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第35話 第二層ボス攻略(1)

結局、初日のカブト狩りは不発――。

経験値も素材も伸びず、以後はオーソドックスにモンスターの巣を巡って、レベルと資金を地道に積み上げていくことになった。


その裏で、俺だけは黙々とソロでカブト狩り。

カブト装備は「黄金一式が揃うまで責任をもって保管すること」――梨々花からの厳命だ。売却も廃棄も不可。のちに視聴者参加オークションを開くつもりらしい。


おかげで、俺の部屋には今日も巨大カブトムシのフィギュアが鎮座している。


それはそれとして。


“健常の指輪”を八個そろえ終えた頃――

三人のレベルは、ついに48に到達していた。


---

【入江 来奈 ★】

ランク:SSR

レベル:48

体力 :A 624

攻撃力:S 991(+5%)

魔力 :C 299

耐久力:S 965

魔防 :B 460

敏捷 :S 922

幸運 :B 510

装備 :アイアングローブ(拳/攻撃+70・通常)


---


【桐生院 梨々花 ★】

ランク:SSR

レベル:48

体力 :B 507

攻撃力:D 161

魔力 :S 1,002

耐久力:B 500(+5%)

魔防 :S 1,011

敏捷 :A 701

幸運 :A 620

装備 :デモンズワンド(杖/魔力+280・魔導)


---


【黒澤 由利衣 ★】

ランク:SSR

レベル:48

体力 :A 656

攻撃力:B 539

魔力 :S 1,037

耐久力:B 478

魔防 :S 971

敏捷 :C 320(+5%)

幸運 :S 964

装備 :ライトニングブレイズ(銃/全ステータス+8%・魔導)


---


なお、山本先生はいつの間にかレベル80だった。


【山本 美鈴抽(ミレーヌ) ★】

ランク:R

レベル:80

体力 :B 1,020

攻撃力:B 1,078

魔力 :B 1,024

耐久力:C 885

魔防 :C 890(+5%)

敏捷 :B 1,044

幸運 :C 1,084

装備 :流星撃(弓/障壁無効・貫通/魔導)


---


バランス型で大きな穴がない。

それでいて幸運だけが評価以上に跳ねているのは、もはや固有の“クセ”と見るべきだろう。

火力も装備も、いまだSSR三人に引けを取らない。障壁無効と貫通――滅多に見ない逸品だ。


これだけの戦力なら、第二層ボスは射程圏内だ。

俺たちはさっそく、ゲンさんのところで予約を入れた。


***


スタートポイントの端末を操作する。

……見事にガラ空き。第二層ボスは相変わらずの不人気だ。

だが「毒モグラか毒サソリが出るまで粘る」と主張する三人+山本先生にとっては、むしろ好都合。


予約リストを眺めていると、ふと目に留まる名前があった。


「……アリサ、か」


イタリアからの申請。欧州SSRパーティの予約だ。

リーダーのクラリス名義ではなく、アリサ名義というのが少し気にかかる。


クラリスは★4のSSR。第二層ボスなど敵ではない。

だが、あのチームはまだ全員がそこまで育っていたわけではない。

急ぐ理由でもあるのだろうか。


多国籍チームは内部の関係が良くても、国の思惑が絡めば別だ。

そんなことを考えていると、来奈が目を輝かせる。


「ねえ教官! あたし、クラリスさんのバトル見たい!

聖剣エクスカリバー、めっちゃカッコいいじゃん!!」


梨々花も由利衣も、同意見だった。


……確かに。

世界最高峰の戦いを、間近で見られる機会などそうそうない。


「瞬殺かもしれんが、見ておいて損はないだろう」


俺も頷き、日本チームの予約をクラリスの直後に入れることにした。


前の挑戦者が撃破すれば、ボスは復活まで一日待ち。

クラリスが倒せないとは思えないが――

他メンバーの安全を優先して撤退、という可能性もある。


念のためだ。


***


ボスエリアに着くと、すでに欧州チームがいた。


配信は切っている。

彼女たちがSSRであることは、非公表だからだ。


アリサが俺たちに気づき、手を振ってきた。


「あーっ! また会いましたね!!」


俺たちは予約を見て見学に来たと告げると、アリサは嬉しそうに笑顔を見せ――

だがその笑みの奥に、かすかな影が差した。


「カッコいいところ見せるぞー! って言いたいんですけど……

ううん、頑張らないと」


クラリスがいれば、この階層のボスなど相手にもならない。

そう言いかけて――俺は気づいた。

そのクラリスの姿が、どこにもないことに。


アリサ、リュシアン、マルグリット。

そして、見物人のような数名。

リュシアンと同じ、聖職者風のローブをまとっている。


「クラリスは?」と聞くと、アリサは小さく首を横に振った。


「私たちだけです。先輩抜きでの攻略が条件なので……」


意味が飲み込めずにいると、マルグリットがやってきて吐き捨てるように言った。


「あの脳筋抜きでボスを倒せ、だとさ。聖魔術師教会のやつらの横やりでな」


聖魔術師教会――

欧州最大規模の宗教にして、超国家的権力を持つ組織。


マルグリットは苛立ちを隠さず続けた。


「リュシアンは、あいつらにとっちゃ“御子”なんだよ。

冒険者活動より、外の世界で影響力を行使させたいらしいんだ」


話を聞くうちに、少しずつ事情が見えてきた。


リュシアンの能力は戦闘向きではないが、極めて政治的な価値を持つ。

フランス政府としても、教会を敵に回してまで危険なダンジョンに潜らせる理由は薄い。


だが――問題はリュシアン本人の意思だ。

彼はアリサたちと共に冒険することを望んでいた。


ならば、冒険者としての実力を示すしかない。

クラリスの庇護抜きで結果を出せと。

それが、彼を諦めさせるために教会が突きつけた条件だった。


「あいつら、あたいらの協力は認めてるんだ。

どうせ大した戦力にはならないだろうってな……悔しいけどそうだ」


マルグリットは唇の端を歪める。


そのとき。

今まで俺たちの会話を静かに聞いていたローブ姿の若い男が、口を開いた。

穏やかだが、どこか冷ややかな声だった。


「人にはそれぞれの役割があるのです。

リュシアン様の居場所は、ダンジョンの中ではない。

しかし、こうして機会は用意しました。

意思を通されたいなら、困難に打ち克つことです」


そう言いながら、彼はため息をひとつつく。


「ただ……我々がいなければこのエリアにたどり着くこともできないのでは、とてもボスなど。

回復術師は控えさせていますので、無理だけはなさらぬよう」


その声音は、撤退を促すものだった。

駄々っ子を諭す大人。そんな眼差し。


見たところ、この男はなかなかの実力と見受けられる。

聖魔術師教会にも、高ランク魔法使いは多い。


一方で、アリサの決意は揺るがない。

戦う覚悟は、もう決まっていた。


リュシアンは震える指でアリサの袖をつまむ。


「……ごめんなさい、アリサさん。僕がわがままを――」


アリサは微笑み、弟をあやす姉のように頭を撫でる。

その空気を、来奈の一声が切り裂いた。


「冒険者が冒険して、何が悪いんだよ!」


全員の視線が集まる。


「役割とか知らないけどさ。せっかく魔法使いになれたんだ。夢、掴みに行かなきゃウソだろ!」


由利衣がやわらかく重ねる。

「仲間には、ちゃんと言っていいんだよ。やりたいこと、同じなんでしょ? だったら――堂々と行こ」


その声に、アリサは力強く頷いた。


「そうだね。リュシアンの夢、私も一緒に見たいな。

……こんなところで終われない。でしょ?」


その横で、マルグリットが八重歯をのぞかせ、にかっと笑う。


「あたいだって冒険者のつもりだぜ。

お前らと一緒にいると退屈しないからな。いっしょに行こうぜ」


リュシアンは顔を上げると、わずかに笑みを返す。


いいパーティだ。

それは実力どうこうでは語れない。


だが、ダンジョンボスは容赦がない。

俺としては、あのローブ姿の男と同意見だった。危険すぎる。


止めるべきか迷ったとき、梨々花の視線とぶつかった。


――“手を伸ばし続けるのが冒険者”。あの言葉を思い出す。 


俺は黙って見守ることにした。


***


アリサ、マルグリット、リュシアンの三人がボスエリアへと足を踏み入れる。

その瞬間――


蠢く影が絡み合い、ボス候補たちの凄惨な殺し合いが始まった。

“蠱毒”の儀式だ。


異様な光景に、三人の顔はたちまち蒼白になる。

だが、誰も退かない。


見守る来奈たちもまた、息を呑む。

だが誰一人、顔を背けようとはしなかった。

アリサたちの戦いから目を離さない――その覚悟が、表情に刻まれていた。


やがて、毒気の渦の中心から“それ”が姿を現す。

選ばれたボスは――毒蛇。


「……悪くない」

俺は小さく呟いた。


トリッキーな動きをしてくるモンスターが多い中、毒蛇は比較的読みやすい部類だ。

一撃の威力は高いが、パターンさえ掴めば対処できる。


うちのメンバーは見た目重視で毒モグラか毒サソリを推していたが――。


毒モグラは神出鬼没。

由利衣の索敵があるとはいえ、地中からの奇襲にはまだ慣れていない。

陣形が崩れるリスクが高すぎる。


毒サソリに至っては、外骨格が硬すぎて貫通が難しい。

長期戦になれば、毒の蓄積で詰む。


油断ならない相手であることは間違いないが、それでも毒蛇は“比較的マシ”な部類――そう判断できた。


この選出はマルグリットの魔眼能力のおかげかもしれないな。


そう思った、そのときだった。


アリサの魔力が――爆ぜた。


高密度の魔力が彼女を中心に渦を巻き、空気が音もなく揺らめく。


強化バフが発動。

攻撃・防御、すべてのステータスが跳ね上がる。

こちらまで熱気が伝わってくるようだった。


毒蛇を前にした三人の顔色が、みるみるうちに生気を取り戻す。

恐怖は消え、瞳には戦意が宿っていた。


あれが“力”の魔眼――ただの数値上昇ではない。

仲間の心を昂らせ、立ち向かう精神へと導く。


もし、あの力が完全に覚醒したとき。

死線を超えた戦士たちが、彼女のもとに集うだろう。


その光景を想像して、俺は息をのむ。


――歴史に名を刻む、戦乙女の器だ。


そして、固まったまま動けなかったリュシアンも、ついに動いた。

手にあるのは、聖杯。


あれがもし俺の想像通りだとしたら、とんでもないものが出てきた。


魔導ギア・ルミナス。


支援系装備の最上位。

回復・防御系魔法の効果を飛躍的に高め、状態異常を瞬時に解除し、デバフも呪いも通さない。


リュシアンが静かに目を閉じ、聖杯を掲げる。

次の瞬間、ピィン……と澄んだ音が響いた。


その音を合図に、アリサたちの前にシールドが展開される。

薄膜のように空気を揺らし、三層に重なった光の壁が形成された。


三度がけ――。

ルミナスの能力なのか、それともリュシアン自身の詠唱速度が尋常ではないのか。

どこが冒険者に不向きだというのか。

純ヒーラーは数は少ないが、パーティの生命線だ。


アリサは前衛ファイター。

リュシアンはヒーラー。


――では、マルグリットは?


バランス的に攻撃魔法の使い手が欲しいところだが、彼女からは、そんな気配がまるで感じられない。

前回の戦いでは、最初から戦闘に参加する意思は見せていなかった。


パーティの陣形は、毒蛇にまっすぐ対峙するアリサ。

その背後に、リュシアンとマルグリット。


アリサがちらりと振り返る。


生気を取り戻したマルグリットが、不敵な笑みを浮かべていた。


「なんだよ。あたいだって冒険者だって言ったろ。

……よそ見してる暇なんて、ないぜ?」


その声が合図のように、アリサは正面を見据え、

手にした聖槍ロンギヌスを構える。


森の空気が、ぴんと張り詰めた。

毒蛇の眼が細まり、地を揺らすように尾を叩く。


アリサが息を吐き、一歩踏み出す。


欧州SSRの戦いが、始まった。

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