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第1節「夜の学院で起きる怪事件」

深夜零時。


王立魔導学院は静寂に包まれていた。生徒たちは皆、寮で眠りについている時間。しかし、図書館だけは異様な緊張感に満ちていた。


「二人とも、下がっていて」


アリエスの言葉に、ルカとエリンは困惑の表情を浮かべた。


「でも、アリエス……」エリンが心配そうに声をかける。

「一人で戦うなんて無謀よ」ルカも同意した。「相手は『漆黒の盟約』の幹部らしい人物です」


黒ローブの男は、三人の会話を面白そうに聞いていた。

「感動的な友情ですね」男の声に嘲笑が混じる。「しかし、子供の戯言に付き合っている時間はありません」


男が手を振ると、図書館全体が暗闇に包まれた。窓から差し込んでいた月光さえも遮られ、完全な闇が降臨する。


「闇魔法『永劫の夜』……」マリア先生が震え声で呟いた。「これは……上級の禁術……」

闇の中で、男の笑い声が響く。


「さて、まずはどの子から始めましょうか?生命力の豊富そうな順番で……」


その時、闇の中に複数の赤い目が浮かんだ。影から生まれた魔物——闇の眷属たちだった。狼のような形をした影の化身が、じりじりと三人に近づいてくる。


「『ライト・ボール』!」

ルカが光の魔法を放ったが、闇魔法の前では微弱な光にしかならない。


「『ヒーリング・ライト』!」

エリンも回復魔法で光を作ろうとしたが、やはり闇に飲み込まれてしまう。


「無駄です」男の声が闇の中から響く。「我が闇魔法の前では、通常の光魔法など無力」

影の狼たちが牙をむいて襲いかかってきた。その瞬間——


「時よ、止まれ」


アリエスの小さな呟きと共に、世界が静止した。


襲いかかる影の狼たち、驚愕の表情を浮かべるルカとエリン、そして黒ローブの男さえも、完全に動きを止めている。


この静寂の世界で動けるのは、アリエスただ一人。

「ごめんなさい、二人とも」アリエスは友人たちに向かって小さく謝った。「まだ正体を明かす予定じゃなかったの」


彼女は静止した影の狼に近づき、その額にそっと手を触れた。


「『浄化』」


純白の光が狼を包み、影の化身は光の粒子となって消えていく。一匹、また一匹と、すべての影の眷属が浄化されていく。


そして、黒ローブの男の前に立った。


「あなたの闇魔法、確かに強力ね」アリエスは冷静に言った。「でも、時間停止の前では無意味よ」

男の胸元に手を当てる。


「『記憶改変』——『転移』」


二つの術式が同時に発動した。


時が再び動き始めた時、黒ローブの男の姿は既に消えていた。彼は王都の郊外に転移され、今夜の記憶も適切に処理されている。


闇魔法も解除され、図書館に再び光が戻った。


「え……?」


ルカとエリンは呆然としていた。つい先ほどまで絶体絶命の状況だったのに、気がつくと敵は消え、危険も去っている。


「何が……起こったの?」エリンが周囲を見回した。


「敵は……どこに?」ルカも困惑している。


アリエスは何食わぬ顔で振り返った。


「きっと、マリア先生の封印術が効いたのよ」彼女は平然と嘘をついた。「魔導書の力が弱まったから、敵も撤退したんじゃないかしら」


マリア先生は驚いた表情でアリエスを見つめていた。彼女だけが、何が起こったかを理解していた。

(この子は……一体何者なの?)


「そう……かもしれませんね」マリア先生は震え声で答えた。「とにかく、危険は去ったようです」


しかし、完全に安全というわけではなかった。『闇夜の狂想曲』はまだ禁書庫にあり、いつ再び暴走するかわからない。


「今夜は皆さん、寮に戻ってください」マリア先生が提案した。「明日、学院長に正式に報告します」

三人は図書館を後にした。しかし、廊下を歩きながら、ルカが不審そうにアリエスを見つめていた。

「アリエス」


「何?」


「さっき、君は動いていませんでしたか?」


アリエスの心臓が跳ね上がった。


「動いてって、何のこと?」


「闇魔法がかかった瞬間、一瞬だけ……君の姿が見えたような気がしたんです」


ルカの洞察力は恐ろしいほど鋭い。しかし、まだ確信は持っていないようだった。


「きっと見間違いよ」アリエスは笑って誤魔化した。「あんな暗闇の中で、何も見えなかったじゃない」

「そう……ですね」ルカは納得していないようだったが、それ以上は追求しなかった。


三人は寮の分かれ道で別れた。しかし、アリエスは自分の部屋には戻らなかった。

深夜の学院を、シルバー・フェニックスとして巡回する必要があった。


「漆黒の盟約」は今夜の作戦に失敗したが、必ずや次の手を打ってくる。そして、『闇夜の狂想曲』という危険な武器は、まだ学院内に残されている。


アリエスは屋上に上がり、夜空を見上げた。

「友達を巻き込んでしまった……」


昼間のルカとエリンとの楽しい時間が思い出される。しかし、自分の正体がばれれば、その関係も終わってしまうかもしれない。


「でも、みんなを守るためなら……」


彼女は決意を新たにした。たとえ友情を失っても、大切な人たちを守り抜く。それが、禁術継承者としての自分の使命だった。


月が雲に隠れた時、アリエスの姿は屋上から消えていた。

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