第四話 新たな災厄
綾香と青海は久し振りのバケーションを楽しんでいた。
ところがそこで4人組に絡まれている二人の若い女性に出会い。
青海は助ける事になってしまった。
「あんた達いい加減にしてその子達を放しなさいよ」
「何だお前、ブスは引っ込んでろ」
「今あんた、私の事をブスと言ったわね、ブスと」
「それがどうした。ブスはブスだろうが」
その言葉に頭に来た青海はメガネを外して素顔を見せた。その素顔の余りの美しさに驚いて、男達は捕まえていた女達の手を放してしまった。
その隙に青海は女達を自分の後ろに庇った。
「いいじゃねーか。こんな女達よりもずっと上玉だぜ」
「ああ、これなら遊び応えはあるし、後で売っても金になるな」
「そうだぜ、今日は付いてるぜ」
「ここは私が何とかするからあなた達は早く逃げなさい」
「でも」
「いいから早く」
「はい」
女達は青海に急がされてその場から逃げた。しかし男達はそんな事はどうでも良かった。この女一人がいればと思っていた。
「じゃー場所を変えましょうか。ここにいて警察が来たらあなた達も困るでしょう」
「そうだな、良い根性してるなお前。じゃー行こうか」
そう言って青海と男達は人目の付かない所に移動して行った。その後を綾香はそっと追おうとしたが誰かに止められそのまま意識を失った。
綾香の意識を奪ったのは『闇』だった。綾香を安全な場所に移して『闇』達は青海の後を追った。
正直『闇』達は困った事になったと思っていた。どうか無事でいてくれと。勿論それは男達の事だ。
本当の事を言うと男達が死のうがどうなろうがそれはどうでも良かった。ただ事が大事になる事だけは避けたかった。
どうやらその男達はこの辺りを根城にしている様で、何処に何があるか良く知っていた。そこで男達は青海を空き家になった家に誘い込んだ。
「ここでやろうと言うの。あんた達は随分とけち臭いのね」
「先ずはここでだ。後でもっと良い所でもっと良い思いをさせてやるぜ」
「楽しみしてるわ。じゃーやりましょうか」
そう言うと一人の男が正面から青海に掴みかかって来た。そして押し倒そうと言うのだろう。
青海はその手を無造作に掴み後ろに放り投げた。そう、まさにゴミでも捨てる様に軽く放り投げたのだ。
しかし男は後ろの壁をぶち破って隣の部屋に突入した。それは信じられない光景だった。とても人に出来る事だとは思えなかった。
残った3人の男達は一瞬怯んだが、何かの間違いだと気を取り直して3人同時に青海に飛び掛かって行った。
結果は最悪だった。最初に掴みかかった男の手を捕った青海が、そのまま人間バットの様に振り回して残りの二人の男達をかっ飛ばした。
身体の一部がひしゃげ、全員二度と起き上がって来る事は出来なかった。まだ死んではないが人として生きて行けるかどうかは疑問だ。
その時『闇』達が現れ、
「海龍様、このままお引き取りを。後は我々が処理しておきますゆえ」
「そう、悪いわね。じゃーお願いね」
そう言って青海は悠然とその場を立ち去った。
この間に難を逃れた二人の女性達は警察に駆け込んで事情を説明していた。自分達の身代わりに一人の女性が4人の男達に連れて行かれたと。
その人相風体からこの辺りを根城にするハングレだと言う事がわかり捜査網を敷いた。
そんな時だ青海が返って来たのは。警ら中の警官により保護されて一応警察署で事情を聞かれたが、怪我もまた何もされてないと言う事で一同安心した。
どうして逃げられたのかと言う問いに青海は目だし帽をかぶった大柄の男性が助けてくれたとだけ説明した。
何処の誰かはわからないが一先ずは無事だったと言う事で青海は解放された。後にこの事件はこの町の小さな英雄物語として地方版の新聞に小さく載った。
青海はその後綾香と合流して、その夜は旅館でのんびり過ごした。ただその後、その4人のハングレ達の消息は杳として知れなかったと言う。
部屋で綾香は、
「ねぇねぇ、本当に大丈夫だったの」
「勿論よ、擦り傷一つ受けてないわよ」
「そう、それは良かったわね。だけど不思議よね」
「何が」
「あたしがさ、何んだかわからない内に宿屋に戻ってたのよ」
「その間の記憶はないの」
「それがさ、ないのよね。どうしちゃったんだろう」
「まぁ、何もなければそれでいいんじゃない」
「そうなんだけどさ、何かおかしいと言うか気持ち悪いのよね」
「まぁいいじゃない。それじゃ食事にしましょ」
「そうね」
綾香は納得いかないようだったが、ともかく何事もなかったと言う事で納得する事にした。
そして翌日名古屋へは時間は少しかかるが「特級しらさぎ」で行く事にした。新幹線よりも叙情が楽しめるだろうと言う事で。
名古屋は東京、大阪に次ぐ大きな都市だ。綾香もここでは数回コンサートを開いた事があるしファンも多い。
都心のホテルはいつでも泊まれるし、また泊っているので今回も温泉旅館にした。場所は名古屋から50分程離れた猿投温泉と言う所にした。
ここでまた温泉三昧をしようと言う訳だ。旅館にチェックインして部屋でくつろぎ、これまた部屋で夕食を取った所までは良かった。
その後大浴場に行って人も少ないし素性がばれる事もないだろうとのんびり浸かっていた。正直な所有名になってからはこんな温泉でも大浴場には行けなくなっていた。
綾香は庶民の子なのでこう言う温泉の大浴場が子供の頃から好きだった。だからこのメガネのある今なら問題ないだろうと大浴場を楽しんでいた。
そして湯から上がり、浴衣に着替えている時にメガネを外し、そこをたまたま綾香の熱狂的なファンの一人に見つかってしまった。
「あのー貴方は神井綾香さんですか」と聞かれたが「人違いでしょう」と逃げて来たがファンの目は誤魔化せなかった。その噂は一瞬の内に旅館中に知れ渡ってしまった。
「参ったわ、どうしようかしら」
「あんたね、だからメガネ外しちゃダメっていったでしょう」
「だけどさー、だけどさー」
「メガネがあなあただってバレた以上、そのメガネはもう掛けちゃだめよ」
「どうして?」
「手品のタネがばれちゃったらもう誤魔化せないのよ。例え顔がわからなくてもそのメガネで推測されちゃうから」
「じゃーどうすんのさ」
「諦めるのね」
「そんなー」
「ここを離れるまでの間よ」
あぁあぁと言いながらも、少なくとも食事は部屋で出来るし、温泉は部屋にもついてるので大丈夫だ。
部屋にまで押しかけられる事はなかったがロビーに行くとファン達がサインをねだって群がって来た。これでは何に為に旅行に出たのかわからないが、そこはファン想いの綾香だ。ちゃんとサインには応じてやっていた。
ただ問題はそれだけでは終わらなかった。たまたま名古屋に本拠を置く暴力団染丸組の組長がこの旅館に逗留していた。
基本的にこの手の旅館は反社会的な人物の宿泊は拒んでいるがこの旅館にも少し経済的な弱みがあった。
そこで温泉は部屋の温泉を使い、食事も部屋ですると言う事で無理やりねじ込まれてしまった。しかし実際には部下達は大浴場にも出入りするし食堂でも大ぴらに食事をしていた。
しかもこの男、大の綾香ファンでもあった。
この噂を聞きつけた染丸はフロントにねじ込んで綾香の部屋を聞き出した。普通は教えないのだが余程の脅しを掛けたのだろう。
そしてこの男は綾香の部屋までやって来た。丁度綾香達が昼の散歩に出ようとしていた時だった。
「やー、綾香さんだね。俺は名古屋で染丸組と言うものをやってる者だんだが、あんたの大ファンなんだよ。それでよ、先ずはサインをしてくれんかの」
「あんたね、ここは個人の部屋なのよ。常識がないにも程があるんじゃないの。警察を呼ぶわよ。広域暴力団じゃこう言うのも恐喝として逮捕されるんじゃないの」
「なんじゃお前は」
「まぁ、綾香のマネージャーみたいなものね」
「ええ度胸しとるの、このワシに盾突くとは」
「親父、こいつしめますか」
「まー待て」
「あー警察ですか、今ですね・・・」
「分かった。今回は引いたるが覚えとけよ」
「青海さん、大丈夫なのあんな事言って」
「大丈夫だって。あいつ等だって馬鹿じゃないわ。ここで騒ぎ起こして捕まりたくはないでしょう」
「そうだと良いんだけどさ、あなたは直ぐに突っ走るから」
「あれー誰の事かしら」
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