第五話 『四天王』
紫村は最終戦の第一戦で『四天王』の一人「周」を倒し、
そして残り四天王と対戦する事になった。
紫村の寸勁は最終戦の第一戦で『四天王』の一人「周」を倒した。これはもはや想定外の最大快挙と言ってもいいだろう。
『四天王』の一角が崩れる。そんな事はここ15年、誰も見た事がなかったからだ。
「まさかあの「周」が後れを取るとはな。あの男一体何者だ」
「これは予想外だったな。少し気を引き締めて行くか」
「そうだな。しかしあいつもここまでだ」
「確かに」
一方紫村のコーナーでは、
「どうでした、彼は」
「部長はもうおわかりでしょう」
「ええ、わかりました。末裔ですね。ただ血は大分薄まってるようです。この前に会った尾木埼煉と言う男の血の方がまだ濃かったですね」
「で、どうします。奴らの処分は」
「今の方法でいいと思います。力の差を見せてあげなさい」
「わかりました」
紫村の第二戦の相手は同じく『四天王』の一人「輪」だった。彼は四天王第三席だ。
「よくも「周」を倒してくれたな。ここがお前の墓場だと思うがいい」
「そうかい。では良い墓石でも用意してもらおうか」
紫村は「輪」の構えから形意拳の使い手と見た。拳をシンプルに突き出す形意拳。しかしその拳脚には物凄い発勁が込められ触れた物を全て破壊してしまうと言う。
前回の鞭打の「周」とはまた違った威力だ。より直線的でその威力は鞭打を遥かに上回る。
「輪」はその連打を掛けてきた。しかし紫村はその全てを捌き、また相殺していた。
「確かによく練れている。練れてはいるがまだまだだな」
「何だと、これ以上の打があるとでも言うのか」
「では俺の打を見せてやろう」
紫村は「輪」の中段に何の変哲もない突きを入れた。こんな物くらいと、弾いたつもりの「輪」の手が逆に弾かれて中段がもろに決まった。
そして輪は数メートル飛ばされ、内臓にもダメージを受けたようだった。
幸い内功を高めていたので一撃で「周」の様な目には合わなかったがかなりのダメージを受けた。
「お前何をした。何故俺の受けが弾かれたのだ」
「撚糸勁だよ。知らないのか」
「馬鹿な、そんな技を本当に使える者がいるなど」
撚糸勁、それは拳脚の周りに螺旋の様に勁を巡らせ、接触する全てを弾き飛ばしてしまう技だ。しかもそれと同時に通常の発勁も行う。
紫村はこれらを同時に行った。これは勁の高等技術だ。誰にでも出来ると言うものではない。
いや、むしろそんな技を使える者などこの世には存在しないはずだった。伝説の一族を除いては。
「まさか」と「輪」は思った。「まさかな、そんなはずはない」と。
「では仕方がない。俺の最高の技で相手をさせてもらおう。もはやお前を見下すのはよそう。俺と同等、もしくは俺を凌ぐ者として相手をさせてもらおう」
「輪」は最高度の勁を込めて形意拳最高の崩拳を放った。しかしそれはその前の中国拳法の男と同じ結果になってしまった。
つまり崩拳を掌で受け止められ逆に発勁を返されたのだ。当然輪右腕は破壊されていた。
「何故だ。何故俺の崩拳が効かない」
「だから言っただろう。練が足りないと。そんな勁では猫も殺せんぞ。所詮俺とはレベルが違うんだよ」
「まさか、お前は。お前は一体何者なのだ」
「もう少し修行すればお前にもわかるようになるだろうよ」
「そうか。それは楽しみだな」
「ただおめえらはまだ100年早えーんだよ」
そう言って二度目の紫村の撚糸勁が「輪」を襲った。これで二人目が沈没した。
三人目の『四天王』は「高」と言った。彼は『四天王』第二席だ。
「お前は勁が得意な様だが俺には勁は効かんぞ」
「そうかい。それはどうも」
この「高」はまるで鋼鉄で出来た様な体をしていた。まさに鉄のかたまりだ。何処を叩いても跳ね返される。そんな感じだった。
その割には俊敏な動きをする。しかもその突きや蹴りは速くて重い。
だから紫村はそれらを勁を用いて受な流していた。しかしこれでは埒があかない。流石は第二席だけはあると言う事か。
紫村は一瞬の隙を突いて高の懐に入り、拳を「高」の膻中に当てて寸勁を打った。しかも十分に勁を乗せた寸勁だった。
しかしその寸勁は何の効果もなかった。まるで勁が接点を中心に円の波紋が広がって行くように薄められてしまった。
「無駄だ。無駄だ。俺の体の表面には勁の壁がある。どんな勁もそれを打ち破る事は出来んよ」
その時、「高」は紫村の接触した拳の前腕を両手で掴かんだ。そして絞ってきた。要するに絞って千切ってしまおうと言うはらだ。それくらい彼の握力はすごかった。
勿論そのままでは紫村の腕は引きちぎられてしまう。しかし紫村は慌てず気を増幅した。その瞬間パンと言う音と供に「高」の手が弾かれた。
「何をした。まさか撚糸勁か。本当にそんな技を使える人間がいたとはな。驚きだ。成る程、「周」も「輪」も負ける訳だ。しかしお前のその技でも俺は破れんぞ」
「確かにお前は厄介な奴だよ」
「高」がまた連打を仕掛けてきた。それは一撃一撃が爆裂の様な凄ましさだった。あんなものをまともに食らったら身体はバラバラになってしまうだろう。
しかし紫村もまた勁で「高」のパワーを相殺していた。しかしこのままでは確かに「高」の言う様に「高」を倒す事は出来ない。
「仕方ない。やるか」
そう言って紫村はまた「高」の虚を突いて懐に入り込んだ。そしてそこでまた寸勁を打った。
「そんな技、無駄だと言っただろう」
「そうかな」
「高」は紫村の腕を掴んで今度こそねじ切ってやろうと思ったがどうした事か膝をついてしっまた。そして立ち上がろうとするが力が入らずすのまま崩れ落ちてしまった。
「何をした。勁では倒せないはずなのに」
「倒せない勁なんてないんだよ。要は使い方の問題だ。今のは二重の勁を打ち込んだ」
「何、二重の勁だと」
「そうだ。勁を相殺した後には誰でも一瞬の虚が出来る。そこに二度目の勁を打ち込めば鎧も突破出来ると言う訳だ」
「馬鹿な、そんな事が出来るはずがない。勁に威力を込める為にはどうしても気の溜めがいる。お前はその溜めもなしにあれだけの勁を瞬時に二度打ったと言うのか」
「要は技術の差だ。お前らの技術はまだまだ未熟だと言う事だ」
「この俺の勁破りの体を勁で破る男がいるとはな。そんな事が出来るのは俺達と同等の・・・まさか、お前もなのか」
「なんの事だか知らねーがな。要するにお前も修行が足りねーって事だよ」
「そうか、俺達ではまだ届かないのか」
そう言って三人目が沈んだ。
そしてとうとう『四天王』最後の一人が出て来た。彼の名は惇と言った。彼もまたあの中国拳法の男と同じで八極拳を使って来た。
「へーお前も八極拳を使うのか。しかしお前も見ただろう。あの八極拳使いは破れたぞ」
「しかし俺の八極拳はあいつのと同じではない」
そう言って「惇」は緩急を上手くつけて攻撃して来た。そして懐に飛び込み、強烈な突きと、更にはそこから肘打ちの攻撃が来た。
この肘もまた八極拳の特徴の一つだ。しかも「惇」の肘は想像を絶する威力だった。
八極拳は中国武術の中でも、より実践に即した拳法だ。特に接近戦において威力を発揮し、振脚と言う足で大地を踏みつけて打ち出す拳には物凄い勁を宿すと言われている。
紫村は上手く「惇」の攻撃を相殺していた。しかし紫村の攻撃もまた「惇」によって相殺されていた。これでは本当に埒があかない。
そう思った「惇」は、速攻の踏み込みと同時に素早い突きを出してきた。
変哲もない突きだった。紫村はそれを受けようとしたが瞬間間合いを切って避けた。
紫村としては珍しい事だ。避けるとは。
「おい、それはまさか螺旋勁か」
「よくわかったな。そうだ」
螺旋勁と言うのは勁をドリルの様な状態にして打ち込んでくる勁でどんなに強固な肉体も破壊してしまう勁だ。
「そんな技を使える者がいたとはな。驚きだ」
「いくらお前でもこれは受けられまい」
「なるほどな、お前が『四天王』第一席についてる理由がよく分かったよ。その螺旋勁の前では「高」の鋼鉄の勁破りの体も役には立たないと言う訳か」
「そう言う事だ。そしても前もな」
紫村は何度かその「惇」の螺旋勁をぎりぎりでかわしていた。しかしこれではジリ貧だ。紫村に打つ手はあるのだろうか。
「これで終わりだ」
そう言って突きこんで来た突きを紫村は何と自分の拳で応じた。そんな事をすれば拳が破壊されてしまう。
しかし、そこに見たのは拳と拳が接触して止まっている状態だった。
「そんな馬鹿な。何故お前の拳は壊れない」
「相殺したんだよ。少し時間はかかったがな」
「螺旋勁を相殺。出来る訳がないだろう。そんな事」
「そうでもないさ。相手の螺旋勁の強さと回転力がわかればな。だから何度か打ってもらった」
「まさか、俺の螺旋勁と同等の逆螺旋勁を使ったと言うのか」
「そうだ」
相手と同じ力、同じ回転力を反対に起動すれば相殺は可能だろう。
しかしそれをこの闘いの中で解析し、寸分たがわぬ逆螺旋勁を打つなど、とても人間に出来る芸当ではなかった。
しかしそれをこの紫村はやってのけたのだ。流石は真の『闇』の一族と言うべきか。
流石の「惇」もこれには驚いた。しかし「惇」は更に二槍拳を打ち出してきた。つまり両手による打ち込みだった。
それに対して紫村は単拳でその中央に打ち込んだ。そして最大限の撚糸勁を用いて双拳とも弾き飛ばした。そしてそこから間髪を入れずに発勁を打ち込んだ。
螺旋勁を弾き飛ばされた瞬間は「惇」も防御に手が回らなかった。だから紫村の発勁をモロに受けて弾き飛ばされてしまった。
勿論内蔵には相当なダメージがあった。もう戦える状態ではなかった。
「やっぱりあんたには勝てなかったか。もしかしたらと思っていた。あんたは本物の『闇』の一族なのか」
「さー知らねーな。おめえもゆっくり休みな」
この時点で最終戦が終了となった。そして紫村の『闇の帝王』への挑戦は次回と言う事になった。
しかしいつになるのか、この時点では誰も知らなかった。
「君とした事が少し手こずってましたね」
「殺すのなら簡単だったんですがね。生かして相手の得意な物を削り取ってしまうと言うのはちょっと骨が折れますね」
「確かに、それは私達の専門分野ではありませんからね」
この時紫村には『四天王』を倒した賞金として4億円が支払われた。そして天堂は紫村に1億円を賭け続けた。最初の倍率が100対1だった。
そこから徐々に下がりはしたもののやはり『四天王』に対する信頼は盤石だった。いつかはあの男も殺されると紫村に賭ける者はほんの一握りの人間しかいなかった。しかも天堂の様な金額を賭けられる者は誰もいなかった。
だから結果的には天堂の一人勝ちの様な状態になり、天堂は何と330億円と言う金を手に入れた。
果たしてこれだけの金額をこの組織が払えるのかどうかは疑問だ。天堂は始めからこの経済破綻も狙っての賭けだった。
この『闇試合』が今後も続くのかどうかはわからない。そして紫村と『闇の帝王』との対戦は実現するのか。それらは全て闇の中だった。
天堂と鳴海はそれでもいいと思っていた。また出て来れば潰してやればいいだけだの事だと。
応援していただくと励みになります。
よろしくお願いいたします。




