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天堂が行く  作者: 薔薇クーダ
第十部
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第一話 歌手神井綾香

鳴海は白金の無理やりな誘いで

歌手神井綾香のコンサートを見に行く事になってしまった。

その神井綾香と鳴海は以前に会っていた。

「この子知ってますか、部長」

「何ですか昼間っからテレビなんか見て」

「今凄く売れてるんですよ。『彗星の如く現れたニューヒロイン。新世代の歌姫』ってタイトルなんですけどね」

「それがどうかしましたか」


「それが来るんですよこの大阪に。今週末大阪でコンサートを開くんです。大阪では初めてなんですけどね」

「それで」

「ねぇ、部長一緒に行きませんか」

「何で私が君と一緒に行かなければならないのです」

「だって一人じゃ寂しいじゃないですか」

「子供ですか、あなたは」


「そんな言い方はないじゃないですか。実は前売り券もう二枚買ってあるんですよ」

「なら彼女とでも行ったらいいでしょう」

「いれば行きますよ」


「ならここには後6人いるじゃないですか」

「だめだめ、音楽に縁遠い人達ばかりですからね」

「おい、何だそれは。俺達は音痴じゃねーぞ」

「似たようなもんですよ」

「チッ、言いやがったな」


「この中で曲がりなりにも音楽が理解出来るのは部長だけなんですから」

「おい、白金、。それはちょっと言い過ぎだろう」

「でも本当でしょう」

「ま、まぁーな」

「おい、肯定してどうするんだよ、赤城」


 と言う事で、いつの間にか鳴海が白金と一緒にこのコンサートに行く事になってしまった。


「ところで白金君、その歌手って何と言う名前なんですか」

「知らなかったんですか、神井綾香です」

「神井綾香ですか、どっかで聞いたような」

「そりゃそうでしょう。今やどのテレビ局をつけても出てますからね」

「そう言う意味ではないのですが」


 コンサート会場はまさに満員御礼。入りきれないほどの客の入りだった。鳴海は若い者達だけかと思っていたが意外と年配者達もいた。それはそれで面白いなと鳴海は思った。


 彼女の歌が始まって、鳴海はなるほどと納得した。ただ喚きたてるだけの最近の若い歌手とは一味も二味も違う歌手だった。ちゃんと人の心を打つ歌を歌う。そんな歌手だと思った。


 そして声量もあるし音域も広い。声質にも深みがあって心に沁み込んで来る。良い歌手だと思った。そしてスポットライトに照らされた彼女は何処かまぶしかった。


 それはただ単に照明だけの問題ではないだろう。もしかするとあれは彼女のオーラなのかも知れないと鳴海は思った。しかしこの感じ、何処かで感じた事があると。


 途中15分の休憩を入れて2時間に及ぶコンサートをその歌手は全力で駆け抜けた。公演が終わり、白金は楽屋へ行こうと言い出した。


 そんなもの一般の観客が行っても直接会う事は出来ないでしょうと鳴海は言ったが、白金は自分は後援会の一人だから大丈夫だと言って無理やり鳴海を引っ張って行った。


 まぁ、ここまで来たのだから白金の好きな様にさせてやろうと鳴海は思った。白金は天堂商会で最年少の課長だった。まだ少年の部分が多分に残ってる、そんな感じの社員だ。


 楽屋には大勢のファンが詰めかけていたが、それをガードマンがきっちりとガードしていた。だから中には入れない。


 ただ白金は何かのカードを提示して中に入れてもらった。それはなんですかと鳴海が聞くと、後援会の特別会員のカードだと言った。これがあると楽屋で直に面会出来るらしい。


 ほーそんなものがあるのかと、鳴海も白金について一緒に楽屋に入った。そこにはさっきステージでキラキラと輝いていた歌姫がいた。


 しかし楽屋での様子は少し違った。何となくまだ年行かぬやんちゃな少女の様にも見えた。


 白金が花束を差し出してサインをねだっていた。まぁ、それは普通だろうと鳴海も思った。するとその少女が鳴海の前に来てジロジロと鳴海を眺めていた。そして、


「オジサン、あの時のオジサンだよね」と言った。

「ん?何の事ですか」

「だめじゃない、あたしの事を忘れるなんて。ほら東京行きの新幹線の中で駅弁をおごってくれたでしょう」


 そう言われて鳴海はやっと思い出した。何処かで見た顔と名前だと言う事を。


「あっそうか。あの時の子でしたか」

「そうよ、思い出してくれた」

「はい、やっと」

「全くもう、こんな可愛い子を忘れるなんて罪だぞ。なんてね」


「ぶ、部長。神井綾香を知ってるんですか」

「ええ、まぁ、知ってると言いますか。新幹線の中でお会いしました」

「そんなー」


「それとさー、東京駅で別れる時に1万円くれたでしょう。出世払いだって。あれ本当に助かったのよ、あの時」

「そうでしたか、それは良かったですね」

「で、何?部長さんって」


「ああ、こちらは僕が働いている天堂商会の総務部長なんです」

「オジサン、じゃなかった。鳴海さんだよね。確か骨董じゃなかった、古美術の商いをしてるって言ってなかった?」


「そうです。天堂商会は古美術商なんです」

「そうなんだ。へーそこの部長さんか。いいねオジサンやっぱり。あのさーここじゃなんだから連絡方法教えてよ。今度ゆっくり会いたいからさ、いいよね」

「まぁ、構いませんが」


 そう言って鳴海は名刺に自分の携帯番号を書いて渡した。その後、帰り道ではもう白金の質問攻めだった。


 それからしばらくして鳴海の携帯が鳴った。それは神井綾香からだった。


 大阪の後広島公演を行って東京に帰る途中でマネージャーに少し大阪に立ち寄る時間をもらったと言っていた。


 やはり売れっ子になると分刻みのスケジュールで自分の時間など殆ど取れないと言っていたが今回は無理やり取ったと言った。


 ただ今夜の最終の新幹線で東京に帰らないといけないから夕食だけも一緒にと言う事になった。


 それで鳴海はあまり人目につかない店を選んで綾香をそこに誘った。


「君も大変なんだね。売れっ子になると」

「そうなのよ。こんなにきついとは思わなかったわ。あの時は先輩が羨ましいと思ってたけど、今は逆ね。売れないタレントさんが羨ましいわ」

「それは贅沢な悩みと言うものでしょう」

「まぁ、そうなんだけどさ」


「ところで鳴海さんは東京への出張とかはないの」

「購入品や必要な展示会等があれば出張しますが普通は大阪でしょうね」

「なんだ、それじゃつまらないわね」

「どうしてですか」


「だって東京に来たらもっと頻繁に会えるじゃない」

「私の様なオジサンとですか」

「そうよ、あなたの様なオジサンとです。ははは」

「変わった人ですね、君と言う人は」


「そうなのよね。知ってた?あたしって本当は物凄く人見知りするの。でもね、鳴海さんが初めてだったわ、いきなり話せたのは」

「そうなんですか」

「そうなんです。だからね、あたしの相談相手になってもらいたいのよ」


「そう言うのってマネージャーがやるんではないのですか」

「あれはだめ。あれは金の亡者よ。まぁ、この業界ってみんなそうなんだけどさ」

「そうですか、では考えてみましょう。東京に来れたら連絡しましょう」


「うん。じゃーこれあたしの携帯番号だからここに連絡してね」

「わかりました。そうします」


 鳴海は食事の後、綾香を新大阪の新幹線のプラットホームまで見送ってから「Time Out」にやってきた。するとそこでは天堂が既に飲んでいた。


「なぁ、今日のお前って少しにやけてないか」

「何故です。そんな事はないでしょう」

「そうか、誰か良い人でも出来たんじゃないかって思ってさ」


「そんな人いる訳ないじゃないですか」

「そうかな、例えば歌手の神井綾香とか」

「何ですかそれは。白金君が言いましたか」

「まぁな、白金は恋人を取られたって言ってたぞ」

「何でそうなるんです。私と彼女とは何でもありませんよ。ただ」

「ただ、何だい」


「いえね、相談相手になって欲しいとは頼まれましたが」

「それってお前が好きだからじゃないのか」

「それは違うと思いますね。やはり私はただの相談相手でしょう」


「かもな、お前は血の通った人間と言うよりはコンピューターに近いからな」

「それもどうかと思いますがね」


 鳴海は夕食の時に話した内容を天堂に告げた。すると天堂は、


「なぁ、鳴海、この天堂商会も大分軌道に乗って来た事だし、どうだ東京に支店を出さないか」

「支店ですか」

「そうだ。この辺りで新天地を求めるのも悪くないと思うんだよ」


「そうですね。悪くはないですが絶対に必要と言うほどでもないでしょう」

「かもしれないが、どうだ向こうでちょっと試行錯誤してくれないか」

「私がですか」


「そうだよ。こんな事出来るのはお前しかいないだろう」

「しかしそれではこちらの経理は一体誰が見るんです」

「それなんだが、いつもお前にばっかり頼ってるのもどうかと思ったんでな、ドランゴン・ファンドから一人経理の専門家を引き抜く事にしたんだ。それなら大丈夫だろう」


「そうですね。向こうは専門家ですからね。まぁ、任せても問題はないでしょう」

「よし、なら決まりだ。お前は来週から東京に行ってくれ。そこでここの東京支店を作ってくれないか」


「まぁ、そう言う業務命令なら従いますが」

「そう言う業務命令だ」

「わかりました。そうしましょう」


「ただその前に少し計画を詰めておいた方がいいと思うのです。そしてこの事はみんなにも話した方がいいでしょう」

「そうだな。では明日みんなを集めて会議を開くか」

「そうですね。天堂商会の未来会議と言った所ですかね」

「そうだな」

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よろしくお願いいたします。

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