第1節「学院長の密談」
学院の塔にある執務室は、夜更けにもかかわらず灯火が絶えなかった。
王立魔導学院の学院長、オルフェウスは重々しい机の上に両手を組み、窓の外に広がる闇を見つめていた。
「……禁術の力が、再びこの学院で目覚めるとはな」
低い声が静寂に溶ける。
背後にはもう一人の影がいた。深紅のマントを羽織った壮年の男——王国魔導院の重鎮であり、王家直属の顧問であるシグルド卿だ。
「学院長、例の少女のことですな。最弱と評されているが……その実、千年前に封印された継承者」
「ふむ。漆黒の盟約が動いたとすれば、もはや偶然ではあるまい」
オルフェウスの眉間には深い皺が刻まれていた。
彼は知っている。この学院が、ただの学び舎ではないことを。——王家の秘宝と禁術の封印を守る、最後の砦であることを。
「だが問題は、王家だ」
シグルドの声には苦い響きがあった。
「彼らは“継承者”を利用しようとしている。禁術を手にすれば、王権を永遠に保てると信じているのだ」
オルフェウスは長い沈黙ののち、低く答える。
「ならば我らは、その少女をどうするべきか。保護か、それとも……排除か」
窓の外では、雷雲が不気味に光った。
その稲光は、まるで王国の未来を二つに裂こうとしているかのようだった。
シグルドは机に手を置き、囁くように言った。
「——禁術は、必ず争いを呼ぶ。いずれ少女自身も、それを知ることになる」
オルフェウスは目を閉じた。
その言葉の重さが、夜の学院に沈殿していく。




