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天堂が行く  作者: 薔薇クーダ
第十三部
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第二話 女刺客・毒サソリ

先崎は和歌山でも謎の女性鳳冴子と出会った。

鳳冴子とは一体何者なのか。

 先崎と鳳冴子はまたまたここ和歌山の田辺で再び顔を合わせる事なった。それまでになかり親しくなっていた二人はロマンティックな夜を二人で分かち合っていた。


 二人共十分に大人だ。こう言う状況になると行き先はおのずと決まっていた。先崎は自分の部屋に冴子を招き入れ、これからの二人の甘い夜を過ごそうとしていた。


 先に冴子がシャワーを使い、ベットで待っている間に先崎もシャワーを浴び、ガウンを羽織ってシャワールームから出て来た。


 そのガウンの狭間から見える先崎の胸は膨張こそしてないが絶対必要不可欠な筋肉がぴったりと体に張り付いていた。それを貧弱と見える者は本当に見る目のない者だろう。


 その姿を見た冴子は、まるで待ち切れないかの様にベットから飛び出して先崎に抱き着いた。普通ならこれは甘い甘い序曲になるはずだった。


 しかし冴子の爪は先崎の首の後ろを引っ搔いた。猫がじゃれる様に。普通ならそれでもいいのだが、その爪には強力な毒が塗り込んであった。象でも10秒で即死すると言う猛毒が。


 しかも皮膚に触れただけでも浸透すると言う物凄い毒だった。ただ冴子はその免疫性を持っていた。しかし先崎はその場に倒れた。当然だろう。


「随分と時間を掛けさせてくれたわね。先崎さん。では冥土の旅を楽しんでね」


 冴子が服を着て部屋を出ようとした時後ろで声がした。


「もうお帰りですか。もう少し楽しんでも良いのではありませんかね」

「あっ、あなた。どうして生きてるの」

「私にはその手の毒は効かないんですよ。残念でしたね」

「ば、馬鹿な象でも簡単に殺せる毒なのよ」

「じゃー私は象より丈夫なんでしょう」


 きりっと唇を噛み締めた冴子は身構えた。こうなったら肉弾戦でケリを付けるしかないと。その自信も冴子には十分あった。例え相手が「関西縁友会」の相談役であっても。


「あなたわかってたの。自分が殺されるって事が」

「ええ、わかってましたよ。あなたが刺客だと言う事もね」

「どうしてよ、私はボロは出さなかったはずだけど何処でわかったの」


 それを答える頃には先崎は既に身支度を済ませていた。こうなるだろう事は始めから予測が付いていたんだろう。これも先崎の勘か。


「初めてお会いした時にですよ」

「そな馬鹿な事があるはずがないでしょう」

「あなたは完璧でした。でも完璧過ぎたんですよ」

「完璧でどうしていけないのよ」


 そう答えた冴子に先崎は人差し指を左右に振って、


「あなたは私に近づいた時に香水の香りで私に気づかせました。そしてあなたには微塵の殺意もありませんでした」

「当然でしょう」

「でも気配もなかったんですよ」


「気配」

「そうです気配です。あの位置で私に気配を感じさせないのは優秀な泥棒さんか暗殺者位のものですからね」


「あはは、私の優秀さが仇になったってわけ」

「そう言う事ですね。ではお聞きしましょうか。誰に頼まれました」

「そんな事私が言うと思うの」


「まぁ、言わないでしょうね。ではあなたの体に聞きましょうか」

「じゃーもう一ラウンド、ベッドでやる」

「そう言うチャンスがあれば良いですね」


 その言葉を皮切りに二人は攻防を開始していた。冴子の手には何処に隠していたのか短剣が握られていたが恐らくはその短剣にも毒が塗られているのだろう。


 先崎はバスタオルを腕に巻いて対応していた。冴子の攻撃は全てタオルを巻いた腕で受け流していた。そして一切の切り傷を受けなかった。


 だが二人の動きはとても常人に追えるものではなかった。宙を舞い地を滑り変幻自在の攻防が繰り広げられていた。


「どうやらあなたは普通の人ではないようですね」

「そう言うあなたもね」

「強化人間ですか。それも機械ではない身体強化と言う所ですか。薬でないとしたら遺伝子操作あたりですかね」

「じゃーあなたは何よ。あなたこそサイボーグじゃないの」


 先崎は胸を一つピシャリと叩いて「私は生身の人間ですよ。ただ少し武を修練しましたがね」と言った。


「何それ。あなたは自分が武術の達人だとでも言うつもり」

「つもりではありません。そう言ってます」

「もの凄い自信ね。じゃー行くわよ」


 その攻防は数分間に渡って続けられたが、それが長かったのか短かったのか。その間冴子は一太刀も先崎には傷を与えられなかった。


 しかし冴子の方は体中に青あざが出来ていた。中には骨にひびが入った個所もあっただろう。それでも戦意も戦闘力も落ちないのは流石だった。


「随分と頑張りますね、あなたも」

「それはこっちのセリフよ」

「もう分かってるんじゃないですか。あなたでは勝てないと」

「まったく天堂組と言うのはバケモノ揃いね」


 その言葉に納得した先崎は


「なるほどそう言う事ですか。あなたは、いえ、あなた方は以前に天堂と戦った事があると言う事ですね。我々が天堂組と名乗っていた頃に」

「それがどうしたと言うのよ」


「あなたはやはり『フォーゲル』の一員と言う事ですか」

「やっとわかったみたいね。あんた達にはかって辛酸をなめさせられた借りがあるからね、ここいらで返させてもらうわよ」

「それで神戸と手を組んだのですか」


『何故この男はそれを知っている』


「私が何故それを知っているのかと思ってるようですね。何しろ尾行者がいましたからね。こっちはそれを逆につけさせていただきました」

「あの馬鹿どもが余計な真似をしてくれて。いいわ。この借りは必ず返すからね。覚えて置く事ね」


 そう言って冴子は窓を蹴破って飛びお降りた。しかしここは18階だ。普通なら死ぬだろう。しかし冴子は無事に逃げ延びた様だった。


 『どうやら神戸の連中も冴子が『フォーゲル』だったとは知らなかったようですね。しかしここはお仕置きが必要でしょう』


 冴子に先崎の暗殺を依頼したのが神戸の明野組組長の明野だと言う事はわかっていた。先崎をつけて先崎の行動を報告していた明野の部下を逆に『闇』の配下がつけていたからだ。


 先崎は始めから自分が付けられている事は気づいていたが、あえて知らない振りをして自分の行動を相手に知らせ、逆に罠を張っていた。その罠に飛び込んで来たのが冴子だった訳だ。


 その夜明野組の組事務所が襲われ貝塚と同じ状態になった。明野もまた仮面の襲撃者に多くの部下と自分の片腕を失ったと言う事だ。


 この明野もまた本当の事は言えず事故が起こったとして先崎暗殺計画から降りた。


 ここまで二人に立て続けに事故だと言われて、計画から降りられれば流石の吉原や長嶺も気が付くと言うものだ。


 今回の計画はまずいと言う事になり、自分達も事故に巻き込まれない内に中止する事にした。それにしても不可解な出来事だが何か得体の知れない恐ろしさを感じていた。


 取りあえずこれで一つの厄介事は消えた訳だが、ここでまた一つ、天堂達の敵がはっきりした。『暗玉』に加えてかっての敵『フォーゲル』だ。


 どちらも並みの敵ではない。如何に天堂達『闇』と言えども気を引き締めてかからなければならない相手だった。


 翌日先崎はホテル側に事故があったと謝罪し、破損個所は全て弁償すると確約して事なきを得た。


 ホテル側としても誰一人の怪我人も出てないし、部屋の客も無事ならそれでいいと言う事で、こん回の事は何もなかったとして処理された。


 さてその後の『闇』や赤室組の報告で要約麻薬の被害者、いや常習犯の素性が割れた。


 それを精査していると先崎は面白い事に気が付いた。みなそれぞれに何らかの特殊技能者だったと言う事だ。


 運動神経がずば抜けているとか、音楽や芸術の才能のある者。特に運動系の人間が多い事だった。


 普通ならこんな物には絶対に手を出さない者達ばかりだった。きっと何らかの方法で摂取させられたんだろうが目的は一体何だったのか。


 そこで先崎が今回の麻薬の効能について考え合わせた時、それはもしかすると実験だったのではないかと思った。


 何の為の実験なのか。それは恐らく能力向上の為の実験。そうではないだろうか。普通ではあり得ない方法だ。しかしもしそこに『闇』の人間が関わったら、あり得ない事はないと思われた。


 つまり『闇』の住人とは過酷な修行の末、精神の向上を成し遂げそれを肉体に生かした者達なのだ。


 それを人工的に行う手段として薬を用いたとすれば。そして『暗玉』達もまたそれを使って更に能力の向上は図ろうとしているか、もしかすると既にそれを行った者がいたとしたら。



 この前の和樹の異常な能力の向上についても納得が行くと言うものだった。そしてそれが予備軍の育成にもつながるとしたら見過ごせるものではなかった。


 先崎はこれまでの結果からここまでの考察を天堂に報告してみた。天堂は先崎の素晴らしい推察力は十分に評価していた。そしてこれは四国にも通じるのではないかと思った。


 そこで天堂は和歌山での不安要素の排除を決断し、先崎を四国に送る事にした。それは四国でも似た様な麻薬が出回り始めていたからだ。


 しかも和歌山と四国は内海を挟んで向かい同士になる。関連がないとは言い切れなかった。


『今度は四国の青柳さんですか。楽しみですね』

応援していただくと励みになります。

よろしくお願いいたします。

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