第10話 新装備
残り――あと一週間と三日。
モンスターの巣を次々に襲撃し、現在のレベルは二十五まで積み上がった。
そこで、一度ボスに挑んでみようと、俺は三人に提案した。
まだ勝てるかどうかは微妙なライン。
だが、ここまで鍛えていれば、瞬殺されることはない。
まずは一度、ボスの強さを肌で感じる。
ダメそうなら無理せず撤退――その構えだ。
***
なお、現在の三人のステータスはこうだ。
【入江 来奈 ★】
ランク:SSR
レベル:25
体力 :A 356
攻撃力:S 502
魔力 :C 148
耐久力:S 499
魔防 :B 256
敏捷 :S 505
幸運 :B 252
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【桐生院 梨々花 ★】
ランク:SSR
レベル:25
体力 :B 258
攻撃力:D 82
魔力 :S 504
耐久力:B 255
魔防 :S 500
敏捷 :A 357
幸運 :A 353
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【黒澤 由利衣 ★】
ランク:SSR
レベル:25
体力 :A 354
攻撃力:B 256
魔力 :S 501
耐久力:B 257
魔防 :S 503
敏捷 :C 155
幸運 :S 506
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一層ボスのステータスは、平均で五百台。
いい勝負ができそうだ。
それはそれとして。
俺は変わらず、昼は学食でカレーをよそっている。
来た当初は、「なんかおじさん混じってるな……」という程度の、ほぼ無関心。
第一層攻略の訓練が始まったばかりの頃は、「ビキニつけるとき、無駄毛処理しとけよ」などと、ニヤニヤ軽口を叩いてくる男子学生もいた。
しかし、訓練風景が話題になってくると、そんな声はすっかりなりを潜めた。
いまでは、魔力集中ってどうやるんですか?――と、興味津々に聞いてくる学生までいる。
そこで、政臣と梨々花に頼んでトレーニング動画を作ってもらったのだ。
由利衣は感覚派だし、来奈は説明が苦手なので、こういうときに頼れるのは梨々花だった。
そして、どうやら“リリカ様の魔力集中講座”は、受けも上々らしい。
コンテンツが充実してきて、政臣も満足そうだった。
そんなわけで――新しい職場にも、少しずつ慣れてきていた。
仕事を終えて部活へ向かおうと、校舎の廊下を歩いていると声をかけられる。
振り向くと、そこには獅子丸の騒ぎのときにいた山本先生。
今日もジャージ姿だ。
魔法使いとしてのランクはRだが、戦闘訓練は積んでいて、そこそこ強い――と来奈が言っていた。
山本先生は、困ったような表情を浮かべ、まずは俺に頭を下げた。
「すみません。獅子丸くんがいろいろ迷惑をかけているみたいで……。
尾形先生もお詫びをしたいって言っていたんですけど、最近は出張続きで」
人気SR魔法使いともなると、あちこちに引っ張りだこだ。
部活の顧問だけでも手一杯だろうに。
「気持ちだけで充分ですよ」
俺は軽く会釈した。
正直、獅子丸が火をつけてくれたおかげで、三人の伸びは目を見張るほどだ。
やり方は褒められたもんじゃないが――まあ、今さら蒸し返すことでもない。
そう伝えると、山本先生はさらに困ったように眉を寄せた。
「それで……一年の子から聞いたんですけどね。
どうも入江さんたちの妨害をするって話を、獅子丸くんがしていたみたいなんです」
俺は黙って耳を傾けた。
「教えてくれた子は、怖がっていて……。
『絶対に本人には言わないでください』って。
ただ、放っておけなくて……一応お伝えしておこうかと」
妨害、ねえ。
あいつは確かに強いが、あの三人だっていまでは決して引けをとらない。何を仕掛けてきても返り討ちにできそうだった。
しかし、わざわざ教えてくれたことには感謝だ。
「ありがとうございます。充分気をつけます」
そう言って頭を下げ、立ち去ろうとすると――
山本先生は、まだ何か言いたげ。
俺が立ち止まっていると、おずおずと口を開いた。
「あの……。これは尾形先生が直接お願いするつもりだったんですけど。
佐伯さんの訓練動画を見て、ぜひ魔戦部にも取り入れたいと。
たまにで構わないので、見てもらえないかって。
でも、尾形先生……高柳くんのお願いを断った手前、ちょっと言いづらそうで」
本音を言えば面倒ではある。
だが、あの三人が同世代と技を磨くのは、悪いことじゃない。
「合同練習という形なら、いいですよ。
いまは第一層の攻略に集中したいですけどね」
そう答えると、山本先生はほっとしたように息をつき、笑顔を見せた。
「ありがとうございます! 尾形先生に伝えておきます」
ぺこりと頭を下げると、足取りも軽く立ち去っていった。
――やれやれ。
と、思ったところで背後に気配。
振り向くと、曲がり角の陰から来奈がひょいと顔を出していた。
「教官、山本センセーといつの間に仲良くなったの?」
ニヤニヤと笑っている。
少し立ち話をしただけでこれだ。言動が小学生並みだな。
だが、そうやって勝手に盛り上がるのも、思春期ってやつだろう。
「魔戦部のことでちょっと話しただけだ。
第一層の攻略が終わったら、みんなにも話す。……いまは集中だ。
ボスにチャレンジするんだろう? 気を抜くなよ」
「気合いならバッチリだよー! なんなら今日倒しちゃうんだから!!」
腕まくりして肩を回す来奈。
そいつは頼もしいことだ。
俺と来奈が部室に向かうと、すでに全員が揃っていた。
さっそく、ボス戦についてのブリーフィングを始める。
***
第一層のボス、デーモンロード。
悪魔系モンスターは魔法耐性が高く、状態異常などの搦め手を好む厄介なタイプだ。
有効属性は光。
ただし、光系魔法は中級魔法からだ。
SRなら★2の後半あたりで習得できるが、SSRとはいえ現段階ではまだ届かない。
さらに最上位種になると物理耐性まで備え、手が付けられなくなるが……幸い、こいつには打撃が通る。
主戦力は来奈だ。
「入江はボスの攻撃に集中。
桐生院は取り巻きの使い魔――フレイムドッグの掃討だ。あいつには水系が有効だな。
黒澤は防御結界の維持と回復、それと状態異常対策だ」
そこで由利衣が手を挙げた。
「デーモンロードの魔法って、睡眠なんですよね」
「その通り」
俺は頷く。
「麻痺や混乱なんかを食らうと、今のお前らじゃ対処不能だが……睡眠は別だ。
黒澤との相性は最高だろう」
皆の視線が由利衣に向かう。
「何しろ――戦闘中に、すでに寝ているんだからな」
由利衣はこくりと頷き、どこか誇らしげに胸を張った。
ダンジョンに入ってからの訓練で、寝るのも起きるのも自在になりつあった。
「そういうわけで、黒澤は他の二人が眠らされたときの対処役だ」
そして、いよいよ階層ボスに挑むとなると――
初心者用の装備というわけにはいかない。
「入江は魔力伝導の良い素材の戦闘用グローブだ。魔法効果を乗せた拳を撃ち出すことができる。
桐生院も同じく、魔力を通しやすい杖を用意した」
装備の調達は、麗良に頼んでいた。
基礎能力の向上に重点を置いたタイプで、派手さはないが扱いやすい。
癖のある高級装備より、今はこれでいい。
ふたりは嬉々としてそれを受け取る。
来奈は拳を鳴らし、梨々花は杖を静かに構えて感触を確かめる。
そして――
一番の目玉は、由利衣。
彼女の希望は、銃。
俺は肩掛けのライフルをケースから取り出し、由利衣の目の前にゴトリと置く。
「魔法使いの特権として、どんな武器でも携帯は許可されてる。だから銃でも問題ない。
ただし、普通の銃弾じゃモンスターには通用しない。
――これは“魔導ギア”だ」
精霊とのパスが繋がった人を魔法使い。パスが繋がった道具を魔導ギアと呼ぶ。特殊な力を秘めている。
ダンジョンモンスターを倒す方法は大きく三つ。
攻撃魔法、魔力を乗せた直接攻撃、そして魔導ギア。
「こいつの入手は、麗良も苦労したんだぜ。
銃型の魔導ギアは数が少ないからな」
俺は注意を促すように言った。
「使い方は、魔力を込めて引き金を引くだけ。
ただ、射撃訓練なんてやってないからな。ボス戦では頼らないこと」
由利衣はコクコク頷き、ふわりと笑った。
「ありがとうございます、コーチ!」
「俺じゃなくて、麗良にだな。
まあ……お前たちが強くなれば、あいつも星上げできて強くなれる。それが恩返しだ」
由利衣だけではなく、来奈と梨々花も真剣な顔で各々の新しい武器を見つめていた。
そこに、満を持したような政臣の声。
「それじゃ、新コスチュームも行ってみようか!!」
……嫌な予感がする。
配信受けを狙った、フリフリのやつとかじゃないだろうな。
政臣は三人に紙袋を渡すと、俺を引き連れて部室を出た。
待つこと十分。
出てきたのは、予想に反してフリフリではなかった。
白シャツにネクタイ、タイト気味のベストに膝丈のスカート。ベースは学院の制服に近い。
そして、腰上あたりまでのケープマントが揺れている。
来奈は赤に金縁のマント。ネクタイも赤で、ベストとスカートは黒。
梨々花はネイビーブルーのマントに銀の縁取り。ネクタイは同色、ベストとスカートは濃紺。
由利衣は白地に金縁のマント。ネクタイはオレンジ。柔らかなグレーのベストと、ダークグレーのスカートがトーンを締めていた。
動きやすそうだし、いいんじゃないかな。
魔法使いの学生チームらしい装いだと思えた。
政臣は早速嬉しそうにカメラを回している。
「こう見えて、魔法耐性も物理耐性も高いんだから。しっかりバトルやってこう!!」
そういうところは、まともな判断ができるようだ。
装備も一新。ボスモンスターに今の実力がどこまで通じるか。
三人の気合いは充分。
そして挑戦が始まった。




