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天堂が行く  作者: 薔薇クーダ
第十四部
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第一話 襲名披露と東京

園枝恵子が正式に的屋の3代目を継ぐ事になった。

その報告も兼ねて恵子と十亀が大阪の先崎の勤め先にやって来た。

 四国でのゴタゴタが収まった後、園枝恵子が正式に礼をしたいと言って十亀を引き連れて先崎を訪ねて来た。


 恵子は先崎がどんな所で働いているのか興味があったが見てびっくりした。先崎のオフィースは大阪の一等地に建つ立派なビルの中にあった。それこそ一流の企業と言ってもいい程だ。


 何故古美術商がこんな立派なビルに入ってるのか疑問があったがともかく受付に行ってみた。


 その受付もまた一流企業の受付の様でアポもなしに飛び込んだので取り次いでもらえるかどうか心配だった。


 そこで先崎統括部部長にお会いしたいと告げ、自分の名前を言うと「はい、貴方様のお名前はお伺いしております。どうぞお入りください」と言われた。


 恵子は先崎が自分の名前を憶えてくれた事を嬉しく思った。


 応接室で待つ事しばし。先崎が急いで入って来た。


「すみません。雑用があったものですから遅くなりました。お待ちになりましたか」

「いいえ。大丈夫です。でも凄いビルにお入りなんですね」

「いえ、大した事はありません。このビル自体がうちの持ち物ですから」


 そう言われて益々驚いてしまった。古美術商ってこれほど儲かるものなのかと。


 その先崎の後にもう一人入って来た人物がいた。


「恵子さん、紹介します。こちらがうちの社長の天堂です」

「は、初めまして。私はそ、園枝恵子と申します」

「まぁ気楽にしてください。うちの先崎が随分とお世話になった様でありがとうございました」


 この時ついて来た十亀が立ち上がって直立不動になっていた。この男にはわかったのだろう。この相手がどんな人物かと。


「まぁ積もる話もあるでしょう。私はこれで退散しますので後はゆっくりと話して行ってください」


 そう言って天堂は引き上げた。何も知らない恵子ですら重圧が取れたような感じになった。


 恵子が一通りの例を述べた後、十亀が話を進めた。


「実は先崎さん、このお嬢が組を引き継ぐと言い出したんです」

「ええっ、恵子さんがですか。それって恵子さんのお爺さんが望まなかった事ではないのですか」

「ええ、そう言ったんですがね。どうしてもやると言って聞かないんですよ」


「恵子さん、本当にそれでいいんですか。『的屋』と言っても一応は裏社会と接する稼業です。危ない事もあると思うのですが」

「それはわかってます。でもそれは私の父が継ぐはずたっがものです。それが道半ばで出来なくなったのですから血を引く私が継ぐのが筋でしょう」

「この調子です」


「困りましたね。でも意思は固いようですね」

「そうなんです先崎さん。ただ問題が一つあります」

「何ですか」


「継承に伴って立会人になってくれる人がいないんです。それに各地の親分集も集まりが悪くて」

「なるほど、先代ならともかく娘では軽く見られてると言う事ですか」

「そうです」


「そんな事関係ありません。継ぐのは私ですから周りは関係ないでしょう」

「お嬢さん、この業界はそう言う訳にはいかんのです。軽く見られると援助の手も借りられませんし、うちのシマを狙って来る連中も増えるかも知れません。その為のお披露目なんです」


「わかりました。その件に関しては私に任せて下さい。納得出来る立会人を探してきますので。それと参列する親分集に関しても私の方で手配してみましょう」

「そう願えれば助かります」

「何でよ。なんで先崎さんがそんな事出来るの」

「まぁお嬢さん。ここは先崎さんに任せましょう」


 そして襲名披露の案内状には、立会人は大阪最大のやくざ組織山根組の組長山根。そしてそこに参列する組長も大阪の大物組長達がずらりと名前を揃えていた。


 これを見た四国の組長連中は慌てふためいて参加表明をした。ここで不義理をすれば、それは大阪と敵対する事にもなりかねないからだ。


 そしてこの園枝組は途方もないバックを抱えた事になる。園枝組を寝取ろうとする組はもう出て来ないだろう。そしてここに確固たる地盤を築いた事になる。


 恵子は襲名披露の後、参列してくれた大阪の各組長達に挨拶に回った。そこで言われた事は「あんたええ縁を持ったな。幸せもんやで」と言われたが恵子には何の事だかわからなかった。


 しかし十亀にはわかっていた。やはり世話役の力は凄いと。そしてその後ろに控える天堂本人。絶対に敵に回してはいけない人物だと理解した。


 その頃先崎は東京に来ていた。先崎に取っては久しぶりの東京だ。そしてそれは鳴海に会う為だった。


 鳴海に渡した麻薬の解析の事もあったので今回は先崎が直に東京に来る事になった。


 東京の天堂商会東京支社は港区から移転して今は目黒にあった。ここは芸能プロダクションも兼ねていて結構大々的にやっている。


 その中心は目玉商品とも言うべき大人気歌手の神井綾香だ。


 その他にも最近有名になってきた歌手やタレントを多く抱えるようになった。勿論本業の古美術も抜かりはない。


 その他にも不動産部門や金融部門と手広く商売をやっていた。


 その多の従業員は現地採用の才能のある者達に任せ、鳴海達オリジナルメンバーは管理部門に徹していた。


 ただ鳴海だけは特別で、何処の現場にもよく出かけた。やはり自分の目で見ないと納得出来ない性分のようだ。


 先崎が東京支社に着いた時、鳴海はたまたま出掛けていたのでしばらく待つ事になった。


 すると事務所の中をヒラヒラと渡り歩く一人の若い女性がいた。彼女の名前は神井綾香。


 言ってみればこの支社創設以来のタレントだ。支社長の鳴海に次いで信頼されている。


「あれーお客さんでしたか」

 応接間を覗いた綾香がそう言った。


「初めまして。私は先崎と申します。貴方は確か歌手の神井綾香さんですよね」

「あれーわかっちゃいました」

「それは分かりますよ。貴方は有名ですから」


「ありがとうございます。それで貴方は誰かに会いにいらっしゃたんですか」

「ええ、鳴海支社長に」


「そうでしたか。鳴海さんに。もう直ぐ帰って来ると思いますよ。すみませんね、お待たせして」

「いいえ、貴方にお会い出来ただけでも幸運です」

「あら、随分とお上手なんですね」


「おいおい、いつから君はそんなにお世辞が言えるようになったんです」

「あっ、鳴海部長、いえ、鳴海支社長」

「そんなに堅苦しくならなくても良いですよ。貴方と私の仲じゃないですか」

「鳴海さん、お知り合いだったんですか」


「彼は今は大阪本社の統括部長でしたかね」

「へー偉いんだ先崎さんって」

「あははは、綾香君にかかっては先崎君も肩なしですね」

「全くです」

「それじゃーあたしはこれでね。またお会いしましょうね、先崎さん」


 そして綾香はさっきの様にヒラヒラと去って行った。


「それでは我々はお仕事の話をしましょうか」


 秘書にしばらくは誰も取り継がない様にと指示をして鳴海と先崎は鳴海の部屋に消えた。


「ところでどうでしたか、例の麻薬は」

「なかりの物ですね。肉体面よりもむしろ精神面に作用する薬の様です。ただし脳にではなくもっと深い部分の精神面にです」


「そうですか、それ程のものだったのですか。それで『闇』にはなれるのですか」

「そこは問題ですね。確かに一定の環境は作れるでしょう。しかに『闇』になるには君も知ってる様に、それなりの修練がいります」

「はい」


「その精神、いえ魂と言った方がいいでしょう。その魂と修練が結びついて初めて『闇』の入口に立てるのです」

「はい」


「『闇』の入口に立ったからと言って直ぐに『闇』になれるわけではありません」

「はい」


「君も知ってる様に、我々には我々独特の修練法と言うのがあります。それを何処までこなせるかですね」

「『闇抜』はそれを指導出来るんでしょうか」


「それは『闇抜』の技量次第と言う事になるのですが、彼らの技量は恐らく「可」位のレベルだと思われます」

「つまりまだ「了」には達してないと」

「そうですね。しかし油断は禁物です」

「はい」


 例え「可」だとしても、それは言わば先崎のレベルに近い物になる。彼らが更に修練を積んでもし「了」に至ったら。


 それは今の7人衆でほぼ互角、確実に倒すには三傑の力が必要になる。これはうかうかしていられない。更に腕を上げないといけないなと先崎は思った。


「ところで君は、東京ではゆっくり出来るんでしょう」

「ええ、まぁ2-3日はゆっくりして来いとは言われました」

「それなら結構です。今晩は君の歓迎会と行きましょう。ただし二人だけですが」

「ええっ、宜しいんですか。私とで」


 先崎はどうしても鳴海の前では緊張してしまう様だ。


 その夜鳴海が先崎を連れて行ったのは「ネオ・ナビロン」と言うナイトクラブだった。


 先崎は店の中に入ってその豪華さに驚かされた。流石は東京の一等地にある超一流クラブだと。


 大阪でもこれに匹敵する店は2軒しかないだろう。


 それは地恵が経営するキタの「クラリオン」と青海が経営するミナミの「ナビロン」だけだろうと思われた。


 鳴海と先崎が席に着いた頃一人の女性が現れた。それは物凄い美人だったが、その顔を見た先崎は驚きの余り声が出なくなってしまった。


「嬉しいわ天兄、また来てくれたのね」

「何度も言いますがその呼び方はやめませんか」

「いいじゃない。今日はお連れさん。あれー何処かでお見かけしたかしら」


「あ、あのー私先崎です。大阪の天堂商会の」

「先崎、何だ先ちゃんじゃないのよ。いつ東京にきたのよ」

「き、今日来ました。お久しぶりぶりです」


 先崎に取ってこの青海もまた尊敬する三傑の一人ではあるが、ある意味恐怖の対象でもあった。


 この青海が暴れたらもう誰にも止める事が出来ず、町が一つ簡単に壊れるとさえ言われていた。


「じゃー何、今日は先ちゃんの歓迎会って訳」

「そう言う事になりますね」

「じゃー精一杯サービスしなくっちゃね。皆んな、ちょっと来てくれる」


 こうして先崎は鳴海の計略にハマって美女たちの餌食になっていた。

応援していただくと励みになります。

よろしくお願いいたします。

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