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第46話 真亜

いまは九月。


精霊によるハロウィン大型企画、神槍ヴァジュラの解放まで――あと一カ月半。


もっとも、精霊にとっては「それらしい集金の名目」さえ立てば、ハロウィンでも正月でも何でもいいのだ。


だが、俺たちも配信コンテンツ拡充のために、その流れにまんまと乗っかろうという腹なのだから、とやかくは言えない。


政臣は、「SSRひとり一回、三回は回したいですねー」と、気軽に言い放ってくれるが――

日本円にして総額一億五千万円分の魔石だ。


第二層では、二百四十万円分の金策に苦労していた。

……分かっているのだろうか。


そして。うちの連中は、ことごとくヒキが悪い。

SSRに当選したとき、クジ運をすべて使い切ってしまったのではないだろうか。


口には出さないが、外れしか出てこない予感しかしない。


もっとも、それだけの投資でスカというのも、それはそれで視聴者さんにとっては面白いのかもしれない。

記念にプレゼントでもすれば、ネタとしては十分だ。


……一億五千万のスカか。

だんだんと頭がおかしくなってきそうだ。


だが、まともな神経で冒険者はやっていられない。


それはそれとして――


由利衣が索敵した、「ちょっと違和感がある」個体。


見た目は、さっきの亜竜。

成人ほどのサイズで二足歩行。筋肉質な長い尾でバランスをとり、前傾姿勢。


だが――淡く銀色の魔力が立ち上り、ゆらゆらと揺らめいている。


「さっきのラプトルじゃん。何がちがうの?」

と、来奈。


勉強はさっぱりだが、恐竜博士。

クラスに一人はいるタイプだ。


「真亜ね……こんなに早く出てくるなんて」


山本先生の呟きに、梨々花・由利衣・政臣がどよめく。


一人だけ「?」の表情をしている来奈に、閃光の速さで山本先生のアイアンクローが決まった。


顔面を万力のようにギリギリと締め付けながら、山本先生は冷静に囁く。


「入江さん……授業で何を聞いてるのかしら?

桐生院さん、説明を」


振られた梨々花は、少し慌てて答えた。


「あ、はい。

亜竜の中でも、上位の真竜の眷属となった珍しい個体……ですよね。

ステータスが上がっているとか」


山本先生が頷くのを確認して、梨々花は安堵の息を吐いた。


そう。

亜竜の中でも年月を重ねた個体は、まれに真竜からスカウトされる――いわば“出世システム”。

そのとき、大量の魔石と魔力を与えられるのだ。


「ステータスは向上しているが……まあ、言っても第三層のモンスターだ。そこまでじゃない。

ただ、非常に珍しくてな。ラッキーだ」


なんとなく、山本先生のヒキなんじゃないかという気がする。

根拠はないが。


三人が武器ガチャを回すよりも、山本先生の方が……と考えたが、趣旨が変わるので黙った。


さっそく狩りを、と思ったそのとき。

すでに、うちの殲滅システムが動いていた。


由利衣が目を閉じ、瞬時に十発発射。


魔力弾が真亜に襲いかかる。

モンスターは軽やかに動いて躱しにかかるが、索敵レーダーでロックオンした誘導弾だ。


バスバスッ――と、弾丸が立て続けに頭部へヒット。


ドシン、と音を立てて沈んだ。


…………。


おっとりした顔をして、やることがえげつない。


「ここに来てから、まだ戦ってないんだけど……」

梨々花がぼやいた。


「まあ、そう言うな。これから嫌ってほど狩りが待ってる」


俺が梨々花に慰めの声をかけると、来奈の「センセー……」という情けない声が聞こえた。


まだ、アイアンクローが決まっている。


……俺が言うのもあれだが。

授業は、きちんと受けることだな。


***


俺たちが真亜のいた場所に近づくと、お待ちかねのドロップアイテム。


「おおっ! 極じゃないか!! 幸先が良すぎるぞ」


ちなみに魔石のラインナップと価値はこうだ。

Gはダンジョン内通貨で、1G=1円。


魔石(極小):10G

魔石(小):100G

魔石(中):10,000G

魔石(大):100,000G

魔石(極):1,000,000G

魔石(激):10,000,000G

魔石(鬼):100,000,000G

魔石(天):1,000,000,000G


小・中・大まではなんとなく分かるが、途中からネーミングが雑すぎる。

冒険者もたまに分からなくなるから、レート表の携行は必須だ。


ちなみに、昨日からの亜竜ハントで俺たちの獲得した魔石は以下。


魔石(小) × 35個

魔石(中) × 18個


そして――新たに「極」をひとつ追加。


ぶっちゃけ、この層の普通の亜竜を狩りながら一億五千万分の魔石を貯めるのは無理だ。

弥勒菩薩の降臨の方が早いんじゃないか、というレベルの時間がかかる。


真亜狩りが、唯一の解だった。


だが、繰り返すが――この真亜は数が少ない。

それが致命的なのだが……。


「黒澤。さっき真亜に感じた違和感、覚えてるか?」


由利衣に声をかけると、彼女はコクリと頷いた。


……よし。

俺は思わずにやりとした。


「防御結界の範囲を三メートルまで縮小。みんな、黒澤の近くへ。

そして、索敵結界を伸ばせるギリギリまで展開。

真亜の気配を探るんだ」


うちの高性能レーダーがあれば、いける。


みなの目に、Gマークが浮かんでいた。


***


そこから先は――それはもう、凄惨なものだった。


魔石に目が眩んだ戦闘民族の集団が、西へ東へと真亜を求めて暴れ回る。


SSR三人も、いつしか巨大なティラノサウルスへ果敢に攻め込んでいた。


魔力弾と梨々花の礫魔法でボロボロになった巨竜が、渾身の一撃を繰り出さんと、ブレスの溜めに入る。


その喉元を、山本先生の矢がブチ抜いた。

続けざまに、来奈が背中を駆け上がり、頭部に毒爪の一撃を叩き込む。


巨体が沈む。


――原始時代のマンモス狩りも、こんな感じだったのかな。


そんな場違いなことを、俺は考えていた。

すっかりヒマになっていたのだ。


政臣はカメラを構え、興奮がおさまらない。


「すごいなあ! これは映えるよ!!

全世界のみなさーん! 現在、素材募集中でーす!!

詳しくはチャンネル記載のURLから!!」


……こいつは、ほんとこればっかりだな。

しかし、素材募集とリアルタイムの進捗確認サイトを一日で作りあげ、多言語対応までこなしているのだから、この執念は見上げたものだ。


そして、俺の役割は時間管理。

スマホのアラームが振動する。


「桐生院、そろそろ結界に水属性付与」


淡々とした作業だ。


……第三層に降り立ったときは、颯爽と師匠の戦いを披露していたんだが。

二日目にして、すっかり雑用係。


まあ、まだ本格的に深いエリアには入っていない。

亜竜の外見に惑わされずに戦えるようになってきたのは、良い兆候だ。


そのとき、来奈の狂喜の絶叫が響いた。


「教官!! 激の魔石だってーー!!

大金持ちじゃん!!

ヤバいって! あたし札束のプールに入ってシャンパン飲んじゃうよー!!」


……残念ながら、一千万じゃ無理だ。

そして、なんだその成金の妄想は。

女子高生とは思えない。


そうして、途中で昼休憩を挟みながらも――都合七体の真亜を狩った。


昨日から合わせての戦果は……


魔石(小) × 35個

魔石(中) × 18個

魔石(大) × 57個

魔石(極) × 4個

魔石(激) × 1個


合計:19,883,500G。


みな、ホクホク顔。

一日にして約二千万――まさに「ダンジョンには金が埋まっている」というやつだ。


ちなみに、SR以上の魔法使いは、税も社会保障費も免除されている。

ゆえに、これはSSRの総取りである。


そのかわり、配信収入はほとんど国庫に接収。

コンテンツ拡充は、まさに国策なのだ。


俺たちは魔石を手分けしてリュックに詰め、その重みを噛み締めながら帰還の途に着いた。


***


稼いだ魔石や素材は、スタートポイントでゲンさんに預ける。

換金することもできるが、今回は武器ガチャが目的だ。


預かり証は俺が管理することにして――山本先生に頭を下げた。


「すいません。山本先生の活躍も大きいのに、武器ガチャに協力していただいて……。

ほら、お前らも」


そう促すと、学生四人も揃って頭を下げる。


山本先生はニコニコ顔。


「いいんですよー。

私はレベルアップに付き合ってもらってるので。

ボス戦も佐伯さんに手伝っていただく、ということで」


そうなのだ。


山本先生の第三層ボスチャレンジは、俺とのペアで火竜と戦うことになっていた。

SSRの三人が挑む前の、デモンストレーションでもある。


「アベック攻略なんて、エッチー」


相変わらず、由利衣の冷やかしはズレている。

苦笑いで返すしかなかった。


梨々花はスルーして、カウンター脇にあるガチャ機械へと視線を向ける。


「これが、武器ガチャですか」


そうだ、と答える。


魔法使いガチャは内閣官房にあり、厳密に管理されている。

なにしろ、国民に関わることだからだ。


しかし、武器ガチャはスタートポイントに設置されていて、誰でも気軽に回すことができる。

……五千万分の魔石を積めば、だが。


ガチャ機械に据え付けられたディスプレイには、「近日ヴァジュラ解放!!」の映像が踊っていた。


精霊は、意外とポップなのだ。


ゲンさんに聞いた話では――やはりというか、インド政府は限界マックスまでブッこむ気満々らしい。


精霊ガチャには、天井システムなど存在しない。


これでスカしか出なかったら、暴動だろうな……。

他国のことながら、ちょっと心配になる。


「なにしろ神話伝承だからね。

昨年に続いて、精霊もなかなか大盤振る舞いだ」


ゲンさんが笑う。


これだけの武装があれば、レイドの戦績にも影響するだろう。

まさに環境だ。


各国、お互いの懐を探りながらの――ガチャ合戦になるかもしれない。


日本は、魔法使いガチャ千連という前代未聞の暴挙を繰り出したばかりだ。


当面は蚊帳の外だろうな。

SSRの三人が一回ずつなんて、ささやかなもんだ。


そんなことを思いながら、ダンジョンを後にした。


そして、それからは――


平日は戦闘訓練と、結界への水属性付与の持続時間向上。

土曜日は第三層攻略とレッドストーン採掘。

日曜日は同じく第三層で、真亜狩りを繰り返しての魔石集め。


またたく間に日々は過ぎ……

季節は、冷たい風が吹くようになっていた。

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