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3 ブレーメンの音楽隊

「さ、酒、持って、こ~い!」

「え!?」

 突然の声に、どろぼうは、たいそう驚きました。夜のどろぼうの仕事中、つまり、どろぼうにはいった家の中です。

「こんな夜中まで起きてるなんて? おれはどろぼうだからしかたがないけど、隣で酒飲んでるのは誰だ?」

 奥の部屋から、また、叫び声が聞こえます。

「酒だ~!」

「は、ただいま~!」

 慌てて返事をするどろぼう。

「なんで、どろぼうにはいったこのおれが、こんなことをしなくちゃならないんだ……ととと……」

 どろぼうは、酒を持って、奥の部屋にはいっていきます。

「はいはい……」

「おう、ごくろう」

「では、私は、仕事があるので、これで……」

「何? 君、私のさかずきが受けられないと言うのか? 逃げるなら、逮捕するぞ!」

 見ると、酔った男は、たしかに、警官の制服を着ています。部屋には、カラオケ用のマイクが転がっていて、眠ってしまうまでは、これで、歌を歌っていたようです。

「逮捕!? あ、はい、ご一緒させていただきますよ」

 どろぼうは、しかたなく、一緒に酒を飲むことに。

「こんなところで逮捕なんかされちゃたまったもんじゃない……」

 というわけで、どろぼうは、酔っ払った警官につきあうことになってしまいました。でも、このどろぼう、なぜか、背中にギターを背負っています。警官の部屋には、カラオケの機械が転がっています。

 

「うぃ~! ひっく! ところで、君…… 君の職業は何かね?」

「は、私ですか? 私は、その、あの……、どろぼうです」

「ど、どろぼうかね!」

「ええ、まあ……。一応、この世界では、ちょっと有名な大どろぼうで、どろぼう協会の会長だったんですけど……」

「ですけど……、何だ?」

「クビになったんです」

「なんじゃと?」

「まったく情けない」

「いいや、君のような優秀などろぼうをクビにする連中がけしからんに決まっておる!」

「そうでしょうか?」


「で、あなたは?」

「うむ。わしは、警官じゃ!」

「おや、警官ですか? それはそれは……」

「そうじゃ。それも優秀な警官じゃ!」

「そうでしたか……」

「き、きのうまで警察署長だったこのわしが……」

「あなたが……」

「このわしが、……、クビになったのじゃ!」

「署長さん……、署長さんだったんですね。……クビですって?」

「けしからん!」

 署長さんが叫びました。

「世の中、間違ってますよ!」

「そうじゃ! その通りじゃ!」

「うっ、う、う……」


「いや! 泣いている場合ではないぞ! 早いとこ、新しい仕事を探さなくては!」

「おう、そうだ。」

「まずは、腹ごしらえじゃ。腹がへってはいくさができんからのう」

「何か出前でもとりましょうか?」

「出前か? ……でも、何を?」

 警官が考えています。

「そうじゃ! さっき、宅配ピザのチラシがあったぞ!『鬼のように速い宅配』とか書いてあったな!」

「じゃあ、それで」

「うむ。そうしよう……」

 署長さんは、チラシを見つけて、早速、電話をかけます。


「へい! 毎度!」

「まさか、もう来たのか?」

 署長さんは、まだ、電話を持ったままです。

「なんと、ほんとうに鬼のような速さじゃ!」

「ええ。ほんとうの鬼ですから」

 ピザとブランデーを持って玄関に現れた鬼は、頭に角を生やしていますが、なぜか、豆腐屋のラッパを持っています。


「なるほど。ところで、鬼さんよう。いったい、何でまた、こんなところで、こんな仕事をしとるんじゃ?」

署長さんが、鬼に尋ねました。

「そうよ。おれも、そいつが聞きたいぜ」

どろぼうも言いました。


「ふん。クビになったのよ」

 鬼が、吐き捨てるように言いました。

「クビだって?」

「クビって、いったい何を?」

「鬼をさ」

「鬼をクビに?」

 どろぼうと署長さんが、声をそろえて聞き直しました。

「ああ。えんま大王が財政難でね。リストラされたんだ。あの世も、不景気でね」


 と、突然、上の階に何かが落ちてきたような大音響。

 バババリリリリ……

「な、何の音だ?」

「何か落ちてきたみたいだぞ! 雷か?」

「家が崩れそうだ!」

「不景気で家までつぶれるのか?」

「な、何を?」

「とにかく、行ってみよう」

 署長さんとどろぼうと鬼は、急いで、二階に上がっていきます。


「あんたは?」

「か、かみなりさん?」

「お、おお、その通りよ。おお、いたたた……」


 二階の部屋にしりもちをついて倒れていたのは、かみなり様でした。虎の毛皮を腰に巻いており、屋根が突き破られています。そばに、かみなり様のたいこが転がっています。


「なんと! 雷でも落ちたかと思った、と言おうとしたら、本物じゃったか!」

 署長さんが、感動したように言いました。どろぼうと鬼は、あきれたような顔をして、ぽかんと立っています。

「かみなりさんも、命がけの仕事じゃのう」

「あいたたたた……、くそーっ! 今度こそクビだあ……。くそーっ! いたたた……」

「何? クビ?」

「クビ」と聞いて、どろぼうも鬼も、急に、我に返りました。

「クビだって?」

 署長さんも、驚いて尋ねます。

「ああ。夕立でもないのに、こんな所に落ちてしまって……。これで、今度こそ、確実に、かみなり隊員をクビになってしまう!」

「『こんな所』で悪かったのう」

 署長さんが、少し、むっとして言いました。


「ところで、あなたのそのラッパは?」

「ああ。俺は、ほんとうは豆腐屋をやりたかったんだけど、儲かりそうもないんで、ピザ屋をやってるんだ」

 鬼が答えました。

「でも、豆腐屋のラッパは手放せない」


「そう言えば、おまえのそのギターは?」

「ああ、これは、おれの趣味で……」

 どろぼうが鬼に答えました。

「ほんとうはミュージシャンになりたかったんだな」

「あ、まあ……」


「そうじゃ!」

 署長さんが、何かを思いついたようです。

「どうしたんですか? 署長さん」

「うむ。我々の新しい仕事じゃ!」

「新しい仕事?」

「音楽隊じゃ!」

「音楽隊?」


「たしか、さっき、このあたりに……おお! あった!あった!」

 宣伝ビラのようなものを見つけた署長さんが、喜んで、みんなに見せます。


「ブレーメン音楽隊員募集!」


「音楽隊? なるほど」


「ギターを弾くどろぼう。豆腐屋のラッパを吹く鬼。たいこをたたくかみなり様。そして、カラオケのマイクを握って歌う警官」

「うむ。これはいけるかも」

「なるほど」

 みんな乗り気です。

「よし、決まりだ!」

「うむ。そうと決まったら、早速、練習だ!」

「よし、ブレーメンの音楽隊めざして、さっそく、行進だ!」


 ギターを弾くどろぼう。豆腐屋のラッパを吹く鬼。たいこをたたくかみなり様。そして、カラオケのマイクを握って歌う警察署長さん……

 早くも、行進が始まります。


「うるせーぞ!」

「やめろー!」

「ぶれーもん!」

 町は大騒ぎです。


 どろぼうや署長さんたちが夜の町に繰り出すと、人々は、携帯電話とカバンを持ったまま、騒音に耐えかねて逃げ出して行きました。

 

「いいぞ、この調子だ!」


 どろぼうたちは、なおも、大音響の演奏を続けました。すると、小さなお城のような建物から、テレビで見たことのある大臣や、有名会社の社長さんが、派手なドレスを着た女の人たちと一緒に飛び出してきて、黒い車で走って逃げて行ってしまいました。


 どろぼうたちが、だれもいなくなったお城の中に入ってみると、豪華なごちそうや、お酒がたっぷりあります。


「おお、ちょうどいい。ここで一休みしよう!」

「そうしよう!」

「でも、少し、改装した方が気分がよさそうだな」

「うむ。たしかに」

 というわけで、どろぼうたちは、お城のようだった建物を改造して、快適な小屋に変身させてしまいました。


 さびれた町の中の小屋。赤提灯とランプの明かりで、「夕日町四丁目音楽隊」という表札がかろうじて読めます。そして、日本酒で乾杯する四人の楽しそうな姿が見えます。

 

「乾杯!」

 こうして、ぶれーもんの音楽隊の隊員たちは、ずっと幸せに暮らし続けました。

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