表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/135

第43話 初採掘

第三層に降り立った瞬間――熱気が襲ってきた。


転移陣のあるゲート前には、岩だらけの荒涼とした大地がどこまでも続いている。

赤黒く焼けた地表が陽光を跳ね返し、空気は陽炎のように揺らめいていた。


人工物は、一本の線路だけ。

日本が精霊から借地権を得ている採掘現場へと続く古いトロッコの路線だ。

もっとも、今ではあまり使われていない。


遥か遠く、草木一本生えない山々が並ぶ。

その中央で、ひときわ高くそびえる火山が煙を吐いている。


「あれが第三層名物の火山帯。

中央のあれがグロック山――あそこの噴火口に、火竜がいる」


「火竜!?」


来奈の目が一瞬で輝いた。

分かるぞ。

少なくとも、巨大毒生物よりは女子高生の心を掴んだようだ。


「――とはいっても、亜竜だけどな」


俺の言葉に、来奈の顔にでっかい「?」マークが浮かぶ。


これも学院の特別教科で習うはずなんだが……何をしに通っているのか。


……いや、聞くまでもない。

こいつは山本先生の授業以外、まともに聞いちゃいない。

一日中、魔力集中の訓練ばかりしているのだ。


俺の頃だったら、模範生として褒められていたかもしれない。

生まれてきた時代を間違えたとしか言いようがない。


すると、由利衣が珍しく学を披露した。

授業中は寝ているものと思っていたが。


「亜竜は下位竜で、精霊から魔法を与えられた動物。

上位の真竜は、精霊エネルギー体そのもの……だっけ?」


「その通り」


上位の真竜は、俺の“精霊特典”と同じように、精霊エネルギー体へと転生した存在。

はっきり言うが、俺でもソロでは勝てない。

ダンジョンにおけるモンスターの頂点――下層のさらに下に潜む、伝説級だ。


たまにレイドで大型真竜が出現すると、視聴率は空前絶後の数字を叩き出す。

俺もその時ばかりは、一日中テレビにかじりついている。


一方で、亜竜は恐竜に近い生物だと思えばいい。

ただし、このダンジョンでは精霊から魔法の力を与えられている。

第三層で初出現。さらに下層にも棲息し、種類も多い。


その獰猛な性格、強靭な身体能力、そして魔法。

下位竜とはいえ――決して侮れない。


「でだ。この第三層ボスはその火竜だが、そいつ以外にも亜竜は続々出てくる。

相変わらず油断はできないぞ。……黒澤」


号令と同時に、由利衣が来奈におぶられる。

梨々花が水属性を付与すると、由利衣は瞬時に眠りに落ち――索敵と防御結界が展開された。


索敵範囲は全方位八百メートル。

防御結界は全方位十メートル。

二重結界を同時に維持できるまでに、彼女は成長していた。


しかも、マップ自動更新に素材採取地点のロギング機能付き。

おぶられている間は射撃ができないが、銃を構えた状態では索敵でマーキングした敵に自動追尾の魔力弾を撃ち出す。


……今さらながら、高性能すぎる。


結界が展開されると、熱気が嘘のように和らいだ。

俺は自然に体表面へ魔法を循環させて熱を遮断しているが、練度の足りない三人と政臣にはこの防御が頼り。

表情が一気に緩んでいく。


俺は梨々花に声をかける。


「水属性結界の持続時間は、現在十五分程度。

ボスに挑戦する頃には一時間以上に伸ばしたいな。

桐生院は、属性付与を最優先だ。

戦闘中に効果が切れそうなときは、迷わず俺に代われ。

分かったな?」


「はい」

梨々花は短く答え、頷く。


誇張でもなんでもなく、第三層の命綱は梨々花なのだ。

その責任の再確認だった。


そして、パーティは第三層へと踏み出した。


***


「……ねえ、教官。何もなくね?」


来奈がうっすらと汗をかきながらぼやく。


水魔法結界に守られていても、気温は30度以上はある。こまめに水分補給しながら進む。


フォーメーションは、由利衣をおぶった来奈を中央に俺が前衛。

梨々花と政臣が後衛。


俺は視線を前に向けたまま答える。


「まあな……ここはほとんど荒野だからな。

たまに鉱床が露出しているんだが」


そう言ってぐるりと見渡すと、地表面が淡く光っていた。


「あれだ」


近づいてみると、地面から赤い塊が少しだけ顔を出している。


普通の鉱山で採れる鉱石を想像していた梨々花は、そのあからさまな露出に思わず声を上げた。


「へぇ……これが」


「そう。レッドストーン。火属性の結晶だ。

なかなか大きいな。――試しに掘ってみるか?」


俺の言葉に、来奈が元気に返事をして由利衣を下ろす。

政臣が背負っていたリュックから、折りたたみ式のツルハシを取り出した。学院で借りられる。


「こいつは小型だが、サクサク掘れる。

採掘を行う冒険者必携のアイテム――マジックツルハシだ」


「……安直なネーミングですね」


梨々花の冷静なツッコミが飛ぶ。


「そう言うな。こいつには、学院生の血と汗と涙が染み込んでるんだ」


ツルハシの柄には、彫刻刀で「山田」と刻まれていた。

山田はこれで、どれだけの鉱石を掘ってきたんだろうか。


俺は高校時代、課外授業で第三層に放り込まれ、一日中ひたすらレッドストーンを掘っていた。

ひとりあたり二トンがノルマ。

強化魔法を駆使して、重たい鉱石を掘り、運ぶ。


そして、採掘した鉱石はすべて没収。

あとで聞いた話では、教員の慰安旅行費グアムに消えていたらしい。


「それを知った晩、仲間内で闇討ちを決行したっけな……」


語り終えると、梨々花は無言だった。

――あきらかにドン引きされている。


政臣は「またまた〜いつものジョーク」と軽い調子で流そうとしていた。


だが、スマホで配信のコメント欄を確認すると――

そこには、あの時代を生き抜いた卒業生たちの怨嗟の声が溢れていた。


そうだろう、山田……。


俺は、顔も知らない山田へと思いを馳せていた。


――だが、そんなことは今はいい。


来奈がツルハシを振るうと、レッドストーンの周囲の岩がみるみる削れ、目当ての鉱石が掘り出された。


ボーリングの玉ほどの塊が、ゴロリと転がる。


「こいつに魔力を流すと熱を帯びるから気をつけろ。

気づくとリュックの中で発火して、背中が燃えていた……なんて笑えない事故もあったからな。

ちなみに、そういう冒険者のことを“タヌキ”と呼ぶ」


「タヌキ? なんで?」

来奈が不思議そうに首をかしげる。


「そういう童話があるんだ。知ってるだろ?」


しかし、来奈も梨々花もピンと来ていないようだ。

現代っ子は知らないのか?


そして、寝ている由利衣を起こし、掘り出したレッドストーンの初還元を行うことにした。


政臣は懐から、小型のスマホほどの端末を取り出す。


「みんなの武器解放に必要な素材を管理するためのものなんだ」


そう言って画面を見せると、レッドストーンの項目には――残り 8,999,999,800kgの文字。

数字の途方もなさに、こめかみが痛くなってくる。


だが、しかし。


「……もう二百キロ、視聴者さんから提供されてるのか」


さすが配信文化だ。


「提供者も出るんですよ、ほら」


政臣が画面を操作すると、

提供者リストに名前と重量が表示される。


のぞき込むと、そこに書かれていたのは――


「えーと……“闇のふわとろ”さん?」


匿名でもいけるのか。どういう仕組みなんだろう。


すると、来奈が元気にカメラに向かって手を振った。


「闇のふわとろさん、ありがとー! これからも応援よろしくー!」


後ろでは、由利衣がさりげなく投げキッス。


「ほら、梨々花もお礼!」

由利衣に促され、梨々花がカメラの前へ出る。


「闇のふわとろさん……感謝してあげるわ。

でも、私たちの野望のためには――まだまだ足りないの」


黒髪をかき上げながら、いきなり上から目線。

……キャラ作りか?


そして、一転して笑顔。

右手の人差し指を突き上げる。


「もっと応援してくれないと――しばいちゃうゾ☆」


最後は、バキューンポーズで決めた。


呆気にとられていると、三人はすぐにヒソヒソと作戦会議を始めた。


「ねえ……やっぱりこれ、恥ずかしいんだけど」

梨々花が小声でつぶやく。


「そのギャップがいいんだって! 次はあたしがやってみるからさー!」

来奈が勢いよく返す。


「妹キャラ路線かセクシーか、どっちかに統一したほうがいいと思うんだけどー」

由利衣が方向性に疑問を呈していた。


……いろいろ迷走しているようだな。


***


気を取り直して素材還元。


俺がレッドストーンに手を当て、三人の武器素材への提供を願うと、鉱石は――フッとその場から消えた。


「おおー!」

という歓声が上がる。


さっそく梨々花が端末を確認する。


「えっと……“しゅうじ”さん。五十キログラム。

……名前に捻りがないですね」


俺にそういうものを求めるんじゃない。


「こうやって、自分たちでも鉱床を見つけたらコツコツと掘っていくんだ。

まだ先は長いが、楽しみだな」


そう言っていると、由利衣がぴくりと反応して銃を構えた。


「人……ではないと思います。前方五百メートル」


ここは視界の開けた荒野。

乾いた風が吹き抜け、視界の先に、何かがうごめく影が見えた。


俺は愛刀・飛燕を鞘から抜き放つ。


「来たな……。

全員、防御態勢! 桐生院と黒澤は結界維持を最優先!

まずは俺が対処する!」


緊張が走り、フォーメーションを組む。

三人と政臣の配置を確認し、前方に視線をやる。


――速い。二体か。


亜竜の一種。二足歩行。

背丈は成人ほど。第二層の巨大生物を見慣れていると感覚が狂うが、小型だからといって油断すれば、待っているのは“エサ”の運命だ。


……まあ、あの姿を見て油断できるやつはいないだろうが。


強靭な顎。筋肉の塊のような脚。

そして、鋭いナイフのような鉤爪。


「あいつらは攻撃魔法は使わない。

だが、筋力強化に振っていて、火炎耐性もある。

――物理か、土魔法が有効だな」


そう言い残し、俺は地を蹴った。


砂煙を巻き上げながら前進。

亜竜との距離、約五十メートル。


俺は瞬時に弾丸のような礫を形成。

風魔法のインパクトで撃ち出す。


鋼板すら蜂の巣にする――魔法のマシンガン。


亜竜の皮膚が弾け、鮮血が散る。

筋肉の塊とはいえ、鋼鉄じゃない。

着弾のたびに脚が揺らぎ、動きが鈍る。


礫で削り取ったところを狙い、俺は一気に間合いを詰める。

飛燕が閃光のように走った。


刃が風圧をまとうと同時に、竜の首がパックリと裂け、体が崩れ落ちる。


血と熱気が混じり合い、荒野の空気が震えた。


俺は四人の場所へ戻りながら解説。


「亜竜は体力がある。

だからまずは――桐生院と黒澤で、遠距離から削れるだけ削るんだ。

弱ったところを、入江の爪で裂く。

あの武器の毒付与なら、追撃ダメージも期待できるな」


一呼吸おいて、付け加える。


「ただし、今のは二体だったが……。

群れで狩りをするタイプは数が多い。

防御結界を強めて、まず近づけないようにしろ。

油断すると、あっという間に陣形を崩されるぞ」


三人の短い返事が返ってくる。


よし。まずはこの階層のモンスターに慣れさせる。


戻ると、来奈が興奮した声を上げた。


「教官、さっすがー!

それにしてもさー、あれ、まんま恐竜じゃん!

びっくりしたよ!」


第二層の巨大昆虫も見応えはあったが、この階層のモンスターは、また別の意味で胸躍るフォルムだ。

……もっとも、どいつもこいつも凶暴で、厄介なのだが。


そのとき、由利衣が緊急を知らせた。


「八百メートル先――魔力反応、大です!!」


梨々花が思わず一歩、後ずさる。


「由利衣……もう見えてるわよ。

なに、あれ……!?」


遠くに、巨大な影。

さきほどの亜竜と同じ二足歩行――だが、桁が違う。

おそらく二階建ての住宅ほどのサイズだ。


「コーチ……あれは、さすがに……」

由利衣が珍しく弱音を吐く。


まあ、無理もない。


「作戦はさっきと同じだ。お前たちは防御結界内で待機」


第三層はまだ序の口――だが、そいつはその中でも歯ごたえのある相手。


俺は静かに息を整え、再び飛燕を抜いた。

熱気の中、刀身が一筋の光を返す。

迎撃の構えをとった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ