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第16話: 地上の混乱

遺跡の存在が地上に漏れると、プロジェクトはたちまち注目の的となった。科学者たちだけでなく、政府関係者や報道陣までもが施設に押し寄せ、平穏だった研究施設は一気に騒然とした空気に包まれた。


その日、篠原教授は研究施設の会議室で、政府から派遣された危機管理局の担当者と向き合っていた。その人物はスーツに身を包んだ初老の男性で、落ち着いた声と鋭い視線が印象的だった。


「篠原教授、我々も遺跡がもたらす可能性については十分に期待している。だが、国家の安全を第一に考えた場合、このような巨大な発見を一部の科学者だけで管理するのは難しい。」


担当者が静かに語りかける。その口調は一見丁寧だが、含まれる圧力は明確だった。


「私たちはこの発見を世界中の利益のために利用するべきだと考えています。そして、その指揮権を政府が握るべきだ。」


篠原教授は顎に手を当て、一瞬思案するふりをした後、穏やかに笑った。


「それは結構なご提案ですね。しかし、遺跡は国家や軍事目的に縛られるべきものではありません。」


担当者は眉をわずかに動かし、冷静さを保ったまま言葉を続ける。


「教授、この遺跡がもし、エネルギー資源や軍事技術の可能性を秘めているとしたら?地球の未来を守るという点では、政府主導で慎重に管理する方が妥当ではありませんか?」


篠原教授はその言葉を受け、やや身を乗り出した。


「それが問題です。この遺跡の意志を無視して、単なる資源と見るのは短絡的すぎます。我々科学者には、この遺跡が何を望み、何を伝えようとしているのかを解明する義務がある。」


「遺跡の意志……ですか。」


担当者は軽く目を細めながら呟く。その反応には、懐疑と興味の両方が混ざっていた。


「遺跡はただの古代の残骸ではありません。そこに知性がある可能性がある以上、政治や利権で判断するのは誤りです。」


教授の声には、譲れない信念がこもっていた。


---


一方、深海の遺跡では、探査チームがさらに奥深くへと進みながら、地上との通信が不安定になりつつあった。村上が通信装置を調整しながら不安げに呟く。


「地上の混乱がこっちに波及してこないといいけどな。」


アヤも窓越しに遺跡の光を見つめながら頷く。


「教授がいる限り、大丈夫だと思いたいけど……。」


---


地上では、研究施設のエンジニアたちが篠原教授の意志に呼応するように、遺跡の解析作業を黙々と続けていた。その中の一人が小声で仲間に話しかける。


「教授のこと、よく分かんない人だと思ってたけど……こういう時にあの人がいるのは心強いな。」


別の研究者が苦笑しながら答える。


「まあな。政府の連中が来ても動じないあの態度は、見てて気持ちいいよな。」


彼らの間には、混乱の中にもかすかな信頼感が生まれていた。


---


再び会議室では、篠原教授と政府担当者の会話が続いていた。


「教授、私はあなたの熱意を否定するつもりはありません。ただ、これ以上、政府が監視を強めざるを得ない状況を避けたいとも思っています。」


担当者が真摯な口調で語る。


「では、我々に任せてください。」


教授は微笑みを浮かべながら静かに言った。


「遺跡が私たち全員に何を示そうとしているのか、その答えが分かれば、政治だろうと権力だろうと関係なく、全てを共有する覚悟があります。」


担当者はしばらく教授の顔を見つめた後、小さく息を吐いた。


「分かりました。ただし、くれぐれも慎重に。」


---


深海では、探査チームがさらに遺跡の中心へと進み続けていた。その道の先には、遺跡が最終的に示そうとしている真実が待っているのだと、全員が感じていた。

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