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第119話 密談

青い床のルートを抜けた俺たち。


合流地点へと続く扉を開くと――

既に、もう一方のチームは待っていた。


「おっ、きたきた!!」


来奈の元気な笑顔。

マントを風呂敷代わりに担ぎ、頭には金色の髑髏を被っている。


「三階から、お宝けっこう美味しくね?

あたし、嬉しくなってきたよ!!」


その格好はなんだ?

由利衣も同じように、パンパンの荷物を背負っていた。


問いただすと、来奈は少しだけ口を尖らせた。


「だって、委員長いないしー。

マジックリュックがないんだから、仕方ないっしょ」


どうやらクラリスは、本格的に冒険するとは思っていなかったらしい。

持っているのは、普通のバッグ。

そしてそれは、彼女の力の源である干し肉で詰まっていて、空きはないと言う。


由利衣が、苦笑いしながら補足する。


「クラリスさんと山本先生は、持てないなら置いて行こうって言ったんですけど……

来奈が、絶対に嫌だって」


……まあ、そうだろうな。

貰えるものは、病気以外は全部貰う。

それが来奈の流儀だ。


こいつに「お宝を置いていく」という選択肢は、最初から存在しない。


来奈は、クラリスをちらりと横目で見る。


「いらないって言ったんだから。

これ、全部あたしのだしー!!」


クラリスは、やれやれと言った様子で、諭すように言った。


「お宝はな。見つけるまでが一番面白いんだろう。

そいつは――スリルの残滓だ」


それはそれで、だいぶおかしい。


どんな冒険があったのか。

想像できるような、したくないような。


少なくとも、平穏無事ではなかったことだけは確かだ。


そんな俺の思いをよそに、梨々花はさっそく来奈の懐柔を始めた。


「たいしたものね。

お宝に食らいつく、その貪欲さ。まさに来奈の真骨頂だわ」


そう言いながら、百万G相当の魔石をちらりと見せる。


「私たちも、まあまあそれなりだけど……

ちょっと中、確認してもいい?」


そう言って魔石を握らせると、来奈はぱっと表情を明るくし、しゃがみ込んでマントを広げた。

由利衣も、いそいそと荷物を取り出す。


梨々花の視線が、素早く中身を走査する。


――あった。


「呪符が八枚……。

ふうん、ぼちぼちね」


声はあくまで平静。

これが狙いだとは、おくびにも出さない。


だが、切れ長の目が、わずかにピクリと動いた。


「……ねえ。

五枚、黒くなってるんだけど?」


由利衣が、またもや苦笑いする。


「来奈ってば、途中で

『アンデッドゲットだぜ!!』

とか言って、出てきたゾンビを封じちゃって……」


確か、封じると呪符が黒くなると説明書きにあった。


来奈は、能天気に胸を張る。


「だってさー!

せっかく出てきたんだし、取らなきゃ損っしょ?」


そして、思いついたように続けた。


「梨々花もなんか封じてさー。

後でアンデッドバトルやんない?

これ、絶対映えると思うんだよね!!」


梨々花は、来奈へと静かに目線を合わせ、そのまま、じっと覗き込んだ。


「……どしたの?」


来奈が、わずかに肩を強張らせる。

――あれ? なんか変なこと言った?

そんな表情。


数秒の沈黙。


その間、梨々花は何も言わず、ただ来奈を観察するように見つめ続けていた。


やがて――


ぱっと、笑顔になる。


「とても素敵なアイデアじゃない」


そして、何事もなかったかのように続けた。


「じゃあ、残りの三枚は私が預かっておくわね」


何が「じゃあ」なのかは、誰にも分からない。


さらに、


「来奈には……こっちの方が似合うと思うのよ」


そう言って、二階で購入した呪符を差し出す。


「これ、火炎魔法が発動するの。

殴れる炎の魔法使い爆誕ね。やるじゃない」


来奈が被っている金色の髑髏を、ツン、と指先で軽く突く。


きょとん、としていた来奈の目に、光が戻った。


「おっ! こんなのがあるの!?

梨々花ありがとー!!」


心底嬉しそうに声を上げる。


……二階の買い物のとき、寝ていたから知らないのだ。

ちなみに、その呪符は一枚五万Gだった。


そうして、来奈がマジックリュックにお宝を嬉しそうに詰め込み始めた、その隙に。


梨々花は、すっと一歩引き、来奈の視界から外れる位置で、呪符を一枚だけ取り分け――

何でもない仕草で、ティナへ渡す。


「いいの?」


ティナが、思わず目を見開く。


だが、梨々花は表情ひとつ変えず、淡々と言った。


「これで、そっちの手持ちは三枚。

三階から五階までの中ボスを狙えるでしょ。

……価値の分からない人に持たせていても、仕方ないわ」


その言葉に、ティナは小さく息を吐いた。


――真の価値に気づいたら、来奈はきっと渋るだろう。


だが、梨々花は目先の利益で動いていない。

ティナとの長期的な関係構築は、日本パーティにとって、この先、計り知れないメリットになる。


お宝は独占するだけが能じゃない。

さすが、分かっている。


こうして、他のメンバーが知らないところで静かな取引が行われていた。


荷物をしまい終えた来奈が、大きな声で訴えかけてきた。


「ねえ、お腹ペコペコなんだけど」


時刻は、もう夕方近い。

二手に分かれての攻略のため、地図はだいぶ埋まっていたが。

まだまだ空白地帯は多い。


俺はクラリスへと提案した。


「なあ。今日のところは三階攻略をメインにしないか?」


その言葉に、クラリスは合意する。

飯の後は、空白地帯の穴埋めに専念。


俺たちは、全員で先ほどの休憩エリアに移動して弁当を広げる。

手軽につまめるサンドウィッチだ。


梨々花と由利衣は、お互いの情報をタブレットに反映させながら、マップの確認に余念がない。

山本先生の差し出したコーヒーを一口飲み、梨々花が呟いた。


「赤い床のルートにも、スタンプがあるのね。

こっちも取っておかないと……」


どうやら、向こうにも同じような休憩ポイントがあるようだった。


そして、休憩が終わり探索再開。

継続して二手で攻略したほうが早いだろうという話になった。

四時間後に三階の入口に集合。


来奈は、荷物持ちに政臣が欲しいと主張。

まあ、抜けたところで戦力的には一ミリも影響はない。


幸い、ティナのバッグにはまだ容量があるとのことだったので、あちらのチームへ移籍が決まった。


こうして、再び攻略に乗り出す。

今度は、俺たちが赤ルートを逆向きに、クラリスたちが青ルートを攻めることに。


「身軽になったからさー。

今度は、あたしの活躍バッチリ撮ってよね!!」


政臣のカメラへポーズを見せる来奈の声を背に、三人になったチームは赤ルートへと踏み込んで行くのだった。


***


もう一方のルートも、景色そのものは大きな違いがあるわけではない。

しかし、気になる情報があった。


「明かりのないエリア……ダークゾーンか」


由利衣たちは、踏み込んだ直後に撤退し、回避ルートを通ったため、マップ情報はほとんど空白。


スマホのライトも、 わずかに足元を照らすのが精一杯だったと言っていた。


魔法によって作り出された闇。

ならば、攻略法はひとつしかない。


梨々花の静かな声が、通路に響く。


「ここは、光魔法ですね。

まったく……ティナの独壇場だわ」


ティナは、政臣のカメラから解放されたせいか、 終始、砕けた口調になっていた。


「まあねー。審判って、いろいろできるし」


……まったく、万能すぎる。


魔法のポテンシャルは梨々花、物理では来奈のほうが上だろうが。

ティナはそのどちらもが平均以上。

なかなか、お目にかかれないタイプだ。


彼女の国が好きにさせているのも、下手に押さえつけるのは悪手だと分かっているからなのだろう。


そして――

梨々花が装着しているスマートグラスは、いつの間にか、ティナへ無償提供されることに決まっていた。


今後、ティナが攻略した情報は冒険部へと提供され、ロイヤリティが支払われる。

プラットフォーマー戦略の、プログラム第一号。


もはやライバルでも、単なるお友達でもない。

ビジネスパートナーだった。


なお、ティナは冒険部の株式取得にまで踏み込んでいた。

最初は三割購入させろと言っていたが。

交渉の末、その半分で妥結。


そのすべては、代表取締役社長(予定)の政臣抜きで決まっていった。


梨々花は総務課長という、なんとも微妙なポジションに収まっていたが――

気がつけば、経営の舵は彼女の掌の上。


なお、来奈は専務。由利衣は常務。


そして、唯一の社会人経験者である俺は、営業兼・調達部門。

一番胃が痛む最前線を、当然のように任されていた。


大学発ベンチャーというのは聞くが、高校はなかなか珍しいだろう。

だが、学院長の「やってみたらいいんじゃね?」精神ひとつで、着々と起業へ向けて突き進んでいたのだ。


かくして俺は、


SSRの指導者。

学食のおじさん。

寮夫。

ベンチャー企業の社畜……。


四十手前にして、ジョブが増えていく一方だった。


この上、山本先生と定食屋を営むなど、前世でいったい、どんなカルマを積んだらこうなるのだろうか。


そんなことを考えているうちに、件のダークゾーン。


一歩踏み込むと、確かに鼻をつままれても分からないほどの闇の世界だ。


ティナが、さっそく光魔法を展開する。


前方に光源が現れ、通路の先が、ぼんやりと照らし出された。


慎重に、一歩ずつ……。


地図が少しずつ埋まっていく。

転移ポイントはないが、通路は複雑に分かれている。

方位磁石も使えない状態では、すぐに現在地を見失ってしまうだろう。


そして、不意に襲い来るモンスター。


魔力の動きで察知できるとはいえ、暗闇での連戦は、さすがに神経にこたえる。

魔法の光源のもとで村正を振るい、なんとか撃退していった。


マップ埋めも、あと少し。


「今のところ、何もないな」


正直、肩透かしだ。

だが、ダンジョンではこういうことも、ままある。


しかし、梨々花は妙に自信ありげだった。


「ダンジョンマスターの性格からして、何もないのはサービス精神にもとると思いますけど……」


由利衣の地図では、この先は小さな玄室になっている。


何かがあるとすれば、ここだろう。


そして――

その玄室の前に辿り着いた。


「中に、誰かいる……」


ティナの索敵結果だった。


小さな玄室でのバトルだろうか。

分からないが、ダンジョンでは油断した者から命を落とす。


俺は、ゆっくりと扉に手をかけ――

勢いよく、開け放った。


「うわぁっ!!」


中にいたのは、若い男。


そいつは拳銃を抜き、いきなり発砲してきた。


慌てて身をかがめる。

俺の顔面があった位置に、正確に銃弾が撃ち込まれていた。


村正に手をかけると、男は「あれ?」と間の抜けた声を上げる。


「冒険者? それならそうと、ノックしてくださいよぉー」


ヘラヘラと笑いながら、拳銃をしまった。


……モンスターでは、なさそうだ。


「いらっしゃーい。

イクシオン・アンド・ハント商会へ」


男は、にこやかな営業スマイルを浮かべる。


俺は思わず聞き返した。


「イクシオン・アンド・ハント商会……は、知っているが。

こんなところに出店しているのか?」


業界の老舗中の老舗。

ダンジョン深層にもリヤカーを引いて行商する、商魂たくましい集団だが……。


こんな隠しダンジョンにいるとは。


男は、営業スマイルを崩さずに答えた。


「そうなんですよー。

うちの初代と、ここの初代ダンマスがツーカーの仲だったらしくて。

毎年、交代で誰か出向させられるんですけど、お客さんなんて、二千年以上も来てなくて。ほら!」


そう言って、真っ白な帳簿を見せてくる。


……これで、商売になるのだろうか。


素直な感想を口にすると、男は大げさに肩をすくめた。


「やだなー。この店の売上なんて、言わなくても分かってるじゃないですか。

でも、続けてるのは義理人情だけ、ってわけでもないんですよね」


聞くところによると、商会は、このダンジョンに極秘で現代兵器やITシステムを卸しているらしい。


「バレるとまずいんでー」と、男は腕をクロスさせて笑った。

こっちもそんなヤバい情報は知りたくもない。


話を戻すと、ダークゾーンの一室は初代の頃から続く、ただの慣習。

伝統を絶やさないための、採算度外視の店舗経営だった。


「僕、ネトゲができれば別に住むところはどこでも構わないんで。

給料いいし、あと三十年くらいここにいてもいいかなって」


男は、あいかわらずヘラヘラと笑う。


ここは携帯通信網こそ圏外だが、光ファイバーが通っており、Wi-Fiは問題なく使えるらしい。


昔は穴倉生活に発狂する者もいて、「地獄送り」と呼ばれていた配置だという。

だが、いまではむしろ、商会内でも羨ましがられるポジションらしい。

時代は、変わるものだ。


そこに、梨々花がヌッと店舗に入ってくる。


「なるほど。ここはお店だったんですね。

どんな商品を扱っているんですか?」


すると、男は急に電撃に打たれたかのように固まった。


「リ……リリカ様?」


知っているのか?

まあ、ネットがあるくらいだからな。


次の瞬間、男は急に興奮した口調になった。


「いつも見てます! リリカ様の腹黒さと、陰湿さと高飛車!

臣民一同、応援していますからっ!!」


応援する要素がひとつも見当たらないが。

どうやら、珍しい属性らしい。


だが、思わぬところで推しに出会った梨々花は、満足げな表情を浮かべた。


「そう。良い心がけね。

それで、ここは何を売っているのかしら?」


男はガラス張りのカウンターに視線を落とし、若干トーンダウン。


「あ、ええ……ここの取り扱いは銃器で。

隠しダンジョンならではの品を揃えろというのが初代からの方針なんですけど。

でも、リリカ様のおめがねにかなうモノがあるかは、その……」


見ると、カウンターの中には拳銃が陳列されている。後ろの壁には、ショットガンやアサルトライフル。


いずれも魔力弾が発射可能なモデル。

銃型の武器は流通量が限られている。この店の存在が知れれば、買い付けにくる冒険者は後を絶たないのではないだろうか。


だが、梨々花は陳列品を一瞥し、ポツリ。


「悪くはないけど……。

うちの由利衣が持っているものの方が、性能は上じゃないかしら?」


値踏みするような目。

男はグッと表情をこわばらせた。


梨々花は、ふう、と息をつく。


「……ダークゾーンの商店。期待していたけど。

まあ、これからも応援よろしくね」


そう言って踵を返す梨々花に、男は声を張った。


「ちょっと待った!!」


勢いよくダンッとカウンターのスイッチを叩くと、背後の壁が回転し、隠し陳列棚があらわれた。


男は展示されていうちの、一丁の銃を見つめる。

そして、真剣そのものの表情で言った。


「これは、商会とダンマスとの共同開発です。

魔力を鋼属性と雷属性に変換して、成形した弾丸を電磁力で撃ち出す……

威力だけなら、上級魔法にも匹敵しますよ」


そして、銃を眺めながら続けた。


「ただ、銃身の損耗が激しくて。

せいぜい数発程度しか持たないだろうということで、量産化は見送られたんですけど……でも」


梨々花は、ゆっくりと振り向いた。


「由利衣の結界で銃身を強化すれば……と、いうことね」


男は静かに頷く。


こうして。

またもや本人の知らないところで、話がまとまろうとしていた。

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