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天堂が行く  作者: 薔薇クーダ
第十五話
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第五話 田所の最後の手

天堂と関西の影のドン田所との最終決戦の時が来た。

 天堂を襲った結果も先崎を襲った結果も何一つ田所には届かなかった。しかし天堂も先崎もピンピンしてると言う報告で地獄谷の住人が失敗した事を知った。


 これは容易ならざる事だった。まさかあの狂人達に勝てる人間がこの世にいるとは思わなかったからだ。


 ここに来て田所は初めて危機感を味わった。今まで誰にも恐怖など感じた事がなかった。そして全てを力で捻じ伏せて来たし、自分に敵う者などいないと思っていた。


 しかしここに来て初めて力でねじ伏せられない者があらわれたのだ。しかしそれでも田所はまだ諦めてはいなかった。


 武力がだめなら権力を使えばいい。自分にはそれだけの力あると今度は大阪府警に圧力を掛けて天堂商会を潰せと言った。


 しかし府警の反応は思った様なものではなかった。それはそうだろう。府警は以前に一度天堂に煮え湯を飲まされ、その後の遺症はまだ後を引きずっている。


 当時の不祥事の証拠をまだ天堂に握られているのだ。それが暴露されれば府警と言えども、いや本部長と言えどもただでは済まない。


 だから府警としてはこの件に関してはどちらにも関与しない立場を取った。つまり双方でどんな戦いをやろうが警察は一切関与しない事にしたのだ。


 これには田所も驚いた。まさか天堂がこれ程の力を持っていようとは思いもしなかったからだ。ならば政界の力はどうだ。


 しかし天堂の力は政界にまで及んでいた。かって民政党の国土再生計画なるものが頓挫した事件で、その関係者たる府議員達も天堂に脅しを掛けられていた。


 だから例え田所の要請だと言っても動けなかったのだ。それはそうだろう。所詮議員は自分の身の安全が第一だ。今の地位を捨てる事など到底出来なかった。


 だから田所の要請も断らざるを得なかった。田所にしてみればこれもまた想定外の出来事だった。


 そうなれば後は経済面か。金で揺さぶりを掛ければ例え天堂と言えどもどうにもなるまい。所詮は小さな古美術商だと高をくくっていた。


 しかし天堂商会の預金残高は1兆円を超えていた。それ以外にも諸々の商売を合わせれば優に10兆円に届く。


 それは田所ですら足元にも及ばない金額だった。田所はこんなバケモノを相手にしようとしていたのだ。


 正直田所は焦った。他に手はないものかと。そして最後に行き着いたのが、まだ何とか影響力を使える相手、それは神戸の山王会だった。


 山王会の会長、桟敷元明とは昵懇の間柄だ。あそこなら力を貸してくれだろうと田所は神戸に向かった。


 その頃少しづつ馴染んで来た先崎が「Time Out」で天堂と飲んでいると、そこにまた吉田がやって来た。


「おい天堂。今度はお前え何をやったんや。おお、新凸凹コンビもいたんか」

「凸凹ではありませんって。それで何の話です」


「俺の府警時代の仲間がな、どうやら田所が府警に圧力を掛けて来たらしいと言うとたぞ。それもお前に対して」

「それでどうなったんです」

「別にどうにもなっとらん」


「それはまた」

「そらそうやろう。お前にはまだ借りがあるからな。府警もそう簡単には動けんやろう」

「そうですか。それは良かった」


「しかしそこまで田所が露骨に出て来たと言う事は、ほんまに気つけんといかんかも知れんな」

「そうですね。今度はどう動きますかね」


「神戸辺りが危ないな」

「何故です」

「山岸会の会長と田所はポン友や」

「そうですか。神戸ですか」


 天堂は先崎に目配せした。神戸を洗えと言う事だろう。先崎も納得して配下を送る事にした。


 恐らく吉田はそれを見込んで話に来たんだろう。本当に食えない親父だ。


 神戸に着いた田所は一直線に山岸会本部に向かった。山岸会会長の桟敷元明とは古くからの盟友だ。お互いにこの日本でトップを取ろうと誓い合った仲間だった。


 今田所は苦境に立たされてた。いや、それはまだだがやがてそうなる事は目に見えていた。だからこそ、ここで一発逆転の手を打たなければならなかった。


 相手には『関西縁友会』がついている。ならそれに対抗出来る勢力はこの西日本で、いや、この日本で唯一つだろう。日本最大の規模を誇るやくざ組織、山岸会だ。


 田所は桟敷との久々の再会を喜んだ後、今の状況について説明し力を貸して欲しいと頼んだ。


 相手は天堂商会だと言った。直接抗争に発展した事はないが何度となく聞いた名前だった。


 そして山岸会の幹部達が幾度か探りを入れたり、ちょっかいを掛けたりしたらしいが、何時の間にかその話は太刀切れになり、誰もその事について触れなくなってしまった。


 桟敷も少し気にはしていた。天堂商会とは一体何者なのかと。そして田所の話を聞いて納得した。何故幹部達が手を引いたのかを。


 そう言う事なら山岸会としても黙っている訳にはいかない。これまでの事もある。


 そしていつかは自分の敵に回るかも知れない相手だ。ここで潰しておくのもまた一つの手だろうと思った。


 田所は自分の手下を集めれば4,000人になると言った。ならそれに同数の4,000人を貸して8,000人にすれば盤石だろう。


 『関西縁友会』の全勢力を合わせても6,000人行くか行かないかだ。これなら勝てる。


 これだけのものを用意して田所は山岸会と連名で『関西縁友会』に宣戦布告を叩きつけて来た。


 驚いた山根と東条は再び天堂の所に駆け込んで来た。ついに神戸が牙を剥いたと。


 予想はしていたが随分と早い行動に出たものだと天堂は思ったが、まぁいいだろうと思った。


「わかりました。この件に関しては私達天堂商会が責任を持って対処する事にします」

「ほんまかいな天堂はん」

「ええ、任せておいてください。だた奇襲に備えて準備だけはしておいてください」

「わかった。そうしよう。ほな頼むで天堂はん」


 そう言って二人は急いで引き上げて行った。


「社長いよいよですね」

「で、どうだった。向こうの様子は」

「はい。田所が4,000、山岸会が4,000で計8,000と言った所でしょうか」


「8,000か。それは面白い。ではみんなを呼ぶか」

「みんなを呼ぶって、まさかあの8人衆をお呼びになるんですか」

「呼ばないと後で文句を言われるだろう。特に柴村や黄崎、それに青柳なんかは。あっそうか、赤城もそうだったな」

「あはは、確かに。皆さん戦闘狂ですからね」


 こうして久し振りに天堂商会最強の8人が揃う事になった。


「先崎君、その前にやる事がある。行こうか」

「あのー何処へ」

「こちらからの宣戦布告だよ」


 天堂と先崎は豊中にある田所の屋敷に向かった。その広い敷地と大きな門構え。ここに田所ありと言ってる様な屋敷だった。


 門を潜るのは面倒なので二人で塀を飛び越えた。2メートル半もありそうな塀だったが彼らに取っては軽いジャンプですんだ。


 中庭に入って見ると定番のドーベル犬が4匹低く唸りながら飛んで来た。しかし天堂達の前まで来た所で頭を地面にすりつけ尻尾を巻き込んでしまった。


 動物には匂いで強弱がわかる様だ。これはどうしても勝てない相手だと。


 天堂達はそのまま玄関から堂々と入って行った。途中書生の様な用心棒達がいたがまったく話にならなかった。皆瞬殺して天堂達はさらに奥に進んだ。


 奥には一人この家を守る男がいた。それは田所の片腕と言われる匠気橘内(しょうききない)だ。


「田所さんは何処にいますか」

「誰だお前達は」

「ご存じでしょう。私が天堂、そして彼が先崎です」

「なな、何しに来た」


「田所さんは今神戸ですか。まぁそうでしょうね。では伝言を伝えてもらえますか」

「なに、伝言だと」


 その時威圧が飛んだ。


「宣戦布告と言っても良いのですがね。2日後の日曜の明け方5時に須磨海岸の○○で戦争をしましょう。そちらは何人連れて来てくれても構いません。こっちは我々8人で相手をさせてもらいます。まさか逃げないですよね、天下の田所と山岸会が。逃げれば恥になりますよと伝えてください」


 そう言って天堂達が去って行ったがそれまでの間、匠気は生きた心地がしなかった。まるで百獣の王ライオンの前に立った様に。


 余りにも恐ろしい。どうしてお隠居はこんなバケモノを相手に選んでしまったのだろうと。しかし伝えなければならない。そう思って匠気は電話を取った。


 その朝は実に賑やかだった。

「ねぇねぇ、黄崎っち、今日は焼き鳥しないの」

「なんでこんな時に焼き鳥しなきゃなんないんすか。白金」

「だってさ、それって備長炭じゃないの」

「おい、お前らバーベキュやってんじゃねーんだぞ」

「柴村っちだって何手に持ってるの、お皿?」

「ああ、これはだな」


「君達は本当に変わりませんね。せっかくみんなで久し振りに集まったと言うのに」

「部長だって嬉しそうじゃないですか」

「ま、まぁそれはですね」


「いいじゃないか。今日はお祭りだ」

「ですよね宗家、いや、社長」


「で、今回はどんな作戦で行くんです」

「あのさー赤ヘルガに作戦なんてあるの」

「あるに決まってんだろう。当たってドカーンだろう」

「これだもんな」


「ええっとですね。今回の相手は8,000人との事です」

「おー、それは凄いですね。じゃー一人頭1,000人位ですかね」

「あのですね、部長は外れませんか」

「何故ですか緑君」

「だって僕らの取り分が減るでしょう」


「お前なー摑み取りゲームやってんじゃねーんだぞ。でもそうだよな」

「大丈夫です。今回私は参加しません」

「ごっつあんです。じゃー7人衆って事で」

「いいえ、8人衆でやってもらいます」


「だって部長が抜けるんじゃ7人でしょう」

「7人に一人追加します。先崎君です」

「おー先崎、お前が入るのか」


「そうだよね、元々部長は別格だから」

「じゃーこれで新8人衆だね」

「そんな、私なんか」

「謙遜するんじゃねーよ先崎。じゃー新8人衆を祝って乾杯だ」

「おーっ!!!」


 何とこれが、これから8,000人を相手に戦争しようと言う者達だろうか。あまりにも馬鹿げてる。


「で社長、今回は何処までやっていいんです」

「後ろを見てくれ。処理班を用意しておいた」

「おっしゃー、じゃー思いっきりやれるぜ」

「おーっ!!!!!!」


 こうして遂に8,000対8の戦争が始まった。そしてこれに関しては兵庫県警も大阪府警の様に関与しなかった。何故なら今回は、田所が関与するなと逆の圧力を掛けたからだ。


 そして2時間後、全てに決着がついた。田所側で生き残った者は80人もいただろうか。想像を絶する戦いだった。ただしそれは田所側から見た場合だ。


 戦場の後に残ったものは、消火器から噴出する白い泡の様な物が大地を覆っていただけだった。これが肉も骨も全てを分解してしまった。そして後には何も残らなかった。


 生き残った80人程の組員も自我を見失い、自宅に逃げ帰り布団を被って1日中震えていたと言う。彼らがこの事を語る事はまずないだろう。


 山岸会本部に知らせが届いたのは大分経ってからだ。誰も帰って来ないと。そして戦場には誰もいなかったと。


 そんな馬鹿な事がと佐々木も田所も思った。しかし時間と共にその事実を受け入れるより仕方がなかった。


 刻々と進む時間はまるで彼らの心臓の鼓動を刻んでいる様だった。それも地獄からの死神の足音を聞くように。


 これが事実なら田所は自分の勢力のほぼその全てを失った事になる。では山岸会はどうか。


 確かにこちらも痛手には違いない。しかし高が4,000だ。数の上だけで言えばまだその屋台骨を揺るがす程ではない。


 かと言って軽視出来る数でもない。しかもそれが本当にたったの8人に負けたと言う事が事実であれば、それは誰にも言える事ではなかった。そちらの方こそ屋台骨を揺るがす事になる。


 だから桟敷は今回の戦争に関しては緘口令を敷いた。そして今後一切天堂及び天堂商会には手を出すなと言う指示を全国に飛ばした。


 天堂達は意気揚々と引き上げ、天堂本社で本格的な勝利の祝杯を上げていた。


「社長、今回は追撃しなくていいんですか」

「いいんじゃないか。これで田所はもう死んだも同じだろう。もしまだ何かしそうならその時は本当に潰すさ」


「では山岸会の方は」

「まぁそっちは徐々に追い詰めて行けばいいだろう」

「そうですね、楽しみは後に取っておいた方がいいですからね」

「そう言う事だ」


「社長、その時は必ずまた呼んでくださいよ。抜け駆けはなしですからね」

「わかってるさ。今回は皆よくやってくれた。感謝する」

「では、天堂商会の未来にカンパーイ!」


 この戦いの後、田所と桟敷は急に老けた感じになっていた。特に田所は。


「なぁ田所よ、お前何であんなバケモンを相手にしたんや」

「そうやな、夢を見過ぎたんやろうな」

「夢か、今回はお互いに地獄の夢を見たと言う事か」

「そうかも知れんな」


 その後田所は一線を退き、豊中の屋敷を売り払って一人の老人として余生を過ごしたと言う。

応援していただくと励みになります。

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