帰還
謙人って実は優良物件だったみたいです
「音子は…人間に戻ったのかな」
「多分ね。あれから見ないから」
「我らとすれ違っても恐らく気付かんのじゃろうなあ」
「だろうねえ。うちらは見たら分かるだろうけどね」
「なら、もし見かけたら吠えてやるかの。」
「私は引っ掻いてやろうかな。ふふふ」
「俺は噛みついてやるかな。散々ワンピース馬鹿にしやがったからな。あんなに可愛いのに。」
「あはは、やっぱルルはあのワンピ気に入ってたのね」
「うっせーなー」
「音子殿…無事であれ…」
「音子が居なくなった〜!生活安全課に捜索願出さなきゃ〜!」
「それ、受理されるのか?親父…」
「音子は…自分の片割れを1つ残して行っちゃったのかな…忘れないでって…」
「やめてよ〜櫻子さん〜!音子は絶対戻って来るんだから!」
「これで散歩から解放される。剣道に打ち込めるな」
「亘〜冷たすぎるぞ〜家族が迷子なんだぞ〜少しは心配しなさい!えーん」
「よしよし、荒木さん。元気だして。」
「音子は絶対戻って来る!俺が大好きだったんだから!」
「多分親父の片想いだと思うぞ。」
○○○○○○○○○○
あれ?ここ…
病室…?
何か…色々管に繋がれてる…
「兄貴、気が付いたか!?」
「あれ…俺…どうなってんの?」
「兄貴、事故で電車に轢かれて…危なかったんだぞ!」
「そうなんだ…」
「兄貴に気づいて急ブレーキ掛けてくれて止まる直前でギリギリ助かったんだったんだぞ。丁度はねられた先がホーム下の避難スペースだったから助かった。本当に運だけは最強だな。」
「何か…知らんが…凄いな俺…」
「意識が無い間に身体も回復して来ていたから多分近い内に一般病室の個室に移動出来るぞ。回復力も凄いな。頭が足りない分、運と体力に全振りしたステータスなんだな、兄貴は」
「そうか…」
○○○○○○○○○○
「どうだ?調子は」
「ああ…まだ記憶が所々曖昧で…」
「そうか。兄貴が居なくなって大変だったんだぞ。奔走してた俺に感謝しろよ。」
「そうか…すまんな。」
「兄貴はどうしたい?後継たい?」
「うーん、俺はやっぱ器じゃないと思う。」
「まあ、それは俺も思ってた。人を惹きつけるカリスマ性だけは飛び抜けてたけど。」
「相変わらず口悪いなお前…」
「俺も跡は継ぎたく無い。」
「へえ!お前なら向いてそうだけど。俺もお前なら安心だし。」
「俺はやりたい事が見つかってるから。だから親父に打診してる。兄貴はこんな状態だし、もういっそ親父の弟に継いでもらって、行く行くは息子…従兄弟の謙人に継いで貰えって」
「成る程な。アイツは真面目だし人当たりも良いし勉強熱心だから今から帝王学学ばせれば将来は立派な跡継ぎになりそうだな。」
「俺もサポートするって約束してある。」
「成る程な。それは心強い。」
「兄貴の婚約もこの事故で解消になったぞ。」
「そうか」
「だから、兄貴はもうやりたい様に…好きな人生を歩め」
「何か…色々有難うな。お前みたいな弟が居て俺は恵まれてるな。」
「今頃俺の優秀さに気付いたのかよ…」
「相変わらず口悪いな。まあ感謝してるよ」
「じゃあな。また様子見にくるわ。俺も忙しいからな」
「はいよ。またお前の話もじっくり聞かせてくれ」
○○○○○○○○○○
ガラッ…
「音子…さん?お久しぶり」
「んん?ネコ?誰?人違いじゃない?」
「やっぱり忘れちゃってる?」
「ん?何だろう…」
「これ…見て思い出さない?」
そう言って入って来た女の子は芝犬のぬいぐるみを見せて来た。
「キーホルダー、大事にしてくれてる?」
「キーホルダー?」
「うん。骨のおもちゃついてる奴…」
「あー!持ってる!何か大事な物って思って…何で持ってるのか思い出せなくて…」
「そう…良かった…あれ、私があげたんだよ?」
「そうだったんだ!」
「あのキーホルダーと、このぬいぐるみ…見つけ出す目印なんだよ?」
「見つけ出す…」
「音子さんはこのぬいぐるみを見たら私を思い出すからって、見つけ出すからって言ってくれたんだよ?」
「そうなんだ…ゴメンね…俺、事故に遭って色々忘れてるのかも…」
「私を忘れてるのは事故のせいじゃ無いんだよ?」
「そうなの?…君の…名前は?」
「私は…恵美だよ…会いたかったよ…ずっと探してたんだよ…」
「エミ…ちゃん…」
「思い出した…?」
俺は…