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第20話 精霊の特典

人狼化の副作用で小学生の姿に戻った俺は、スタートポイントで冒険部の部員たちに事実を伝えた。


全員、信じられないといった顔をしていたが――

人狼化までしているのだ。今さら何が起きても不思議ではない。


政臣は悩ましげに唸った。


「佐伯さん……。SSRより目立つのは、ちょっと趣旨がズレるというか……。

でも、これは“映える”なあ。モンスター化なんて聞いたことがないし」


映えるためにやってるわけじゃない。

それに、これは厳密には“モンスター化”ではない。


俺はゲンさんの方へ視線を向けた。

あのとき――冒険者カードに“特典”の文字が浮かんだときに、この人に教わったのだ。


「確か……精霊エネルギー体と化す、ってことで良かったかな」


ゲンさんは静かに頷く。


「そう。お嬢ちゃんたちの“魔眼”は、精霊そのものが宿る依代。

修ちゃんのは“精霊との一時的な融合”だね。

ただし、魔法使いランクRの場合は時間制限と反動があるんだ」


「Rの場合は……。R以外もなれるんですか?」

由利衣が首をかしげて尋ねる。


ゲンさんはにこやかに彼女の方を見た。


「他のランクでも理論上は可能だよ。

だけど、僕の知ってる限り――ここ百年くらいで修ちゃんくらいかな。

ある意味、SSRよりも貴重さ」


そう。

★5・Lv.99に到達する人間の数そのものが少ないのだ。


SRクラスは★3でも十分すぎるほど強い。

だから、わざわざレベルをリセットしてその先を目指す者は、ごくわずか。


近年こそ、レイド配信の国際化によって“より高みを目指す魔法使い”が増えてきたが――

昔は、そこまでの動機づけが薄かった。


Rクラスは途中で強さが頭打ちになり、「ここが限界だ」と自分で線を引いてしまう。

星を上げようなんて発想すら、生まれないのだ。


そう語る俺の右手に、外部から力がこもる。


「そんな素晴らしい力が……いままで埋もれていたなんて……なんてことなの」


梨々花が、俺の手をさっきから握って離さないのだ。


はあ……と、思わずため息が漏れる。


「ゲンさんの言う通り、こいつは全魔法使いにできることなんだ。やる気さえあれば、な。

ただ、そこまでやる必要がないってだけで……。

公表しても構わないが、どうせやらない連中から根掘り葉掘り聞かれるのも面倒でな。

いまのところ、知っているのは師匠とゲンさんだけだ」


梨々花が力強く頷き、俺を見つめる。


「そうね。この力は――知られない方がいいわ。

先生の“穏やかな日常”のために」


にこりと微笑む。

その穏やかな日常を壊してくれた本人なんだが。


「なあ、桐生院。さっきから手が痛いんだがな。離してくれ」


そう言って、強引に引き抜く。


同時に、梨々花のスマホが鳴った。

渋々という顔で電話に出る。


「犬養さん……ええ、そう良かった。

こちらも問題ないわ。今日のところは解散で。


それと――分かってると思うけど、先生のことは口外しちゃダメよ。

高柳くんの顧問弁護士が、地の果てまで追い込みをかけるから。

……ええ、あとで正式な機密保持契約書を送るわ。

それじゃ」


通話を終えた梨々花に由利衣が視線を向けると、ゆっくりと頷いた。


「山本先生は大丈夫。傷もたいしたことないって」


思わず安堵の息が漏れた。


俺の表情を見て、すかさず来奈が茶々を入れてくる。


「教官カッコ良かったじゃん!

“俺があの人を命に代えても救うんだ”って!! 変身までしちゃってさ!」


そんなことは言っていない。だが、良かった。

トラブルはあったものの、全員無事で何よりだ。


「ベテラン冒険者でも油断できないのが第二層だ。

よく分かっただろう。

……今日のところは俺たちも解散だな」


そして、政臣を見る。

まずはこの格好をなんとかしなくては。女子には頼みづらい。


「悪いんだけどさ、子供向けの服買ってきてくれないか。一日だけだから、安いので。

なんなら下着だけでもいいから」


すかさず梨々花が割り込む。


「高柳くん、ちゃんとしたのお願いね。

とりあえず、寮に戻りましょうか。

ゲンさん、今日はありがとうございました」


俺たちはめいめいにゲンさんに声をかけたあと、ダンジョンゲートを通り、学院の敷地に戻ってきた。


俺はズボンに引っかってつんのめると、梨々花が慌てて手を引いて支える。


「先生、やっぱり危ないですよ。ほら」


そう言いながら、俺に背を向けてしゃがみ込む。

……なんのマネだ。


「おんぶです。動きづらいですから」


勘弁してほしい。

俺はそんな必要はないと言うと、ズボンのベルトを目一杯に締め、裾をまくり上げた。


見た目なんか気にしていていられない。


「自分で歩けるから大丈夫だ。それと、明日は一日寮で寝ているからみんなも好きに過ごしてくれ。

学院の敷地からは出ないでくれよ」


そう宣言すると、ブカブカの靴を鳴らしながら歩き出す。

三人は後ろからついてくる。


来奈はふと思いついたように問いかけてきた。


「教官、そんなちびっ子のときから冒険者やってたの? 危なくないの?」


鋭い質問だ。

小学生当選者もいないわけではないが、普通は早くても中学からだろう。


「★4スタートだったからな……それなりのステータスだったんだ。

新聞で話題になったおかげで師匠をかって出てくれる人もいたし」


来奈は、「へえー」と高い声を出して俺の前に回り込む。


「強いって、どのくらい?」


面倒なやつだな……。

俺は上着から冒険者カードを取り出した。



【佐伯 修司 ★★★★】

ランク:R

レベル:1

体力 :B 717

攻撃力:A 1,066

魔力 :C 435

耐久力:C 392

魔防 :D 243

敏捷 :B 703

幸運 :C 435



「うっそ! 第一層のボス倒せちゃうじゃん! 最強小学生!!」

来奈が目を丸くし、他のふたりも絶句している。


……ステータスだけなら。

ただ、魔力制御できなければモンスターとの戦いにならない。

三人の育成にあたり、レベルアップよりも先に魔力の扱い方を重点的に叩き込んだのはそのためだ。


最初にそれを教えてくれる師の存在が、どれだけありがたいか。


カードをしまい、歩き出す俺。


その背中に梨々花の声がかかる。


「……やっぱりすごいわ、できる子だと思ってた」


どこの教育ママだ。

俺はその言葉をスルーし、寮までの道を進む。


やがて寮にたどり着くと、あらためて三人に解散を伝える。


「それじゃ、また月曜だな。くれぐれも学院から出るんじゃないぞ」


梨々花はさも意外そうな顔をする。


「今日の振り返えりとかもしたいです、先生。あとで集合しませんか?」


俺の表情が曇るのを見てとった由利衣が、すかさず割って入る。


「今日は疲れてるから……ね?

そうだ!! ゲームしません? 寮にトランプとか置いてますよねー」


ますます顔が曇る。

見た目子供だが、中身はおじさんなんだ。

だが、気を使ってくれた由利衣を邪険にするのも大人気ない。


「……気持ちだけ、ありがたくな。

さっきも言ったが、俺は明日一日寝ているから気にしないでくれ」


「えー、オッサンくさいなー。

……まあ、いっか。そんじゃ、教官またねー」


来奈は大きく手を振ると、自室に戻って行った。

続けて由利衣も、頭を下げたあと廊下の先に消える。


「……じゃあ、またな」


俺は背後の梨々花を振り向かずに声をかけ、歩き出す。


「先生、もしかして私のこと避けてます?」


難しい年頃なのだ。これが麗良相手なら、無視してとっとと部屋に戻るところなんだが。


「…………いや? でも、できれば月曜まで一人になりたいなーなんて」


背中越しに、フーというため息。


「あのですね。私、こう見えて先生のこと尊敬してるんです。

ここまでこれたのは先生のおかげだし、これからだって……まだまだなんです。

なので、私の力になっていただけませんか? 魔戦部や山本先生じゃなくて」


魔戦部に俺のリソースを取られることを心配しているのか。

最近は付き合いが増えたからな。


俺は振り返り、梨々花を見上げる。

小学生と高校生の身長差は厳しい。


「冒険部の方の手を抜いているつもりはないんだけどな……。

でも、そう思わせたなら悪かったよ。

少し高坂とも話をするから」


「そういうことじゃ……」


と呟くと、梨々花はそれ以上の言葉を飲み込み、頭を下げて自室へ戻った。


……どうにも、不安定なんだよな。


俺があの年頃だったときは、ひたすら学院で訓練を受けて、ダンジョンに入り浸っていた。

Rでも上位SRと渡り合える力があったから、どこまで伸ばせるか――それが楽しくて仕方なかったのだ。


そういう意味では、自分のことしか考えていなかった。

だから、梨々花がSSRの力で個人的な野望を叶えようとする気持ちを、とやかく言う筋合いはない。

むしろ、“戦闘魔法使いのトップになる”? いいんじゃないの、とすら思っている。


ただ――おじさんになると、しがらみが増えるのだ。

尾形や山本先生に頭を下げられて、突っぱねるわけにもいかない。


それだけだ。

べつに冒険部を蔑ろにしたわけじゃない。……が、わからないだろうな。


それにだ。

土曜まで働きづめなんだ。日曜くらいは寝かせてほしい。


これも女子高生には、たぶんわからないんだろうな……。

小学生に戻ったというのに、このズシリと残る疲労はどうだ。

そこは精霊仕様でなんとかならないのか、まったく。


軽くぼやきながら部屋に戻ろうとした、そのとき――。


俺の背に山本先生の声がかかった。

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