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終末のSSR ―最強おじさんの最弱SSR育成プロジェクト―  作者: 白猫商工会
第07章

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202/213

第201話 わからせ

翌日のワイドショーは、突如レイドメンバーに選ばれたR魔法使いおじさんの話題で持ちきりだった。


村正を振るい、巨人兵を一刀両断にしていく映像が流される。


司会のタレントが、感嘆の声を漏らす。


「この佐伯さん、SSRの戦闘指導ですからね。

楽しみじゃないですか?」


そして、ひな壇へ振る。


コメンテーターの芸能人は、薄ら笑いを浮かべた。


「そうは言ってもですね。

これくらい、上位の冒険者なら普通でしょ」


カメラ目線を意識しながら、腕を組む。


「十年のブランクがあるらしいじゃないですか。

しかもR……いや、言いたかないですけど、上級魔法は使えないわけで。

剣技だけじゃ対応できない相手もいるでしょうし」


司会が資料をめくる。


「でも、松枝一門で近藤選手の先輩とか……

すごくないですか?」


別のタレントが口を挟んだ。


「松枝一門って言っても、今は近藤選手以外に誰かいます?

昔の名前で出てこられてもさー。

この抜擢、なんかコネの匂いがするっていうか」


同調するアイドルが頷く。


「完凸おじさんでしょー?

画面から加齢臭漂うんだよね。

やっぱりブラジルのエリックくんみたいな華が……」


――その発言は、最後まで続かなかった。


テレビは、山本先生の矢に貫かれていた。


第三層のさえき亭。


食事をかきこんでいた冒険者たちの箸の動きが、一斉に止まった。


そして、次々に声が上がる。


「分かってねえよな、素人は。

あの魔力制御、同じことができるやつが何人いるってんだ」


「見てくれでモンスターが倒せたら苦労しねえよ。

大将なら、結果で黙らせてくれるって!!」


山本先生は、ふっと息を吐き、穏やかな顔つきになる。


「お騒がせして申し訳ありませーん。

お詫びにお食事サービスしますから、たくさん召し上がってくださいね」


たちまち歓声が沸き上がった。


その様子を見て、魔戦部の犬養と熊耳は、そろって口元を引きつらせた。


「いつも以上に怖いですわ……」


犬養は、ごくりと喉を鳴らす。


「でも、佐伯先生の強さって玄人向けなんだよね。

魔法使いじゃない人が見て、どれだけ理解できるか……」


強い魔法使いは、大魔法でモンスターを吹き飛ばす。

一般人の認識は、だいたいそんなものだ。


だが、レイドではそれだけでは通用しない。


そのあたりを分かっている、目の肥えたファンからの支持は悪くない。


――とはいえ。


圧倒的に、ビジュアルが弱い。


「えー?」という反応が大半なのも、致し方ないことだった。


熊耳も、そこは同意だった。


しかし。


「華なんて言ったら、私の魔法だって。

でも、目標ができましたわ。

佐伯先生に声がかかったのは、地味でもなんでも積み重ねてきたものがあるから。

機会を掴む人と、逃がす人は……違う」


振り向く犬養に、少しだけ照れたような顔。


「私も、いつかレイドに出たい……って言ったら。

茜ちゃん、笑う?」


犬養は、軽く首を振った。


「ううん。

レイドの枠は五人。

桐生院先輩、入江先輩、黒澤先輩……そして、私たち。

狙っていこ?」


定食屋の片隅で、小さく頷く二人。


日本の未来に芽吹く種が、確かに蒔かれていた。


***


その第三層、同時刻。


屋内道場では、日本SSRの三人と、一人の老人が向かい合っていた。


老人――松枝は、首を鳴らしながら言う。


「修司も年を食ったな。

理沙や麗良には容赦なくてヒヤヒヤしたもんだが、娘みたいな教え子には甘いときた。

……お前ら、そんな程度で第七層に行ったら死ぬぞ?」


星の魔眼が、来奈の体感時間を一気に引き上げる。


脚に魔力を込め、瞬間移動にも等しい速度で踏み込む。


キュレネを装着しての訓練。

インパクトは、遠慮なく放っていいと言われている。


最初は、「えー? 三途の川見えちゃうよ?」と軽口を叩いていたが。

いまは、獲物を狩る目。


いや――

油断すれば、狩られる。


右拳が輝き、松枝の脇腹を捉える。

一寸の容赦もなく、ぶち込んだ。


――もらった。


そう思ったのは、最初だけ。


来奈には、すでに次の展開が見えていた。

これで五度目なのだから。


星の魔眼が捉えたのは、顎に打ち込まれる掌底。


反応する間もなく、来奈の体は三回転し、床に叩きつけられていた。


由利衣の魔力誘導弾が、四方八方から老体を襲う。


だが、目標ロスト。


高度な魔力隠蔽で、女教皇の索敵レーダーをかい潜り――由利衣の背後へ。


防御結界を貫通する足払いで、由利衣は崩れ落ちる。

そのまま、蹴り転がされた。


梨々花の切れ長の目に、獰猛な光が宿る。


ノータイムの攻撃魔法。


だが、松枝は正確に同属性を打ち返してきた。


――信じられない。


魔眼能力に匹敵する、攻撃魔法の展開速度。


じりじりと距離を詰めてくる老人。


あと数歩の距離まで迫られ、松枝が腰の刀に手をやる。

本職は剣士……。


梨々花の目が、カッと見開かれた。


そして。


「すいません、降参します……」


両手を上げた、その瞬間。

腹に剣の柄が捻じり込まれていた。


続けて、松枝の魔力が背中まで突き抜ける。


――じじい……。


梨々花は、掠れる意識の中で、


「モンスターが、待ってくれるかよ」


と、大笑する声を聞いていた。


***


「いやー。

大じいちゃん、めっちゃ強いじゃん!」


来奈は、胡坐をかく松枝の肩を、能天気な顔で揉んでいた。


わからせ完了。


由利衣は床に突っ伏したまま、ぴくりとも動かない。


梨々花も、しゃがみ込んだまま動けなかった。


……コットスにも途中までは通じていたのに。

まったく、手も足も出なかった。


化け物だ。


ふと、疑問が口をついた。


「そんなに強いのに、なぜ日本は第八層どまりなんですか?」


松枝は、口の端から小さく息を漏らした。


「第七層攻略は、あの阿呆に任せていたからな。

……修司が戻ってくるまでは、俺もダンジョンには潜らんと思っていたら、この歳だ」


梨々花は、少し口元を緩めた。


「そうですか。

まあ、先生がいれば第八層どころか、その先だって。

私たちが攻略して見せますから、縁側でお茶でも啜っていてください……」


松枝の気配に、梨々花はびくりと肩を震わせた。


「口の悪いやつらだな。

……まあ、あいつも楽しそうで何よりだ」


来奈は肘で松枝の肩をグリグリしながら言う。


「ねえ、教官ってやっぱ昔は厳しかったの?

話は聞いてるんだけどさー。

いまいちピンと来ないっていうか」


「あーーー」と、老人はため息ともつかない声を上げた。


「引退してから、ずいぶん丸くなってやがるからな」


首だけ来奈へ向け、その目をまっすぐに見る。


「聞いてるかどうか知らんが。

いろいろあった」


梨々花は、ぽつりと言った。


「理沙さんのこと……少しだけ」


松枝は、背中もやれと来奈にサインを送る。

グリグリされながら頷く。


「厳しかったけどな……

それが戦闘魔法使いだ。

ダンジョンで死ぬよりはマシだろう」


梨々花はうずくまりながら、こくりと首を縦に振った。


「けど、あいつは自分のせいで理沙を死なせたって思っていてな。

まあ、その通りだが……

どうしてもっと優しくできなかったって、あの後、そればかり言ってたな」


松枝は、懐かしげな眼差しになり、言葉を続ける。


「お前たちに甘いのは、罪滅ぼしってわけじゃないだろうけどな。

あのとき、あいつがなりたかった自分だ」


床に転がったままの由利衣の肩が、ぴくりと動いた。


「……私たちは、死にませんから。

なりたかったコーチのままで、笑って攻略するんです」


松枝は床に目を落とし、小さく呟く。


「そうだな……」


そして、大きく息を吐いた。


「しかし、すっかり鈍っちまいやがって。

……心がな」


来奈が、「どゆこと?」と聞き返した。


「サラリーマンから、まだ切り替えができてないってことだ。

ま、レイドともなりゃ、喝が入るだろ」


妙に低い声で続けた。


「さっきの俺よりも、全盛期の修司の方が強いぜ」


三人は、一斉にフリーズした。


「お前さんたちをレイドに出すのは早い。

……分かったか?」


コクコクと頷く。


松枝は頷き、首を鳴らした。


「そんじゃ、もっかい行くか。

終わったら魔力集中。

今日は緩めで勘弁してやるから……目標三時間。

気ぃ抜いたら、飯は角砂糖一個だからな」


――早く戻って来て。


三人は、おじさんの帰還を、早くも心待ちにするのであった。


***


第六層、レイド専用訓練場。


最終調整に向けて、各国の選手が魔法を散らしている。


俺たちは、連携を確認するために集まっていた。


麗良が、驚いた様子でこちらを見る。


「先輩、なんだかスッキリしましたね。

昔から小汚い……じゃなくて、自然派だったのに」


こいつ。

内心ではそんなことを思ってたのか。


俺はあれから、芹那に連れられて。

美容室からエステから全身脱毛……。


そして、あいつの用意した、いかにも高級そうなスーツに身を包んでいた。


……そんなことよりも、レイドメンバーと打ち合わせを――

とは、言えなかった。


逆らうと何をしでかすか分からない気迫。

大人しく従うしかなかったのだ。


そんなわけで、あと二日しかない。

つけ焼き刃を磨くしかなかった。


尾形が、「へー、佐伯さん昔からこんな感じだったんですか?」と面白そうに問いかける。


麗良は、大げさに肩をすくめた。


「格好を気にしないのは昔からだけど。

中身は全然……」


麗良がこれ以上余計なことを口走らないように、咳払いする。


「おい、時間ないんだろ。

さっさといこうじゃないか」


そう言って、他のメンバーへと頭を下げた。

芹那のおかげで、いまが初顔合わせだ。


レイドは、五人構成。


日本は、前衛アタッカー三名、攻撃魔法一名、支援一名。


今回辞退したのは前衛で、俺はその補充だ。


---

■前衛

・佐伯修司

三十九歳、男。

魔法使いランクR。星5、レベル99。


・近藤麗良

二十九歳、女。

魔法使いランクSR。星3、レベル99。

武装は「雷切」。

魔力伝導率の高い刀身に攻撃魔法を乗せて戦う魔法剣士。

重力操作系の空間魔法も扱い、飛翔による変幻自在の空中戦を得意とする。


・尾形悟志

二十四歳、男。

魔法使いランクSR。星3、レベル67。

武装は魔剣「薄緑」。

その能力は“神速のバフ”と“八艘跳び”。

肉体強化系を主体とする純アタッカーで、チームの切り込み役。


■後衛

・朝岡陽太郎

二十七歳、男。

魔法使いランクSR。星3、レベル71。

四大属性魔法に加え、聖魔法の防御と回復が使える希少枠。

武装は、魔法を連続チャージすることで一撃の威力を増す杖。

相棒の魔法の箒「蒼き光弾」にまたがり、戦場の空を駆ける。


・橘志津香

二十五歳、女。

魔法使いランクSR。星3、レベル58。

フィールドに魔力糸を張り巡らせ、索敵と情報伝達を担う司令塔。

武装は、式神「鬼蜘蛛」の依り代となる水晶球。

---


麗良は俺と同門。

魔戦部の顧問である尾形とも顔なじみだ。


面識がないのは、朝岡と橘の二名。


橘は、名前のとおり物静か。

細い目を下げて、「よろしゅう……」とだけ一言。


肩上で切りそろえられた、さらりとした黒髪。

着物姿で戦う京美人。


式神使いの名門の出身。


魔法使いガチャは基本的にランダム当選。

日本に門派は数あれど、通常は優秀な弟子が後継となる。


だが、橘家は例外的に、同時代に必ず一人以上の魔法使いを排出する。

古来より血脈を保ってきた、神秘に包まれた一族だ。


中でもSRである彼女は秘蔵っ子。

魔法使いが集う学院には通わず、家庭内で魔法の教育と訓練を受けていた。


レイドなどに出すのはまかりならん――

そう言い張る当主を、政府首脳が三顧の礼で口説き落とした才媛。

俺と同じく、今回が初参加となる。


一方の朝岡だが。


ロン毛、腰パン、耳と唇には魔力増幅のピアス多数。


俺のことを、珍獣を見るような目で眺めている。


「おっさん、ほんとにやる気かよ。

松枝のじじい、マジ老害だな。

これで今回成績落としたら、誰が責任取んだよ」


目つきを鋭くし、口元を歪める。


「それとも、もう勝負捨ててんのか。

だからRなんか連れてきやがって。

ボロクソでも、言い訳が立つってか」


ずいっと寄ってきて、俺の目を斜めから睨めつけた。


「配信見てるけどよ。

騒ぐほどの腕前か?

いい年してJKとはしゃいでるオヤジが、しゃしゃってくる世界じゃねえんだよ」


……昨日、魔王健康ランドで師匠と飯を食っていたときの言葉が、ふと蘇る。


お前がそうしたいなら、教え子には甘くてもいい。

楽しい冒険も、大いにけっこう。

守りながら、若い魔法使いたちの可能性を伸ばしてやれ。


けれど。


レイドは違う。


いつまでも寝ぼけてるんじゃない。

スイッチを入れろ。


――と。


いま、頭の奥で。

カチッと、音がした。


俺は、にこやかな笑みを作る。


「朝岡さん。

よろしくお願いします。

良かったら、魔力制御を見てもらえますか?」


朝岡は「はあ?」と、目つきをさらに鋭くする。


それから、大きく舌打ちした。


「オッサン、お前……

まあいい。

どんなもんか見てやるから、とっとと構えろよ」


にこやかな顔を崩さない俺と朝岡を見ながら。


麗良は、そっと両手を合わせていた。


***


その日の夜。


合宿場では、レイド正メンバーによる記者会見がセッティングされていた。


各自の仕上がりや意気込みについて、質問が飛んでくる。


注目は、やはり飛び入りのおじさん。


俺は全国のお茶の間に向けて、スマイルを崩さず、ハキハキと。

取ってつけたような言葉を並べた。


記者は言う。


「そうですか。

でも、周りは若い方ばかりですし……大変でしょう?」


遠回しに、年齢をディスってくる。


俺は、それにもスマイルで答える。


「そうですね。

でも、みなさんとてもいい方で。

朝岡選手なんて、緊張しているんじゃないか?

って、初対面の私に気づかってくださって。

魔力制御の指導まで、つけていただきました」


俯き気味の朝岡の肩が、大きく跳ねた。


「残り一日、連携を深めてやっていきます!」


俺が言葉を締めると、記者はすぐに朝岡へと振った。


「そうなんですか?

今回、いろいろイレギュラーですから、朝岡選手としても大変なのでは?」


「そんなことありませんよっ!!」


朝岡は、食い気味に返す。

その目には、感情というものが失われていた。


「佐伯さんの後方から、しっかりバックアップして、ガンガン魔法ぶっ込んでいきますから!!

ねえ!!」


俺は穏やかな顔で頷く。


他の三人は、みな一様に目線を下に落とし、何も語らなかった。


こうして。


新たなメンバーとともに、いよいよレイド本番を迎えるのであった。

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