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第38話 第二層ボス攻略(4)

レベルアップの軽快なサウンドが鳴り響く。

欧州SSRチームは――見事、第二層ボスを攻略した。


俺たちが祝福を送る中、聖魔術師教会の男が呻くように呟いた。


「……まさか、ルミナスが失われるとは。

あれは、SSRの御子といえど――好き勝手に扱ってよいものではありません」


言いたいことは分からんでもない。

あれは聖魔術師教会にとっての象徴だからな。


だが、俺は冒険者だ。

組織の都合なんぞよりも、パーティの仲間のためにルミナスを捧げたリュシアンの行動に共感を覚えていた。

それに、無理難題を押し付けておいて手段にケチをつけるな、だ。


リュシアンは一瞬目を伏せるが、それでも怯まず男を見返す。


「条件は、ボクたち三人だけでのボス攻略……それが誓約でしたよね。

誓約が破られていない以上、何をどうしようと自由です」


静かな声。だが芯は揺るがない。


ボス戦の前まではアリサの陰に隠れていた少年が、

いまや、自らの意思で言葉を放っている。


……この一戦が、彼を飛躍的に成長させたのだろう。


これぞ冒険。

ボーイ・ミーツ・ガール。

青春そのものだ。


俺は、おじさんならではの視点で、うんうん頷いていた。


男が何か言いかけた、そのとき――

森の奥から、ベキベキと不穏な音が響く。


ズゥン……と、大木が切り倒される鈍い衝撃音。

続いて、森の巨大な獣や鳥たちが一斉に騒ぎ立てた。


その喧騒を――文字通り切り裂くように、

一陣の旋風が森を駆け抜ける。


次の刹那、目の前の大木すべてに、横一線の斬撃が刻まれていた。


……モンスターか?


一拍遅れて、木々がドミノのように崩れ落ちる。

視界が開け、その先に現れたのは――


陽光をはね返す金の髪をなびかせた女騎士。

手には、眩い光を放つ聖剣エクスカリバー。


クラリスだった。


彼女は森を一直線に切り裂いてきたかのように真っすぐ歩み寄り、

ローブ姿の男の前に立つと――躊躇なく襟首をわしづかみにした。


「おい。……三人だけで第二層のボス攻略とは、どういうことだ?」


「ぐぇっ……! ぼ、暴力は……!」


実力者然とした男でさえ、クラリスの迫力に完全に飲まれている。

察するに、この戦いはクラリス抜きで話が進んでいたらしい。


「暴力ではない。質問だ。答えろ」


男の顔色がみるみる変わっていく。……あれでは答えられない。


そこへ、アリサの声。


「ま、まあまあ、クラリス先輩!

私たちがその条件を飲んだんですから。

それに――見事、攻略成功なんです。これが!」


クラリスは男から手を離し、今度はアリサへ向き直る。

無言で距離を詰め――


乙女の顔面へ、正拳を叩き込んだ。

衝撃波がこちらまで伝わってくる。


「勝手な行動を許した覚えはないぞ、アリサ」


通常なら致命の一撃。だが、アリサは――倒れなかった。


クラリスが目を細める。


「……おや。

貴様、何があった? 今のは“殺る気”だったんだがな」


亜精霊と化したアリサは、その拳を受け切っていた。

空気の震えが消えると、クラリスは小さく息を吐く。


そして――再び、ローブの男へ視線を戻した。

だが、もう誰もいない。教会の男も回復術師も、忽然と姿を消していた。


アリサが説明を試みる。

「だって、仕方なかったんですって! リュシアンひとりでやらせようとしてたんですよ。

ボスだって大変で、私いっぺん死んだんですから!」


「もう少し順を追って話せ」

クラリスはこめかみを押さえる。マルグリットをジロリと睨むと、彼女はサッと目を逸らした。


梨々花がため息をつき、俺の背を杖で突く。

――仕方ない。


「当事者ってわけじゃないが……見聞きした範囲なら話せるぜ」


一歩前に出ると、クラリスは短く頷いた。

説明を始めると、要領を得ないアリサの説明が何度も割り込む。

そのたびに正拳が顔面に入り、なお怯まない。

……うちのとは違う意味で、扱いづらい娘だ。


なんとか説明を終えた。


***


事情は飲み込んだようだが、「一度死んだ」という言葉にクラリスの目が見開く。


「精霊の特典……亜精霊……。そんなものがあるとはな」


得意顔のアリサをまじまじと見つめる。


「そうなんです! いまの私、無敵なんで!

いつか来るべき先輩を超える日が、こんなに早く来るなんてびっくりですよー!」


クラリスは無言。数拍の沈黙ののち、聖剣を抜き、まっすぐ構えた。


「では、その無敵の力とやらを試してみたいものだな」


冗談に聞こえない。

慌てて間に入る。


「まあまあ……特典は時間制限がある。ずっとじゃない。そろそろ切れるはずだ」


言いながらも、アリサから感じる魔力が確かに薄れていく。

燃え尽きる灯火のように、静かに、だが確実に。


完全に解ける前に確認しておきたい。


「精霊の特典は、★5・Lv99で貰える。……今そうなのか?」


アリサは冒険者カードを取り出し、気軽に見せてきた。


【アリサ・グランフィール ★】

ランク:SSR

レベル:25

体力 :S 543

攻撃力:B 348

魔力 :B 267

耐久力:S 592

魔防 :S 613

敏捷 :B 326

幸運 :C 205

特典 :S 亜精霊(1回のみ)

装備 :ロンギヌス(槍/攻撃力を魔力に上乗せ、魔法吸収・魔導)


ほがらかな少女の見た目に似合わず、明らかなタンク型。

だが、このロンギヌスがやばい。魔力を乗せた一撃は、アリサの火力不足を補って余りある。


魔攻タンク。なかなか見ないレア構成だ。


そして――星とレベルに変化はなく、特典は一度きり。

最上位魔導ギアを対価としても、一度“転生”させて復活できるのは、どうやらこれが限界なのだろう。


「おそらく、亜精霊化が解けたら普通の人間に戻る。

やはり★5・Lv99に到達しないと、パーフェクトにはならないようだな」


アリサは「うーん」と一瞬考え、すぐに笑った。


「一気に強くなっても、冒険面白くないですから。……これでいいです」


それでこそ、冒険者だ。


戻る前に一戦やろうと食い下がるクラリスを軽やかにいなしながら、アリサの亜精霊化は静かに解けていった。


***


本日の第二層ボスチャレンジは終了。

俺たちは、明日以降のリスポーン待ちとなった。

とはいえ、今日の観戦は実に有意義だった。


「うちも負けないくらいの戦いをやらないとな」


俺の言葉に、三人と山本先生が頷く。


「で。今日みたいに、出てきた相手を選り好みしないって姿勢も見習わないと……」


――誰も聞いていない。……あくまでも、ビジュアル重視か。


俺は小さくため息をついた。

マルグリットに「明日は毒蜘蛛か毒Gしか出ないよう確率操作してくれ」と頼もうかとも思ったが、バレたときの報復を想像してやめておく。


そのとき、クラリスが声をかけてきた。


「明日は日本チームなのか。我々もぜひ観戦したいな」


欧州チームの面々も頷いて同意を示す。

断る理由はない。だが――少し言葉を選ぶ。


「まあ、明日は……ボス戦が始まるかどうか分かんないんだよな」


俺の曖昧な答えに、向こうはは一様に首をかしげた。


***


そして、翌日。


ボスエリアに到着すると、すでにクラリスたちはいた。

レジャーシートを敷き、弁当や菓子を広げ、完全にピクニック気分。

マルグリットに至っては、デッキチェアで堂々と昼寝している。


……あの巨大毒生物を観戦しながら、食欲が湧くものなのか。


「ねえ、リュシアン。なにが出てくるかな?

毒カエルとかいいかなー。あのイボイボ!!

私は絶対、戦いたくないんだけど」


他人事のバトルに能天気なコメントを添えるアリサ。

呆れ半分で眺めていると、政臣が近づいてきた。


「佐伯さん。今日の配信、誰がトドメさすかの予想で盛り上がってますよ。

こういうの、いいですねー」


戦う前のあいつらに余計な情報を入れるな、と釘を刺しつつ、興味本位で覗く。


1. ユリィ    1,567票

2. リリカ様   1,478票

3. ライナ     967票

4. ジャージネキ   2票


……うーん。分かっていないな。


山本先生は魔法使いランクRとはいえ、現時点ではあの三人を上回る火力を持っている。

毒サソリのような硬い相手には、貫通特性の弓が活躍するだろう。


視聴者予想、覆るか。

こういう“リアルなドラマ性”こそ面白い。


そんなことを考えていたら、いつの間にかクラリスがすぐ横にいた。

俺の肩がビクッと跳ねる。


「本日はよろしく頼む」


……何を?


答えを探す間もなく、政臣が機材チェックをしながら言う。


「今日の解説は佐伯さんと、特別ゲストのクラリスさんで。

第一層のときは全然ダメだったから、今日は頼みますね」


ちゃっかり巻き込んでいた。


「そうか、悪いな」


そう言うと、クラリスはわずかに首を振る。


「構わん。昨日はこちらが世話になったからな。

日本の観戦が、あの戦いの力になったと聞いた」


聖魔術師教会の監視下でのボス戦――確かに、心細かったはずだ。

少しでも助けになったのなら悪い気はしない。とはいえ、こちらも得るものが多かった。


「まあ、うちも良いものを見せてもらった。

マルグリットの確率操作、リュシアンの“誓約”――」


後で詳しく聞いたが、リュシアンの“法王”の魔眼は等価条件で結ばれた約束の絶対履行――すなわち誓約。

戦闘向きではないが、“条約の絶対遵守”は国家の安全保障にも直結する。

聖魔術師教会が囲いたがるのも道理だ。


そう言うと、クラリスはため息をついた。


「まったく。魔眼の能力は秘匿が原則だというのに、あいつらときたら。

だが、私の能力は明かさないぞ。――知りたいだろう? 残念だが無理だな」


聞いてほしくて仕方ない……ような気がするのだが?


「そうか。それじゃあ――日本チームの解説準備に入ろうか」


あえて誘い水をスルーすると、クラリスの表情がわずかに曇る。


そこへウォーミングアップを終えたバトルメンバーが合流。

来奈がさっそく絡んできた。


「最強の戦闘魔法使いに見られてるなんて、緊張するなー。

ところでクラリスさん、第二層のボスって何と戦ったんですか?

アドバイスとか、もらえたら嬉しいんですけど!」


クラリスは腕を組んだまま、淡々と答える。


「毒Gだな。あの油ぎった光沢の外殻は打撃を弾きやすい。

加えて空を飛ぶ。だが――チャンスだ。

風魔法で羽を切り落として、ひっくり返し、腹に一撃。

その際、緑色の毒液が噴き出すから浴びないよう注意しろ……」


来奈は、問いかけたことを後悔するように、目と耳をふさいでいた。


――そして、有効なアドバイスを得られないまま、日本チームの第二層ボス攻略は開始された。

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