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天堂が行く  作者: 薔薇クーダ
第十二部
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第二話 和歌山の戦い

先崎は和歌山で麻薬の調査をするうちに

やくざの組事務所を狙い集団と出くわした。


 赤室組の組事務所に辿り着いた先崎は堂々と正面から訪ねて行った。普通こんな所に一般のサラリーマンなんかは来ない。なのに先崎はどう見ても普通のサラリーマンにしか見えなかった。


 先崎は入り口で名刺を差し出してここの組長さんにお会いしたいと言った。


「お前ここを何処やと思っとるんじゃ。押し売りやったらただでは済まんぞ」

「いいえ、私は組長さんとお話がしたいだけなんですが」

「おい、何やっとるんや」

「アッ、兄貴、こいつが親父に会いたいと言うとりまして」

「ん?何、天堂商会の統括部長やと、なんじゃ、、、いや待てよ。ちょっと待っとれ」


 そう言って兄貴分は奥に入っていた。中で梶原はその名刺を組長に見せて、


「親父、もしかしたらこの天堂と言うのは」

「おい、うちの帳簿でちょっと住所を調べてみい」

「はい、大阪市北区になってます」

「何やとほんまもんか。ええか、粗相のない様にお通しせい」


 こうして先崎は奥の組長の部屋に通された。


「兄貴、あいつは一体なにもんなんですか」

「あほ、気いつけて口きけ。あれは大阪の天堂組の頭や」

「ええっ、天堂組言うたら「関西縁友会」の相談役やってた天堂でっか」

「ああ、そうや。あそこに逆ろうたらわしら一発で終わりやぞ。気いつけ」

「はい!」


「これはこれは頭自らこんな遠くまで、一体どんなご用事で」

「一応私は頭ではなくて統括部長なんですが」

「そうでしたな。失礼しました。それで部長はん」

「はい、実はこの和歌山で何かキナ臭い事が起こってると伺いまして」

「いやーキナ臭いと言われましても、特には何も」


「そうですか、さっき町で若いのに絡まれまして話を付けたら、「ザンギ」の下っ端だと言う事でした。その「ザンギ」にこの町のやくざ組織が多数潰されてるとも聞きましたが、どいうなんですか」

「そうですか、もうお耳に入りましたか。正直私ら極道の恥になるので表沙汰にはしたくなかったんですが、正直「ザンギ」には苦労させられとります」

「その『ザンギ』と言うのは一体どんな組織なんですか」


「それがようわからんのですわ」

「わからない」

「ええ、得体の知れん組織でしてな、いや組織かどうかもわからんのです」

「組織でない?」

「奴ら決まった塒を持っとらんのですよ。だから何処を攻めたらいいのかもわからんのです」


「では彼らが攻めて来る時は?」

「それが何処からともく一斉に集まって来て、終わったら皆バラバラになって消えて行きよるんです」

「司令官みたいなのは?」

「それもわかりまへん。そやからあいつらの足取りが取れんのです」


「なるほど、恐らくは携帯を使ったネット通信で連絡を取り合ってるんでしょうね。今までになかった組織を持たない組織と言う所ですかね」

「そんなもんがあるんですか、わしらみたいな一家を重んじる渡世のもんには皆目見当もつきませんわ」


 これはちと厄介な連中だなと先崎は思った。そしてその後ろにはきっと相当頭の良い者かがついているんだろう。しかも個々の戦力も相当高そ言うだ。


 恐らく日常は一般大衆の中に紛れ込み、連絡のあった時だけ集団行動する。そんな形態だろうと先崎は想像した。


『これはなかなか尻尾を掴めそうにありませんね。ただ方法がない事もありませんが』


 先崎はこれまでの結果報告を天堂に伝えその上で援軍要請をした。この組織を見つけるにはローラー作戦しかないと考えたからだ。勿論和歌山のやくざ達にも協力をしてもらうと言う事で。


 今までに潰された組の組員達に話を聞くと、個々の戦力も相当な物だったようだ。全員がやくざの5人、10人を相手取ってたった一人で軽くあしらって倒してしまった。しかもこっちはヤッパに長ドスと言った武器も持っていたと言う。


 それはもはや武術で言えば達人級の腕と言う事になる。そんな達人が一般社会の中にいればどうしても目立つだろう。


 それにその腕を維持する為には当然修練も必要になって来る。なら何処かで必ず腕を磨く練習か実戦練習をしているはずだ。それも在り来たりの練習ではなく武器を持ったやくざと戦っても勝てるほどの練習を。


 つまり今回のローラー作戦と言うのはそう言う人物を見つ出す事にある。町道場、スポーツジム、格闘技教室等、それに関連する所を全て洗わせた。

 

 その結果4人の人物が浮かび上がった。みんなその道では有名な選手だ。全国大会の優勝者や上位入賞者、しかもみなラフファイトが得意と来ていた。


 確かに想定には当てはまる人物像だ。しかし先崎は少し疑問を抱いていた。彼らは確かに強い。しかしその強さは試合での強さだ。死合いの強さではない。つまり殺し合いをして勝てる強さとは少し違う気がした。


 彼らには闘志はあっても殺気がない。人を殺しても良いと言う殺気がないのだ。それはそう言う世界で育った先崎だからこそわかる事だった。


 しかし今の状況では捨てがいた人選だった。だから瞬くは泳がせて様子を見る事にした。それら対象者には見張りを付けて随時報告させた。しかし絶対に手は出さない様に言い含めて。


 彼らの特徴はいつも携帯電話を見ている事だった。何時誰から連絡が来ても良い様に。


 見方を変えれば彼女からのラブコールかラブメッセ―ジを待ってる様にも見えるがそう言う人相風体ではない様に思えた。多分持てないタイプだろう。


 そしてその時が来た。その日の夜9時、それぞれが一斉に動き出したと言う連絡があった。見張りは見つからない様にキッチリと後をつけていた。


 彼らが集結したのは和歌山の南地区にある川俣組の組事務所だった。その手前で4人の武道家達は手甲を付けていた。恐らくその中には薄い鉄板でも嵌め込んであるのだろう。真剣を受けてもいいように。


 普通なら監視を付けていた4人だけと言う事になるが、そこに更に4人が加わり全員で8人になっていた。後の4人は一体何処から来たのか。その4人は手に何も付けてはいなかった。


 先崎はその4人を見た時に全てを理解した。尾行していた4人は予備軍だと。そして後から来た4人が真打と言う事になるんだろう。確かに彼らなら人を殺せるだろう。それもいとも簡単に。


 今回の行動はやくざの殲滅もあるが予備軍の実践訓練と言う課題も含まれているのかも知れない。もしかするとやくざの殲滅すらも訓練なのかも知れないなと先崎は思った。これは彼の勘だ。


 川俣組は組員60人を擁する組だがいつも60人が組事務所に詰めている訳ではない。しかし今日は何か祝い事でもあったのか少なくとも30人位はいる様だった。


 30対8の戦争。前座の4人が30人と戦えば1対8となる。これではまず勝ち目はないだろう。だが後の4人が30人と戦いえば勝率は7分3分と言う所か。つまりあの4人が勝つと言う事だ。それだけ彼らは強い。


 それを今回8人で30人と戦えばまず8人の方に勝利の女神が微笑むだろう。ただ前座の4人は多少の傷は負う事になるだろうが生きてはいるだろうと先崎はそう読んだ。


 そして携帯の合図と共に8人が一斉に組事務所に飛び込んだ。中は騒然となった。こういう時は先制した方に利がある。


 受け身に回った方は武器を用意する時間もないだろう。辛うじて数人はヤッパを手にしていた様だがこの様な乱戦では刃物は使いずらい。


 この川俣組には悪いが今回は餌になってもらおう。その間に先崎が手を打っておいた赤室組とその関連組織120名で川俣組の周囲を取り囲んだ。


 そこで赤室組長が宣戦布告を行った。そして死にたくなければ降参しろと。勿論始めから殺すつもりで来ていたのだが一応の建前だ。


 その声を聞いて8人は表に飛び出して来た。そこに見た物は一重二重に取り囲まれた敵の壁だった。


 真打4人に動揺はなかったが流石に素人に毛の生えた程度の4人の武道家達はうろたえていた。まさか自分達が標的にされるとは思ってもいなかったのだろう。


 こっちの120人は奇襲を掛けた30人とは違う。皆武器を持ち戦う準備の出来てる者達ばかりだ。この差は大きい。即興のやくざ狩りでは対処の出来ない数だ。


 そして遂に8体120の戦争が始まった。その時点で例の4人はもうボロボロになっていた。しかし先崎は殺すなと指示してた。彼らには聞かなければならない事が山ほどあったからだ。


 問題は残った4人だ。確かに彼らは強い。この人数を持ってしても持て余していた。彼らもここに至っては一人での戦いは諦めて4人で組んでの共闘戦線を張っていた。その為に中々軸を崩せないでいた。


「仕方ありませんね、少し手助けしますか」


 一人前に出た先崎にやくざ達が引いて道を作った。みな何を期待していたのか。彼が天堂組の頭だと言う事は皆に知れていた。だから皆見たかったのだろう。天堂組の噂に聞く実力を。


 4人と対峙した先崎はこう言った。

「あなた達は何者です。あの者達とは違いますよね。あなた達なら簡単に人も殺せるでしょう。だからただの格闘技者ではありませんよね。と言っても答えてはくれませんか。では拳で話をしましょうか」


 その言葉の終わらない内に4人が仕掛けて来た。それは見事な連携攻撃だった。普通の者ならこの時点で終わっていただろう。しかし先崎はその全ての攻撃がまるで見えている様に最小限の動きで全て受け流していた。


 その上この様な強烈な連撃の中では絶対に取れない相手の手を捕って投げると言う超高級技まで披露して見せた。


 

 しかもそこから立ち上がろうとした男は中腰になった頭をサッカーボールのように蹴り飛ばされて意識を失ってしまった。生きている方が不思議なくらいだ。


 一人がタックルをかけ後の2人に倒させようとした男の肩を止めた先崎はそのまま下に落とした。男は何をされたのかもわからずにこれまた意識を失った。


 二人はこの先崎を見て唖然としていた。これ程強い男は見た事が無いと。これではまるであのお方と同じではないかと。


 しかしこのまま捕まる事は出来ない。今出来る事はただ一つ倒れている仲間を殺して自分も死ぬしかないとナイフを取り出した。


 先崎は既に相手の思考を読んでいたので二人の武器を蹴り飛ばした。さてこれでゆっくりと尋問が出来ると持った時に、壁の一部が壊れた。


 そこから入って来たのは真っ黒い装束を身に付けた大男だった。しかもその男から立ち昇る闘気は周囲の者を委縮させるに十分なものだった。


 誰一人その男の前には立てなかった。先崎を除いては。


「これはまた随分と恐ろしい人が出て来たものですね。あなたは誰です」

「俺は破壊の帝王だ」

「破壊の帝王ですか。それはまた愉快な名前ではありませんか。では行きます」


 そう言って先崎とその破壊の帝王の戦いが始まった。双方一歩も譲らず、恐らく誰の目にも止まらない様な物凄い攻防が続いていた。


 流石の先崎でさえ舌を巻くほどの強烈な攻撃だった。しかもその一撃一撃には十分な勁が乗っていた。これほどの勁を使える人間が下界にいるとは先崎ですら考えてはいなかった。


 先崎の腹に当てがわれた手嘗から強力な勁が撃たれる刹那、先崎は相手のう腕を両手で掴んで反勁を撃った。それで相手の前腕は爆発するように肉が弾け飛んだ。


 その時何処からか発煙筒が投げ込まれ、そのどさくさに紛れてその大男も4人の刺客達にも逃げられてしまった。流石の先崎にも追いかける気力はなかった。しかし『闇』は仕事をしていた。


『逃げられてしまいましたか、まぁ良いでしょう』

応援していただくと励みになります。

よろしくお願いいたします。

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