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第40話 第二層ボス攻略(6)

バトルメンバーが身につけている「健常の指輪」は、毒や麻痺、暗闇といった――戦闘終了後も続く状態異常の身代わりとなる。

しかし、スタン効果は一時的なもののため、指輪の効果外だった。


なぜかと言われても、それが精霊のルールなのだ。


そして、そのスタンを食らって動けない彼女たちに、土中から毒モグラが襲いかかる。


梨々花、由利衣、山本先生のすぐ眼前に、ひょこりと地面から爪が覗いた。


次の瞬間、山本先生に鋭い一撃。

先ほどの胴への矢の報復とばかりに、山本先生の脇腹を薙ぎ払う。

爪は由利衣の防御結界をも突き破った。

ジャージが裂け、鮮血が飛ぶ。


「山本センセー!」


来奈が離れた場所から声をかける。

どうやらスタンが一番早く解除されそうだ。

他の三人は声を出すこともできない。


毒は指輪が防いでいるはずだ。

そして幸い、傷は結界の効果もあり浅い。

下手をしたら抉れていた。


だが、ダメージは入ったようで、山本先生は膝をつく。


「一番火力のある山本先生の戦力低下は痛いな……」


思わず呟く。

だが、悠長にコメントしている間にも、毒モグラの追撃は行われようとしていた。


爪が山本先生を狙う。

が、由利衣がなんとか銃のトリガーを引き、魔力弾を毒モグラの頭に打ち込む。


スタン状態では魔力の注入が十分ではない。

ましてや、あの巨体。とても有効打とは言えなかった。


魔力弾を受けた毒モグラは一瞬動きを止めるが、意に介した風もなく再び山本先生の腹を狙う。


だが、先ほど破られた防御結界が再度展開。

見ると、由利衣は――寝ていた。

攻撃は有効ではないと、防御に切り替える策に出たのだ。


――この状況でよく。


しかし、彼女は寝ているときがポテンシャル全解放。

山本先生に張られた不可視の障壁は、先ほどよりも硬く、岩をも砕く爪をギリギリで押しとどめていた。


「おい。あれ、寝てないか?」


クラリスが素のツッコミを入れてくる。

どうやらご存じではないらしい。


毒モグラの爪のラッシュを凌ぐ、女教皇の結界。

山本先生に通じないと悟ったか、毒モグラは今度は梨々花にも攻撃を仕掛ける。

だが、それも結界がなんとか防いでいた。


梨々花の眼前で、鋭い爪と防御結界がギリギリの均衡を保っている。

あれが破られてしまえば、命が危ない。


「由利衣、頑張って……」


梨々花が呻く。

なんとか言葉が出せるようになってきていた。


そこに――スタンの解けた来奈の瞳に、黄金の光が宿る。


「うらぁっ!!」


一瞬にして距離を詰めると、毒モグラの背に拳の連撃を叩き込んだ。


来奈と毒モグラの間には、地面が陥没して穴が開いていた。

星の魔眼による超スピードで、落とし穴に落ちる前に回避したということか。


「右足が落ちる前に左足で空中を蹴り上げる……。

いや、言っていることは俺にもよく分からんが。そういうことだな」


そして、来奈はすかさず尻尾を掴むと、その巨体をジャイアントスイング。

毒モグラは突如現れた敵に対応できず、なすすべもなく遥か先に吹き飛んだ。


「おー! これいっぺんやってみたかったんだよねー!!

クラスの男子、最近相手にならなくてさー!」


高二にもなって教室でプロレス技の練習をする女子……。

先日、山本先生にばれて鉄拳制裁されたと聞く。


そんなことを思っていると、梨々花のスタンが解けた。


「やってくれたじゃない。

私の顔面を狙おうなんて、いい度胸だわ」


その瞳が黄金に輝くと、魔力が渦を巻いてあふれ出す。

マントが煽られ、大きくはためいた。


梨々花がバッと右手を上げる。

その手から火炎弾が次々と上空に打ちあがり、巨大な獣へと弾幕が降り注ぐ。


着弾と同時に爆ぜ――あたり一面、炎の爆撃の海。


――あれは、中国のSSR・ミアが見せていた技。


★2、Lv.99のミアの技は、模倣しようと思っても簡単にできるものじゃない。

あれは、俺にも難しい。


「ボス戦は派手な魔法が華よ!!

高柳くん、数字きっちり取れてるでしょうね!?」


言っていることまでミアに似ている。

相通じるものがあるのかもしれない。


「あれが魔術師……。

攻撃魔法においては、全魔眼中トップクラスと聞くが。

なるほど、噂通りだな」


クラリスが感心したように声を上げた。


「だが、毒モグラは地中に逃れる術があるからな……見ろ、素早いやつだ」


その巨体に似合わない軽やかな動きで、地中へ潜っていく。


「させないよ! 梨々花!!」


来奈の叫びに応えるように、梨々花はパチンと指を鳴らす。

炎が瞬時にかき消えた。


来奈は再び毒モグラの尻尾を掴み、引っ張り上げようとする。


「もう、暴れるなっての!!」


普通なら止められるものではないが、さすが星の魔眼。

なんとか下半身まで穴から引きずり出す。


「毒モグラのいやらしいところは、ダメージが蓄積すると地中に逃れたまま時間稼ぎで回復するところだ。

下手をすると、このまま日本チームはタイムアップになりかねんぞ」


クラリスの冷静なコメント。

その通りだ。地中で完全復活して、またダメージを与えても地中に逃れ……。

それを繰り返されると、勝負つかずで終了となる。


「来奈ー! ちゃんと引き上げなさい!

タイムアップなんて冗談じゃないわよ。きっちり攻略してやるんだから!!」


梨々花の激が飛ぶ。


「分かってるけどー! こいつ、けっこう力が強いんだって!!

無理かもー!」


来奈が泣き言を漏らす。


そのとき、ジャージから太い声が放たれた。


「おう、入江! リキ入れんかい!! 手ぇ離したら承知せんぞコラ!!」


エキサイトモードの山本先生。

さきほど毒モグラに食らった一撃が、どうやら覚醒させたらしい。


ビクッと来奈の肩が大きく揺れる。

「わ、わかりましたー!」


「そのデカいの引き上げて、こっちに投げえ!

日本の魔眼を全世界の皆さんに拝んでもらうんやで!!」


なぜ興奮するとエセ関西弁になるのか……。


再び来奈の目に黄金が灯る。

ボスエリアの時間が一瞬停止したような感覚。


――次に視覚が捉えていたのは、毒モグラの巨体が山本先生の方向に空高く投げられている映像だった。


迎え撃つ山本先生の表情は氷のように冷静。

肩までの髪が風で微かに揺れ、その瞳は毒爪を正確にロックオンしていた。


そして、矢を二連射。


左右の鋼鉄よりも硬い爪を、矢が貫通し消し飛ばす。

さすが、防御無視・貫通性能を誇る魔導ギアだ。


巨体が山本先生の眼前で、音を立てて地に伏した。


「桐生院! 火炎!! モグラの丸焼きじゃあ!!

黒澤も寝てんじゃねえぞオラ!!」


梨々花と由利衣も慌てて攻撃に取り掛かる。


梨々花が銃に火属性付与を行うと、由利衣の魔力弾がヒット。

そして、梨々花も炎弾を次々に浴びせかける。


「高柳ぃ!!!」


山本先生の怒声に、それまで関係ない顔でカメラを回していた政臣が、おずおずと声を発する。


「え……僕がなにか?」


「お前、ワシの評価が低いちゅーとったな。

どういうプロモーションしとんじゃ。なあ、プロデューサーさん」


バトル前――誰がボスにとどめを刺すかの視聴者予想のことか。

だからあれほど、事前に情報を入れるなと言っておいたのに。


「え、いやあれは視聴者さんの意見なわけで、僕は関係ないというか……」

しどろもどろな言い訳。


山本先生は、フンッと鼻を鳴らすと矢をつがえ、ギリギリと引き絞る。


「魔戦部三代目キャプテンのワシが弱いかどうか……よう見さらせや!!」


言うやいなや、火炎で弱った毒モグラの脳天に渾身の一撃。


ボスは、光の粒となって消えた。


***


「うわー!! お姉さん、カッコいいー!!」

その場の全員が呆気にとられる中、アリサの能天気な声だけが響く。


俺は、ハッとして政臣に問いかけた。


「おい、視聴者の反応はどうなんだ?」


差し出されたスマホを見ると、謎のジャージ女について多言語のコメント。


今回は完全に持って行かれたようだ。


「これはSSRのチャンネルなんですけど……」

政臣の困った顔。


そして、俺たちは刺すような視線を感じて振り向く。


山本先生が、ちょいちょいと手招きしていたのだ。


政臣が恐る恐る近づき、ヒーローインタビューを試みる。


「いやー。今日は番狂わせでした。まさか、SSRよりも活躍するなんて……」


もっと慎重に言葉を選べ。


俺がフォローに回ろうとすると、山本先生は気にした素振りはなく、モジモジしている。


「ええ、第二層は久しぶりで……。全然自信なかったんですけど……。

でも、佐伯さんの応援があったから。

私が毒モグラにやられたとき、“姫ー!!”って呼びかけてくれたの、ちゃんと届いていました」


そんなことは言っていない……。


だが、ちらりと見たスマホのコメント欄には、



『オッサン、幸せにな!!』


『ジャージネキ無双伝説の幕開けだな。最強スナイパーじゃね?』


『リリカ様の次にしばかれたい』



などの書き込み。


……まあ、評価が悪いわけじゃないようだ。


そして、第二層攻略完了を知らせるレベルアップサウンドが鳴り響いた。


***


毒モグラのドロップアイテムは、来奈お待ちかねのものだった。


「おー。これ、魔導ギアなの?」


ポイズン・クロー。

攻撃した相手に毒を付与する、拳装着型の魔導ギアだ。


正直言って、ランク的には大したことはない。

だが、硬い爪は斬撃にも防御にも使える、汎用性の高い武器だ。


次の第三層攻略の役に立つだろう。


「なんとか夏休み中に第二層攻略が終わって良かったな。

次の第三層だが……」


そこまで言って、山本先生の冷静なストップがかかる。


「夏休み……そうですね。あと十日ほどで終わりますが。

もちろん、課題は済ませていますよね? ねえ、入江さんと黒澤さん?」


途端に、来奈と由利衣は目を逸らす。


俺の時代は、ラジオ体操のあとから昼まで魔力集中。

その後はひたすらダンジョンに潜っていた。


ダンジョン攻略マップやドロップアイテムの成果が、宿題代わりだったのだが――

どうやら、若い魔法使いたちはそうでもないらしい。


「そういうわけで、終わるまでは冒険部の活動は一時中止。

明日以降、私の部屋に来なさい」


厳しい声が飛び、来奈と由利衣の首がすくむ。

だが、勉強の面倒を見てくれるというのだから、良い先生じゃないか。


しかし……ということは。

その間、俺は自由。


学院の外には出られないが、別に構わない。

温浴施設もそろっているのだ。骨休めも悪くない。


できるだけ表情に出さずに、明日以降の休暇計画を頭の中で組み立てていると、欧州チームがやってきた。


「なかなか良いバトルだったな。我々も第三層に潜る予定だ。

いずれまた会うときは、よろしく頼む」


クラリスが言葉をかけてくると、続くアリサの元気な声。


「日本のみんなに負けないように、私も強くなるから!

どっちが早く第三層のボスを攻略するか、競争だね!!」


対する日本は、微妙な空気感。


俺は、しばらく第三層チャレンジはお預けだとクラリスに告げると、彼女は残念そうな顔をした。


「そうか。まあ、学生の本文は勉学だからな。

うちのアリサとリュシアンもそうなんだが……免除されているようでな。

私は反対なんだが」


マルグリットが茶々を入れる。


「よく言うぜ。脳筋も小学生の時から学校に行かずにダンジョン漬けだったっていうじゃん。

お前ら、あたいみたいにちゃんと勉強しとかないと、ロクな大人にならないからな!」


魔眼能力で賭博に明け暮れる大人が、まともなのかどうか……。

だが、このマルグリットはドイツ最高学府卒というから、人は見かけによらない。


なんとも個性的なチームだ。

ダンジョン攻略においてはライバルと言えど、良い関係を築いていきたいものだ。


そして、近い再開を約束すると、彼女たちは去っていった。


「じゃあ、帰還するか。今日は祝勝会だな!!」


俺の言葉に、政臣が重ねてくる。


「お腹空いたでしょ。

今日はみんなのために、有名店から料理を取り寄せてるから!!

和洋中取り揃えてるから、たくさん食べてね」


それまでしょげていた来奈の目が、嬉しそうに輝く。

梨々花と由利衣も、「やったー」と手を合わせていた。


明日からの課題地獄も、今夜は忘れてもいいだろう。

つかの間の魔法使いの休息だ。


こうして、日本のSSRの挑戦は新たなステージへと突入していくのだった。

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