第120話 隠しガンショップ
ダークゾーンに構える、一軒の銃器店。
そこに、日本SSRの強化武器が人知れず眠っていた。
梨々花は、その銃をちらりと見る。
一見したところは、スナイパーライフル。
だが、魔力弾のセミオートとフルオートの切り替えが可能。
さらに――
レールガンモードの存在が示されている。
もっとも、銃身の耐久性が品質基準をクリアできず、その機能は封印されたままだった。
外見からは、まるで想像もつかない。
ひどく、扱う者を選ぶ代物だ。
店員の男は言った。
「レールガンモードは、高威力ですけど。
暴発の危険性がありますから……
やぶれかぶれで一撃かます、ってとき以外は使っちゃダメなんです」
……そもそも、
そんなものを売り物にしちゃダメだろう。
俺が懸念を伝えると、男は気まずそうに頭をかいた。
「いえ、これは売り物じゃなくて。
ここのダンマスとの共同開発品です。
試作止まりですけど」
どうやらダンジョンマスターは、迷宮運営だけでなく、魔導ギアの開発にも熱心らしい。
男は、別の銃にもちらりと視線をやる。
やたらとゴツいロケットランチャーだ。
「レールガンがお気に召さないなら、これなんてどうですか?
モンスターの体の一部を弾丸代わりに詰めて発射すると、死霊が標的を追尾して喰らい尽くすっていう――」
うちの由利衣を、どういうキャラクターにするつもりだ?
梨々花は、呆れ顔の俺など意に介さず、ずい、と店員へ距離を詰めた。
「そのレールガンだけど。
売り物じゃない……でも、見せてくれたってことは、譲ってもいい、ってことよね?」
店員は、こくりと頷く。
「これ、簿外品なんですよねー。
棚卸しの対象外ってことで。
開発プロジェクトのリーダーもとっくに飛ばされちゃったから、誰も覚えてないんじゃないかな、って」
……それでも、コンプラ的に完全アウトだろうが。
だが、男は軽い調子で、こともなげに続けた。
「そのプロジェクトリーダー、僕なんで。
『これ、貰っていいですか?』
って聞いたら、『いいんじゃね?』
って感じだったから」
そして、銃を棚から下ろした。
「ここで腐らせとくのは、生みの親としては惜しいんですよ。
攻略に持って行ってくれるなら……
ユリィの推しとして応援に熱が入るっていうかー」
こいつ、梨々花の推しじゃなかったのか?
いや、箱推しというやつか?
梨々花は、ぴくりと目尻を一瞬だけ引きつらせたが、すぐに平静を装った。
「……そう。
じゃあ、ありがたく頂戴しようかしら」
「あ、でも。
ちょっとこのままじゃ」
男は、銃に手を伸ばしかけた梨々花を制する。
「銃身に結界がかかると、レールガンモードのロックが外れるようにしておいた方が安全でしょ。
いちど、ユリィ本人を連れて来てもらえませんか?
調整したいので」
……なるほど。
理屈としては、実に筋が通っている。
感心していると、
男はにこにこ顔のまま、言葉を続けた。
「SSRのサインなんか貰えると、嬉しいしー」
……まあ、サインくらいなら安いものだ。
梨々花は、大きく頷く。
「いいわよ。明日、全員で来るから」
「ユリィに会えるなんて、楽しみだなあ!!」
そう言って表情を明るくしながら、ウエスを取り出して銃を磨き始める。
こうして。
来奈の存在には一切触れないまま、
「また明日ー」
という声に送られて、俺たちは店を後にした。
***
ダークゾーンを攻略した後は、目ぼしいものもなく、俺たちは三階のマップ埋めを終えて、入口へと戻った。
まだ、向こうのチームは来ていない。
しばらく待っていると、さっきの銃の話題になる。
ティナは店では口を挟んでこなかったが、レールガンには興味津々といった様子だ。
「私も、電磁力操作でいろいろ試してるんだけど。
雷光の方が慣れてるから。
でも、物理攻撃の手札は増やしたいのよね……」
この上、長距離砲まで備えたら、ますます手がつけられなくなるだろう。
……だが、ロマンを感じさせずにはいられない火力だ。
そんな話をしながら待っていたが、一向に姿を見せない。
集合予定を、すでに一時間以上オーバーしていた。
何かあったのかもしれない……。
捜索すべきか?
そう考え始めたころ――
ようやく、片方のチームが姿を現した。
ほっとする俺たちの表情を見て、山本先生は申し訳なさそうに頭を下げる。
「すみません、時間がかかって……」
無事なら、それでいい。
細かい話は後で聞くとして、今日の探索はここまで。
俺たちは、二階へと戻るのだった。
***
宿に戻り、山本先生と夕飯の支度をする。
来奈とクラリスは外で組手。
まだまだ、元気が有り余っているらしい。
梨々花とティナ、由利衣は、食堂のテーブルで情報のすり合わせをしていた。
レールガンの話を振ると、由利衣は、さっそく乗り気になる。
ふんふんと頷きながら、梨々花のざっくりとした説明を聞いたあと、
「その……死霊を撃ち出すのも個性的で可愛いけどねー」
そう言って、ふわりとした笑顔を見せた。
……もうひとつのロケットランチャーも琴線に触れたようだが。
アイドルとしては、いかがなものだろうか。
ともあれ。
明日、ダークゾーンの店を訪れることが決定。
そして――
向こうの攻略情報についてだ。
由利衣は、マップの一点を指し示した。
「ここ。オレンジストーンの素材採掘ポイント。
取れる分を取っておこうとしたら、時間かかっちゃってー」
小さく、謝罪のポーズ。
山本先生も、苦笑いだった。
オレンジストーンは、第五層の城の中庭が主な採掘場だが、日本は食い込めていない。
ここにも埋蔵があるとなれば、新たな利権問題になるだろう。
案の定、梨々花が反応する。
「精霊から、借地権は取れないかしら……
まあ、来奈が新しいダンジョンマスターに就任すれば、解決することだけど」
……仲間がリッチーになることよりも、素材の利権。
どこまで本気で言っているのか、正直、判断がつかなかった。
そして、本日の夕飯は――
来奈の中ボス撃破記念。
サーモンのマリネサラダ。
骨付き子羊肉の香草焼き。
大豆と豚肉とほうれん草の、クリーム煮。
そして、白パン。
デザートは、冒険前に山本先生が仕込んでいた、自家製のチーズケーキだった。
しっかり攻略を進めた後の飯は、やはり美味い。
全員の食欲を満足させたあとは、自由時間だ。
うちの三人とティナは、カラオケに行くと言っていたが。
若いやつらには、さすがについていけない。
ここは、ティナの歌とダンスが撮れると大興奮の政臣に任せることにする。
俺はコインランドリーで洗濯を済ませ、そのまま早々に就寝した。
こうして――
不死王のダンジョン、二日目は穏やかに過ぎていく。
……字面だけ見ると、だいぶおかしいが。
とにかく、明日も冒険なのだった。
***
翌日。
攻略パーティの姿は、昨日の小さな武器屋にあった。
八人も入ればぎっしり。
二千年以上ぶりの賑わいだった。
店員の男は、由利衣の魔力パターンを確認しながら、銃に埋め込まれた小さな石を交換している。
これは、普通の武器ではない。
れっきとした、魔法の道具だ。
人造品とはいえ、ダンジョン産の希少素材が必要なため、大量生産はできない。
実用に問題があるとは言え。
オークションにでも出せば、いったいいくらの値がつくことか……。
だが、好事家の観賞用になるよりも、実戦で使ってほしい。
それが、男の望みだった。
であるならば――
由利衣の手元で、これから存分に活躍することこそが、何よりの礼というものだろう。
なお、これまで使用していた銃も、かなりの高性能品だった。
それと交換したことにしておいてくれないか。
そんな申し出があった。
万が一、あとでバレた場合は、それで誤魔化すつもりらしい。
屁理屈もいいところだが、“タダじゃない”で押し切る腹づもりらしい。
……まあ。
商会も昔ながらの雑な管理体制だ。
それ以上の踏み込んだ追及はないだろう、とのことだった。
由利衣は、名残惜しそうな表情を浮かべたが。
店員は、しばらく様子を見て問題なさそうであれば――
「今後ここを訪れた、有望な冒険者に託しますよ」
と、約束してくれた。
そして、レールガン・ユリィカスタムとの交換が行われた。
調整が終わったあとは撮影コーナーだ。
男のスマホと、政臣のカメラで、SSRそれぞれと写真を撮影。
さらには、なぜか山本先生まで加わり、ユニット全員での記念撮影。
……終始、ご満悦だった。
加えて、店に飾るためのサイン色紙。
そして、ここに置いていく銃には、次の冒険者のために由利衣の直筆メッセージを残すことになった。
その様子を横目に、来奈が展示品を眺めながら呟く。
「いいなー。
あたしも、欲しいなー」
……いつもの癖だ。
だが、来奈の動体視力と身体能力を考えれば、銃器の扱いでも真価を発揮するだろう。
選択肢としては、悪くないどころか、むしろ良い。
唯一の問題は――
こいつが、殴るか走るか以外の技量を、ほとんど備えていないことだ。
「あのなあ……入江。
二兎を追うものは何とやら……だぞ」
「ねえ、あたしに似合う銃ってある?」
聞いてない。
来奈は、店員へ遠慮のない言葉をかけた。
店員は、少し苦笑い。
「星の魔眼は銃弾より速く動けるから、殴った方が手っ取り早いんじゃないかなー」
それも、一理ありすぎる。
だが、来奈も引き下がらない。
「格闘もできて、ガンアクションもこなせるヒロインってのがイイんじゃん。
このお店の宣伝するからさー」
自己主張が強い。
店員は、俺の意見を伺うような視線を投げてきた。
……まあ、頭ごなしに否定はしたくない。
直接接触すると危険なモンスターなどへの対策も必要だ。
キュレネの衝撃波は大味なため、使い分けだな。
俺が頷くと、店員は自分の持っていた銀色のハンドガンをゴトリとカウンターに置いた。
オートマチック風のデザインだが、魔力で動くため弾倉はない。
「本当に購入するかは、まずは試してからでどうですか」
そう言って、グリップを来奈へ向けて差し出した。
「ここの攻略の間、貸しておきますから。
ちなみに、これ販売価格は五千八百万G」
来奈の目が、ぱっと輝いた。
店員は、説明を続けた。
「魔力弾を風魔法で飛ばす、わりと単純な構造で、特殊効果はなし。
こんなものでも、魔導ギアってのは高価なんです……」
そう言いながら、カウンターの下からショルダーホルスターを取り出す。
「少ない魔力でも一定の威力が出るブースト機構付き。魔力を込めれば、威力はさらに向上。
小型だし静音性が高いから、初心者でも使い勝手はいいんじゃないかな」
銃をしげしげと眺める来奈へと、さらに続けた。
「射程は五十メートル……は、命中精度無視の理論値ね。
実戦では五メートルから十メートルが良いとこ。
ユリィと違って、ロングレンジの威力よりも機動性重視でしょ」
来奈は店員からホルスターを受け取ると、装着方法を教えてもらいながら着用。左脇に、ハンドガンを収める。
終始、口元が緩みっぱなし。
こうして見ると、なかなか様になっている。
グローブ型のキュレネとの親和性も悪くはない。
何度もホルスターから出し入れする動作を繰り返した後、来奈は店員へ大輪の笑顔を向けた。
「ありがとう!!
あたし、これずっと大切にするからっ!!」
……借りているだけ、ということが分かっているのだろうか。
だが、店員は、
「ライナも、いいかも……」
と呟いて硬直。
結局、何でも良いんじゃないのか?
俺たちは、店員に見送られて店を後にする。
いよいよ、三階のボスに挑むときだ。
来奈と由利衣は、ウキウキが止まらない様子。
ガンシスターズのミニユニットを、勝手に結成していた。
三人しかいないのに。
由利衣が嬉しそうに、梨々花へ声をかける。
「梨々花も、あのロケットランチャーもらっとけば良かったのに。
絶対、似合うと思うんだけどなー」
……似合うか、似合わないかで言えば。
似合うだろうな。
だが、俺はその言葉を口にすることなく、黙々と歩くのだった。
そして、ボス部屋の前。
俺は、ゆっくりと玄室の扉を明け放った。




