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天堂が行く  作者: 薔薇クーダ
第十部
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第四話 天堂芸能プロダクション

鳴海は東京に『天堂東京芸能プロダクション』と言う会社を設立した。

そこには神井綾香も移籍して本格的に芸能プロダクション事業を展開しようとしていた。

そこにまた飛んでもない者が大阪からやって来た。

 神井綾香の移籍が正式に決まった。移籍先は『天堂東京芸能プロダクション』と言う所だった。


 この業界では全くの無名だ。それはそうだろう、出来たばかりのプロダクションなのだから。


ところがその無名のプロダクションに神井綾香が移ったと言う事で業界は少し騒がしくなった。


 その頃には神井綾香の人気はうなぎのぼりでドル箱的存在だったからだ。


 そのドル箱を手に入れた『天堂東京芸能プロダクション』とは一体どんな所なんだと興味津々だった。


 それともう一つはあの業界のドンと言われた『興和プロダクション』が神井綾香を手放したと言うニュースだった。


 それは普通ではあり得ない事とされていた。あの金の亡者がドル箱を手放すなど。


 また欲しくても移籍させる事をためらう業界でどうやって手に入れたのかと言う疑問もあった。


 どのプロダクションも表では言わないが「興和」の黒い噂はみんなが知っていた。


 あそこに立てつけばどうなるか分かったものではないと。なのにそこからドル箱を奪った『天堂東京芸能プロダクション』とは一体何者だと。


 その話を聞きつけて綾香の同僚が私も何とか移籍出来ないだろうかと綾香に相談に来た。綾香はその事を鳴海に相談してみた。すると鳴海は、


「そうですね、同じプロダクションを始めるのですから、玉はもう少し持っていた方がいいでしょうね」

「へーオジサン、そう言う事も考えてるんだ」

「あのですね、そのオジサンですが」


「そうよね、やっぱり芸能プロなんだから社長よね。今度からオジサンの事をちゃんと『社長』と呼ぶからね」


 本当は「天堂商会」の支社と言う事になるのだが、独立採算制を取る事になったのでこちらで鳴海は『社長』と言う事になった。


 そして鳴海はまた『興和プロダクション』に行き、社長の黒部と交渉をして後二人のタレントを『天堂東京芸能プロダクション』に移籍させた。


 この頃には黒部も一時の威勢を失くし、特に鳴海には頭が上がらなくなっていた。


 それは何も鳴海が弁護士だからと言う事ではなく、頼みの綱だった『三隅興業』が鳴海には頭の上がらない状況になっていると知ったからだった。


 ここでこの鳴海に立てつけば今度は自分が『三隅興業』からどんな仕返しをされるか分かったものではない。力で押さえていただけにその上を行く力には弱いと言う事だ。


 鳴海は『天堂東京マネージメント』に四部門ある一つを芸能部門とし、そこに課長と係長と4人の社員を配した。そしてこの係長以下が現地採用した一般人だった。


 勿論彼らはこの会社がそんな特殊な会社だとは何も知らない。ごく普通のマネージメント会社だと思って就職して来た。


 そして鳴海もこれでいいと思っていた。これからは表の世界にも溶け込んで行かないといけないのだからと。


 この部署の社員達はみな優秀だった。それぞれの分野の経験者を雇った。つまりみんな中途採用者だ。特にこの業界には即戦力が必要だった。


 係長はマネージャーとしての経験も豊富だった。その下ではスケジュール管理にイベントやテレビ、ラジオ等の出演管理にCDやビデオ、プロモーション関連、それにグッズの販売等の仕事もある。


 そしてブログやファンクラブを始めとしたコミュニケーション関連も大事な仕事だ。それらをこの4人は見事にこなしていた。


 そして課長は全体の流れを把握し、契約や金銭関係を掌握していた。だからと言って鳴海が何もしなくていいと言う事ではない。


 やはり鳴海はここでの顔だ。だからテレビやラジオ局それに業界関係者との付き合いもある。


 その都度鳴海は綾香からダメだしを受けていた。


「社長、そんなしかめっ面じゃだめだって。もっと笑って。それだめ」


 そう言った感じで鳴海は今までに経験した事のない苦境に立たされていた。こればっかりは慣れるしかないと鳴海も観念していた。


 しかししばらくするとこの業界にも馴染んで来た。この男、学習能力はずば抜けているので、自分なりにアレンジして相手に迎合するのではなく相手に寄り添わせる方向でコントルールしていた。


 そしていつしか鳴海はこの業界の相談役的存在になっていた。それは彼が現役の弁護士であると言う事も関係しているだろう。


 契約問題やコンプライアンス関連は鳴海に聞けと言うのがこの業界の常識になっていた。


 そんなある日、鳴海は同じ業界の古参連中から誘いを受けた。これから銀座に出て一杯行こうと言うのだ。


 今までの鳴海なら断っていたが、最近はそれなりにこなす様になっていたので付き合う事にした。


「最近新しい店ができてさ、それが結構いけるんだよ」

「ああ、その話俺も聞いたよ。だから一度行ってみたと思ってたんだ。小金井さんはもうその店に行ったのかい」

「ああ、先日行って来たよ。良い店だった。それにまたそこのママと言うのが別格でさ」

「別格って?」


「いや、奇麗なのは言うまでもないんだがね、何と言うか気品があると言うか、ともかく俺は一目惚れだね」

「そうか、女にうるさい小金井さんがそう言うんじゃ、これは是非とも会って見ないといけないな」


 そんな会話をしながら、彼らは一軒の店を目指した。店の名を「ネオ・ナビロン」と言った。


 彼らがその店のドアの前に立った時、何故だか鳴海は寒気がした。


「まさかな」


 中は豪華な作りになっていた。それこそ粋を凝らしたと言う表現が似合うだろう。


 そして中で働くホステス達も、銀座でもこれほどの女性達はいないだろうと言うほどの美形を揃えていた。


 そしてそのママたるや、その彼女達をも遥かに超える美形だと言う。


 そう聞けば何が何でも会わない訳にはいかないと芸能プロダクションの3人と鳴海は案内されてブーツに着いた。


 そしてそこに3人のホステス達がついた。フロアマネージャーが挨拶に来て、小金井が入れているボトルを出して来た。


 それに習って、じゃー俺もと二人がボトルを入れた。


 丁度頃合いを測ったようにそこにママが現われた。名前を青海(はるか)と言った。


「な、何でお前がここにいるのです」


 そう言ったのは鳴海だった。その言葉に3人の芸能プロダクションの社長達は驚いた。


「いらっしゃいませ皆さま、あたしがここのママをやっております青海といいます。今後ともご贔屓の程宜しくお願いいたします」と丁重に挨拶をした。

 

 そして、

「鳴海さん、お久しぶりです。こちらでもまた宜しくお願いします」と言って軽くウインクした。鳴海はめまいがしそうだった。


「鳴海さん、ここのママをご存じなんですか、隅におけませんね」

「いえ、そう言う訳では・・・」


 流石の鳴海も少し言葉を失っていた。


「鳴海さんは大阪時代のお客様なんですよ」

「そう言えばママは大阪から来たって言ってたよね」

「はい、大阪に『ナビロン』と言うお店があります」


「おお、それなら俺も知ってるぞ、大阪じゃ有名な店だ。大阪に二軒あると言われる超高級クラブの一軒だ」

「ああ、俺も知ってるよその名前は」

「彼女はその『ナビロン』のママなんですよ」と鳴海が言った。


「嘘だろう、本当かいママ」

「はい、今度こちらに姉妹店を出しましたので、宜しくお願いいたします」

「そうか、そうと分かれば、俺ここに通うぞ」

「おお、俺もだ」


 そう言う会話で盛り上がってしまった。


 鳴海が少し席を外してバーカウンターにいると青海がやって来た。


「どう天兄ちゃん、いいでしょうこのお店」

「聞いてませんよ、お前がこっちに来てるなんて」

「うん、あたしが社長やお姉ちゃんに言わないでって言ったからね」

「何故です」


「それは天兄ちゃんを驚かせる為にきまってるじゃないの」

「おいおい、頼みますよ。まったく」

「また改めて連絡するからさ、その時にゆっくり話しようよ。ねっ」


 そう言って青海は踵を返して行った。


 鳴海は、これはまた厄介な事になったと思った。今度は東京でどんな惨事が起こるかと思うとまた気が重くなってしまった。


 翌日のお昼前に突然青海が『天堂東京』を訪ねてきた。応対に出た女の子が同じ同性でありながら青海のあまりの美しさに見とれてしまっていた。


「あたし、青海と言うんですが鳴海さんにお会いしたいんですけど」


 そう言われてやっと我に返って慌てて鳴海に連絡を取っていた。


 その女の子に案内されて鳴海の部屋に向かう途中でその姿を見た課長達が緊張していた。


 それは無理もないだろう。『闇』の世界での三傑の一人、海龍は彼らに取っても雲の上の人だ。


 まして別名『破壊龍』とまで言われた青海なら緊張するなと言う方が無理だろう。


 鳴海の部屋に案内された青海は、


「ここが天兄ちゃんの部屋なんだ。結構いい部屋じゃないの」

「そう思いますか、お前にそう言われると安心出来ますね」


 青海は結構デザインや色調にうるさくてデザイナー顔負けの良いセンスを持っていた。


 そこに飛び込んで来たのが綾香だった。今日は幸い何のスケジュールも入ってなかったので事務所でのんびりしていた所に、とんでもない美人が所長を訪ねて来たと聞いたので飛んで来たのだ。


「社長、その人は何方ですか」

「綾香君か。えーっとですね」

「初めまして神井綾香さんでしょう。知ってますよ有名だもんね。あたし『ネオ・ナビロン』ってお店やってる青海って言います。宜しくね」


「『ネオ・ナビロン』って何ですか、社長」

「それはだね、銀座のナイトクラブなんだよ」

「へー社長、そんな所に通ってるんですか」

「あら大変ね天兄ちゃん。嫉妬されてるわよ」

「天兄ちゃんって、何それ」


「いや、誤解しないでくれたまえ。彼女は私の幼馴染なんだよ」

「幼馴染で、銀座のクラブのママで、超美人さんですか」


 ここまで来ると何か言えば言うほど誤解されそうなので鳴海は黙ってる事にした。


「ねえ、社長。何か言いなさいよ」

「大丈夫よ綾香さん。あたし達そんな関係じゃないから。本当にただの幼馴染なのよ」

「そうなんですか、社長」

「ああ、そうだよ」

「ほんと、紛らわしいんだから」

「どっちがですか」

「何か言いました?社長」

「いや、何にも」


「ねぇ、綾香さん。良かったら一緒に食事にでも行きません。貴方となら話も合いそうな気がするので」

「わかりました。行きましょう。そう言う事で社長、行ってきます」


 そして二人は出て行った。一体今までのは何だったのだと鳴海は思った。


 もう少しでとんでもない騒動になる所だったが何とか収まったようだ。


 それにしても女性は怖くて厄介なものだと鳴海は思った。

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