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天堂が行く  作者: 薔薇クーダ
第十一部
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第一話 独立そして

天堂のオリジナルメンバー8人はそれぞれ各地に赴任して行った。

形としては事業の拡大と言う事だが

実質的には全国制覇に向けての夫人と言ってもいいだろう。

そしてここにもう一人、ミナミの高級クラブ『ナビロン』のママ、青海もまた

東京進出を狙っていた。

 鳴海が東京で新しい支社を開いている間に天堂商会本社でも少しづつ独立して行く者達が出て来た。


 黒田は北海道の函館で支社を開き、緑は東北の盛岡で支社を開いた。やはりここは緑には馴染みのある所だったので。


 青柳は四国の高松に向った。赤城は中国地方の広島に支社を開いた。


 そして白金は北陸の金沢に飛んだ。こうして5人の龍達がそれぞれの牙城を求めて旅立って行った。


 残ったのは黄埼と紫村だけだった。この二人は派遣指導員の仕事がまだ少し残っていたので最後に出発する事になっていた。


 その話を聞いた吉岡と金森は天堂の所に飛んで来た。


「どう言う事なんや兄弟、幹部を全員独立させてるそうやないか」

「ええ、うちもそろそろ規模を広げようかなと思っていましたので」

「ほな何か、皆に組を持たせて全国制覇でも狙うんか」

「そんな事はしませんよ。あくまく事業の拡大です」


「事業の拡大言うてもなー。兄弟とこの幹部は一人一人がやくざの大組織みたいなもんやからな。そんなもんが散らばったらそれこそ日本中のやくざが戦々恐々としよるで」

「いえ、うちは正業でやりますので」

「正業言う言うてもなー、それじゃ業界が通らんやろう」


「飛び出した皆もやくざの縄張りを荒らす気はありませんので。あくまで正業でやらせて行く事にしてます」

「それじゃー兄弟、やくざは廃業するちゅう事かいな」

「と言うより、うちは元々やくざのシノギはやってませんので」


「まぁ確かにそうやけど、兄弟の存在はわしらの世界では大きいからな」

「だいじょうぶですよ、吉岡さんや金森さんとは今まで通りと言う事で」

「そうかいな、それ聞いて安心したわ」


 安心した二人は満足げに帰路についた。


 黄埼は山陰の鳥取で紫村は中京の名古屋に決まった。丹波や京都ではそれぞれの指導員の為の壮大な送別パーティが開かれた。


 彼らに取って黄埼や紫村と言うのは単なる指導員ではなく武術の師匠だった。そこにはやくざと言う範疇を超えた繋がりが出来ていた。


 それぞれに別れを惜しんだが金森や吉岡は彼らのこれから先の発展を願ってエールを送った。


 こうして天堂商会も天堂一人を残す事となった。

 

 そしてここ「Time Out」では、

「なぁ、天堂よ。お前の凸凹コンビの片割れがおらんと言うのは何か寂しいの」

「だから俺達は凸凹コンビじゃありませんって」

「それに従業員もみんなおらんようになったんやろう」


「そうですね。いずれはこうなる事になっていたんですよ。これもまた次への発展の為ですから」

「組を大きうするんか」

「組じゃありませんって。会社ですよ」


「そんでここはどうするんや」

「別に何も変わりませんよ。もう代わりの従業員は確保してますから」

「しかしあれだけの奴らはもうおらんやろう」

「そうですね、彼らは一人一人が一国一城の主の資質を持ってますからね。だからこそ出したんですよ」

「やっぱり全国制覇か」

「違いますって」


 この天堂商会の分散は大阪のやくざ界でも色々な意味で波紋を呼んでいた。これから先、天堂の力は弱まるのかそれとも逆か。


 少なくとも天堂の部下達は死んだ訳でも破門になった訳でもない。言ってみれば独立して新しい組を立てたと言う事になる。そうなるとその力は更に増すと見るのが順当だろう。


 ただ地元の天堂の力はどうなるのかと言う事だが、それも変わる事はないと言うのが誰もの考えだった。


 要するに天堂の力は数の力ではないと言う事だ。天堂一人でも大組織を壊滅させるだけの力を持っている。


 幹部が抜けたからと言って侮ってはいけない事は誰もが知っていた。つまり天堂の地盤に揺るぎはないと言う事だ。


 そしてここでもまた一つの別れが進行していた。久しぶりに天堂が新地の超高級クラブ「クラリオン」に来て見ると何とも不思議な光景がそこにあった。


「何でお前がここにいるんだ」

「いちゃ、おかしい?」

「いや、そうではないが・・・」

「聞いてよ、社長。この子ったら東京に行くって言うのよ」

「何、お前がか。何でまた」

「そうね、何でかしらね。だってさ、向こうの方が暴れ甲斐がありそうじゃない」


「あのなーお前、喧嘩しに行くんじゃないんだからな。店はどうするんだよ」

「大丈夫よ、チーママの楓がちゃんとやってくれるから。それに時々はまたミナミへも戻って来るしさ」

「じゃー『ナビロン』はそのままと言う事だな」

「そうよ。東京に『ナビロン』の支店を作るだけよ」


「東京の『ナビロン』か。そうなるとまた鳴海の奴が嫌がるんじゃないか」

「何でよ。天兄ちゃん、きっと喜ぶと思うんだけどな」

「だといいがな」

「仕方がないわね。じゃー青海、頑張ってやっておいで」

「うん、お姉ちゃんありがとう。社長もね」


 こうして『ナビロン』のママ、青海もまた東京を目指して大阪を離れて行った。これを知ったら鳴海は一体どんな顔をするだろうか。


 この夜天堂は京都の吉岡と丹波の金森を誘ってミナミの超高級クラブ「ナビロン」に来ていた。言ってみれば天堂による青海の送別会の様なものだった。


「それは本当かいな、ここのママが東京に行ってしまうと言うのは」

「ええ、そうらしいです。ただ辞めると言うのではなくて東京にここの支店を開くそうです」

「それやったらめでたい話やないか」

「そうですね」


 そこに話のママ、青海がやって来た。


「今晩は、吉岡様、金森様。ようこそおいでくださいました」

「ようママ。東京に行くんやてな。頑張りや」

「ありがとうございます」

「そう言うたら東京には鳴海が行っとるんやったな。向こうでどうしとるんや」


「ええ、順調に事業を広げてるようですよ。今度は何でも芸能プロダクションも始めたとか言ってました」

「ほー芸能プロダクションかいな、それは楽しみなやな」

「そうなんですよ、吉岡さん。きっと鼻の下を伸ばしてるかも知れませんね。今度行って気を引き締めてやらないと」


「おいおい、ほどほどにしておけよ。お前が言うと冗談にならないんだからな」

「ははは、ほんまや」


 流石は青海の送別会だ。カラッとした感じでお開きとなった。


 その後天堂はまた「Time Out」で飲み直していた。するとそこに吉川雅代がやって来た。


「どうしたんですか。今日はちょっと寂しそうですよ」

「ああ、これは吉川さん。別にそう言う訳ではないんですが」

「いつもお二人一緒でしたものね。一人になるとやはりお寂しいですか」

「よくご存じですね」


「従兄妹の健吾さんが鳴海さんが東京に行ったと言ってましたので」

「そうですか。やはり吉田さんでしたか」

「ええ、私も夫を亡くした時はしばらくそう言う時期がありましたので」

「そうだったんですか。でも鳴海の場合は東京に赴任ですので」

「そうでしたわね。会おうと思えばいつでも会えると言う訳ですわよね」

「ええ、そうです」


「私も仕事でよく東京には出かけますので、その時にでもまた鳴海さんにお会いして来ますわ」

「そうですか、それは鳴海もきっと喜ぶと思います。宜しくお願いします」

「わかりました」

「では乾杯しましょうか」

「ええ、では乾杯」


 そして天堂も思っていた。

『俺もいつまでも感慨に耽っていてはいけないな。そろそろ打って出るか』と。


 天堂の会社は既に補充の従業員を入れていた。基本的には『闇』のメンバーを幹部に据えて、今までなかった事はここでも一般の従業員を入れた事だ。


 天堂組はやくざ社会から抜け出し真っ当な会社経営へと歩み出していた。


 ただそれでも天堂と言う名は裏社会では大きな重みを持っていた。例え堅気の会社になったとは言え迂闊に手の出せる相手ではなかった。


 その事は皆骨身に沁みて知っていた。こんな事例があった。天堂商会の幹部達が皆去ったと聞いて天堂にちょっかいを出して来た組があった。


 しかしその組は二日と空けず天堂の手によって壊滅させられていた。天堂組は数ではない個が組織だと改めて知らされた事件だった。


 天堂は今回の決定にあたり大阪のやくざの親睦団体、関西縁友会の相談役を降りた。


 しかし降りたとは言え天堂の地位は揺るがなかった。何かあれば天堂に相談に来る。そのパターンは変わらなかった。


 ただ天堂も今のままでは少しまずいと思い、天堂も弁護士の資格を取って弁護士の立場で相談に乗ると言う形式を取っていた。言ってみれば親睦団体の顧問弁護士の様なものだ。


 鳴海は東京で新しい事業を始めている。天堂には天堂で新しい試みがあった。それは若者を育てて社会に送り出す政治結社の様なものを作る計画だ。


 関東や関西の一流大学には研究資金援助と言う名目で多額の寄付金を出していた。


 そのコネを使って将来有望な学生を引き抜き、奨学金を与えて塾生にしようと言う計画だった。


 そしていずれ彼らを国の中枢に送り込む。官僚としてまたは国会議員として。


 天堂の頭の中には表と裏の社会を牛耳る計画が徐々に形作られていた。


 『さてこの国をどうするかな』と天堂は呟いていた。

応援していただくと励みになります。

よろしくお願いいたします。

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