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第125話 貫通妨害

翌朝、来奈と政臣の、すっかり血色の戻った顔が食堂に並んでいた。


山本先生が「消化に良いものを」と作ってくれた鍋焼きうどんをすすりながら、来奈は照れくさそうに笑う。


「いやー、倒しきれてなかったのは失敗、失敗。

噛みつき攻撃とか、ないわー」


そして、由利衣に目線を送った。


「ほんと、由利衣がいなかったらアンデッドSSRになるとこだったしー。

ありがとね」


由利衣は、目の下に薄いクマを浮かべながらも、ふわりと笑う。

昨晩は、一睡もせずに回復魔法をかけ続けていたのだ。


「わたしだけじゃないよ。

クラリスさんにティナさん、それにリズさん。

梨々花もコーチも、山本先生も……。

みんな助けてくれたんだから」


その言葉に、来奈と政臣は一同へ向けて頭を下げた。


政臣は、クラリスへおずおずと声をかける。


「あのー。

下がってろ、って言われてたのに。撮影に夢中で……。

すいません」


……まあ、だいたいの想像はつく。


クラリスは「気にするな」と短く答えた。


「少し戦闘を楽しんでいた私にも責任はあるからな」


そう言って、視線を横へ逸らす。


どうやら二人とも、目の前の出来事に夢中になりすぎて、

周囲への注意が疎かになっていたらしい。


まったく、自由なやつらだ。


そして、今回の功労者であるリズは――


タライのような鍋焼きうどんを、流し込んでいた。

こちらも一睡もしていないが、食欲はあり余っている。


麺を啜る文化はないはずだが、いつの間にか大量のうどんが、喉を通り過ぎて胃に収まっていく。


……そういう魔法なのだろうか。


「これが日本のUDONですかー。

ぜひお店でも出してくださいね。毎日食べにいきますからー」


気に入ったようで、何よりだ。


そして、さっそく梨々花との商談が始まっていた。


アンデッド化や憑依などの効果に有効な仙丹。

それを精製できるリズは、梨々花の目には金のガチョウに映る。


案の定、仙丹の提供に際して、独占販売権契約にきっちりサインをさせていた。


リズは、食と研究活動が保証されていれば、それ以上の欲はない。

というか、欲はそっちに全振りしている。


現在、深層ではアンデッド害が猛威を振るっているという。


リッチーにも匹敵する――

いや、それ以上かもしれない闇の王。

ヴァンパイアによる眷属化が、被害を拡大させていた。


治療師の不足が、各地で叫ばれている。


この薬は、ダンジョン攻略を前に進める力となる。

そして同時に、世界が欲しているものでもあった。


まだ第五層にありながら、梨々花は、その先を見ていたのだ。


どうやら、政臣のコネを使い、国内の製薬会社を動かすつもりらしい。

ティナが、その社名を教えろと、食い下がっていた。


それはそれとして。


今日は来奈と政臣、そして由利衣を一日休ませることにし、攻略は中断とした。


リズにも休むように言ったのだが、

「ぜひ隠しダンジョンをフィールドワークしたいです」

と押し切られた。


ということで。


四階までのスタンプラリー埋めを兼ねて、リズはクラリスとティナ、そして梨々花と組み、四人で探索へと乗り出していった。


俺と山本先生も、今日は休ませてもらうことにする。


――もっとも、その前に、

大量の弁当を作る作業が待っていたのだが。


***


午後まで仮眠して食堂に顔を出すと、コーヒーの香りが漂っていた。


由利衣はもう起きていて、来奈と何やら熱心に話し合っている。

昨日の感想戦だ。


俺に気づいた由利衣が、すぐに声をかけてきた。


「今回のキョンシーとの戦いで、私の防御結界は役に立たなかったんです。

それは課題かなって」


貫通攻撃か。


実際、厄介だ。

来奈の服には、貫通の魔力を乱す処理が施されているが、それとて過信は禁物。


来奈の話によると、爪を装着したキョンシーは、貫通持ちだったという。


「貫通対策があっても、あれ貰ってたら普通にヤバかったしー」


腕を組み、少し頭を逸らす。


俺は、クラリスの戦いぶりを来奈に伝えた。

彼女は、貫通への対処と打撃への強化を、ほぼ瞬時に行っていた。


だが、今の来奈にそれを求めるのは酷だ。


ただし、肉体強化一点への集中なら、訓練次第で十分に伸ばせる。


そして由利衣だ。


「防御結界と、貫通干渉の結界を多重展開するのが、現実的な解だろうな」


二人は、大きく頷いた。


弱点を把握し、自主的に改善しようとする姿勢は悪くない。

今日明日にできることではないが、やらなければ、できないままだ。


そして来奈は、キョンシー戦で星の魔眼能力に変化があったと告げた。


高い解像度のズーム。

そして、空気や動きの流れの感知。


パワーとスピードに秀でた魔眼という、単純な枠には収まらない、奥の深い能力構成だ。


天性のハンター。

そう言って差し支えないだろう。


そこに、山本先生があらわれた。


「入江さん、もうすっかり大丈夫そうね」


にこにこと声をかけてくる。


由利衣が、山本先生へ話題を振った。


「そういえば、山本先生の弓って、貫通特性なんですよね。

私たち、昨日の戦いでそれに遭遇して……」


そして、簡潔に説明する。


すると山本先生は、うんうんと頷き、穏やかな笑顔になる。


「そうやって工夫するのは、良いことですね。

じゃあ、さっそくやりましょうか」


……何を?


俺たちの頭の上に疑問符が浮かぶのをよそに、山本先生は弓を手に取った。


***


外に出た途端、さっそく魔戦部式の特訓が開始される。


「黒澤ぁ!

気合い入れんかいっ!!」


山本先生が、矢を放つ。


直立不動の由利衣は、頭に乗せたリンゴに防御結界と貫通干渉の結界を重ねていく。

だが、不完全な結界は、易々と突き破られた。


……頭に乗せる必要は、あるのだろうか。


だが山本先生によると、死中に活を見出すのだという。

分かるような、分からない理論だ。


「ねえ、教官。

あたし、肉体強化しながら矢を受けろって言われたんだけど。

死んじゃうって!」


涙目で訴える来奈。


俺は、大きく溜息をついた。


エキサイトした山本先生をなんとか宥め、来奈の方は俺が見ることになった。

由利衣が、恨めしそうな目でこちらを見るが……すまん。


さっそく、来奈に向き合う。


「肉体強化だが。

方法はひとつじゃない。

皆、自分に合ったやり方で対応している」


来奈は、真剣に聞いている。


「例えば、リズの教え子のステラは、鋼属性魔法で身体を鋼鉄化しているらしい」


来奈は「うーん」と、思案顔になる。


「あたし、属性魔法は苦手なんだよね……」


俺は軽く頷いた。


「魔法系統には、個人ごとに適性がある。

それに入江は、魔法の放出や操作性に関わるステータス値が高くない」


俺も高いわけではない。

それでも中級属性魔法まで扱えるのは、昔の学院の非人道的なスパルタ教育と、星五完凸まで伸ばしたステータスのおかげだ。


来奈がどうしても使いたいなら、発狂寸前の訓練コースも用意できなくはないが――

そこに意味は感じなかった。


代わりに、来奈は良いものを持っている。

それを伸ばすべきだ。


「例えば、先日のデュラハン戦。

入江は、脚に魔力を集中して速度を上げていた。

攻撃のときは、拳に集中していたな」


「うん。

いつも教官に言われてたやつが、スッとできた感じでさー」


魔力の巡りが、確実に良くなっている。

だからこそ、次の段階に進める。


「精霊から得た魔力を、現象に還元するのが魔法だ。

入江のやったことは、肉体強化系魔法のカテゴリーに入る。

放出じゃない。体内に留めて身体機能を高めていく方向だな」


そうやって、攻撃力や耐久力のパフォーマンスを引き出していく。

さらには、ステータス値を一時的に底上げすることもできる。


なお、ステータスというのは、最大性能のスペック値。

その性能を引き出せるか、また常時マックスで駆動させる必要があるかは別の話。


俺は、続ける。


「ここまで言えば分かると思うが。

守りの魔力制御をやる。

攻撃される部位に、集中してな」


熟練の戦闘魔法使いともなれば、攻撃・防御・移動の並列魔力制御をやってのける。


いまの来奈に、そこまでは求めない。

だが、星の魔眼による動体視力と高感度センサーがあれば話は別だ。


攻撃が届く直前に、守りの魔力制御を行う。

防ぐと同時に、次の攻撃へと魔力を切り替える。


そのスイッチングは、十分に可能なはずだ。


極限までシングルタスクを高速化する。

それが、現状における最適解と思われる。


そういうわけで、俺は鞘に収めた村正を手に取る。


「……戦闘訓練だからな。

青アザくらいは覚悟してもらわんと、こっちとしても困るんだが。

どうする?」


こいつばかりは、寸止めというわけにはいかない。


正直、躊躇はある。

だが、この先にある命のやり取りを思えば、心を鬼にする必要があった。


そして――

来奈の目には、迷いがなかった。


「やるよ。

教官は、やっぱ過保護っていうか。

それくらいやんないと強くなれないのは、分かってるからさ」


思わず、苦笑が漏れる。


過保護、ね……。

俺も、角が取れてきたということか。


若い頃は、麗良を容赦なくボコボコにしていたものだが。


――あいつ、それを恨んでいるわけじゃないよな?


「……そうか。じゃあ、組手形式だ。

俺の打撃は避けず、魔力制御で受けること。いいな?」


来奈は、大きく頷いた。


少し離れた場所では、山本先生の怒声が響いていた。


***


宿に戻ってきた梨々花は、食堂の椅子に腰かけ、暗い目でぶつぶつと何かを呟き続けている由利衣を見た。


不思議そうな顔で、来奈に声をかける。


「ねえ、来奈。何かあったの?」


来奈は来奈で、ぐったりとテーブルに突っ伏していたが、苦笑いを浮かべて、


「え?

……まあ、ちょっと」


と、口ごもりながらも、簡潔にあらましを話す。


梨々花は「なるほど……」と、ちらりと由利衣へと視線をやった。


そして、俺に声をかける。


「第三層で由利衣が結界を張って、私が防熱の水属性を付与しましたけど。

あれと同じように、由利衣の結界に貫通妨害の魔力を乗せるというのはどうでしょう」


それも、ひとつの手。

いずれは由利衣単独でできるようになった方が良いが。

それまでは、補い合うのはありだろう。


すると、山本先生が「あらー」と、にこやかに声を上げる。


「じゃあ、桐生院さんも特訓ですねっ!

これから平日の部活動は、第三層で魔戦部と一緒に貫通攻撃の対策やりましょうか」


梨々花の瞳が揺れた。


「いえ、私は……」


だが、言いかけたそのとき。

由利衣に腕をガッと掴まれた。


「梨々花……仲間じゃない」


闇堕ち寸前のオーラを放つ由利衣。

梨々花は、軽く息をついた。


「そうですね……。

ところで、第三層の部活動の拠点のレッドストーン採掘場ですけど。

責任者の田島さんと話をしていて。

さえき亭の一号店を出店するのもありかな……って」


山本先生がピクリと反応した。

俺は、妙な雲行きに構える。


「おい、桐生院……」


だが、梨々花は俺の存在を無視して淀みなく続けた。


「レッドストーン採掘場は、ミスリル採掘場の中継基地でもありますから。

これから冒険者も増えるので、飲食店の需要は確実に見込めます。

学院長にも相談したところ、部活動の時間であれば先生はそちらに従事してもいいんじゃないかと」


知らない間に、俺のタイムマネジメントが決定されている。


「ただ、先生一人では人手が……さて、困りました」


梨々花がわざとらしく眉を下げると、山本先生は食いついてきた。


「私もやりますからっ!!」


そして、ふんっと鼻息を荒くする。


「佐伯さん、私たちの夢の第一歩ですね!!」


……誰と、誰の?


しかし。あれよあれよと、外堀が埋められていく。


リズが目を輝かせていた。


「わあ……私、お店に住み込んでいいですか?

研究施設も移しますから」


ティナも身を乗り出す。


「なによ、私とリリカの仲じゃない。出資させなさいよ」


クラリスは「ふうん」と顎に手をあてた。


「うちのリュシアンを料理修行させてやってくれ。

アリサも使っていいからな。頼んだ」


俺は怒涛の奔流に漂う木の葉のようなものだったが、精いっぱいの抵抗を試みる。


「いや、急にそんなこと言われてもな……」


だが。


「素敵ですね。コーチ」


由利衣のふわりとした笑顔。


「私たちは、自主練していますから。頑張ってください。

ねえ、来奈」


話を振られた来奈は、「え?」と一瞬思考がフリーズするが。


「まあ、店の合間に訓練してくれるんなら、いいんじゃね?」


と、能天気なコメント。


こうして、おじさんのジョブがまた一つ追加された。

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