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第09話 モンスターの巣

訓練を開始してから、一週間以上が経過した。


あれから三人は授業を抜けることはなくなったが、ひたすら魔力集中。

教師の話など一切耳に入っていない。


由利衣にいたっては、昼休み以外ずっと寝ていた。


それでも注意が飛ぶことはない。

授業中に三人へ当てられた問題は、すべて政臣が回答。

ツッコミを許さないのは――現役総理大臣の子息という、理不尽なパワーだった。


なお、体育の授業ではソフトボールを始めるクラスメートをよそに、来奈と梨々花は魔法戦の組手。

由利衣は、等間隔に並べたロウソクを凝視していた。


あまりにも異質な光景。


――だが。


それを見守る全員が理解していた。


こいつらは、本気だと。


***


そして放課後の部活動。


最初は“道楽ボンボンが金と権力にあかせて女子生徒を囲っている怪しい部活”。

そんな風聞が流れていた。


だが今では、“ガチ戦闘民族と、ついでにボンボン”。

評価は少しずつ変わりつつある。


その練習風景には、すでに人だかりができていた。


***


俺が無言で左手に魔力を込めると、来奈はすかさず魔力の乗った右の蹴りで反応。

同時に右手から放った風魔法は、梨々花の同属性魔法で相殺された。


次に、俺は由利衣の前方二十メートル地点に土人形を形成。

そこへ炎弾を放つ。


由利衣は目を閉じていたが、索敵で正確に位置を把握。

即座に防護結界を展開し、炎弾を寸前で弾き返した。


一連の動作、約五秒。

日が暮れるまで延々と繰り返す。


さすがに俺は途中で魔法の使用回数が尽きたが、麗良に頼んで仕入れていたポーションをがぶ飲みして続行した。


すべて日本政府持ち。

SSRを育てるためなら、安い投資だ。


そして、ギャラリーの期待は、いやがおうにも高まっていた。


もしかして、本当に第一層を突破できるのでは?

ついこの間まで素人だった魔法使いなりたてが――と。


訓練風景は政臣によって次々と動画サイトに投稿され、

いまや学院生注目のコンテンツになっていた。


さらにその噂は、プロ冒険者の耳にも届く。


『魔力の起こりの筋が良い』


『俺も同属性魔法の打ち合い、友達とやったわー』


コメント欄は軽口と感嘆が入り混じり、徐々に盛り上がりを見せていく。


だが――次第に『こいつら、何者?』という投稿が増え始めた。


まだレベル8だと分かると、誰もが信じられないという反応を見せる。


そして、図らずも俺まで注目されることになる。


『このオッサン、ヤバくね? こんな精密な魔力操作、見たことないんだけど』


『何でレイドに出ないんだよ』


『裏の暗殺部隊出身? こいつ、やってる目してるぞ。俺にはわかる』


……そんなコメントが溢れかえる事態になった。


***


そして二週間が経過――。


「うん。まずまずじゃないか。

次は――レベルアップ、いってみようか」


軽く言い放つ。だが、これは大きなステップだ。

力の使い方を知らずにレベルだけ上げれば、足元をすくわれる。


だが、今の三人なら大丈夫だろう。


そして、ダンジョン攻略用の装備を渡す。


最初の配信動画では、梨々花は高価な杖を握っていたが、その性能に振り回されていた。

なので、あえて初心者用のものにした。最初から道具の性能頼りでは、この先やっていけない。


「入江は戦闘用グローブ。桐生院と黒澤は木の杖だ」


特に効能なんてない。来奈は甲に砂鉄の入ったミリタリー用のグローブ。

梨々花と由利衣は単なる棒。無くても良いくらいなのだが、今後、魔杖を使う際の訓練になる。


しかし、由利衣は「杖ですか……」と表情が曇る。


「守りと回復主体だからオススメは杖なんだが。

別のが良かったのか? 言っておいてくれれば用意するぞ」


そう言うと、由利衣は一転して笑顔を見せた。


「おっ、由利衣。何にするの? あたしのオススメは吹き矢かな〜。毒塗ってさ!!」


来奈が興奮気味に声を張る。

余計なことを言わなくて良いんだ。


由利衣の希望は、また後で聞くことにして。

俺たちは、ダンジョンゲートへと向かった。


***


スタートポイントに立つと、受付のゲンさんがにこにこと出迎えてくれた。


「修ちゃん、最近話題なんだって? お嬢ちゃんたち」


その言葉に、三人が思わず背筋を伸ばす。


ゲンさんはじっと彼女たちを眺め、目を細めた。


「うん、SSR……。長いことやってるけど、ほんと久しぶりだね」


そして口元をゆるめる。


「“星”と“魔術師”と“女教皇”。

いやぁ、揃いも揃ったね。僕は日本担当だから、やっぱり贔屓しちゃうよ。応援してるから」


そう言って、ダンジョンへ降りる俺たちに手を振った。


***


第一層は、先人の努力によって安全な経路が確立されており、ボスまでほぼ一直線で行くことも可能。

そのため、攻略ルート自体はそこまで心配していなかった。


――問題は、ボスに打ち負けないだけのステータス。

そこを積み上げていく必要がある。


「まずは、これまでの練習の成果を確認しながら進むぞ。黒澤――」


言い終わるより早く、由利衣はすでに寝ていた。


同時に、索敵用の結界が広がっていく。

起きているときは有効距離百二十メートル・範囲百八十度。

寝ているときは五百メートル全方位。


過酷な修練の果てに、彼女は“二秒で寝られる”スキルを身につけていたのだ。


そして、薄く目を開ける。


「コーチ。北北東の方角三百メートル地点に多数の反応……。種類は分かりませんけど、多分ジャイアントバットの巣じゃないかなーと」


モンスターの識別までは経験不足だが、十分な高性能レーダーだ。


ダンジョンのフロアには、モンスターの巣――通称モンスター溜まりがある。

そこを重点的に襲撃し、効率良くレベルアップを行う。


一度倒したモンスターはリスポーンまで時間を要するため、フロア間を周回して狩る必要があった。


「まずはジャイアントバットいこうか。

最初の動画から半月くらいだな……。獅子丸が言ってた“ヘタレプレイ”が、どれだけ進化したか見せてくれよ」


三人は静かに頷く。

いつもなら「任せとけ!」とテンション高く返す来奈も、口元を引き締めていた。


いまの自分たちが、どこまで通じるか。

ダンジョン最弱クラスの相手とはいえ、油断はしていなかった。


***


そして、俺たちは巣の前に立った。


政臣が構えるカメラの冷たいレンズに視線をやる。


「言っとくが、今回の攻略では俺は戦闘に参加しないからな」


――いまはライブ配信中だ。


政臣がスマホを確認する。

同時視聴、八十五人。


無言で軽く手を上げた。


「よし、制圧するぞ。黒澤、数は?」


「三百二十六体です」

即答。


「よし。突入したら、入口を結界で塞げ。一体も逃がすな――行け!」


来奈が閃光のように駆け出す。

梨々花と由利衣が続き、俺と政臣が最後に突入した。


***


来奈は突入と同時に、すでにジャイアントバットの魔力を捕捉していた。


――わかる。


突然の侵入者に慌てているが、敵の動きもすべて魔力の流れで見える。


(こんなに遅かったかな……。教官に比べたら止まってるみたい)


またたく間に十体は叩き落とした。

自分でも信じられないといった表情を浮かべる来奈。


「……こんな動きができるなんて」


そこに、梨々花の冷静な声がかかる。


「後がつかえてるわ。ボーっとしてる暇はないでしょ」


次々に礫を形成し、風魔法を乗せて群れめがけて撃ち出す。


(こんなの、先生のに比べたら豆鉄砲ね……。でも、いつか必ず)


バタバタと落ちるジャイアントバット。

礫の雨を抜けた個体は、来奈が次々と叩き落としていく。


……そして、由利衣は寝ていた。


だが、来奈と梨々花にはしっかり防護結界が張られている。


そうして、三十分もかからずに制圧は完了した。


***


由利衣は、レベルアップ音で目を覚ました。


「お疲れ〜。うん、近くにもうモンスターはいないね」


嬉しそうに声を上げる。


来奈と梨々花は、額に汗をにじませながら――互いに視線を交わす。


そのとき、政臣が嬉しそうな悲鳴を上げた。


「同時視聴、二百五十人超えてたよ! ほら、コメントも」


スマホをこちらに向けると、画面には書き込みが流れていた。



『黒髪の魔法、エグいな』


『ショートカットの動き、低レベルとは思えない。良い意味で怪物』


『ひとり、戦闘中に寝てるんだけど。大物すぎ』



政臣が嬉々としてスクロールするたび、コメントはどんどん増えていく。

まだ数は少ないが、SSRパーティのお披露目としては上々だ。


だが、中には冷水を浴びせる輩も混じっていた。

『最弱のザコ相手にイキッてんじゃねえよ』とか、そういう類のやつらだ。


俺には複雑な心境が湧いた。

最弱相手に勝ち誇るために、こいつらは寝ていたわけじゃない。――いや、由利衣は寝ていたが。


気にしても仕方がない。

そう思って声をかけようとすると、来奈たちは気にする素振りすら見せなかった。


「いまはザコ相手かもしんないけど、あたしは充分嬉しいんだ。こんなに強くなってるなんて、信じられないよ!」


この先、注目を浴びれば称賛だけで済むとは限らない。スルースキルも身につけておくべきだろう。


ところが政臣はスマホを手に取り、どこかへ電話をかけ始めた。


「あ、篠田さん? お久しぶりですー。ちょっとIP調べて欲しくて……そうそう、地の果てまで追い詰めてむしり取ってよ。こっちは裁判費用なんて気にしないから」


金持ちを敵に回すもんじゃないな、と俺は苦笑した。


だが、いちいち相手にするんじゃない。


いまのジャイアントバット戦で上がったレベルは+2。

もうほとんど旨味はない。


未成年のダンジョン探索時間には門限がある。

俺たちは、急いでいるのだ。


「肩ならしは終わり。まだ行けるだろ?

一週間でレベル三十が目標だからな。――次のフロアだ」


踵を返す俺の背に、三人の元気な声が重なる。


「はいっ!」


その響きが、ダンジョンに溶けていった。

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