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第122話 キョンシーズ

「来奈、気をつけてね」


由利衣は、前方に立つ来奈へと結界を張る。


相手の二体は、どちらも近接戦闘タイプ。

来奈が同時に相手をすることになるだろう。


来奈は、大きく頷いた。


「今日も調子、悪くないしっ。

リズさんの薬、一リットル飲んできたからさー」


ハンドガンの安全装置を外しながら、ニカッと笑って答える。


服用は、一日三回、二十五ミリリットル……。


由利衣は、喉まで出かけた言葉を、そっと飲み込んだ。


気を取り直し、手にした銃を魔力弾のセミオートモードに切り替える。


――まず、仕掛けたのは来奈だった。


四肢に魔力を纏わせると、瞬時に二体のキョンシーへと距離を詰める。


銃を構える由利衣の睫毛が、わずかに震えた。


……魔力制御。

また、良くなってる。


女教皇の索敵レーダーで、この場の全員の魔力の動きを捕捉している。


それでも。

魔力制御の練度は、向こうが上だ。


由利衣は、キョンシーの一体へロックオンする。


――相手は格上だけど……それが、何?


思考が、静かに沈む。


SSRになったときは、最強魔法使いだって思い込んで、みんな浮かれてた。

でも、すぐに現実が分かった。


来奈は、いつも明るく振舞っているけど。

自信が揺れてるのは、見れば分かる。


それでも、いつか飛べるって。

信じて、ここまで頑張ってきた。


――やっと、小さな翼が生まれたね。


由利衣の唇が、かすかに動く。


「いけっ、来奈」


同時に、トリガーにかかる指先が動いた。


***


来奈は、繰り出されるヌンチャクを躱しながら、銃を撃ち込む。


ほとんど意識するまでもなく、トリガーを引けば、魔力弾が射出された。


店員の男が言っていたとおり、少ない魔力消費でも、確実に作動する。


――だが。


弾丸は、ことごとくヌンチャク捌きに弾かれた。


「おおっ! やっぱカッケー!!」


弾丸も、それを弾き飛ばすヌンチャクも、すべてがスローモーション。


引き伸ばされた世界の中で、さらに弾丸を撃ち込み――


相手が捌いている、その一瞬の隙に、背後へと回り込む。


そして、左拳を叩き込んだ。


……だが。


キュレネに、魔力が乗っていない。


「ちぇっ」


小さく舌打ちし、即座にバックステップ。


次に視えたのは。

来奈の顔面が、さっきまであった空間に――

ヌンチャクが叩き込まれていく光景だった。


「決め手がないなー」


銃で決められれば、それが一番いい。

だが、相手の力量は上を行っている。


撹乱して拳を叩き込む。

判断は、間違っていない。


しかし――

銃を撃ちながらでは、キュレネに魔力を集中できない。


明らかに、訓練不足。

つけ焼き刃もいいところだ。


――分かってるけどね。


教官がこれを見てたら、また、あの「やれやれ」って顔になるんだろうな。


少しだけ、苦笑い。


だが――次の瞬間。

背中が、ぞわりと総毛立った。


ゆっくりと、視線を右へ向ける。


もう一体のキョンシーの爪が、由利衣の結界を突き破り、来奈の脇腹を抉ろうとしている。


こいつ、あたしの死角から――


バックステップの最中。

視えていても、もう避けられない。


死の瞬間が、ゆっくりと引き伸ばされていく。


……そのとき。


由利衣の放った魔力弾が、もう一体の腕を撃ち抜いた。

続けざまに三発。爪の軌道が逸れた。


来奈は着地と同時に、身を捻る。

体勢を立て直そうとする、爪のキョンシーへと弾丸を放つ。


体に撃ち込むが、わずかに後退するだけで倒れない。

次に頭を狙うが、弾丸はうまく当たらない。


「ちょっ、むずくね?」


そもそも素人。

近距離から撃ちまくって、大きな的に当てるのが精々だった。


「来奈!」


由利衣の声。

今度は、ヌンチャクが迫っていた。


由利衣の魔力弾が正確に、ヌンチャク持ちのキョンシーの脚にヒット。

動きが緩んだ。


「なんで由利衣のは当たるのさー!?」


来奈の大声。


由利衣は、魔力弾をヌンチャク持ちの脚に集中させながら声を張る。


「これが、わたしの特技だからねっ!!」


女教皇の索敵レーダーと連動した、魔力弾の誘導制御だ。

能力の特性、訓練の質と量。すべてが来奈と由利衣では違いすぎた。

加えて、銃そのものも高火力ときている。


「ちえーっ。ゆっくり視えても、当たらなきゃなー」


来奈は、銃をホルスターにしまい、キュレネを構える。

息を深く吸い、吐く。


キュレネが輝き、体勢を崩したヌンチャク持ちへとボディブローを叩き込んだ。


相手は、とっさに手にしたヌンチャクでガードするが、それを突き破ってクリーンヒット。


来奈は、にこやかな笑顔で、由利衣へと声をかける。


「やっぱこっちなのかなー。

由利衣もそう思……」


来奈の瞳に映ったのは、由利衣へと迫る爪のキョンシー。


……まずい。


キュレネの衝撃波は、由利衣を巻き込む。

でも、走ればあたしの方が絶対に速い。


足を踏み出す。


だが、がくん、と体が止まる。


後方を見ると、倒したはずのヌンチャク持ちが、腹ばいになりながら来奈の右足首を掴んでいた。


「こいつっ!!」


いや、こんなやつに気を取られてる場合じゃ――


視線を戻すと、由利衣の凍りついた顔のスローモーション。

索敵はできていたはず……だが、反応速度が追いついていない。


そして、無慈悲な爪が振り下ろされた。


それは由利衣に届く前に、結界に抵抗を受ける。


来奈がほっとしたのもつかの間。

押し込まれているのが分かった。


貫通特性の攻撃。


ここまでのすべてが、秒の出来事。

そして、次の数秒後には、由利衣の体に爪が――


――なんて、させるわけない。


来奈はホルスターから銃を抜く。


これしかない。

狙うのは、頭。


距離は十メートル以上。

あの店員の話だと、命中精度がどうとか……。


そんなの、近くから撃っても当たってなかったんだけど。


それでも銃を構える。


来奈は、瞳に宿る精霊に頼み込んだ。


――ねえ、星の魔眼。

まだ隠してるのがあるんなら、いつかじゃなくて、今、欲しい――頼むよ。


そのとき。

来奈の瞳が淡く輝いた。


音が消え、視界がこれまで以上にクリアになる。


十メートル以上先が、目の前みたいに近い。

輪郭が、刺さるようにくっきりする。


そして――分かる。いや、視える。


空気の流れ。

魔力の流れ。

相手の重心の移動。


銃口を、どこへ置けばいいかも。

言語化不能な視覚情報が飛び込んでくる。


何かに導かれるかのように、来奈はトリガーを引いた。


***


由利衣の目の前で、結界を破ろうとしていたキョンシーの頭に弾丸が撃ち込まれた。


ガクンと大きく痙攣するが、相手はアンデッド。

来奈の銃の出力では、消滅に至らない。


だが、その数秒が命運を分ける。


由利衣は銃口を向けると同時に、銃に結界を纏わせた。


瞬時にロックを外す。

すべてが機械のような滑らかさで行われた。


込めた魔力が弾丸を成形し、電磁力で撃ち出す。


上級魔法の威力にも匹敵する、レールガン。

直線軌道でしか撃てないが――

由利衣が引き金を引いた以上、外れることはなかった。


爪のキョンシーは吹き飛び、光の粒と化した。


***


「さっすが、由利衣!!」


来奈は、大はしゃぎ。


「あいつ強かったから、ゲットしたかったのに。

吸魂符は梨々花が持ってるしー」


そこで、ハタと気づく。


「あ、あたし魔法の呪符持ってたんだっけ!

忘れてたなー。まあ、結果オーライっしょ」


そう言って銃をしまうと、ポケットを漁り、クシャクシャになった呪符を取り出す。

照れ笑いを浮かべて由利衣の方を向いた。


だが。


視線の先の由利衣が、こちらに銃口を構えている。

続けて魔力弾が発射された。


――なにを。

いや、そうだ。足元にもう一体……。


視線をやると、こちらへとにじり寄り、大きく口を開けている。


「ちょっ……」


スローモーションの映像が、キョンシーの牙のような犬歯がふくらはぎに突き立てられるのを捉えた。

次に、由利衣の魔力弾がキョンシーの頭を吹き飛ばし、光の粒と化す。


そして。


それを最後に、来奈の視界が暗闇に包まれた。


***


俺は青龍刀を持つキョンシーと打ち合い、山本先生は棍使いのキョンシーに向かい合う。


じりじりと棍使いは、山本先生の矢を弾きながら距離を詰める。

それにも怯まずに、矢を射掛け続ける山本先生。


土壇場でも、この胆力。さすがだ。


だが、このままではじり貧。


向こうの一体を抑えてくれている間に、活路を切り開かなくてはならない。


……あれを、出すのは今か。


世界樹の麓の強化素材ガチャで得た、新たな技。


幸いにして、梨々花も来奈もいない。

あいつらの目に留まったが最後、何を言われるか分かったもんじゃないからな。


村正を顔の前にかざした。

西洋騎士が剣を上にして胸を張るポーズ。


俺の背後にバラが咲いた――ような気がする。


吊るしのスーツに身を包んだおじさんが、威風堂々。


山本先生の瞳が、かすかに揺れた。

だが、その手は止まることなく棍のキョンシーへと矢を放つ。


青龍刀を持つキョンシーは、一見隙だらけの俺に斬撃を浴びせかける。


だが、その刃を弾きカウンター。

斬りつけながら、背後へとヌルリと回り込んでいく。


――光と華が、乱れた。


続けざまに連撃。

村正を叩き込まれたキョンシーは、光の粒へと化した。


さらに止まらず、根を持つキョンシーへと、ファイナル技の斬撃波を放つ。

受け止めた棍が軋み、その体が硬直した。


すかさず、山本先生の矢が顔面をブチ抜いた。


戦闘終了。


俺は、安堵の息をつく。


「一か八かでしたけど。うまくいって良かったです。

今のは、新技で。連撃壱号とでも名付けようかと……」


「あれが、アルティメットルミナスブレイク・哀ですね!!」


山本先生の乙女の瞳が輝き、頬がかすかに紅潮していた。


「いえ、あれは壱号……」


「あんなロマンティックな技があるなんて。

私に見せてくれたのが初めて……佐伯さんってば……」


モジモジする山本先生。


俺は口角を引きつらせながら、声をかけた。


「あの、この技はできれば内密に。

とくに、うちの連中には……」


山本先生は、穏やかな笑みを浮かべ、ゆっくりと頷く。


「そうですね。これは佐伯家の一子相伝。

未来の子供にも、言い聞かせておきますから」


何かが噛み合っていない。

だが、それ以上は追求しなかった。


俺は曖昧な顔で、一人納得する山本先生に背を向ける。


そして、ボス部屋へと向かった。


***


通路を進むと、別の玄室に続く道と交差する。


そこまで来たとき、勢いよく駆け込んできた由利衣と鉢合わせた。


由利衣は俺に気付くと、グイっと手を引いてボス部屋の方向へと駆けだす。

山本先生も、慌てて付いてきた。


「とにかく、そっちはダメです。来奈が来ちゃうから……」


どういうことだ?


困惑する俺たちに、簡潔な言葉が飛ぶ。


「キョンシーに噛まれたんです!!」


それだけで説明は充分だった。


ふと、後方に目をやる。


こちらを追ってくるのは、目を赤く輝かせた来奈。

薄く開いたその口には、牙のような犬歯が覗いていた。


「いやいや……何やってんだ、あいつは」


一階のレイス憑依に続いて、今度はキョンシー化だ。


由利衣は俺の手を引きながら駆ける。


「とにかく、いまは逃げないと!」


そうして、俺たちは通路を抜け、ボス部屋の前へと到達する。


そこにいたのは――


「ああ。悪いな、こいつ噛まれて。

どうしたものかな」


クラリスに首根っこを押さえられた、キョンシー化した政臣の姿。


かくして、四階の攻略は二名の犠牲者を出しながら、ボス戦へと続くのだった。

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