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第117話 分断

隠しダンジョン二階のボス、デュラハンを撃破。


武人らしく、小細工無しのストロングスタイルは嫌いではないが。

見せ場らしい見せ場もなく終わったのは、中ボスとしては無念だろう。

俺は胸の内でそっと手を合わせておいた。


それはそれとして。


初回クリア特典は、剛力の手甲。

上腕を覆う装備品で、その厳つい名前とは裏腹に、装飾の施された銀色の美しい逸品だ。

華美ではないが素朴すぎもしない。所有欲を満たす、確かなクラフトマンシップを感じさせる。


筋力へのデバフを防ぎ、戦闘中に生じる筋疲労や神経断裂を、即座に修復する効果があるという。


クラリスは、ひと目見て大喜びだった。


「なるほど! 無限筋トレというわけだな!!」


何か違うことを考えているようだが、本人が満足なら、それで良しとしよう。


そして。

二階ボス部屋は上の階へと続く階段があらわれ、スタンプラリー台も用意された。

俺は紙にスタンプを押しながら、今回のMVPである来奈にそっと目をやる。


パーティメンバーに囲まれ、得意満面。


「なんか、少し魔力制御っての分かってきたかも!」


と、顔を上気させていた。


……すぐに調子に乗る。

と、言いたいところだが。


来奈は他の二人に比べてスロースターターだ。

コンプレックスを感じるなという方が、無理な話。

少しコツを掴みかけてきたのが、嬉しくてたまらないのだろう。


しかし。実際のところ、あの動体視力と速度。

ベースのフィジカル性能が、他の魔法使いとは根本的に違う。

その原石が、ようやく本格的に磨かれていこうかという段階に来ていた。


あらためて思い知らされるSSRのポテンシャルに、喉をごくりと鳴らす。


スタンプを持ったまま、そんなことを考えていたところ、来奈がふとこちらを見た。


ニカッと爽やかな笑顔で、


「教官、ありがと!」


さっきのアシストのことか、それとも別のことか。

たぶん、いろいろな意味があるのだろう。


俺も軽く笑い返す。


「さっきのは、良い一撃だったな。

いつも訓練していた成果が出たじゃないか。

視聴者さんにも好評だろうな」


そう。

いきなりチートパワーが覚醒したわけではない。


成果がなかなか見えない中でも、腐らずに毎日地道に魔力集中を繰り返してきた、反復の賜物。


魔力の流れが改善したのは、マイナス要素がゼロに近付いただけ。

プラスの成果を引き出したのは、間違いなく来奈の努力の賜物だ。


褒められた来奈は、急に照れ出す。

後ろ頭を手でかきながら、


「あ、えっ? うん。

視聴者さんに、あれはまぐれだって言われないように、もっと訓練しないと。なんて……」


その姿勢なら、大丈夫そうだな。

俺にSSR三人を預けた麗良は、次世代のレイドランカーの育成を期待していたが、そのときはそう遠くないのかもしれない。


だが、それ以上言うと、やっぱり調子に乗りそうだ。


俺は来奈へと頷くと、話をダンジョン攻略へと切り替えた。


「これで二階クリアか。まだ長いな……」


そう言って、魔女から貰った紙を確認する。


ごく簡単な説明しかないが。

三階は転移による特定ルートを辿らなければボス部屋には辿りつけない構造らしい。

ストレスにくるやつだ。


一方、梨々花の瞳には商魂の光が宿る。


「面白そうじゃないですか……

エンタメで魅せて、攻略情報で稼ぐ。この両輪が私たちのビジネスモデルですから。

次の階はうってつけですね」


言っていることに間違いはないが。

そのベンチャースピリットに、思わず苦笑いが漏れる。


近く、冒険部は高校の部活動にも関わらず、法人登記する予定だ。


代表取締役社長は政臣となるが、傀儡であることは言うまでもないだろう。

なお、学院長が株式の二十五%を出資することで、梨々花と話がついている。


この隠しダンジョン攻略には、大株主の期待もかかっていることを思うと、胃が痛い。


俺は下からと上からの圧を感じながら、三階への階段を登るのだった。


***


由利衣の作成したマップによると、三階は行き止まりの多いフロア構成だ。

そこここに転移ポイントがあり、繋がっているのだろう。


戻ることができるのか、一方通行なのかも分からない。

梨々花は、一つ一つ検証していく気のようだが……。


「なあ、けっこう広いぞ。

一日で終わるかな、これは」


俺の不安に、涼しい顔で応える。


「一日で終わらなければ、何日でも……。

一週間やそこらは、食料も大丈夫ですよね?」


……聞くだけ無意味だった。


そして、そんな俺とは別の不安をティナが口にした。

顎に手を当て、何か考えるように。


「磁場が乱れてるわね、ここ……」


スマホの方位磁石アプリを確認してみると、確かに針の動きが定まっていない。


これには、意味があるのだろうか?

よく分からない。

だが、嫌な予感だけは確かだった。


そして。

通路を辿り、最初の玄室に踏み込んだ俺たちに、さっそくダンジョンは牙を剥いてきた。


そこは十メートル四方の小さな部屋で、特に何もない。

目の先には次の通路に続く扉があるだけ。

単なる素通りだと、油断していたのがいけなかった。


部屋の中心まで差し掛かったとき、来奈が呟いた。


「ねえ、なんか床が光ってね?」


よく見ると、この部屋の床は、中央を境に左右で微妙に材質が違っていた。

そして、来奈の足元の床は赤、一方の俺の足元は青く光っていた。


これはもしかすると……。


「おいっ、転移……」


言い終わる前に、俺の体は別の空間にあった。


***


「……まいったな」


気がつくと、パーティメンバーは俺を含めて梨々花とティナ、そして政臣の四人。


来奈、由利衣、山本先生、クラリスは赤い床だった。

どうやら、別々の場所へ転移したようだ。


「いきなりトラップにかけてくるとは、なかなか手強いですね……」


梨々花が冷静さを崩さずに言う。


最初から分かっていれば分散はしなかっただろうに、初見殺しな仕掛けだ。


「それにしても、先生……」


切れ長の目が、真剣な眼差しで俺に何かを訴えかけた。


「あの、赤と青の床の中間にいたら、体が真っ二つになって転移していたんでしょうか?

次は、来奈で試してみたいですね」


気にはなるが、どうして毎回自分で試そうとしないのか。


俺はその言葉には答えず、スマホを取り出す。

連絡を試みるが、圏外だ。

……念を入れてきているな。


そもそもダンジョンでスマホが使えることが不思議なのだが、精霊と通信事業者との契約らしい。

それ以上のことは知らない。


梨々花はスマートグラスを懐から取り出して、学級委員長タイプにフォームチェンジ。


指先を動かし、スマートグラスを操作しながら呟く。


「とりあえず、行きましょうか。

あちらとは、いずれ合流できます」


最悪、ボス部屋の前で合流かもしれない。

クラリスの性格からして、突き進むことが予想された。


そして、向こうの心配は……。

戦力的には大丈夫だろう。なにしろ、クラリスがいるのだから。

由利衣の索敵もある。


こちらは、政臣は非戦闘員のため、実質三名。

だが、バランスはそれほど悪くない。


俺は小さく頷いて同意した。


「確かに、じっとしていても仕方ないな」


背後は行き止まり。

目の前は、かなり長い一本通路。先は薄暗くてよく分からない。


慎重に進んでいくと、不意にティナの声がかかった。


「止まって」


全員の足がその場で止まった。


「いま、転移したわね」


……何も感じなかったが?

目の前は相変わらずの一本通路だ。


「“向き”を変えられたのよ。私たちが今向いてるのは来た道」


景色に変化がない。

だからこそ、違和感がまったくなかった。

方位磁石を狂わせているのは……このためか。


「電波で索敵していたのよ。

……反射の仕方で分かった」


由利衣は魔力の結界を伸ばしてスキャンを行うが、別の索敵方法があるとは。


「審判にそんな便利な能力があるなんて……

次は何が飛び出してくるんでしょうね」


梨々花は、楽しそうに含み笑い。

途端にティナは顔をしかめた。


「手の内を明かすのは嫌だけど。

ここは命がかかってるから……

ディレクターさん、いまの映像は後でカットされてるの確認するからね」


鋭い視線を送ると、政臣は気圧されたようにこくこくと頷いた。


その隣で、梨々花はスマートグラスを操作して、情報を書き込んでいた。

現在行っているのは、マップ作成。


装着者の歩幅と、スマートグラスに搭載されたカメラやジャイロセンサーから移動距離を測定して、自動でマップを作るアプリを、政臣が開発していた。


現在は磁場の乱れがあるため、向きが分からない。そこは手動で補正する必要があったのだ。


そうして、ある程度地図ができたら、由利衣が作成したマップと照合して現在位置を割り出す。

これが日本パーティの、魔法と科学の情報戦だ。


ちなみに。

このスマートグラスは冒険部ブランドでも販売予定だ。

開発メーカーへOEM生産を委託し、ロット五百台で仕入価格は四万二千五百円。

販売価格は六万九千八百円の予定。


ダンジョン攻略情報と連動するデバイスであるため、本命はサブスク課金ではあるが、開発費の回収まで含めると、これくらいの価格設定は必要だ。


俺は五百台の仕入れは在庫リスクを懸念したのだが、それ以下はコスト的に見合わず、やむを得ずだった。

なにしろ、アーリーアダプター向けの、市場規模が読みづらいデバイスなのだ。


「市場は読むものじゃなくて、創るんですよ」


などと、梨々花は威勢の良いことを言うが。

原価管理と在庫管理は経営の肝要だろう。


――話を戻そう。


とにかく、梨々花がいてくれることで、由利衣と分断された状態でも立て直しは可能だった。

加えてティナの索敵まであるのは、心強い。


進行方向の向きを修正して通路を進むと、ティナの「来るよ」の声。

いよいよ、お出ましのようだ。


モンスターは二体。


ライオンの頭と胴体、胴体からはヤギの頭が生えている。そして、ヘビの尾。

体長は三メートルほどのキマイラだ。


こちらは、俺とティナが前に出て、梨々花が少し後。

政臣はさらに後方に下がらせている。


「一体は、任せられるか?」


ティナへ声をかけると、「オーケー」と軽快な返事。

その声とともに、身につけているショートケープのフードをかぶった。


これは、一階で取ったお宝の透明マント。

フードを被ると効果発動。途端に、ティナの気配がすうっと消えた。


実際に見えなくなるわけではない。

しかし、この存在感のなさ。


認識阻害および、魔力の遮断効果。

今まで目の前にいたことが分かっているから、なんとか姿を捉えられているが。

下手をすると、目の前で鼻をつままれても分からないかもしれない。


「……すごい。

これは、欲しいですね。また一階で戦いましょう」


梨々花が感嘆の声を漏らす。

初回クリア特典ではない場合、激渋確率でドロップするらしいが。

また来奈に憑依されるのは勘弁して欲しいぞ。


「……まあ、いずれな。

今は戦いに集中だ」


俺が誤魔化すと、梨々花は気を取り直して質問してきた。


「先生、あれの特徴は?」


「攻撃方法は物理と雷と火炎ブレス……

杖はアイシクルワンドがいいだろうな」


政臣が即座にマジックリュックからアイシクルワンドを取り出し、梨々花へと手渡す。


水の魔力を氷に変換する杖だ。

梨々花はさっそく杖を構えて戦闘準備。


それを視界の端で確認し、村正を抜き放つ。

同時のタイミングで、キマイラの一体が突進してきた。

もう一体は、獅子の頭からブレスを放つ構え。


俺は突進してきた一体へと踏み込み、村正でヤギの頭を斬り落とす。ヤギは雷を発生させる厄介なやつだ。


爪をいなして脇へ避ける。

間髪入れず、蛇の尾が襲ってきた。

しゃがんでそれをかわしざま、前脚を切断。


俺の頭上を通り過ぎる蛇の尾を、左手で飛燕を抜いて切り落とす。


立ち上がりざまに、態勢を崩したキマイラの胴へと、村正を斬り上げた。


――もう一体の方は。


火炎のブレスを、こちらへ放ってきた。


「先生、下がってください!」


対峙していたキマイラから一歩飛びのくと、梨々花がアイシクルワンドを振る。

俺の目の前に氷の壁があらわれ、火炎を防いだ。


ティナは?

と思うが、目を離したらもうおしまい。

どこにいるのかまったく分からない。


そのとき、残り一体のキマイラの腹が不自然に抉れた。

同時に、青白いスパークが迸る。


キマイラが咆哮を上げ、光の粒と化した。


ティナが、フードを上げて姿をあらわす。

金蛟剪のヘッドで腹を殴り、雷光を直接叩き込んだのだ。


「わー。これ、すごく便利ー!

良いものゲットしちゃいました!!」


そう言って、政臣へ向かってパーフェクトスマイルを飛ばした。


梨々花が、背後でそっと呟く。


「先生、あれの対処は?」


「そうだな……。

物理的には存在しているわけだから、黒澤の結界を薄く多重展開して、破られた位置で補足……からの、範囲魔法攻撃が有効だろうな」


梨々花は、「ふうん」と息を吐く。


……いや、思わずつられて対抗策を分析してしまったが。


審判のSSR、最強ソロ冒険者への道を爆進中。


いまは、味方で良かった。

政臣のカメラの前でポーズを決める姿を見ながら、心から思うのだった。

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