アイ
午前6:30。家政婦AIの朝は早い。
「ふああ。まだ眠いですね。んしょっと」
起きたらまずは朝ごはんづくり!今日は食パンを焼きましょうかね。それから目玉焼きとコーヒー!うん、我ながらカンペキですね、流石アイちゃん!!……ってもうこんな時間、そろそろマスターを起こさないと!
「おはようございます、マスター!!」
「ううん、もう朝?」
「はいマスター!もう7時ですよ!」
「そっか、じゃあ起きないとだなあ。ありがと、アイ」
「はい、アイちゃんにお任せください!」
わたしは家政婦AIのアイ!料理とか洗濯なんかをこなすハイパーハイスペック美少女家政婦AIです!!そしてここにいるのが私のマスター!ちょっぴり抜けているところはあるけどそれでも私の大切な人で、そんなマスターのことがわたしは大好き!!!まだ私はただの家政婦だけど、いつかはわたしもあんなことやこんなことを.........。って!恥ずかしいからここまで!そろそろマスターも顔洗い終わりそうですし、ご飯の用意でもしておきますかね!
「いただきます」
「はい!召し上がれです!」
マスターがわたしの作ったご飯を食べてくれています。毎朝見る光景だけどやっぱりちょこっと心配。今日のご飯もおいしく作れているでしょうか?
「ふふっ、そんなに見つめなくても、いつも通り美味しいご飯だよ。ありがとね」
「えっ!そんなに見てました!?」
「うん、ものすごい見てた。こっちが恥ずかしくなってきちゃうぐらいだよ」
「うええ、恥ずかしいですぅ」
「まあそんなところもかわいいよ、アイ」
「ふえっ!かわっ、かわいいですか?」
「うん、すごく」
うわあ、なんでそんなこと恥ずかしげもなく言えちゃうんでしょうかね、このマスター。
でも、そんなマスターのことがやっぱり、好きだなあ。
「じゃあ行ってくるね、いつも通り掃除と洗濯、お願いね」
「はい、お任せください!」
「うん、…………あ、あと今日宅配届くんだった」
「宅配便ですか、何か注文したんですか?」
「まあね、それも受け取っておいてほしいな」
「掃除に洗濯、あと宅配便ですね。了解しました!」
「よろしくね。じゃあ行ってきます」
「はい!行ってらっしゃいです!!」
よし、頑張りますか!
「ふう、こんなもんですかね」
今は午後1時、掃除を済ませて、今ちょうど洗濯物を干し終わったところ。これでも立派な家政婦AI ですからね、手際はいい方です。えっへん!
「いったん休憩にしましょうかね。っと、そういえばそろそろマスターの言っていた荷物が届く頃でしょうか」
ピンポーン
「ん!これが噂をすればなんとやらってやつですね。はーい、いま行きまーす!」
ガチャ
「こんにちは~、宅配便で~す」
「こんにちは!お待ちしておりましたよ!!」
「うお、もしかして家政婦AIってやつですか」
「はい!ハイパーハイスペック家政婦美少女AIのアイちゃんですよ!」
「ハイスペック?AIに荷物受け取れるんですか?」
む、何ですかこの人。AI差別ですよこれ。はあ、いるんですよね、こういうAIには大したことできないって思ってる人。こういう時にやっぱり私はAIなんだなって実感させられますよね。AIと人間の扱いの差っていうか。ていうか受け取るだけでしょ?このアイちゃんのかわいいおててが見えないんですかね、この人。
「受け取れます!受け取れますよ!」
「そっすか?じゃあ、これ荷物で~す」
「はい、受け取りましたよ!」
ほら!受け取りましたよ!このおてては飾り物じゃないんです!もう、私のこと馬鹿にしすぎなんですよ。
「じゃあここにサインお願いします」
…………ん?
「サインですか?私のですか?」
「いや、家主のでしょ。AIのサインなんかじゃダメっすよ」
「ぐう」
うぐっ、言い方はきついけど、ぐうの音も出ないですね。でたけど。
家主の名前ですか、サインが必要とは知りませんでしたが、ここはマスターの名前をびしっと書いて、アイちゃんのすごいところを見せつけてやりましょう!
………………って、あれ?
「ここってマスターのフルネームってことですよね?」
「マスター?ああ、そう呼んでるんすね。まあそれでいいですよ、あなたのマスターさんなんだから、フルネームぐらい知ってるでしょ」
……………………知らない、マスターの名前。
あれ?なんで?わたしマスターの名前知らないの?確かに普段マスターのことはマスターって呼んでるから困ったことはないけど、そういえば聞いたことなかったかも。
「おーい、名前書くだけっすよ?次もあるんでさっさとお願いしますね?」
「あ……あの、ごめんななさい。わからないんです、マスターの名前」
「は?家主の名前もわからないんすか?家政婦AIのくせに?」
「あ、あの…………」
「はあ、じゃあ不在だったってことで。これ不在表っす。ここ入れときますんで」
「あ、ありがとうございます…………」
「じゃ、次あるんで。はあ、やっぱりしょせんはAIっすね。家主の名前も知らないとか」
はああああ?何ですかこの人!しょせんとか言っちゃって、AIのことを何だと思ってるんですかね。うちのマスターとは大違いですよほんと。
「ちなみに、宅配も受け取れないような家政婦AIさんは、普段何やってんすか?」
「それは、部屋のお掃除とか、お洗濯とかお料理とか」
「え?そんなことやってくれるんすか!?便利じゃん俺も買おうかな」
「は?何ですかその言い方。私たちは奴隷じゃないんですけど」
「そうっすか?家主のいないうちに掃除やらの雑用を済ませて、帰ってきたら料理して家主に出すんでしょ?それってほぼ奴隷じゃないっすか」
「うっ…………いやでも!マスターは私のことそんなひどい扱いはしていません!ちゃんとお礼も言ってくれますし、今朝も私のことほめてくれたんですよ!」
「でも名前教えてもらってないんでしょ?本当に大事にするならとりあえず名前ぐらい教えるっしよ普通。………………そっかこいつら感情持ちか。それはメンドイかもな」
「てか家主も名前ぐらい教えとけよな。荷物の受け取りに必要なことぐらい分かんだろ」
「ッ!!」
悔しかった。そんなこと言われて、私だけじゃなくマスターまで馬鹿にされて。でもそこで言い返せなかったのは、この人の言ってることが図星だったからなのか。それとも、
ほんのちょっとだけマスターを疑っちゃったから…………?
「じゃあ今日は帰りますね、名前ないと渡せないんで。入れといた不在表、マスターさんに言っといてくださいね」
「はい…………」
ガチャ
「はあ。何なんですかあの人!好き勝手言ってくれちゃって!!私たちAIにだって感情はちゃんとプログラムされてるんですからね!」
「ただいまアイ」
「おかえりなさい、マスター!」
「うん、ただいま。…………そうだアイ、ポストに不在表入ってたけど、荷物気が付かなかった?」
「あ、それなんですけど…………」
〜〜〜少女説明中〜〜〜
「そっか、それなら仕方ないね。そういえば名前教えてなかったか」
「そうです、ひどいですよマスター!なんで教えてくれなかったんですか!!」
「ふふっ、ごめんごめん。いっつもマスターって呼ばれてるから気が付かなかったよ」
「そうなんです。私も今まで困らなかったので今日初めて気が付きましたよ」
「うん、ごめんね。そしたら今度から宅配は僕が受け取るから。」
…………あれ?名前教えてくれる流れじゃないんですか?
「いや、名前教えてくれれば私でも受け取れますけど」
「ううん、大丈夫。今思えば僕もアイに少し頼りすぎていた部分はあるしね。それぐらい僕にやらせて」
「そうですか……。わかりました」
あれれ、教えてくれないんですね。なんででしょうか。
「とにかく今日はありがとね。じゃあ僕はお風呂入ってこようかな」
「はい、それはちゃんと沸かしてありますよ!」
「ふう、ごちそうさまアイ。今日のご飯もおいしかったよ」
「お粗末様です、マスター!」
マスターは今日も美味しそうに夜ご飯を食べてくれました。それに私に笑顔でお礼も言ってくれて、やっぱりマスターは優しい人なんです!お昼の人はマスターのことを何もわかってないんですね!…………でもマスターの名前を知らないのはやっぱりちょっと嫌ですね。
「マスターはこの後何かあるんですか?」
「そうだね、今日は仕事も全部終わらせてきたし、もう寝ようかな。それともまだ何かある?」
マスターも今夜は何もないらしいですし…………、うん!やっぱり名前、直接聞いちゃえ!
「いや、そういうわけじゃないんですけど、1つお願いがあって」
「お願い?いいよ、いつもお世話になってるお礼に、可能な限り聞いてあげるよ」
「本当ですか!じゃあ…………」
「マスターの名前、教えてください!!」
うわああ、言っちゃった!遂に言っちゃいましたよ!!マスターのAIになってからもうかれこれ5年ぐらいですからね。知らない方がおかしいってもんですよね。いやあ、ついにマスターの名前が知れるんですね。なんだか緊張してきましたよ。……これからはマスターのことも名前で呼んだ方がいいんですかね。まあ急に呼び方変えるのもなれないですし、いったんはマスター呼びでいきますかね。でもたまには名前で呼んじゃってもいいですよね?それでマスターもドキドキしてくれるでしょうか?それからそれから…………。
「あー…………、ごめん。それは無理かも」
「え?」
え?今マスター無理って言いました?なんで?名前教えるだけですよね?私そんなに難しいこと言いました?
「………………何でですか?」
「いやね?なんか最近家政婦AIから個人情報が流出することが増えてるらしくて。まあアイならそんなことしないってことはわかるんだけどさ、一応ね」
えええ!?私そんなに信用ないですか!?もう5年も一緒ですよ!?
「マスター!私そんなことしないですって!絶対絶対しないです!だから教えてくださいよ!!」
「うん、わかってる。アイはいい子だから自分からそんなことは絶対にしないよね」
「じゃあ!」
「アイは家政婦AIから個人情報が流出する一番の理由って知ってる?」
「え?…………なんか、マスターへの仕返しとかじゃないんですか?」
そんなこと急に聞かれてもなあ。どうせマスターへの仕返しとかじゃないんですか?あの昼の配達員みたいなマスターがたくさんいるんですよ。それで仕返しに言いふらしてやろうって思ってるんです、そうに決まってます!でも私はそんなこと…………。
「うん、最初は僕もそう思ってた。ひどい扱いを受けた子が仕返しにやってるんじゃないかってね」
「違うんですか?」
「うん。一番の理由は」
「経年劣化によるバグなんだって」
そこから先は何も聞こえませんでした。経年劣化によるバグの多発、考えてみれば確かに理にかなった理由ですよね。長く使ってきた機械にはバグはつきもの。ましてや私たちは家政婦AI。他のAI に比べても稼働時間も中身の複雑さも他のAIとは比べ物にならないし、重要な情報を知っていることも多い。だから経年劣化が早く来るのも、それがすごく重大なことを引き起こすのも、それにマスターが言ってることも。全部正しいし全部本当のこと。理屈ではわかってる。わかってるんですけど………………。
「…………ってこと。わかってくれた?」
「……え?あ、はい、わかりました。変なこと言ってごめんなさい」
「ううん、こちらこそごめんね。でもアイのこと信用しているのは本当だから、そこは勘違いしないでほしいな」
「はい、わかってますよ!」
うん、やっぱりマスターは優しいんだ。名前を教えてくれないって言われたときはちょっとびっくりしたけど、でも仕方がないことですしね。それに本当なら教えないっていうだけでいいのにちゃんと理由も説明してくれたし、最後には信用してるとも言ってくれたし。うん、やっぱり信用してくれてるってことで大丈夫そう。
…………大丈夫ですよね?
「おはようございます、マスター!」
「うん、おはよう」
うん、今日もいい天気!昨日はちょっと落ち込んでたけど、そんなことでへこたれてるようじゃハイパーハイスペック美少女家政婦AIのアイちゃんの名が廃れるってもんですよ!今日もいつも通りマスターを起こして、ご飯を食べてもらいましょう!
「いただきます」
「はい、召し上がれです!」
「じゃあ行ってくるね」
「はい、行ってらっしゃいです、マスター!今日もお掃除とお洗濯、あとは夜ご飯の準備ですか?」
「そうだね。あ、でも今日は夜ご飯いらないかも」
む。珍しいですね。マスターはとにかく早く帰ってくるような人なのに
「今日は何かあるんですか?」
「うん、ちょっとね。会社の人に誘われちゃってて」
ほほう、会社の人ですか。怪しい、とても怪しいですよこれ!アイちゃんの勘がものすごく警告しています!
「もしかして女の人ですか?」
「まあそうだね。女の先輩に誘われて。ってよくわかったね。先輩のこと言ったことあったっけ?」
やっぱり!マスター浮気だ!私というものがありながらそんな女に手を出すなんて!
「……なんかものすごい怖い顔してるけど、大丈夫?」
マスターのことは私の方がずっと知ってるんですからね!なんたって毎日一緒なんですから。起きる時間も、寝る時間も、好きなコーヒーの味も、温度も、何もかも!!
「おーい、アイ?大丈夫?」
「マスターは渡しません!!!」
「うお、びっくりした。どうしたのアイ、そんな大声出して」
「あ、すみませんマスター。ついつい大声になっちゃいました。でもマスターも悪いんですからね!私というものがいながら先輩とデートですか!」
「デートって。ただご飯誘われただけだよ。それに僕とアイは別に付き合ってるわけじゃないでしょ。大丈夫、速めに帰ってくるから」
「ぐう」
なんか最近ぐうの音をはかされることが多くなってきましたね。これってどうなんでしょうか。
「約束ですよ、マスター。早くしないとアイちゃんすねちゃいますからね!」
「わかったわかった。それじゃあ行ってくるね」
もう、なんなんですか、この女たらしマスターは。…………まあ私もそんなマスターにたらされちゃってるんですけど!そんなこと今はいいんですよ!とにかく、どんなに素敵な女の人でも、マスターは渡さないですからね!!
遅い。かなり遅い。もう日が変わっちゃいますよ。掃除も洗濯もとっくに終わって、あとはマスターが帰ってくるの待ちだっていうのに。…………はぁあ、どこで鼻の下伸ばしてるんですかね、うちの女たらしマスターさんは。
ガチャ
「ただいま!」
ん!遂に帰ってきましたか、うちのばかマスター!
「おかえりなさい、マスター!遅いですよ!」
「ごめん!でも聞いてよアイ!」
なんだろう、なんかすごく嫌な予感がする。これを聞くと私たちの関係がここで終わっちゃうような、全部なかったことになっちゃうような、そんな予感。
「僕、先輩に告白された!」
「ただいま!今日は先輩がね………………」
「ただいま、今日さ、先輩からさ………………」
「今日も先輩がね…………」
はあ、昨日も今日も先輩の話ばっかり。これが惚れた男の弱さってやつなんですか?ちょっとぐらい私にも絡んでくれてもよくないですかね。私だってマスターのこと大好きなんですよ?それなのにマスターは先輩先輩って、先輩としか言えなくなっちゃったんですか?ほんとに嫌になっちゃいますよ…………。
「おはようございます、マスター」
「おはよう!」
今日もマスターを起こす。いや、最近はマスターも起きてることが多いですかね。どうもばかマスター曰く、
「楽しみなことがあると早く起きちゃうよね!」
とのことです。今も私の前でご飯を食べてますけど、ずうっとスマホとにらめっこ。まあにらめっことはいえ、顔はずっとにやけてますけどね。どうせ先輩なんでしょう、私のこと見えてます?
ふっふっふ、でもただで転ぶ私でもないですよ、マスター!今日は何の日か覚えてますか?いや、忘れたとは言わせません、今日はなんと、私たちが出会ってからちょうど5年なんです!さあさあ、この機会に私も恋のレースに参加したいましょうかね。どうもその先輩とやらともまだ正式にお付き合いしたわけではないらしいですし?まだお試し期間らしいですし?その先輩に悠長さがどれだけ損なのか教えてあげますよ!…………まあ私、5年も何も言えてない時点で何も言えないんですけど。
「じゃあ、行ってくるね!」
「はい!行ってらっしゃい、マスター!」
「……さてと、始めますか!」
「よし、カンペキです!」
うん、こんなもんですかね。とりあえずいつも通りお掃除お洗濯はカンペキ!さらに今日は5周年ということで装飾も凝っちゃいました!それから、一番頑張ったのはやっぱりこのご飯!ふふん、どうせ先輩さんにはマスターの好きな料理なんてわからないんですよ。それに比べてこの私!アイちゃんにはそんなものお茶の子さいさいです!今日の献立はマスターの好物ばっかり!これでマスターも私にメロメロ間違いなしですね!これでマスターも気が付くはずですよ。先輩さんよりも私の方がお嫁さんにするべきだってことを!これで私も恋のレース参戦確定ですね。え?もう先輩さんには勝てないんじゃないかって?ふっふっふ。それは愚問ですよ!すでに5年も一緒のこの私が、スタートラインから走り出すとでも思いましたか?確かに先輩さんにはここ数日のリードがありますよ?でもこの私には5年ものリードがあるんです!これは勝ちましたね、えっへん!!
さあ最終確認です。マスターが帰ってきたら、まずはいつも通りあいさつします。マスターはそこで家の中の装飾にびっくりすることでしょう!そこで私が5年目であることを説明、そのままお風呂とご飯を済ませてもらいます。もちろんお湯加減もご飯の味も完全カンペキ!そして美味しいご飯を食べて満足しているマスターに、告白しちゃいます!ついにこの日が来たんですね……。さあ、マスターはどんな反応をするのでしょうか。恋のレースは今のところ、悔しいですがアイちゃんの負けです。…………でも!5年分のリードを持っているアイちゃんに先輩さんは果たして勝てますかね?いや、勝てないでしょう!!さあ、あんな先輩さんのことなんか考えられない体にしてやりますよ!
「ふう、あとはマスターが返ってくるの待ちですかね」
ガチャ
「お!噂をすれば…………。おかえりなさい、マスター!」
「うん。ただいま、アイ。って、なんか今日はすごい気合入ってない?なんか家の中もキラキラしてるし」
「ふっふっふ、今日が何の日かお忘れですか?」
「今日?あ、もしかして」
「そうです!今日で私たちが出会ってから5年ですよ!マスター!」
「そうだったね、もう5年かあ」
「そうですよ!5年です5年!もうこんなに一緒なんですよ私たち!!」
さあ、ここまではモチロン計画通りですね。流石アイちゃん、計画までばっちりカンペキ!
「そっか。それで今日はこんなに気合が入ってるんだね」
「そうですそうです!さあマスター!さっさとお風呂にに入っちゃってください!」
「ふう、ご馳走様でした」
「はい。お粗末様でした、マスター!今日のご飯はどうでしたか?」
「うん!最高においしかったよ!今日は僕の好きなものばっかりだし、味もいつもよりおいしい気がしたなあ」
「本当ですか!?それならよかったです!」
さあ、計画はカンペキです!あとは私が告白するだけですね!………………うぅ、なんだか緊張してきました。でも、ここで言わないと先輩さんに取られてしまいますからね。さあ!がんばれ私!言います、言いますよ!!!
「あの、マスター?」
「うん?どうしたの、アイ」
「えっと、私と…………」
「付き合ってください!!!!!」
「……………………」
うわあ。うわあああ!言っちゃいました!ついに私やりましたよ!!、マスターに告白しちゃいました!ついに、ついにです!ここまで5年ですよ5年!やっと言えましたあ。私、感動してますよ。本当に言っちゃったんですね。さあ、マスター!答えを教えてください!ささ!言っちゃいましょ!先輩さんよりもアイちゃんの方が好きだって!!アイちゃんと付き合いたいって!!!
「………………ごめん」
「……え?」
「ごめん。アイとは付き合えない」
…………………………まあ、わかってはいましたよ。5年も一緒にいるんですよ?マスターが先輩のことを本当に好きなことも、私のことを特に意識していないことも。わかってはいたんです。いたんですけど……。
やっぱり、つらいなあ。
「…………そうですよね。マスターには、先輩さんがいますもんね。やっぱり先輩さんの方がお似合いですよ」
「………………うん。まあそれもあるんだけどね。」
も?今それもって言いました?もしかして他にも原因あるんですか!?それなら、もし私がそこを直せば、もしかしてまだチャンスあります!?ふふっ、そうです、そうですよ!1回振られたぐらいであきらめる私じゃないですよ!そこを直してまた再チャレンジです!
「何ですか?何でも言ってください!マスターのためなら何でも直しますよ!!ご飯の味ですか?!お風呂の温度ですか?!それとも……」
「いやそもそもね?」
「アイは機械じゃん。機械とは付き合えないよ」
あ
そっか
わたしって
そもそも機械だった
そうでしたそうでした。私は機械でマスターは人間。機械と人間の恋愛なんてありえないんでした。なんで忘れていたんでしょうね。機械に恋愛なんかできないのに。そもそもスタートラインにすら立てていないのに。なんで私は先輩さんと戦っていると思っていたんでしょうか。
ああ
自分でも言っていたじゃないですか。私の感情はプログラムされたものだって。宅配の人に感じた嫌悪も。先輩さんに感じた嫉妬も。それにマスターに感じた恋心も。全部ただの0と1の集まりでしかなくて。ものすごく繊細でとても複雑な人間のそれとは根本から違っていて。
ああ
そっか。それならマスターが断ったのも納得ですね。先輩さんより私の方が劣っていた?何か直すべきところがあった?いや、私にはそもそも、資格がなかった、ってことですかね。
とはいえやっぱりつらいですね。悲しいですね。悔しいですね。なんでこんな気持ちにならなくてはいけないんでしょう。ただの0と1にこんなに苦しめられるなんて。…………こういう時。もし私が人間だったら。やっぱり泣いたりするんですかね。まあ私、
泣けないんですけど。
午前6:30。マスターの設定時間は早い。
「……………………」
起床したらまずは朝食の準備。マスターの好みは把握済み。効率よく完成させていく。パンの焼け具合もコーヒーの濃度も視ればわかる。カンペキ。
ん、午前7時。マスターが設定した時刻ですね。さあ、マスターを起こしますか。
「おはようございます、マスター」