表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

第5話 エルフの願い

 既に夕暮れ。海斗達が車で去っていくのを見送ると僕も家に帰る事にした。


「チャコじゃなかった、え~と、エルフさん? そろそろ僕達も帰ろうか?」


 すると、エルフさんが神妙な顔で答える。


「航平、ちょっと歩かないか?」


「わ、分かった」


 僕達は再び長い海岸線の遊歩道を歩き始める。遠い海の地平線に沈みゆく太陽を眺めながら、無言で歩みを進める。

 しばらくして、ようやくエルフさんが口を開いた。


「航平、ここに座らぬか?」


 遊歩道から海に向かって作られた人工海岸。屋外コンサートの客席の様なコンクリートの階段が海面まで続いている。

 僕達はその階段に2人並んで座り、夕日に染まった海を眺める。


 ザザー、ザザー、ザザー……。


 人気の無くなった海岸に、波の音だけが聞こえ、その合間に微かに聞こえるエルフさんの息づかい。何かを話そうとしては口を閉ざし、また口を開いては閉じる。

 おそらくはチャコとエルフさんの現状について話をしたいのだと思うが、何をそんなに躊躇らっているのだろうか?

 しょうがないので僕から話を切り出す。


「エルフさん、話ってチャコの事だろ?」


 すると、エルフさんの顔が真っ赤になる。


 なぜぇ?


 そして、もじもじしながら、ようやく口を開いた。


「その通り、チャコと妾の事。そして航平、お主の事でもあるのじゃ!」


「エルフさん、どうも話がみえないんだが……」


 エルフさんは、再び赤い顔で目をそらす。


「そうじゃのう、分かり易く順を追って話すとしよう……。まずは、現在の状況じゃが、妾とチャコが体を共有しとる事は気付いておろう?」


「うん。ただ、入れ替わるタイミングとか、犬の姿になるタイミングとか、チャコが言葉を話せる事とか、どうなってるんだ?」


「うむ、まず入れ替わるタイミングじゃが、基本的にはチャコが寝ていると妾が表に出てこれる。無理やり起こす時もあるがのう。ふふっ!」


 なんだぁ、このほほ笑みは? おそらく、二人は中でいろいろやっている様だ。


「犬の姿になるタイミングは?」


「本人が望めば、いつでも出来るぞ。今やってみせようか?」


 エルフさんが変身しようとしたので必死に止める。


「待って、今はやめて!」


「そうか、犬の姿も体が軽うなって気に入っておるんじゃがのう……」


「そ、それじゃ、こんなに早くチャコが言葉を話せるようになった理由は?」


 エルフさんの顔がまた赤くなった。


「それはじゃなぁ……、なんと言うか、知能、いや精神、いや心が、チャコと急速に同化しているのじゃ!」


「それは、どういう事?」


 エルフさんが更に赤くなりモジモジし始めた。


「それはじゃなぁ……、チャコと同化した時、チャコの精神年齢は三歳。対して妾は一〇〇歳。それが同化した事で、チャコの今の精神年齢は一五歳。まさに恋する乙女じゃ!」


 なるほど、散歩の時から番屋街での食事を通して、最初は幼稚園児に見えたチャコが、足湯の時には普通の女の子に見えた。それは気のせいではなかった様だ。

 しかし、エルフさんが一〇〇歳の婆さんだったとは……少し残念。


「お主、何か失礼な事を考えておらんか?」


 僕は図星を突かれて動揺する。


「いいえ、エルフさんが一〇〇歳の婆さんだなんて思ってません!」


 エルフさんが頬を膨らませて怒る。


「妾は婆さんなどではない! れっきとしたエルフ王国の王女じゃぞ! 人も羨むピチピチの乙女じゃ!」


「でも、一〇〇歳なんだろう?」


「失礼なッ! エルフにとっての一〇〇歳は、人間にとっての二〇歳じゃ。それに、チャコの精神も流れ込んできて妾も若返ってきておる。ちなみに、エルフの寿命は四〇〇歳なんじゃ!」


 エルフの寿命が四〇〇歳。想像もできないが、その前に王女って言っていた。それにエルフ王国……もしかして、このエルフさんは凄い人、いや凄いエルフなのかも?

 僕はエルフさんに問い正す。


「そのぉ、エルフさんは王女様なんですか?」


 エルフさんの目がキリッとする。


「そうじゃ、妾の名はエカテリーナ・フォン・エルフ。二〇〇〇年以上続くエルフ王国の王女じゃ! いや、今となっては、じゃったというべきかのう……」


 悲しげな顔のエルフさん。その瞳から一筋の涙がこぼれ落ちた。

 どうやら、深い事情がありそうだ。昨日のフードの男も含めて僕は知る必要がある。


「エルフさん、いやエカテリーナさん。そのぅ……よかったら事情を話して頂けませんか?」


 すると、すがるような眼をしたエルフさんが僕に語り掛ける。


「航平……、妾の両親がダークエルフに幽閉されておる。妾は、妾は、父と母を助けたいのじゃ!」


「父って、王様って事ですか?」


「そうじゃ、そして、ダークエルフとは昨日のフードをかぶった男達。地上の各地に散らばって妾を探しておるのじゃ!」


 そこから、エルフさんはエルフ王国の歴史やダークエルフに追われる身となった経緯を、ゆっくりと語ってくれた。


・・・・・


 太古の昔、地上人と宝石の精霊が交わりエルフ族が誕生した。当初エルフ族は地上で暮らしていたが、人族から長い耳は異形とされ、地上を追われて地下へ逃げた。


 エルフ族は魔法という特別な能力を持っており、その力を使って人族と戦ったが多勢に無勢。地下洞窟の奥深くに追いつめられた時、空間魔法を使えるエルフが現れ、更に地下深くへと逃げ延びた。


 空間魔法を使えるエルフは、地下深くに巨大な空間、通称コロニーを作り、エルフの最初の王となった。

 空間魔法は、王以外に使う事ができず、唯一使えるのはその第一子だけ。正に一子相伝の秘法。それ故、歴代の王は空間魔法を使ってコロニーを増やすのが使命となり、今では世界各大陸の地下に、コロニーが点在しているという。


 しかし、二〇〇年前から、ある異変が起こり始めた。元来穏やかな性格の白い肌を持つエルフ族から茶褐色の肌を持つ好戦的なダークエルフが生まれる様になった。

 エルフ王は、この異変を調査し、遂に原因を突き止めた。その原因とは、人族が地下深くに埋めた核廃棄物。そこから放射能が漏れ出し、コロニーを汚染した事が原因だった。


 やがて、数を増やしたダークエルフは各コロニーで反乱を起こし、領主の座を手に入れていった。遂には王都へ攻め入り、王族は全て捕らえられたが、たまたま日本の地下へ視察に出かけていたエカテリーナだけは逃げ延びる事ができたそうだ。しかし、地上で追手に見つかり瀕死の重傷をおった所に、僕とチャコが遭遇したとの事だ。


 ダークエルフ達の主張は憎き人族を滅ぼし、地上を乗っ取る事。しかし、コロニーから地上へ出る道は原初の穴のみ。つまりヨーロッパの地下だけであり、大勢の戦闘員を地上へ送り出す為には、王様と王女の空間魔法で各コロニーから地上へ道を作る必要があるとの事で、エカテリーナに追手を差し向けたらしい。

 実際の所、重症を負ってエカテリーナは死亡した訳だが、追手も死亡した為、いずれ第二の追手もやってくると思われる。


 この現状を踏まえて、エカテリーナの願いは良識あるエルフの同志の力を借りて父を助け出し、ダークエルフの地上侵攻を阻止する事。

 ひと通りの事情を話し終えたエカテリーナは、改まって僕に懇願する。


「航平、私の願いは父を助ける事。しかし、この体の半分はチャコ。それに航平には命を救ってもらった。勝手な事ができないのは分かっておる。でも…………」


 僕は質問を挟む。


「チャコはなんと言ってるんだ?」


「航平と一緒ならどこへでもと……」


 正直、ここまで聞いたからには助けてあげたい。でも、剣や魔法の戦いに僕みたいな一般人が行った所で足手まといになるだけだ。それに、僕には仕事だってある。

 僕はエルフさんの願いを断る事にした。


「エカテリーナさん、助けてあげたいのは山々ですが、僕は見ての通り何の力も無い人間です。こんな僕が行った所で足手まといになるだけ。申し訳ないですが……」


 僕が断わる寸前、エカテリーナさんが顔を赤らめ割って入る。


「航平にも、あ、ある事をすれば、私の能力を分け与える事ができるのじゃ。そしたら、航平もダークエルフと対等に戦う事が出来るしチャコも守れる。それに、わ、妾もイヤでは……ない」


「ある事とは?」


 僕の問いに、エカテリーナはうつむいて恥ずかしそうに囁いた。


「そ、それは……………」



【第5話 エルフの願い 完】

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ