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第123話 隠者

四階ボス部屋の前には、クラリスに首根っこを押さえられてジタバタともがく、キョンシー化した政臣。


そして、後ろからはキョンシー来奈が迫っていた。


「いや、どうしろと……」


そのとき、梨々花とティナがあらわれる。


「高柳くん……?」


梨々花はちらりと一瞥し、怪訝な顔。


「なあ、桐生院。

政臣と入江がキョンシーになってだな……」


俺の言葉に、梨々花の切れ長の目がぴくりと動き、「はあー」と溜息。


「まったく。ツメが甘いんだから、来奈は」


迫りくる来奈へと視線を向ける。


不幸中の幸い。

まだキョンシー化が進んでいないせいか、動きはそれほど速くはなかった。


世界樹の杖をブンと振る。


たちまち、蔓に絡め取られて来奈は身動きできなくなった。


梨々花は、次に政臣を拘束する。


「……で、これは戻せるんでしょうか?」


こいつは、レイスの憑依と同じで呪術の一種。


直接噛まれたため、肉体にモンスターの魔力が浸透している。

来奈と政臣の服は呪術耐性があるから、しばらくは持つと思うが。


「治療師に見せるしかない……が。

解呪の専門家となると、そう多くはいないな」


学院に帰還するまで、持つとは思えない。

魔力が完全に浸透してしまえば、魂そのものが捉えられてしまう。


事態は、思う以上に深刻なのだった。


そこに、由利衣がおずおずと手を挙げた。


「あの、もしかしたら。なんですけど……

ここのボスの持ってるアイテムが有効なんじゃないでしょうか」


――仙丹。


俺も良くは知らない。

不老不死の妙薬とも噂があるが、そんなものが実在するのかは眉唾だ。

もっとも、精霊のやることは何でもありだが。


梨々花は、顎に手を置いて考えるしぐさ。


「ここのダンジョンマスターの性格からいって、攻略の道筋は用意しているでしょう。

可能性はあるかも」


その言葉を得て、由利衣は頷く。


「リズさんから貰った本に、邪気払いの効能のある成分もあったから……きっと」


由利衣はリズから、魔法薬学の手ほどきを受け始めていた。

渡されたテキストも、授業中に熱心に読んでいるという。


授業に集中して欲しいが、寝るよりは……。

と、山本先生は苦笑していた。


それはそれとして。


ならば、猶予はない。

ボスのキョンシーマスター攻略パーティをさっそく編成することに。


だが、ボス部屋の扉も、こちらからは開かない。

代わりに、四つの小さな魔法陣。


梨々花は、拘束を維持するために残ることに。

山本先生も二人の様子を見てくれるという。


ということで、


由利衣

ティナ

クラリス


で挑むことになった。


転移陣へと立つ前に、俺たち全員に結界が施されていく。


速攻で決めて、戻ってくる。

由利衣の真剣な目が、そう語っていた。


そして、四人はボスへと挑むために、魔法陣が描かれた床を踏んだ。


***


キョンシーマスターは、想像していたよりも小柄な男だった。


といっても、身長は一七〇センチほど。

別に背が低いわけではない。

大型ボスモンスターの相手をしてきた俺の目に、相対的に小柄に映っただけだ。


スリムだが、痩せ型とは違う。

無駄な肉というものが一切ない、極限まで鍛え上げられた肉体が、武道着を通して伺えた。


武器は所持していない。

いや、肉弾こそがこいつの武器なのだろう。


外見に関する情報は以上。

一見しただけで分かる。強者だ。


村正を構え、間合いをはかる俺の目の前で、キョンシーマスターは稲妻のような動きで、虚空に向かって裏拳を繰り出した。


無数の拳がまたたく間に叩き込まれる。


気づくと、


「痛ったー」


と、尻餅をつくティナが部屋の端にいた。

どうやらステルス化して、背後から金蛟剪を叩き込もうとしたようだが。


想像もしていなかった反撃。


だが、ティナのダメージは浅いようだ。

とっさのガードと防御結界のおかげで、吹き飛ばされただけで済んでいた。


魔力と気配を絶ってもなお、通じない。

その研ぎ澄まされた感覚は、わずかな大気の流れや音をとらえていた。


キョンシーマスターは、ジッと自身の拳を見つめ、続けてティナを見る。

どうやら決める気だったようだが、思いのほか無事な様子に思案しているのかもしれない。


佇まいを直したキョンシーマスターは、深く腰を下ろし、スゥッと構える。

手とつま先に、異常な魔力が満ちた。淡く発光している。


そして右腕を俺たちへと伸ばし……

淡く光る手のひらを上に向け、指を自分の方にクイクイッと曲げる。


――こいつは、本物だな。


村正を手に一歩踏み込んだ、そのとき。


金色の長髪が疾風になびき、俺の脇を通り抜けていった。


かろうじて視界の端で捉えることのできたのは、猛禽のような眼差しで敵を補足する、クラリスの整った横顔。


だが、それも瞬時に視界から消えた。

風のように駆けたクラリスは跳躍し、エクスカリバーを閃かせる。


「その勝負、受けたっ!!」


剣と拳が交わる。

キョンシーマスターは、回し蹴りでエクスカリバーの側面を打ち、軌道を逸らした。

クラリスは、あえて逆らわずにいなされた剣を持ったまま着地。


身をかがめ、横一閃になぎ払う。

だが、それも跳躍でかわされる。


キョンシーマスターの蹴りが、クラリスを襲う。

左腕にすかさず強化魔法。

由利衣の結界が受け止めるが、魔力の乗ったつま先が触れると、破られていく。


貫通攻撃。あの異常な魔力の正体。


おそらく、ティナを打ち据えたときの感触から、防御結界の存在に気づいたのだ。


クラリスは金剛の左腕で、下から受け止める。

さらに自身の魔力をぶつけ、貫通の魔力に干渉した。


起き上がる動作とともに、蹴りを弾く。


そして、斬り下げ、払い、突き――

剛剣を、精密に急所へと繰り出していく。


一進一退。

お互いに致命の一撃を繰り出しながら、相手の攻撃を受け流していた。


そこに由利衣が魔力弾を放つ。


結界レーダーに誘導された弾丸が、キョンシーマスターを襲う。

それらは貫通の乗った手刀で弾かれる。

魔力弾が雨あられと降り注ぐが、まるで舞うように手の動きだけで。

エクスカリバーは、足捌きでいなしている。


そして、ギロリと由利衣を鋭い眼差しが捉えた。

思わず怯む由利衣。


威圧に指が止まる――


しかし、意を決して魔力弾を発射。


だが、それを払い落としたのはクラリス。

一瞬の隙を突かれ、腹に手刀を食らった。


苦悶の表情を浮かべるが、強化した肉体が耐えた。

並の魔法使いなら、間違いなく貫かれていただろう。


体勢を崩さずに、剣を突き入れるとキョンシーマスターは飛び退いた。


青ざめる由利衣に、鋭い声が飛ぶ。


「助太刀無用!

結界もいらん。貫通攻撃だからな」


エクスカリバーを振るいながら、クラリスは言葉を続けた。


「悪いが。ここは任せてくれないか。

……目的は分かっているが。武人として挑まれたからには、一騎打ちが礼儀。

モンスター相手でもな」


由利衣は、「コーチ……」と俺に意見を求めてきた。


村正を鞘に収める。


「あの二人の動き。混戦になるよりは、確かに任せた方がいいだろうな」


あのまま続けていたら、標的が由利衣に移っていたかもしれない。

相手の意識をクラリスのみに集中させておいた方が、心置きなく戦える。


だが、由利衣の気持ちを思えば、邪魔とは言えない。

あのセリフも、彼女なりの気遣いだろう。

不器用なやつだ。


とはいえ。クラリスの動きが落ちている。

さっきの一撃は、やはり応えたようだ。


こめかみを汗が伝う。


あれは、第五層のモンスターの格じゃない。

さすが隠しダンジョンだ。


そこに、上着の内ポケットから梨々花の声。

スマホのスピーカーフォンを、通話状態にしていたのだ。

この階は、携帯電話の圏内。


「先生……来奈と高柳くんですが。

だんだん顔色が悪くなってきています」


表向き動揺を見せない声だが、言外の焦りが伝わる。


「魔力分離……試してみます」


解呪方法のひとつ、モンスターの魔力を分離。

付与術の反対、というか応用だ。

来奈が憑依された教訓から、梨々花に対策を聞かれて概要だけ説明していたのだ。


俺は、スマホへと声をかけた。


「拘束が最優先だ。

……けど、試せるなら……頼む」


梨々花は小さく「はい」とだけ。


正直、期待はできない。

しかし、キョンシーマスターのドロップアイテムが有効と決まったわけでもない。

打てる手があるなら、やってみるべきだろう。


視線を戻すと、変わらずの攻防。


そして、由利衣が必死に祈っていた。


――回復魔法。


クラリスを、優しい光が包み込む。


「……コーチ。

わたし、防御も殲滅も中途半端で。

回復なんて、全然伸びてなくて……」


由利衣は、組んだ手にギュッと力を込めた。


「でも、冒険部のみんなを守りたいんです。

来奈と高柳くんがこのままじゃ……」


そこに、力強い声が響いた。


「案ずるな。任せろと言っただろう」


クラリス。

動きが戻ってきている。


「新人魔法使いに心配されるとは。

私もまだまだだな……」


鋭い猛禽の目はそのまま。

口元を緩め、剣を突き入れる。


キョンシーマスターは、紙一重で躱す――が、武道着の肩がピッと裂けた。


「未来視といっても、それほど都合が良いものでもなくてな……。

無限の未来の中から一つを探し当てる。

それが私の魔眼能力だ」


こうしている間も、魔眼は相手の動きの分析を続けていた。


そして、過去を探る能力。サイコメトリー。


聖剣の刻んできた、数々の技と死闘のデータベースが、最適解を未来のビジョンとしてクラリスに視せる。


未確定の未来の位置に、剣を置く。


まだ、微妙に合わない。だが……。


徐々に未来の確度を高めていく。


一撃。まだ。

二撃。まだだ。


マルグリットの持つ魔眼のような、運命の操作ではない。

未来を引き寄せるのではなく、読み解く。針の穴にラクダを通す。


過去と、現在と、未来が。クラリスの中でカチリとはまった。

エクスカリバーが吸い込まれるようにキョンシーマスターの左腕を断つ。


痛覚のないアンデッドの瞳が見開かれた。


すかさず右足の蹴り。だが、それも切断。

肩から袈裟懸けに致命となる一撃を見舞う。


たまらず跳び退いたキョンシーマスターは、身を屈めて魔力を高めていく。


その異様な揺らぎに、俺の本能が警報を鳴らした。


――まさか、自爆とかじゃないだろうな。


そこに、クラリスの声。


「ティナ、雷光を私に放て!」


ティナは一瞬戸惑うが、すぐに理解した表情になる。

金蛟剪のヘッドを床に叩きつけると、青白い雷の柱が飛んだ。


クラリスはそれをエクスカリバーで受ける。

浄化の魔法剣が、キョンシーマスターを斬り裂いた。


クラリスは光の粒となって消えゆく強敵へ敬意を送った。


「……なかなか強かったぞ。

次は、レイドチームで来るからな。喝を入れてやってくれ」


ティナが吸魂符を掲げ、封じていく。


「これ、とんでもないわ。やっぱ、来て良かったなー」


その様子を見守る俺。


――思えば。

今回、おじさんの出番一切なし。


だが。

若きSSR魔法使いたちの活躍により、攻略はなされた。


由利衣がクラリスへと駆け寄り、ガバッと抱きついた。

潤んだ瞳と、碧眼が見つめ合う。


「ごめんなさい。わたし、余計なことばっかりで」


クラリスは、ふっと、はにかんだ笑顔を見せた。


「回復魔法が効いたおかげだ。さすが、日本のSSRだな」


そして、出現した宝箱へと目をやる。


「冒険は、お宝あってこそだ。あいつらを救わないとな」


こうして。

強敵を退けた一同は、初回クリア特典を手に入れて仲間の元へと急ぐのだった。

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