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天堂が行く  作者: 薔薇クーダ
第十三部
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第四話 四国の『裏高野』と「露天商」

先崎と青柳は四国の「裏高野」と呼ばれる修練場に向かった。

そこには『闇抜』に育てられた者達がいた。

そして全員「闇高野」に達していると。

さてこの闘いは。

 天堂は『毒サソリ』を倒して先崎に対する直接的な脅威を除いておいた。言ってみればこれは部下に対する上司の配慮みたいなものだ。


 何故なら先崎には今専念してもらいたい仕事があるからだ。だから余計な些細な事に囚われてもらっては困るのだ。


 しかしそれで『フォーゲル』からの脅威が完全になくなった訳ではない。また何時か誰かが狙われるかも知れない。しかしその時はその時でまた潰せば良いと天堂は思っていた。


 一方四国の秘境と言われる祖谷渓谷に足を踏み入れた青柳と先崎はまず『裏高野』を目指した。


 この渓谷の奥深くに『裏高野』と呼ばれる場所がある。それは和歌山の高野山とは関係がない。言ってみれば人の限界に挑戦する修行場の事だ。


 『裏高野』と言うのは主に修験者が修行場として使っていた所の名称だ。それもただの修験者ではなく、前の高野山と同じく裏の仕事をする修験者の修練の場所だった。


 ただ今ではもうその様な修験者はいない。はずだった。しかしその場を覗いて見るとやはりいた。


 過酷な修行をしている20名ほどの者達が。勿論並みの者達ではない。一人一人がずば抜けた体力と能力を持っている事が伺える。


 勿論それでもまだ青柳達に言わせると温いと言う事になるのだろうが、青柳達がその場に降りて行ってみると、


「お待ちしてましたよ。そろそろ来られるんではないかと思ってました」

「ほー俺達が来る事が分かっていたと言うのか。なるほど、和歌山の『暗玉』からの連絡か」

「まぁそんな所です。青柳隠密首領殿」

「俺の事を知ってると言う事はここにも暗部部署の『闇抜』がいると言う事だな」

「そう言う事になりますね」


「で、そいつは何処にいる」

「総師はここにはおられません。我々であなた達を倒せとの指示でしたので。申し遅れましたが私はここを預かってる河野キオといいます」

「お前がここの指導者と言う訳か。で、出来るのか。お前達だけで」


「無論です。ここは『裏高野』ですが、ここにいる者達は皆、『闇高野』に足を踏み入れている者達ばかりです」

「なるほど、では見せてもらおかお前達の力と言うのを」


 その一言から戦いが始まった。そこにいた指導者の男とそれを取り巻く20名ほどの修行者との戦いが。


 それに対するは青柳と先崎だ。青柳は現、隠密機動の首領、片や先崎は闇武術第96代継承者補佐。果たしてこの戦いはどうなるのか。


 彼ら21名の戦い方は先崎の得意とする武術系の戦い方ではなかった。やはり指導者の影響だろう忍びの戦い方だった。


 闇に潜み、影から襲って来る。武器も全て暗器だ。先崎に取っては分の悪い戦い、と言う事になるのかも知れないがそこは歴戦の戦士、先崎だ。


 全ての影からの攻撃をかわしていた。そして接近戦に持ち込んで寸勁や零勁で忍びの技を使わせない状態で倒していた。


 青柳に取っては相手が例え『闇高野』に足を踏み入れているとは言っても所詮はまだまだ見習いの様なものだ。相手にすらならなかった。


「これ程までとは恐れ入りましたね青柳隠密首領。それにそちらの先崎さんとやらも大したものです、我々の戦いに対応出来るとは」

「お前ら舐めてないか俺達を、いや本物の『闇』と言うものを」

「確かにそうかも知れませんね。我々の実力だけではまだ少し無理がありました。仕方がありません。みんなあれを」


 その言葉に残った者達は何かのカプセルと取り出して飲み込んだ。恐らくそれは例の麻薬なのではないだろうか。しかも改良された。


 その薬は精神を心の深い闇に落とし込んだ。そしてそこから浮かび上がって来た者達の目の色が違っていた。一種の深い高揚状態だ。


 人工的に人間の魂を高みに押し上げる。それはとんでもない薬だった。しかしまだ完成された物ではなかった。それなりのリスクもある。


 しかし物理的には実力が向上した。青柳や先崎に対抗出来るほどに。


「おいおい、どうなってやがるこいつら」

「急に強くなりましたね。困ったものです」


 そう言いつつも二人にはそれほど焦っている様子はなかった。


「なぁ、お前ら。忍びにも二種類あるって知ってるか」

「何の事です」

「それは下忍と上忍だ」

「何ですって。それでは我々は下忍だとでも言いたいのですか」

「その通りだ。そこまで修行した事は褒めてやる。ただ半分は薬の助けだがな。しかしそれではまだ足りねーんだよ」


 そこからが本当の、いや真の戦いだった。真の『闇』の住人と『闇』に至れない者の。真の実力を発揮した『闇』の住人の前には成すすべもなく全員が葬られてしまった。


「まさか。何故です。何故我々が負けたのです」

「それはお前らが紛い物だったからだよ」

「私達は紛い物ですか。これでもまだ」

「まぁ、良くやった方だと思うぜ」

「『闇』に至りたかったんですがね」

「ゆっくり眠れや」


 こうして『闇』を夢見た者達は夢の中に消えて行った。


「先崎、まだあの薬を使ってない奴らがいたよな。回収しようぜ」

「そうですね。それを東京の鳴海さんに調べてもらえばいいのではないでしょうか」

「確かに部長なら適任だな」


 彼ら8人衆は、今でも鳴海の事を「部長」と呼んでいる。


 そして青柳と先崎は阿波池田の町に戻ってその町の麻薬を一掃した。これでこの薬に手を染める者はいないはずだ。


 ただし当分はと言う言葉は付くが、そこは青柳の手の者が見張って来る事になっている。先崎はこれまでの経緯は全て天堂社長に報告した。


 すると天堂から「ご苦労さん。そっちで1週間ほどゆっくりして来ると良い」と言われた。要するに有給休暇扱いだ。


 例の麻薬に関しては「青柳が報告も兼ねて大阪に来るそうだから、その時に麻薬も持って来てくれる。だから君は気にせずにゆっくり休みたまえ」と言われた。


「どうだ先崎、一仕事終わった事だし、俺のとこに寄って行かないか」

「青柳さんの所と言うと高松でしたかね」

「そうだ、のんびりして良い所だぞ」

「わかりました。ゆっくり出来そうですからお邪魔させていただきます」


 先崎は青柳の四国支社のある高松で1泊し、その夜は青柳に『闇抜』について話を聞いていた。


「『闇抜』と言うのはよくあるのですか」

「それは滅多にあるもんじゃね。しかしな、たまたま俺達の先代の時に二人が抜けた」


「それってまさか私の先輩の先代の時ですか」

「そうだ。それと俺の先代の時だ。偶然か故意かはわからんがな」


「それ以外は」

「ないな。そんな事を簡単に許す宗家じゃないからな」

「しかし青柳さんや柴村先輩の先代の時にあったと言う事ですか」

「そう言う事になるな。少し不思議だったんだがな」

「不思議とは」


「『闇抜』ってそう簡単に出来るもんじゃねーんだよ。それは全ての『闇』を敵に回す事になる。余程の手練れでも抜ける事は難しいはずだ。それを抜けたとなると何かあったと考えるのが自然だろう」

「それは」

「わかんねーな」


 翌日青柳は社長が言っていた様に、社長に話す事があると言って大阪の本社に例の麻薬を持って出向いた。


 そこで先崎は四国見物を楽しもうと先ずは讃岐で本場の讃岐うどんを食べて、金毘羅さんに寄って四国の風情を楽しんでいた。


 今回の麻薬騒動には一応のケリはついたが、それで四国の『暗玉』の実態が解明された訳ではなかった。戦いはまだ始まったばかりだ。


 和歌山の『暗玉』と言い四国の『暗玉』。敵はまだその実態を更け出してはいない。


 『闇』に属するものとしてそのまま何もせずに座視す訳にはいかないが、何から手を付けて行けばいいのか、その手掛かりが今の所ない。


『まぁ次の敵の出方を待ちますか』


 そう思って町を歩いていると今日は何かの縁日なのか、通りには露天商が一杯出ていた。そう言えば屋台など久し振りだなと先崎は一軒一軒覗きながら歩いていた。


 時々立ち止まっては定番のタコ焼きやトウモロコシなどを頬張っていた。この時だけは先崎の意識に子供の頃の記憶が蘇っていたのかも知れない。


 しばらく行くと子供達を集めているコルク銃の射的場があった。そこで若い女性が気持ちのいい声で客を集めまた子供達にも親切に的への当て方を指導していたが、むしろこれは大人の方が楽しんでいた。


 先崎も立ち止まってその光景を見ていたら

 「どうお兄さんもやってみる。面白いわよ」と言われ知らず知らずに銃を手にしていた。


 実に客を誘導するのが上手い女性だった。先崎もそれに釣られてコルク銃を握ってしまった口だが、先崎が他の客と違った点は百発百中だった事だ。これには店をやっていた女性も驚いたようで、


 「お兄さん何処かの射撃の選手かお回りさん?」と聞いて来た。

 「まぐれですよ。まぐれ」と先崎は誤魔化していたが、この娘の目は誤魔化せなかった。


 それは何も先崎が百発百中で的に当てたからではない。先崎の銃を構えた時の姿勢と雰囲気が普通の人とは違うと感じたからだ。この娘、伊達にこの商売を何年もやっている訳ではなかった。


 この時露店の端の方で騒ぎが起こった。先崎もそちらの方を見てみると見るからにやくざと思える男達が一軒の店にいちゃもんをつけていた。


 恐らくは嫌がらせの類だろう。しかし普通縁日の様な場所では揉め事は起こさないと言うのが暗黙の了解だと思っていたが、どうやらここのやくざは違う様だ。


 そして騒ぎを起こすだけ起こして警察が来る前に逃げる算段なんだろう。これはこの場を仕切る者への典型的な面子潰しの嫌がらせだなと先崎は思った。


 そして店をひっくり返された店の若い者が反撃で出ようとした時にその前に現れてその若い衆を止めた者があった。


 それは射的場にいた女性だった。


「あんたここは縁日の境内だよ。こんな事でお爺ちゃんの面子を潰すつもりなの」


 この一言でこの若い衆とそれに続こうとした男達の動きが止まった。


 それを見た敵方の一人が失敗したと思い、隠し持ったヤッパでこの娘を突き刺そうとした。


 「お嬢さん、あぶ」とそこまで声を出した時、先崎が二人の間に入って周りに見えない様にそのヤッパを挟み止めて小さな声でこう言った。


「死にたくなかったらこのまま直ぐに引きなさい」


 そして先崎は威圧を放った。それだけで相手は震え上って皆を引き連れて消えて行った。


「あーあー、皆さん、驚かれたでしょう。これは余興です。もう終わりましたのでまた屋台を楽しんでください」


 先崎の言葉で集まっていた人々は「何だ、余興だったのか。びっくりした」と言いながら三々五々に散らばって行った。


「ありがとうございました。あなたのお陰で大げさにならずにすみました」と射的場の女性が礼を言って来た。


 話を聞くと彼女はこの露店を仕切る「的屋」の元締めの孫娘だと言う。


 ただこの時一人だけ、先崎が相手のヤッパを無効にした手腕を見ていた者がいた。それはこの「的屋」を仕切る元締めの頭だった。


 ただしその後先崎が何を言ったのか、また何をしたのかまではわからなかったが、唯者でない事だけはわかった様だ。


 場が収まった後、是非ともお礼がしたいとその元締めの孫娘、園枝恵子と頭の十亀雄二に伴われて的屋の元締め、園枝京造の元を訪れた。


 ただ元締めの園枝京造は少し体を壊していて臥せっていた。その為今は孫娘の恵子が全てを取り仕切っている様だ。


「この度は孫や店を救ってくださったとか、感謝します」

「いえ、別に私は何もしてませんよ。ただちょっと仲介に入っただけですから」

「ところであんたは何処かの組のお方かな」

「いいえ、私は普通のサラリーマンです」


「そうですか、それは失礼しましたな。この十亀が並みのお方ではないと言うものですから」

「それは過大評価と言うものですよ」


 この時2人の瞳が微かに光ったように思えた。

応援していただくと励みになります。

よろしくお願いいたします。

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