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天堂が行く  作者: 薔薇クーダ
第十二部
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第一話 和歌山の件

名古屋の一件が片付いたと思ったら、

今度は刑事の吉田が、和歌山が騒がしいと情報を流して来た。

一応天堂は先崎を呼んで調べさせて見る事にした。

 今日もまたバー「Time Out」で天堂が一人飲んでると刑事の吉田がやって来た。


「どうした、なんぞええ事でもあったか」

「どうしてです」

「なんか顔がにやついとったぞ」


「別に何もないですよ。ただここから出て行った皆が良くやってくれてるなと思ってただけですよ」

「そうか、皆枝分かれして全国制覇に突入した訳やな」

「しませんって。俺達はそんなやくざじゃないんですから」


 吉田はいつも席に付いて自分のボトルを出してもらって飲み始めた。


「それはそうとな、名古屋で一揉めあったそうやな」

「そうなんですか」

「あそこは確かお前とこの柴村とか言うやつが仕切っとるとこやったな」

「ええ、名古屋支社の支社長をやらせてますが」


「おいおい、名古屋地区の組長の間違いと違うか」

「違いますって。それがどうかしたんですか」

「ああ、何でもそこの染丸組が壊滅したそうや。それに組長の消息も分からんそうやぞ。お前何か知っとるか」

「支社がありますから話は聞いてますが詳しい事は何も」


 勿論鳴海と柴村から報告は入っていた。


「それがな奇妙な事に、染丸組の組事務所は爆弾で破壊された様に滅茶苦茶になってたそうやぞ。名古屋の連中はテロ集団の仕業ちゃうか言うとる」

「テロ集団がやくざの組を襲いますかね」

「そこや、わしもそれは違うと思うんやがそんな真似する組があると思うか」

「さー少なくとも今まで聞いた事がありませんね」


「やっぱりな、始めはお前とこがやったんちゃうかと思とたんやが手口が違い過ぎるからな」

「ちょっと待ってくださいよ。俺達は今まで何も荒事はしてませんよ。信用がないんですね」

「お前とこは謎が多過ぎるよってな。そやけどお前とこやないとしたらそれは新たな敵と言う事か」

「どうなんですかね。少なくとも戦いたくない相手である事は確かですね」


 それはそうだろう。相手があの海龍では荷が重過ぎる。


「それとな、これまだ確証は得られてないんやが、和歌山の組関係で何やら揉め事があるらしいぞ」

「そんな事俺に言って良いんですか」

「まぁお前は特別や」


「そうですか和歌山ね、でもそこは俺の守備範囲じゃないですから」

「そうかも知れんが一応わしの独り言や。ほなまたな」


 そう言って吉田は引き上げて行った。これもまたいつもの事だ。いつも何かしらの情報を置いて行ってくれる。


『そう言えばそろそろ吉田さんのボトルが空になる頃ですね。ではまた吉川さんに頼んで一本入れて置いてもらいますかね』


 天堂は事務所に戻って先崎を呼んだ。彼は今鳴海の後を継いでいる。それなりに出来る男だ。


「お呼びですか社長」

「ちょっと和歌山のやくざの様子を調べて来てもらいたいんだ。特に田辺の辺りをな」

「和歌山の田辺ですか。何かありましたか」

「まだはっきりした事はわからないんだが麻薬絡みかも知れん。その辺りを調べてくれ」

「承知いたしました」


 先崎達は田辺市の繁華街であまり目立たないホテルに泊まり地回りを始めた。そして町の飲食店等を中心に世間話を交えながら最近のやくざの動向を聞いて回った。


 するとその過程で、最近はハングレ達がこの地で力を付け、やくざをも凌ぐ勢いになっていると言う。しかし所詮はガキの群れだ。いくら数を集めた所で本職のやくざに勝てるわけがない。


 本来はそのはずだった。しかしどうやらその常識が覆っているようだ。暴力では本職のはずのやくざが押されていると言う。


 これは何かある。先崎の勘がそう囁いていた。この先崎と言う男は一種の予知能力や勘がずば抜けていた。その男の勘がこの地の異変を感じ取ったようだ。


『では一つ誘ってみますか』


 そう言って先崎はガラの悪そうな少年達の所に道に迷ったサラリーマンの振りをして道を聞きに行った。


「あのー君達、悪いんだけど幸町に行くにはこの道でいいんだろうか。教えてくれないかな」

「なーおっさん。道をしりたかったらやっぱり知識料と言うものがいるやろ」

「おいおい、ここでは道を聞くだけで金を取るのかい。困ったもんだな」

「それがここでの常識言うもんや。覚えとけ。そんでなんぼ出す」

「いや、結構。向こうで別の人に聞く事にするよ」


 そして先崎がこの場を離れようとした時、何人かが先回りをして先崎の行く手を遮った。


「君達、これは何の真似かね」

「お前か最近この辺で色々嗅ぎまわってる言うのわ。お前マッポか」

「私が警察官ならこんな真似はしないよね」

「へーマッポが警察官やとわかるんか。ならしゃべってもらおうか。お前の目的を」

「随分と大胆な真似をするんだね。逮捕されるとは考えないのかね」


 すると彼らは笑い出して、手に手に武器を取り出した。大体がナイフを中心とした小物だ。流石に刀や拳銃と言うものはなかった。しかしどうやら喧嘩には余程自信があるようだった。


「逮捕出来るもんならやってみいや」


 そう言って一人がナイフで切り付けて来た。普通に切り付けて来たように見えたが素通りした瞬間に刃を返して反転させてきた。この返しは鋭く普通のものなら確実に切られていただろう。


「へーオッサン、俺の燕返しを避けるとはな。やるやないか」


 ここに来ても他の4人はヘラヘラと笑っていた。彼一人で十分だと余程自信があるんだろう。


「仕方がないですね。余り大人げない真似はしたくなかったんですが、どうやら君達には躾が必要なようですね」

「口だけは一人前やなオッサン。ほな行くで」


 どうやらこの若者達は人を傷つける事を何とも思ってない様だ。いや人を殺す事すら躊躇しないのかも知れない。どうしてこんな若者が出来上がってしまったんだろうと先崎は考えていた。


 しかしそっちがその気ならこちらも気兼ねする必要はないだろうと少しだけ本気を出す事にした。


 突き込んで行ったナイフを外されると見ると空かさず刃を反転させて真上に切り上げて来た。しかも体重を前に移動させて胸を掠っても喉を確実に突く動作だった。


「良い突きだ。しかし甘いですね」


 先崎は反転させた前腕を外側から捕って反対の手を相手の腕に中に差し込み相手の肘を曲げて逆に取り外に捻って投げた。これで彼の肩関節は外れてしまった。


「ただ関節を外しただけですが結構痛いものでしょう」

「くっそーやりやがったな。おい、みんなやってまえ」


 その声で残り4人が一斉に掛かっていったがみんな同じように肩関節を外されてしまった。


「今は一応片方の関節だけですが、何ならもう片方も外してあげましょうか」

「ま、待ってくれ。悪かった。謝るから許してくれ」

「君達は今まで許してくれと言った者達を許した事がありましたか。ないでしょう。もっとひどい事をしたでしょう。この様に」


 そう言って先崎は一人の顎を蹴り砕き、もう一人の右足をへし折った。流石は闇に属する住人、容赦はなかった。


「さてまだ3人は関節以外は無傷ですね。何処を潰して欲しいですか」

「た、助けて、助けて下さい。本当にもう何もしません。謝りますからお願いします」


 流石にここに来て自分達の敵う相手ではない事がわかり、また張ったりの通じる相手でもないと言う事がはっきりと分かった。そして全員が股間を濡らし震えていた。


「では聞かせてもらいましょうか。あなた達が何で何をしているのか。またこの町の事を」

「あ、あんたは本当にマッポではないんか」

「違いますね。私は一介のサラリーマンですよ。ただあなた達よりは少し強いサラリーマンですがね」


 彼らの話によると彼らは「ザンギ」と呼ばれるハングレの下部組織らしい。「ザンギ」はこの辺り一帯を仕切り、やくざをも恐れない強力な組織らしい。


 「ザンギ」の為に潰されたやくざ組織は十指に余ると言う。しかも武器の提供や塒の面倒も見てくれ格闘技の指導もしてくれると言う。その代わり彼ら末端は「ザンギ」の指示に従って動くのだと言う。


 時には恐喝や強盗、麻薬の売人をやる時もあると言う。その麻薬は何処から来るのかと先崎が聞くとそれはわからないが「ザンギ」の伝達係が持って来ると言う。


 そしてその「ザンギ」のアジトはと聞くと、それはわからないと言う。全ては向こうから携帯への一方通行の指示でしかないと言う事だった。


 これ以上は得る物がないと判断した先崎は外した関節だけは入れてやった。ただし今度一般人を襲ったら両肩を外すと脅しておいた。


 彼ら5人は震えてただただ首を上下に動かしていた。


 先崎は部下に彼らの後をつける様に命じて、自分はこの町の一つの組を訪ねる事にした。それは赤室組と言い、大阪最大の暴力団、山根組の傘下にある組だった。

応援していただくと励みになります。

よろしくお願いいたします。

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