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プロローグ「夜に踊る銀の影」

月が雲に隠れた深夜の王都。石畳に響く足音が、静寂を破っていた。

「見つけたぞ、シルバー・フェニックス」

低い声が闇から響く。黒いローブに身を包んだ三人の男たちが、細い路地の奥から姿を現した。胸元に刻まれた蛇の紋章が、月光の下で鈍く光っている。

「今夜こそ、貴様の正体を暴いてやる」

路地の向こう側から、ゆっくりと一つの影が立ち上がった。

銀色に輝く仮面。風になびく銀髪。そして、闇夜に溶け込むような漆黒のマント。

「漆黒の盟約の皆さん」

少女の声が、夜気に響いた。どこか幼さの残る声だったが、その底には氷のような冷たさが宿っている。

「今夜も懲りずに悪事を働いているのですね」

「小娘が一人で何ができる!」

黒ローブの一人が手を振り上げる。その手のひらから、紫色の炎が立ち上った。禁じられた闇魔法——本来なら王国で使用すれば死罪に値する術式。

「『影なる業火』よ、燃え尽くせ!」

紫の炎が螺旋を描きながら少女に向かって飛んだ。しかし——

「時よ、止まれ」

少女が小さく呟いた瞬間、世界が静止した。

空中で止まった紫の炎。動きを封じられた黒ローブの男たち。風すら凍りついたような静寂の中で、シルバー・フェニックスだけがゆっくりと歩き始める。

「禁術を一般人に向けるなど」少女の声に怒りが混じった。「許されることではありません」

彼女の右手が淡く光る。それは魔法陣でも術式でもない。もっと根源的な、世界そのものに干渉する力。

「『記憶改変』——『浄化』——『転移』」

三つの術式が同時に発動した。

時が再び動き始めた時、黒ローブの男たちは既に王都の郊外に転移されていた。記憶は改変され、今夜の出来事はすべて「悪い夢」として処理される。そして彼らの体内に巣食っていた闇の魔力は、跡形もなく浄化されていた。

「また、明日から普通の生活に戻れますね」

仮面の少女は小さく微笑んだ。その表情を見る者は誰もいない。

教会の鐘が深夜零時を告げる。少女は仮面を外し、銀髪をかき上げた。月光の下に現れたのは、どこにでもいそうな普通の——いや、どこか頼りなげな印象すら与える美しい顔立ち。

「さて」少女は空を見上げた。「明日も学院で『落ちこぼれ』を演じなければなりませんね」

彼女の足元に、小さな魔法陣が浮かび上がる。

「『瞬間移動』」

銀色の光と共に、少女の姿は夜の闇に溶けて消えた。

残されたのは、静寂だけ。

誰も知らない。王立魔導学院で最も魔力の弱い問題児として有名なアリエス=グレイが、実は王都の影で暗躍する謎の魔導師「シルバー・フェニックス」であることを。

そして誰も知らない。彼女が操る力が、千年前に封印されたはずの禁術であることを。

夜明けまで、あと数時間。

少女の長い一日が、もうすぐ始まろうとしていた。


王立魔導学院の落ちこぼれ少女と、夜の王都で活躍する謎の魔導師。

二つの顔を持つ彼女の物語が、今、幕を開ける——

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