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天堂が行く  作者: 薔薇クーダ
第十二部
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第五話 相談役

和歌山の事件を解決してまた天堂と先崎の株が上がった。

そこで大阪のやくざ達はまた「関西縁友会」の相談役に天堂に頼みに行った。

そこで天堂は先崎を相談役に据えた。

 和歌山の事件以来、天堂商会と先崎の評判は更に上がっていた。大阪のやくざ達もここに目を付けない筈がなかった。


 つまり天堂を神戸から守る大阪の防波堤にしようと言う事だ。大阪のやくざ達にとってもやはり神戸の山王会は恐怖以外の何物でもなかった。


 大阪やくざの全勢力を持ってしても、もし神戸が本気で攻めて来たら守り切れる自信はなかった。


 だからこその防波堤だ。天堂なら何とかしてくれるんではないかと言う。それに仮に天堂が潰される事になっても大阪やくざの腹が痛む訳ではなかった。


 むしろ逆に大阪の脅威がなくなると言うものだ。だから彼らに取ってはどっちでも良かった。その為の神輿だ。


 その事を踏まえて大阪やくざの親睦会「関西縁友会」の理事達はもう一度天堂に相談役の打診に出かけた。


 前回は天堂商会が日本各地に支店を作ると言う事で天堂8人衆と言われた最強幹部達が大阪を去った。その為に天堂自身も何かと忙しいと言う事で相談役を降りたのだった。


 しかし今、新しい頭、統括部長の先崎と言う男を得たこの時期なら、また天堂に復帰してもらえるのではないかと考えた訳だ。


 「関西縁友会」の理事達が雁首を揃えて嘆願する様はまさに壮観だった。天堂は大阪やくざを束ねる大親分と言う貫禄十分だった。


 ただ天堂の返答は少し違った。相談役を却下した訳ではなかったが、相談役は自分ではなく統括部長の先崎でよけれれば引き受けてもいいと言ったのだ。


 これには理事長達も驚いた。天堂組の長たる天堂だからこその神輿だ。そこにNo2の先崎が乗ると言う。


 果たしてこれで神戸に対する威嚇となり得るのか。その疑問が全員の頭をよぎった。しかしそれでなければ天堂は引き受けないと言う。


 仕方がない、今度は先崎を神輿として神戸に印象付ける工作を考える事にして天堂の提案を受け入れる事にした。


「社長、本当にこれで良かったんですか。私なんかで」

「いいんだよ。その方が助かる。それに先々の事を考えるとこちらの活動半径も広がると言うものだよ」

「なら宜しいのですが」


 この新人事は全大阪のやくざを始め神戸にも伝わった。


「おい、誰やねん、大阪のこの先崎相談役ちゅうのは」

「何でも天堂組の新しい頭らしいぞ」

「頭やと。頭風情が大阪のトップに立つんかい。なめとるの」


「どうやら大阪にはよっぽど人がおらんみたいやの」

「そやったら今が攻め時ちゅう事か」

「そうやな、その前にちょっとこの先崎ちゅうの突いてみるか」

「そやな、どれほどのもんか、見てみるのもおもろいな」


 こうして先崎包囲網が徐々に縮められていった。


 その頃天堂の所にはまた例によって京都の吉岡が来ていた。

「兄弟、おるか」

「どうしたんです吉岡さん、珍しく」

「どうしたんやないで、ちょっとキナ臭い話や」

「キナ臭いとは」


「神戸の奴らがな、ここの頭を狙うとると言う噂があるんや」

「うちの先崎をですか、また何故」

「それは決まっとるやろう。先崎が「関西縁友会」の相談役になったからや」

「しかし相談役と言うのは言ってみれば何の権限もない飾り職ですよ」


「まぁ普通はな。しかし天堂組がその職に就くのはまた別なんや。奴らにしてみれば実質的な大阪のドンと言う事になるんや」

「それで先崎を潰そうと言う事ですか」

「そう言うこっちゃ。どうする。必要なら手貸すで。金森の兄弟も強力してくれるやろう」


「ご厚意は有り難いですが大丈夫でしょう」

「しかしな、今ここにはあの最強の8人衆がおらんやろう。どうするんや」

「最強は何もあの8人だけではないので」

「ええっ、ほんまかいな。まだ他にも最強がおる言うんか」

「まぁ見ていてください」


 これは天堂の計画の一つでもあった。一つには最強の幅を広げる事だった。あの8人だけが最強ではないと知れば、益々手が出なくなるだろう。


 その為の先崎は言ってみれば囮、悪く言えば餌だ。しかしその餌は食えない餌だが。


 先崎レベルの『闇』には個別の『闇』の配下が10人いる。勿論あの8人衆にもだ。彼らはその『闇』の配下を自在に使って事を処理して行く。


 先崎を狙うと言う事はその10人をも相手にする事になるのだがその強さは一人一人が一騎当千だ 。


 とてもやくざの100や200でどうこうなるものではないのだがそれを知る者は誰もいない。


 それと天堂商会の各課長職についている者達もまた『闇』の住人だ。8人衆や先崎程ではないにしても並みの人間でどうこう出来る者達ではなかった。


 山岸会で今回の計画を進めているのは「新四天王」と呼ばれる者達だった。前の「四天王」とは


山河会若頭補佐の耶蘇組組長耶蘇

山河会若頭補佐の富樫組組長富樫

山河会若頭補佐の東崎組組長東崎

山河会若頭補佐の米倉組組長米倉


 上の4名の内富樫、東崎は既にこの世から姿を消していた。耶蘇は引退して跡目譲り米倉は上にあがって相談役になっていたが閑職だ。二人共もう二度と天堂とは関わりたくないと思っていた。


 その後を継いだのが今の新しい「四天王」

貝塚組組長貝塚

明野組組長明野

吉原組組長吉原

長嶺組組長長嶺

 となる。


 そして今回この計画を実行するのが貝塚組の貝塚だった。彼らのやる事はいつも決まっている。車の乗り降りの瞬間を狙ってヒットマンに狙わせる。代り映えのしないいつものパターンだ。


 ただ問題が一つあった。それは天堂組が純然たるやくざ組織ではなかったと言う事だ。表向きも裏向きも天堂組は真っ当な商売をしていた。


 だから変な所で狙ったら堅気を巻き込んでしまう。そうなると警察の風当たりもきつく成るので、出来るだけ先崎が身内とだけでいる所を狙わなければならない。


 そこでヒットマン達は先崎が自宅に戻った所を狙う事にした。普通のやくざ組織のこのクラスなら必ず部下がつく者だ。しかし先崎はいつも誰もつけずに家に帰る。


 正直不用心も良い所だ。これは絶好のチャンスだとヒットマン達は先回りして待ち構えていた。


 先崎の家は一戸建てで大阪の北にある箕面と言う所に住んでいる。ここは大阪の中心からほんの30分そこそこでありながら自然に囲まれた所だ。


 何故先崎はこんな所に住んでるのか。もしかするとそれは周辺住民への配慮かも知れない。自分の立場と言うものを十分知っているからだろう。


 先崎の家は周囲からは少し離れた所にあるし、明かりも少ないので夜は暗い。襲撃するには最適な場所だ。


 先崎が表の車寄せに車を止めて、降りて家の門に近づいた時ヒットマン達が一斉に先崎に銃を向けた。しかしその銃はどれも発射される事はなかった。


 全員の背中にはボーガンの矢が刺さり、心臓を一発で貫いていた。勿論これも『闇』の仕業だ。


「後の処理を頼むぞ」

「はい、畏まりました」


 そして先崎はまるで何もなかったように家に入って行った。


 貝塚はヒットマンによる夜襲が失敗したと知ると今度は人海戦術で数で押し切ろうとした。しかしその矢先、貝塚組が仮面を被った何者かに襲撃されて壊滅させられてしまった。


 その時奥の部屋にいた貝塚は左腕を切り落とされ、次は右だと言われた。何の事を言われたのか始めはわからなかったが、それは恐らく先崎襲撃の事だと理解した。


 事務所に詰めていた全員を殺され自分もまた片腕を失った。しかしその間、誰一人として反撃が出来なかった事が腕を失った以上にショックだった。


 それはもう人間の出来る動きではなかった。その仮面の男は一切の攻撃を受ける事なく一刀で全員の首や胴を切り落として行った。人間にこんな事が出来るはずがないと貝塚は思った。まるでバケモノだと。


 貝塚はこの事実の全てを隠蔽し闇から闇に葬った。これを表沙汰にする事は自分の墓穴を掘る事にも繋がり兼ねないと思ったからだ。そして貝塚は先崎暗殺計画から降りた。


「兄弟、貝塚の兄弟はどうしたんや」

「何でも事故で怪我をしたらしいで」

「こんな時にかいな。そんで先崎の方はどうするんや」

「悪いが変わってやってくれ言うとったで。どうする」


「しゃーないな、ほなわしがやろか」

「なんぞええ手でもあるんか兄弟」

「ああ、特別な手がな。まぁ任せとけや」


 今回引き受けたのは明野組組長の明野だった。余程の自信がありそうだったが明野はどんな手を使って先崎を殺そうと言うのだろうか。


 その頃「Time Out」で天堂がいつも様にXOをオンザロックで飲んでいると、これまたいつもの様に吉田刑事がやってきた。


 彼も今ではこの店の常連だ。しかもきっちりボトルを入れている。そこそこに値の張る物を。


 これは彼の従妹であるジュエリー吉川のオーナー社長である吉川雅代が入れてくれたものだ。本当は天堂が裏で手を回しているのだが吉川からと言う事にしてもらっている。


「今日はまた何かありましたか」

「何んやねん、あれは」

「あれとは何んですか」

「何んですかやないわ。何でお前とこの総括部長が『関西縁友会』の相談役やっとるんや」


「随分と早耳ですね。ちょっと頼まれたもので」

「ちょっと頼まれたやと、そう言う問題やないやろう。お前わかっとるんか。あそこの相談役になると言う事は大阪やくざの頂点に立つちゅう事なんやぞ」


「いえ、ですから相談役は飾り職でしょう。内部の役員でもないし権限も何もないんですから」

「確かに世間ではそうや。しかしな、あそこには会長も副会長もおらん。おるのは一般理事だけや。そうなると誰が責任者になると思う」

「さー」

「さーやないわ。相談役に決まっとるやろう」


「そうなんですか」

「そうや。そやから今先崎は神戸から狙われとるぞ」

「先崎が狙われるんですか」

「そうや。天堂気つけてやれ。ほんま危ないぞ」

「わかりました。ご忠告ありがとうございます」


 どうやら事は自分の読み通りに進んでいるなと天堂は思っていた。

応援していただくと励みになります。

よろしくお願いいたします。

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