表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天堂が行く  作者: 薔薇クーダ
第十四部
68/77

第三話 正義のオジサン代行

鳴海は先崎の用心棒の後を継いで「正義のオジサン」としてハングレの制裁を始めた。

 残念な事に先崎にはもう有休が残っていなかった。明日には大阪に帰らなければならない。


 それでどうしたものかと先崎はこれまでの経緯を鳴海に話して意見を聞いてみた。


「君は休暇の間にまた面白い事に首を突っ込んでいたんですね」

「はぁ、成り行きでつい」

「いいでしょう。その仕事、私が引き継ぎましょう」

「いいんですか、こんな些細な仕事に」


「些細な事はないでしょう。日本天洋会と金目組も絡んでいるんでしょう」

「まさか、そこまで行くつもりですか」

「最近は荒事をしなくなったんで退屈してたんですよ。気晴らしの運動位にはなるでしょう」


 日本最大の右翼に関東最大のやくざ組織、それを相手にして気晴らしの運動位にはなるだろうとは、この男一体どんな神経をしているのか。


 先崎は安心した半面、とんでもないものに火をつけてしまった危機感を感じながら鳴海を佐々木川組組長に紹介した。


「先崎さん、本当ですかい。大阪に帰っちゃうってのは」

「ええ、申し訳ありませんが時間切れです」

「じゃーこれから先は」


「ですから私の代わりの人をお連れしました」

「そちらの方で」

「ええ、私の先輩です。私より強いので安心してください」


「それは頼もしくていいんですが良いんですかい。お見かけした所堅気の方の様だが、裏にはやくざもいるし右翼もいます。堅気の方にはちょと荷が重いんではないですか」

「それも承知で引き受けてくれるそうです」

「そうですかい。それは有り難い」


「一つ疑問があるんですが」

「何ですかい先崎さん」

「ここのハングレはもう潰しました。佐々木川さんの所のシマ内ではもう問題は起こらないと思うのですが、まだやるのですか」


「確かにここでは先崎さんのお陰で大人しくなるでしょう。でもね、他所のシマじゃまだ同じような事が起こって堅気の衆が迷惑してるんですよ。それを思うとどうも寝覚めが悪くてね」

「だからまだ用心棒を雇うと」

「ええ、契約金はキッチリ払わせていただきやす。ですのでお願いできやすか」


「面白い方ですね。気に入りました。ではやらせていただきましょう」

「そうですかい。それは有り難い。それでこちらの方のお名前は」

「そうですね、『正義のオジサン代行』とでもしておきましょうか」


「何ですかい、それは」

「あんた舐めてんのかい」

「おい、よさねーか。菊村」


「この先進むと、あなたが言う様に大きな組織ともぶつかる可能性が出て来るでしょう。そこでこちらの素性が知れると困る者もいますしね。それにそちらもこう言う事は知らない方がいいでしょう」

「確かに仰る通りだ。こっちも知らなきゃしゃべりようもねえってこってすな」

「そう言う事です」

「わかりやした、それでいきやしょう」


「でも先崎さんは良いんですかい。面も割れてますが」

「彼は東京を離れますからいいでしょう。仮に居場所を見つけても簡単には手を出せないでしょう」

「ほーそう言う方ですか」


 どうやら鳴海にはその先の見通しもつけている様だった。


 これは先崎とも相談した事だが、鳴海と先崎は背格好が良く似ているし話し方も似ている。仮面を付ければどっちがどっちかわからないだろう言う事だった。


 そこで仮面を付けて「正義のオジサン」を名乗って天誅を行う。そう言う筋書きにした。ただしこれは本来の『闇』の仮面ではない。あくまで遊びの仮面だ。


 そこで例のハングレ達の情報を佐々木川に聞いてみた。


「あっし達も色々調べてみたんでさ。するとてえヘんな事がわかったんでさ。このハングレの中心になってるガキがどうやら日本天洋会の会長の孫らしいと言う事が」

「なるほど、それでやくざでは手が出せないと言う訳ですか」

「のようですな」


「ふふふ、あははは、それはいいですね」

「ちょっと先輩、大丈夫ですか」

「先崎君、実に面白いではありませんか。相手が日本最大の右翼の会長の孫とはね。倒し甲斐がありますね」

「おいおい、先崎さんよ。あんたの先輩とやらは大丈夫かい」

「まぁ大丈夫でしょう。ただ相手が可哀そうですが」

「???」


 その後の佐々木川組の調べで、ハングレのグループは他に四つあり、渋谷の中心街と池袋に上野、そしてボスのいるのが市ヶ谷だと言う事だった。


 本当は頭を先に潰してしまうのが一番簡単でいいのだがそれでは面白くない。楽しみは最後の方が良いだろうと鳴海は一つづ潰して行く事にした。先ずは近場の渋谷からだ。


 若者の町、渋谷だけあって中心部では訳の分からない若者達でごった返していた。さてこの中からどうしてハングレを見つけるのか。


 昼間は捨てて、何かが起こるとすればそれは夜だろう。それも遅いほどいい。


 この辺りは佐々木川組のシマではないので彼らが動き回るのは不味いだろう。そこで鳴海は『闇』を使って情報を集めさせた。


 すると面白いグループが引っかかって来た。いつもは特定のクラブで屯してるが、時々何人かが出かけて行き、時には服に血を付けて帰って来ると言う。しかも彼らはみなキレやすい連中だと言う話だった。


 彼らは総勢で12人。リーダーはヤスと言うモヒカンで、普段は寡黙だが一旦切れたら何をするかわからないので、仲間ですらあまり近づかないと言う事だった。


『それはわかり易くて良いですね』


 正直ここに潜り込むのは少し薹が立っているので、かって綾香達が使っていた認識誤認メガネを使い、更に自らの気を希薄させて周りに意識させない様にしていた。


 そして彼らの様子を探っていると突然8人の乱入者があり、彼らに襲い掛かって行った。恐らくは敵対するハングレグループなんだろう。


 8人はそれぞれ手に金属バットや鉄パイプを持っていた。ただ場所は彼らが借り切ってると言うか占領している個室だ。テーブルや椅子などが散らばり、カラオケのステージも付いてる。


 そんな狭い空間で棒切れを振り回すのはあまり得策ではない。最初襲われた方は一瞬のタイムラグがあったが、やはりそこはかなり喧嘩慣れしてる様で直ぐに態勢を立て直し反撃に出た。


 ビール瓶やナイフと言った短い武器で接近戦に誘い込み、または飲みかけの酒を相手の顔にかけて戦うなど、相当場数踏んでる様だ。


 一番奥に居たリーダーのモヒカンはみんなの戦いをただ眺めているだけだった。ただ一人、その乱戦から抜け出してモヒカンに襲い掛かった者がいた。


 その相手に対しモヒカンは飲んでいたワインの瓶を割り、ギザギザになった先端を相手の顔に突き刺した。


 顔はぐちゃぐちゃだろう。もしかしたら失明したかも知れないが、そんな事は全く頓着してない様だった。


 なるほど切れると何をするかわからないと言うのは本当の様だ。それに仮に逮捕される事になっても未成年で刑務所に行く事はない。ましてバックの力を使って警察でももみ消すのだろう。


 大した玉だと鳴海は思った。


『では行きますか』


 鳴海は内ポケットに持っていたマスクをかぶり乱戦の中に入って行った。標的は12人のハングレと決まっている。


 奇襲を掛けた8人は適当に眠らせておいた。ただし12人の方は手足がバラバラになるほど痛めつけておいた。まぁ数週間は立って歩く事など出来ないだろう。


 その様子を見ていたモヒカンは嬉しそうに鳴海の正面に立った。


「よう、お前強そうだな」

「ほー言葉が話せるのですか。私はてっきり獣の類かと思っていたのですがね」

「お前は誰だ」

「私は『正義のオジサン』ですよ」


「お前か、もう一つの渋谷や、新宿の仲間をやったのは」

「だとしたらどうします」

「殺す」

「それは結構な事ですね。ではやりましょうか」


 そして唐突に戦いが始まった。このモヒカンにはどんな攻撃にも予備動作と言うものがなかった。


 パンチにしろキックにしろ。その場からいきなり出て来る。これでは普通の者では避けられないだろう。


 いや、並みのプロでも難しいかも知れない。恐らくは先天的なものなんだろう。


「惜しいですね、それだけのものを持っていながら、こんな事にしか使えないとは」

「うるさい。邪魔する者はみんな殺す。お前もだ」

「そうですか。では私のストレートパンチを受けてみますか」


 鳴海は何の変哲もない真っ直ぐなストレートパンチを放った。モヒカンはかわせるはずだった。しかしそのパンチはモヒカンの顔面に炸裂し後ろの壁まで吹っ飛んだ。


『さて何発まで耐えられますかね』


 しかしこの男はタフだった。立ち上がってきた。そしてまた鳴海のパンチをモロに食らった。


 勿論鳴海にしても相当手加減していた。そしたまた立ち上がり、また倒され、また立ち上がった。


「何故だ、何故お前のパンチがかわせない」

「それはあなたが未熟だからですよ。そんなでは100年掛かっても私のパンチはかわせませんね」

「何故だ、何故だ」


 モヒカンの顔は豚まんの様に腫れ上がり歯は折れ、鼻も折れて曲がっていた。もう目も殆ど見えてはいないだろう。


「その程度ですか。下らないですね。時間の無駄でした」


 そう言って仮面の「正義のオジサン」は去って行った。勿論これはモヒカンに聞こえる様に言ったのだ。


 そしてモヒカンはもう立ち上がる力もなく倒れた。相手に指一本触れる事も出来ずに。


 その後店からの知らせで警察が踏み込んで、全員が逮捕されたがみんな未成年だ。警察の歯がゆい思いが伝わってくる様だ。


 ただこの時、仮面を付けた男の存在は店の誰も知らなかった。戦っていた者達以外は。しかしその事には誰も触れようとはしなかった。


 12人と8人、合わせて24人を瞬時に叩きのめした相手だ。誰も再び会いたいと思う者はいなかった。


 ただこれはハングレ達の間に、一種の都市伝説として広がって行った。悪い事をしてると仮面の「正義のオジサン」がやってくると。


 二つの渋谷に新宿と三か所も潰されたハングレグループ、「サキオン」は益々危機感を募らせていた。


 何しろ「サキオン」のNO2と言われたモヒカンが倒されたのだ無理もない。 

応援していただくと励みになります。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ