりさらに下層ともなれば、攻略中はキャンプ生活というのもざらになってくる。

それに比べると贅沢なものだが、今のうちに少しずつ慣れておくのも悪くはなかった。


ただし、一泊の施設利用料はひとりにつき三十万G……。

ダンジョン通貨1Gの価値は1円。

シャワーしかない素泊まりかつ、雑魚寝スタイルの大部屋にもかかわらず、高級ホテルのスィートルーム並みだった。


だが、それがダンジョン価格。


俺たちはミスリル五キロを担保に、学院長から三千万円を借りて調査資金に当てている。


かかる費用は、一日につき百八十万G。

滞在リミットは十六日。


……ただし、この借金は金利がトイチなので、十六日でおよそ三千四百九十八万円。

俺の魔力のこもった血判が押された証文を取り返すには、それだけの金が必要だった。


ミスリルで一発当てればお釣りがくる。

それはその通りなのだが、そんな大人になってはいけない。

俺は自嘲気味に三人へ笑うのだった。


なお、食料や生活支援物資は、ダンジョンに潜る前に政臣のマジックリュックに詰め込めるだけ詰め込んできた。


これは政臣が、親のカードで調達していた。

物資面だけでも支援はありがたい。

変な見返りも要求してこない。

あちらはさすが、本物のセレブだった。


なお、マジックリュックの中は精霊の造りだした異空間につながっていて、ここにある間は生鮮食品でも腐ることはない。全く便利な道具だ。


配信の方は停止中。

理由は――謎の実を拾い食いした来奈が、腹痛の果てに次のステージの能力に目覚め、現在“必殺技を秘密特訓中”という、アイドルにあるまじき言い訳。


もちろん、本人は激しく抗議した。

「こんなのファンが減っちゃうじゃん!」と。


しかし、梨々花はまた独自の理論を展開した。

親しみやすさと神秘性――それこそが、新時代のアイドルだ、と。


意味はわからない。

だが、やはり来奈は言いくるめられるのだった。


***


配信こそ行わないが、俺たちの調査記録はすべて政臣がカメラに収める。

マジックリュックの中に編集機材一式から小型発電機まで持ち込んで、準備は万端だった。


これは後日、「総集編」として公開する予定だという。

政府に提出する資料になると同時に、第三層でミスリル発見というビッグニュースのコンテンツとなる。


当然、政臣の鼻息は荒かった。


しかし、やつはもうひとつのことを忘れていなかった。


「佐伯さん。三人のユニゾン技! あれもお願いしますね!!」


期待に目を輝かせて、食い入らんばかりに俺に詰め寄ってくるのだ。


分かっている。

硬いモンスターへの対処。それも第三層攻略の目的のひとつなのだ。


かくして、俺たちの調査は始まった。


***


火山帯の洞窟内。

溶岩が流れ、熱気で息がつまる過酷な世界で、俺たちはメタルモンスターを探していた。


ドロップアイテムの分布を調べることで、ミスリルの鉱床の場所を絞り込もうという作戦だ。


由利衣が索敵レーダーを展開する。

マッピング機能付きで、お宝の位置も記録可能――だが、いつの間にか“過去に遭遇したモンスター”の位置まで自動記録するようになっていた。


女教皇の結界機能は、拡張性が高すぎる。

由利衣ひとりだけ、独自の方向に進化していた。


ただし、それは由利衣だけが認識できる情報。


そこで山本先生がタブレットを取り出す。

政臣が開発したマップ作成アプリが入っていた。

戦闘能力は皆無だが、それを補ってあまりある変態――それが政臣という男だ。


由利衣の情報をもとに、タブレット画面に表示された地図へ、先日遭遇したモンスターの場所を書き込んでいく。

まずは、この近辺の調査から開始。


フォーメーションは、由利衣をおぶった来奈を中心に、前衛は俺。

梨々花は由利衣にピタリと付き、結界の属性付与を続ける。

後衛には山本先生と政臣が配置していた。


目的の場所につくと、さっそく辺りのモンスターの気配を探る。

由利衣の情報を地図にトレースした山本先生のナビゲートにより歩を進める。


やがて見つけたのは――三本角をもつ亜竜。

来奈が「お! トリケラ!」と小さく呟く。

あれは俺でも知っている。

角と盾を持つ、古代の巨獣に似た姿だ。


巨岩のような体躯に鋭い角。防御力は並のモンスターの比ではない。

だが、ユニゾン技の初披露にはおあつらえ向きだった。


俺はちらりと振り返り、梨々花と来奈に合図する。

来奈は由利衣を起こしにかかる。


――やるか。


さっそく梨々花が動いた。


第三階梯の魔法、土で形成するランス。

こいつは、向かってくる敵を迎え撃つときに使うことが多い。

精密な魔力コントロールを欠くと形がすぐに崩れるため、自然と固定運用となるのだ。


梨々花は正直なところ、まだ魔力の練度が甘い。

サポートが必要だった。


「桐生院。この魔法はランスの形成と維持のイメージが肝心だ。

俺の作る魔力を真似するんだ。分かるな?」


そう言って、梨々花のアイシクルワンドを受け取る。

杖はいらない。まずは感覚で覚えることが重要だった。


軽く、右手を握った。


梨々花は、俯きがちにコクリと頷く。

モンスターを前にしての緊張だろう。少しだけ、震えていた。


そして俺は土のランスを形づくるイメージを魔力で伝える。


梨々花は、左手を軽く胸に当てて深呼吸した後――その左手を前に突き出した。


その目は真っ直ぐに敵を見据え、宿る光は力強い。

右手の震えはもうなかった。


ベキベキと音を立て、三メートルはあるランスが空中に形成されていく。


その音と気配でモンスターは気づき、突進の構えを見せた。


「黒澤、入江!! 準備はいいか!?」


俺が叫ぶと、元気な返事。


来奈は、グローブを装着している。

両拳をガシンと合わせて吠えた。


「いつでもっ!! 由利衣はどう!?」


由利衣はふわりと笑う。


「じゃあ、いくよー」

その声と同時に、土のランスを結界が覆う。


モンスターはもう突進を始めている。こちらまでの距離、約十五メートル。


数秒後にはその角で獲物を串刺しにせんとする勢いだ。


来奈がランスの背後に滑り込む。

腰が沈み、全身のバネがきしむ。


「いけーーー!!」


目一杯の捻りから、拳を叩き込んだ。

鈍い衝撃音。次の瞬間――

由利衣の結界でコーティングされた土の塊が、空気を裂いて射出される。


轟音、火花、震える地面。

巨大な槍はメタルモンスターを易々と貫通し、背後の洞窟の壁に突き刺さった。


そして、わずかな静寂ののち――

巨体が崩れ落ちる音だけが響いた。


「やった……」

政臣の呆然とした声が背後から聞こえる。


そう。

梨々花の魔法と由利衣の結界。そして来奈のパワー。

その掛け算がユニゾン技だ。


それにしても、まさか一発で決めるとはな。

やっぱりこいつらは本物だ。


俺は笑顔で声を上げる。


「ユニゾン技の第一弾……名前はパイルバンカーってとこかな。

こいつを秒で射出できるようになれば、第四層でも怖いものなしだぜ」


来奈と由利衣、そして政臣の歓声が上がる。

山本先生は、にこにこと拍手を送っていた。


そして梨々花はいつまでも、俺の手をキュッと握っていた。

その小さな手から伝わる熱を――いまだけは、手放したくなかった。

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