第二話 東京支社
天堂は新しく天堂の支店を全国に築く計画を立てた。
その第一弾が鳴海の東京派遣だった。
翌日天堂はみんなを会議室に集めた。こんな仰々しいのはこの会社始まって以来の事だった。
「社長なんなんですか、この会議って」
「そうですよ。俺らこんな改まった会議なんてやった事ないですよね」
「社長、世界戦争でも始めるんですか」
と色々な声が飛び飛び交った。
「みんなちょっと聞いてくれ。俺達もこの地に仮城を築いて随分と経った。それでだ、今後の方針を決めたいと思うんだ。これはお前達一人一人に取っても未来の方針だと思ってくれ」
「随分とまじな話なんですね」
「そうだ。今度俺は鳴海を東京に送ろうと思ってる。それはこの天堂商会の支社を東京に作ってもらう為だ」
「東京に支社ですか。それは凄いですね」
「ただしだ。これは実験だ。これが上手く行くかどうかはまだわからない。だから実験なんだ。そしてもしこれが上手く行ったら、今度はお前達にも同じ事やってもらおうと思ってる」
「俺達がですか」
「そうだ。それぞれに独立してもらう。そして各自でこの天堂商会の支社を作ってもらおうと思う」
「それって何処に作るんですか」
「それはまだ決めてないが全国に散らばってもらう事は確かだな。お前達にはそれぞれに一国一城の主になってもらう」
「そして全国制覇ですか」
「いや、全国制覇する必要はないが少なくとも活動範囲を広げようと思ってる」
「それも面白いですね」
「だろう。せっかく表の世界に出て来たんだ。どうだ一つ面白い事をやってやろうじゃないか」
「それで各支社でどんな事をするんですか。やはり古美術商ですか」
「いや、それに拘る必要はないと思う。勿論このまま古美術商を続けてくれてもいいし、各自の才能と技量で新しい分野を開発してくれてもいいし。それはお前達に任せようと思う。かってお前達が一国一城の主だったようにな」
「それはいいですね。じゃー思いっきりやっていいんですね」
「ああ、構わん」
「しかしそうなると倒産する奴も出て来るかもしれませんね、赤城なんかは危ない口だ」
「何だよそれは。俺だってな、やる時はやるんだよ。それになダメだったらそこいらの組潰して頂点に立てばいいだけの話だろう」
「お前らしいよ、まったく」
「ただな、今度はやくざ路線は外そうと思ってる。堅気の商売としてやる。まぁ、今までもそだったがな。ただしだ、周りで邪魔する奴がいたら容赦なく叩き潰してもいいぞ」
「そうこなくっちゃ!」
「取りあえずは鳴海が第一号だ。みんなで見送ってやろうぜ」
そう言う事で鳴海は単身、東京に赴任する事になった。そして自身の『闇』の部下も使うが現地での採用もする。
ただしそれは一般人だ。だから『闇』に関しては今後極秘扱いになる。
空蝉の世界に築いた仮の牙城だが、それはそれなりの見栄えも必要だろう。
だから世の中に溶け込む必要もある。そう言う意味では現地人を採用する事もまた必要な事かもしれないと天堂も鳴海も考えていた。
そして鳴海が東京に出て最初にやった事は東京弁護士会への弁護士登録だった。
元々鳴海は弁護士資格を持っていた。しかし面倒くさいと言って何処の弁護士会へも登録をしていなかったのだ。これでは実際に弁護士としての活動は出来ない。
鳴海は医師としての免許も持っている、今度はそれに弁護士としての資格も加えようと言うのだ。
これから先の事業を考えればそれは大きな武器になる。鳴海は東京の港区に事務所を構えた。
そして寝泊まりするマンションもその近くに借りた。今はまだ仮寝の宿だ。レントで十分だろうと考えていた。
事務所の名前は「天堂東京マネージメント」とした。何をマネージするのかよくわからないが言ってみれば全てと言う事だろう。簡単に言ってしまえば「何でも屋」みたいなものかも知れない。
鳴海は自分の「闇」の部下5人を表に出し、一人を部長、つまり自分の所の副支社長とし、4人を各部署の課長とした。
当然将来的にはそれらの各部署に現地採用を入れるつもりにしていた。今はまだその準備段階だ。
それと同時にドラゴン・ファンド東京支局も開設した。こちらはこちらで金融界に根を張ろうと言う算段だった。
一応そう言う準備をしておいて、まずは順当な所で古美術から商売を始めた。
これは天堂商会の専門分野だ。東京に移転したからと言って支障になるものは何もなかった。
そしてある程度目鼻が付いた所で鳴海は神井綾香に電話を入れた。
「はーい、オジサン、あたしよ」
と元気な声が返ってきた。
「そのオジサンと言うのは何とかなりませんかね」
「ごめん、ごめん。ところで今何処にいるの?」
「今度私は東京に赴任して来ました」
「えっ、本当に。それで何処にいるのよ」
「事務所は港区です」
「じゃー近くじゃない。今度時間作るからさ。絶対に会ってよね」
「はい、わかりました。では待ってます」
鳴海は少し外を歩いてみる事にした。鳴海としてはどうしても周囲の事が気になる。特に裏社会関係に関しては。
一応の情報は仕入れてある。この辺りを仕切ってる組が何処なのか、そしてこの周辺の組に関しても。
『そう言えば以前に新宿で揉めた組は何処の組でしたかね。ちょっと調べてみますか』
あの時、その組に乗り込んで組長の腕を点穴で麻痺させていたのを思い出した。
『そう言えば忘れてましたね。一度訪ねてみないといけませんね』
そう言って鳴海は夜の東京の町に溶け込んで行った。
それからしばらくして綾香から電話があった。今度の木曜日に会えないかと言う事だった。
週末は色々なイベントに出席しないといけないので逆に忙しいと言っていた。芸能人とはそう言うものなのだろうなと鳴海は思った。
そこは鳴海の事務所からも近い表参道にあるレストランだった。勿論綾香は少し変装をしていたが見る者が見ればわかってしまうかも知れない。
綾香は以前に大阪で会った時よりは少し大人っぽくは見えたが、それにしては疲れているようにも見えた。
「どうしたんですか。そんなに仕事がきついのですか」
「それもあるんだけどさ、どっちかと言うと精神的なものかな」
「何か悩みでも?」
「あのさーちょっと聞いてくれる。今のプロダクションって滅茶苦茶なのよ」
「滅茶苦茶と言いますと」
「タレントの都合なんかお構いなし。ともかくスケジュール、スケジュールで詰め込んでお金の事しか考えてないのよ。正直やってられないわ」
「そんなプロダクションなら辞めたらどうですか」
「そうなのよね。あたしも辞めたいんだけどさ」
「出来ないのですか」
「まぁ、色々とあってさ」
綾香の話によるとどうやら綾香が属してる興和プロダクションと言うのは、バックに暴力団がついていると言う話だった。
だから勝手にプロダクションを抜けたり辞めたする事が出来ないと言っていた。
しかも今の営業部長と言うのがどうもそのバックから送り込まれている人間らしいと言っていた。
以前に抜けようとした者が交通事故にあったり大怪我をしたりで芸能活動そのものが出来なくなってしまったのでそれ以降は誰も辞めてないと言う話だった。
その組と言うのは鳴海の事務所のある隣にシマを持つ「三隅興業」と言う所だと言う。
表向きは一般の企業形態になってるが中身は立派なやくざ組織だと言う。
鳴海は綾香にプロダクションとの契約書は持ってるかと聞いたら、それなら家にあると言うので見せてもらう事にした。
綾香のアパートは渋谷区にあった。シャレタ感じのアパートだ。
ただ綾香の様な売れっ子が住むには少し貧層にも見えた。相当稼いでいるはずだからもっと高級な所に住んでもいいだろうとその事を聞いたら、
ここはプロダクションからあてがわれている所で勝手に移転出来ないんだと言っていた。それもまたおかしな話だ。
鳴海はアパートの前からセンサーで探ってみると中にどす黒い意識が見え隠れしていた。鳴海はなるほどそう言う事かと納得した。
綾香の部屋は3階だった。その部屋のドアの前に立って鳴海は綾香の部屋の中を探った。
するとやはりあった。盗聴器と監視カメラだ。盗聴器は三か所、監視カメラは二か所にあった。
鳴海は綾香にドアを開けたら電気を付けないで暫くそこで動かない様にと言った。
綾香は何故と言ったが、ともかく鳴海はそうしてくれと言って綾香の部屋に入った。
その間に鳴海は監視カメラにある種の操作をしていた。盗聴も監視も出来ないようにした。
それからメモで盗聴器があるからしゃべるなと書いた。そして綾香の契約書を持ってその部屋を出た。
「ねぇねぇ、本当なの。あたしの部屋に監視カメラや盗聴器があるって」
「ほんとうです」
そう言って鳴海はその正確な位置を教えた。でも今はまだ取り外さないようにと。
そして意識しない様にとも言っておいた。そうしないと相手にこっちが気づいた事を気づかれてしまうからだ。
鳴海は綾香の契約書を細部に渡るまで読んでこれなら大丈夫でしょうと言った。
「大丈夫ってなに?」
「あなたを移籍させる事です」
「移籍させるって何処によ。みんな怖がって受け入れてくれる所なんか何処にもないわよ」
「でしょうね」
「じゃーどうするのさ」
「一週間だけ待ってください。ただしその間、自分の部屋の中では監視カメラや盗聴器の事は知らない振りをしていてください。あなたは歌手になる前は劇団にもいた俳優さんですからそれくらいの演技は出来るでしょう」
「わかったわ。でも一週間が限度だからね」
「わかりました。それで結構です」
鳴海はその一週間で何をしようと言うのか。
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