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第29話 新装備への期待

私立宝条学院は、夏休みに入った。


あれから尾形は、びっしり詰まっていたイベント予定をすべてキャンセルし、学院に常駐している。

ここには腕のいい回復術師がそろっており、温浴施設などの療養設備も充実しているからだ。


以前、俺に代わって冒険部の三人の警護を数日引き受けてくれるという話もあったが――

まだ全快とは言えない彼に無理をさせるのも気が引けた。


それに、俺自身も今は下手に学院を離れるべきではない。

結局、この夏は冒険部のダンジョン攻略に専念することになった。


尾形はリハビリを兼ねて魔戦部を重点的に指導している。

高坂は嬉しそうに気合いを入れていた。


そのかわりと言ってはなんだが――

冒険部の攻略パーティに、新たな弓使いが加わっていた。


「冒険部のみなさん、よろしくね」

にこやかに手を振るのは、山本先生。


「配信、ちょっと恥ずかしいけど……頑張ります!」


意気込みを語る声は妙に張りがある。

どうやら、映る気満々らしい。


山本先生のレベルアップを手伝うと約束した手前、断りづらかったのだ。

それに、高坂からも頼まれていた。

なんとか機嫌を取っておいて欲しいと……。


そして、新メンバーを加えて――冒険部の部室で第二層攻略の打ち合わせ。


開始早々、来奈が唐突に手を上げた。


「あのさー。やっぱあたしも、もっとカッコいい武器欲しいんだよね」


……出た。

どうやら、青龍偃月刀と火尖槍にすっかり影響を受けたらしい。


正直、俺は武器の性能に頼る攻略には否定的だ。

どんな名剣も、使いこなせなければただの鉄の塊なのだから。


だが――。

あの二人の戦いと魔導ギアの性能を見て、胸躍り、羨望を覚えなかった戦闘魔法使いはいないだろう。

その気持ちは、痛いほど理解できた。


俺は政臣をちらりと見る。

いきなり高価な武器を与えて実力以上に慢心しないよう、あらかじめ政臣を通じて日本政府に釘を刺しておいた。

俺の師匠であり、魔導省顧問の松枝のじいさんも、その点は理解してくれていた。


だが、政臣はその言葉を待っていたかのように食いついてきた。


「だよね!! これぞ“日本のSSR”って装備で国際舞台に立たないと!

うん、これはワクワクするなぁ……!」


……まだ国際舞台など、ずいぶん先の話なんだが。

まったく、気の早い男だ。


政臣は勢いそのままに、俺へと視線を向ける。


「もうすでに、SSR用の装備許可は出てますよ。

あとは――素材次第ですけどね。これがまた厄介で」


「なに、なに、なんなの委員長!!」

来奈が勢いよく身を乗り出す。


興奮を抑えきれないその様子に、俺は苦笑した。

こうなったら、詳細を聞くまで引かないだろう。


“続けてくれ”という意味で、政臣に軽く顎をしゃくる。


――精霊武器引き換え券。


ガチャを引く代わりに課金すればもらえるという、精霊たちが本気で集金に走るときの秘策だ。

これが売りに出されると、ダンジョン運営が資金難なのではないかという噂が流れるものの、そのチャンスに各国がこぞって“お布施”に走る。


だが、金を払わせておいて、武器を具現化するには素材を積み上げなければならないという――鬼のような仕様。


……それでも、“欲しいものが確実に手に入る”という一点だけは、ガチャ地獄の住人にとって救いだった。


日本政府は、バブル期に十枚限定で販売されたうち、五枚を購入していた。

当時、“金で解決”の成金スタイルに、ジャパンバッシングが起こったのも、いまでは懐かしい記憶だ。

そして、それ以来、一度も販売されていない。


ちなみに、その購入費用は、国会の予算審議を通さない官房機密費からの捻出。

いまだに国民には詳細が伏せられたままだ。

金額は“小国の国家予算に匹敵する”とも言われ、週刊誌に金の流れをさんざん叩かれたが――真相は闇の中である。


政治的な経緯はともかくとして、奥の手となる五枚のうち三枚をSSRに投入。

それだけ、期待が本物だということだ。


ちなみに、別途“魔法使いガチャ一回分”の魔石を消費すれば、自由に名前を付けられるという特典があるらしい。

政府は、そのための費用も確保済み。


……名付けだけで三十億円。

もはや破れかぶれとしか言いようがない。

そのうち暴動が起きやしないかと、こっちが心配になる。


その話を聞くと、来奈の目がキラキラと輝いた。


「すげー。名前付けていいの? “来奈スペシャル”の一択っしょ!!」


却下だ。

そんなアホな名前の装備で国際舞台に立たせるわけにはいかない。


三人の戦闘スタイルと武器の希望はすでに提出済み。

名称はスポンサー権限で内閣のじいさん連中が決めていた。


……いや、正確にはスポンサーは日本国民なのだが。


政臣は勢いに乗り、将来彼女たちが手にするであろう武器の概要説明に入った。



■魔導ギア・スサノオ

グローブ型の魔導ギア。

最上位ドラゴンの皮と鱗で構成され、軽量にして硬質、しかも驚くほど柔軟。

魔力を通すと、手の甲から四本の竜爪(ドラゴンクロー)が具現化する。

左右八本の爪から繰り出される斬撃は鋼鉄すらバターのように断ち切り、嵐を巻き起こすほど。

近接戦闘に特化した来奈のポテンシャルを最大限に引き出す“拳の神器”。


■魔導ギア・アマテラス

杖型の魔導ギア。

粒子状の魔力を周囲に散布し、魔法を広範囲に連続射出できる。

さらに杖に四大属性を流し込むことで、複合の“光”属性へと昇華。

高密度熱線や光学迷彩など、多彩な応用技を扱える。

制御には高い技量を要するが、“魔術師”の魔眼を持つ梨々花にこそふさわしい装備だ。


■魔導ギア・ツクヨミ

銃型の魔導ギア。

トリガーに指をかけているだけで、一分間に最大五百発の魔力弾を無反動射出。

魔力ブースト機構により、わずかな魔力注入で威力を魔攻値の1.5倍まで増幅。

射程距離は魔攻値×メートル――最大で約十キロ。

もはや意味不明な性能を誇る、由利衣専用の“寝撃ち対応”兵装。



来奈だけではない。

その説明を聞いた三人の目が、そろって輝いた。


ネーミングにはあまりピンと来ていないようだったが……まあ、女子高生だからな。


それでも、これならば神話伝承級とも互角以上。


俺は三人を見渡す。


「素材は、これから俺たちが集めるんだ。やる気出てきただろ?」


攻略と素材調達。これが俺たちパーティの新たな目標となった。


***


第二層の攻略は、山本先生の戦力もあり順調に進む。


だが、十フロア中六フロアまで探索したところで、最初に懸念していた問題に遭遇した。


この森林は似たような景色が延々と続くため、先人が残した目印の石塔と地図を照らし合わせて進むのだが――

どうにも、地図と石塔の位置が重ならない。


モンスターの仕業だった。


サイ型の大型獣が突進して動かしたり、イタズラ好きなゴリラが押し倒したり。


森林にサイ?

外の世界の常識は、ここではまるで通用しない。


対策の一つは、魔力を細く長くロープのように伸ばし、迷いのエリアを抜けてしまうこと。

ただし、高い集中を要するため、その間は戦闘に参加できない。

だから、専門の職人を雇うのが一般的だった。


すると、来奈が提案してきた。


「こないだみたいに、由利衣の結界で森ごと吹き飛ばしちゃえばいいんじゃね?」


……それは、そうなんだが。


ダンジョン攻略の妙というものが分かっていない。

若いやつはすぐ“コスパ”だの“タイパ”だの。


ひりつくような緊張感の中で、脳内物質を全開にしながら刃を手に未知に挑む。

――それがロマンってもんだろう。


だが、その言葉は飲み込んだ。

リアクションは、容易に想像できたからだ。


すると、山本先生が代わりに言ってくれた。


「入江さん、そういう一足飛びの攻略は、基礎能力の向上になりませんよ。

勉強も攻略も、積み上げていかないと」


さすが数学教師。含蓄が違う。


来奈は素直に頷く。

どうも山本先生には弱いようだ。


先日、授業中に魔力集中をしていたところ、突如教室外に呼び出され、その間は自習。

戻ってきたあとは、大人しく授業を受けていた――と、梨々花が言っていた。


何があったのか、来奈は語らなかった。


なお、由利衣も同様に、山本先生の授業だけは寝ない。


「このエリアでは、黒澤は索敵と、魔力ロープを使ったナビゲートに集中だ。

戦闘は入江と桐生院、支援に俺がつく。

山本先生、すみませんが――黒澤が慣れるまでは、魔力ロープのバックアップをお願いできますか」


第二層をすでに攻略済みの山本先生がいてくれて、本当に助かった。

俺ひとりでも、戦闘支援とナビゲート支援の両立は不可能ではない。

だが、どうしても負荷がかかりすぎる。


すると、由利衣は「試してみたいことがある」と言い出した。


「わたしの結界レーダー、前は生き物の反応だけだったけど……

最近、ルートもなんとなく分かるようになってきたんです。

通った道が、記録されていく感じで」


オートマッピング機能まで開眼とは。

これが“女教皇”の能力。

ダンジョン攻略において、最強の支援システムに進化しつつある。


「マッピングと索敵に集中します。

でも、もしものときのために、山本先生のバックアップもお願いしますね」


そう言って由利衣が微笑むと、山本先生は静かに頷き、彼女のそばについた。


さっそく結界を展開。

すると、由利衣の目がぴくりと揺れた。


「この反応……モンスターじゃなくて、人間ですね。

わたしたち以外にも、誰かいます」


それ自体は、珍しいことではない。

ただ、低層のモンスター素材や魔石は価値が低く、冒険者の活動はあまり活発ではない。


俺たちのように、トレーニング目的で潜っている連中が大半だ。


なお、この層の植生は、外の世界の生態系を守るため持ち出しが禁止されている。

国連加盟国の協定で義務付けられているのだ。


そもそも、材木は転移陣のサイズの関係で搬出も困難。

切り出しても運搬コストに見合わない――そんな事情もあり、手をつける国はほとんどない。


つまり、森林の素材目的をメインで動いている可能性は低い。


向こうも単なる強化目的の探索なら、挨拶を交わして終わり。

だが、日本のSSRを狙う輩だとしたら……。


俺は政臣のカメラを確認する。

ライブ配信中だ。


この先、いちいち人間の反応があるたびに中断していては、攻略は進まない。


俺は梨々花に言葉をかけた。


「相手の正体が分からん以上、俺が前に出る。

桐生院と入江は、指示で動くこと。いいか?」


梨々花ら来奈は「はい」と応答。

この前の反省は、しっかり活かされているな。


それじゃ行くか……。


俺たちは湿っぽい地面を踏みしめながら、一歩を踏み出した。

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